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大悪将軍

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第一章

               大悪将軍
 幕府の将軍足利義教の触れを見て都の民達は難儀だという顔になった。
「この前闘鶏を禁じられな」
「都の鶏を全部追い出させて」
「そして今度はこれは」
「比叡山の話はするな、か」
「とはいってもな」
 彼等はそのお触れを見つつ言った。
「比叡山の中堂を焼かれたのはどなたか」
「公方様であられるぞ」
「まさかあそこまでされるとは」
「幾ら比叡山と揉められても」
「それでもあそこまでされることはなかっただろうに」
「多くの僧侶の方がその中で焼かれたらしいぞ」
「公方様に抗議され」
 そうしてというのだ。
「あれはあんまりではないか」
「そしてそれを言うとか」
「打ち首か」
「あの公方様ならそうされるぞ」
「随分酷薄な方じゃ」
「そうされるのも当然じゃ」
「ましてやじゃ」
 さらにというのだ。
「これだけではないからのう」
「あの方のされることはどれも惨い」
「おなごも子供も容赦されぬ」
「酒の酌が下手なだけで侍女を幾度も殴られてじゃ」
「しかも尼にされた」
「ただそれだけでそこまでされるか」
「あんまりではないか」
「鎌倉公方様を成敗された時もじゃ」
 彼等はこの時のことも話した。
「公方様を討たれるのはわかるが」
「元服前のご子息達のお命まで奪われるとは」
「それでは先の幕府の鎌倉様と同じではないか」
 源頼朝、彼とというのだ。
「全く以てな」
「あの方も酷い方だったというが」
「今の公方様は鎌倉様より酷い」
「鶏に怒られおなごも容赦されぬ」
「まことに酷い方じゃ」
「あの様な方が公方様なぞ世も末じゃ」
 そのお触れを見て言う、そして実際にその話をある商人がしたと聞いてだった。
 将軍である義教は叫んだ、八の字の髭に細面の極めて狷介な顔立ちである。
「切れ!」
「その商人をですか」
「すぐにですか」
「そうだ、切れ」
 こう言うのだった。
「それは言っておろう」
「比叡山の話を流したならば死罪」
「確かにお触れに出しました」
「それで、ですか」
「余は言った、余の言葉に逆らうならだ」
 それならというのだ。
「切る、そうせよ」
「はい、それでは」
「すぐに商人を切ります」
「そうします」
 幕臣達も逆らわなかった、若し逆らえば自分達がそうなるからだ。それでその商人の首を刎ねたが。
 彼等はその商人の首を見つつ話した。
「またじゃな」
「うむ、公方様によって血が流れた」
「側室の兄君までであるしな」
 日野重子の兄である日野義資の話をここでした。
「日野殿の祝に訪れた客人は全て罰された」
「それもご自身のお子が生まれてのことだというのに」
 義教がその側室に子を生ませて日野にそれを祝う客達が来たのだ。 
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