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GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
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間章3 闇にうごめく征服者

 
前書き
今回は時系列的には第14話以降の物語です。


注意書き
・前半はシリアス、最後の方はギャグというごちゃまぜ状態
・唐突過ぎるギャグシーン
・総統閣下シリーズネタ
・やんごとなき登場人物達
などなど。それでも読みたいと言う勇気あるそこの貴方!ショッカー式敬礼をしてから読みましょう!!

せーのーッ!

(`゚皿゚´)/イーッ!!  

 
日本国 東京 


CIA 日本支局所属のトムは東京駅構内にあるコーヒーチェーン店で休憩をしていた。
真っ昼間から休憩しているからといって別に暇人というわけではない。彼だってついさっきまで日本国内における北朝鮮工作員の動向を監視する任務の報告を終わらせたばかりである。


ピロリン♪


明るい着信音が鳴り、彼のノートパソコンに暗号化されたメッセージが届いた。CIA日本支部からの指令だ。内容をその場で解読すると―
 

『EP党の背後関係を探れ』


という指令になった。
その指令を読んでトムはついに来たかと神妙な顔つきになる。


EP党。
中韓北から支援を受けていた議員達が突如、離反して新たに設立した『世界平和』、『異世界文明との友好外交』の2つを公約として掲げる新興政党。


あの鳩川由紀夫が党首、福井瑞穂が副党首を務める政党としてネットや周辺諸国から良くも悪くも注目を集めていた。
支持者はまだ少ないが経路不明の膨大な資金力を駆使して凄まじい勢いで勢力を拡大中だという。


当然、日本の公安も背後関係や資金源の調査・監視を行っているが公安に潜り込ませたCIA局員から一切、報告が上がらないところを見ると何の情報も掴めていないらしい。


(とうとうCIA自らが調査する時が来たのか……)



トムはそう思いながらさりげなくテレビに目を移す。
テレビでは国会中継を放送していた。
周囲の人間はテレビ画面に見向きもしないどころか逆につまらなさそうにしていたところから同盟国(日本)の国民の政治意識の低さが伺いしれた。



「そーり!そーり!貴方は日本を軍国主義時代に戻したいのですか!?すぐに異世界から撤退してショッカーとの友好外交を改めなさい!!」



今日も国会では野党である民衆党議員の幸原議員が政府の異世界政策を批判していた。

CIAや公安警察の中ではこの幸原が韓国から指令を受けている工作員だということは周知の事実である。
ショッカーの技術独占を狙い、反ショッカー報道をやめさせた融和姿勢の中国とは異なり、半島の2ヶ国は依然として工作員達に反ショッカー発言を続ける指令を出し続けていた。


そんな中―。



「お前は黙ってろ!!」
「異世界との友好に水をさすな!」
「この厚化粧女!!」


次々と議員が立ち上がって反論する。
しかし、彼らは与党の議員ではない。
EP党の党員達だ。
 

中韓の工作員の誹謗中傷に対して与党でなく野党であるEP党が反論する。
ここ数日間、日本の国会はこんな調子だった。


そもそも彼らは民衆党・共生党・会社党員時代に比例代表制で当選した者が殆どなのでEP党に入党した後でも衆議院での議席はそのまま引き継がれていた。



「し、しかしショッカーは独裁体制を築いて人々を強制的に改造して―」



「それの何が悪い!!??」
「お前の発言は不謹慎だ!!辞めてしまえ!!」
「ショッカーとの敵対を煽るような発言をやめろ!!」
「侮辱をやめろ!!ついでに議員も辞めろ!!」




そしてEP党の副党首である福井瑞穂が挙手し、幸原に対してトドメをさす。



「さっきから黙って聞いていれば貴方は批判しかしてませんよね?ショッカーとの友好以外に道があるのですか?あるというならぜひその妙案を言ってみなさいよ、さぁ」



幸原は半泣き状態になりながら悔しそうな顔を浮かべて着席した。
それを見たEP党の党員達は口々に叫ぶ。


「異世界との友好万歳!!!」
「友好!!これこそ真の友愛、平和!!」


トムはその余りの内容に呆れて目を背ける。はっきり言って異常だ。
トムのCIA局員としての長年の勘もEP党の背後には何か巨大な存在があると告げていた。スパイが山勘に頼るようでは駄目だが今度ばかりはトムは自分の勘を信じようと思った。




それから数日後、トムは信頼できる同僚を2名呼び、EP党に関する調査を開始した。それは周囲への聞き込みや党員の監視など多岐にわたるものだった。大抵の組織はこれで尻尾が掴めるはずだった。



しかし結果は惨敗。何も掴めない。数日、数週間に及ぶ調査にも関わらずだ。
どうもEP党は徹底して情報を管理・統制しているようだった。それはただの政党にしては異常な程であり、ますます怪しさが鼻についた。




さらに数日後……。


トム達は党員達がよく訪れるという町外れのレストランに直接赴き、党員の監視を行うようになった。
目的はEP党員達の監視をするため……のはずなのだが店の料理が思いの外、美味しく、ついデザートまで頼んでしまった。目立つことを禁忌とするスパイにあるまじき行為だが周りの客も次々にお替りを注文するので良しとしよう。


それから彼らはそのレストランにほぼ毎日のように通い、常連のようになっていった。
 


そんなある日、トム達はレストランでの食事中に信じられない光景を目にした。EP党員の1人が通路に飾ってある絵の中に消えたのだ。
到底、現実とは思えないような出来事にトムは口をあんぐりと開けて呆然とし、隣の席に座っていた仲間はスープを飲む手を止めてしまった。


「俺は夢でも見ているのか……?」


「いや、これは現実だ……これは只事じゃない…!!」


ちょうど店内には自分達しかいない様子だったので試しに絵に手を突っ込んでみた。 
すると驚くべきことに手がまるで水面に漬けるかのように絵の中にスッと吸い込まれていく。
トムは仲間達に「中に入るぞ」と目で合図すると意を決して絵の中に飛び込む。

すると先程の美しいイタリアン風の店内とは打って変わって非常階段のような空間に出た。
トム達は困惑しながら階段を降りて、内部を見回す。

相変わらず薄暗い室内にコンクリート製の殺風景な広い空間が続いた。時折、小銃を構えた奇妙な男達にすれ違いそうになったが柱越しに隠れてやり過ごした。
至るところからヒソヒソと話し声が聞こえる。

そこはまるでテロリストのアジトのようだった。



そんな中、広い講堂のような空間に出た。数十人程、集まって何やら集会をしているようだった。さっき絵に入ったEP党員もここにいるのだろう。トム達は少し離れた壁際の柱越しに隠れて様子を伺う。
すると仲間の1人が集まっている集団の顔ぶれにまたも驚愕させられた。 


「おい!集まっている連中を見ろ!!」


「マジかよ……大物揃いだな」

 

トムともう1人の仲間もまた度肝を抜かれた。
EP党員は勿論のこと、実業家の竹外荒蔵、漫画家のよくまつるや作家の村下秋樹から反与党の学生運動家『SHIELDs』のメンバーまで勢揃いだった。どれも社会的な影響力を持つ者ばかりだった。


そして彼らの前の壇上に眼鏡を掛けた男が登壇する。


『ようこそ、レストラン「LEGEND OF GATHERING」こと栄光あるショッカー日本支部前線基地へ。諸君らは普段は政治家や作家、弁護士、教師、はたまた学生として暮らしながらも影ながら我がショッカーの理想をこの世界に拡大する為に協力してくれることにこの場を借りて感謝しよう』


男は彼らを一瞥すると演説を続けた、


『これからも諸君らの献身に期待する。共にこの世界を征服するのだッ!!』


眼鏡の男はビシッと正立し、右手を掲げると―。


「偉大なるショッカーに!敬礼ッ、イーッ!!」 


「「「「イーッ!!!」」」」


"来客達" は彼らを取り囲むように整列していた黒い骸骨風のタイツを着た兵士達と共に鷲のレリーフに向かって奇声を上げ、ナチス式敬礼のような右手を掲げた敬礼をする。






トム達は目の前の光景が信じられなかった。

ショッカーがこの世界を征服?
ありえない!!!

まるで悪夢でも見ているかのような現実味がない。だが眼前の光景は現実であり、眼鏡の男ははっきりと『ショッカー』という単語を口にしたのだ。
それに来賓達を囲む骸骨風の兵士……間違いない。あれはショッカーの戦闘員だ!
自衛隊が異世界で目撃したという驚異の馬鹿力を持つ簡易人造人間だ。

トム達は震えていた。
EP党はショッカーのカバー政党だったのだ!
奴らは影から日本を…いや、この世界を征服するつもりなのだ!おまけに既に多くの人間が洗脳され、ショッカーの協力者に仕立て上げられている!
すぐにでも本国に奴らの脅威をを伝えなければ!


トムは証拠を押さえるべく、手を震わせながらバッグからカメラを取り出した。
スマホやブラックベリーなどの携帯で撮影しないのは万が一、ハッキングされた時のことを恐れてのことである。

そしてシャッターを切る。


パシャ!


トムの口から笑みが溢れる。
決定的な瞬間を撮ってやった。
早くこの情報を本国に持ち帰らなければ。
そう思った矢先―。



「貴様ら、何をしている?」


突然、背後から声をかけられて慌てて振り向く。すぐに後ろには青いタンクトップを着た青年が立っていた。
さっきまで背後には誰もいないどころか気配さえしなかったはずだ。
男はトムの持つカメラを見て小馬鹿にするかのようにフッと笑った。
  

「全く……不法侵入の上に盗撮とは失敬な奴だな……。まぁいい、目撃者は生かしてはおけないのでな、悪く思うな」


男は瞬時に光に包まれて自身の正体であるネズミ怪人に変身した。


「こ、これが……ショッカーの改造人間!?」


トムが言い終わったのとほぼ同時にネズミ怪人は相棒の1人の喉笛に素早く噛みついた。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」


周囲に鮮血が飛び散る。
さらに仲間の断末魔に集会に参加していたメンバーも一斉にこちらの方を向いた。



「ジョン!!」


ネズミ怪人に襲われている仲間を助けようともう1人の仲間が駆けだそうとするのをトムは慌てて止めた。


「逃げるんだ!!俺達には敵わない!!」
 

講堂の方を向くと侵入者の存在に気づいたEP党員達が血眼になってこちらに走ってくるのが見えた。
仲間は一瞬、悔しそうな顔をしてすぐにトムと共にその場から逃げ去った。


一方、ネズミ怪人はトム達の方を見る。
彼らは仲間を置き去りにして後ろ姿を見せ、ネズミ怪人から反対方向に必死に駆け出していた。

彼らも訓練された諜報員である。
すぐに彼らはEP党員やネズミ怪人からかなりの距離を離して絵を通じて外に出てしまったようだった。

それを確認したネズミ怪人はおもむろに携帯電話を取り出して仲間の番号にコールした。


「俺だ。ああ、侵入者が入ってしまってな。2匹ほどそっちに向かったから始末しといてくれ」






トム達は無我夢中で走った。気づけば店の外に出て、山道を下りて公道に出ていた。幸い、EP党とショッカーの関係を示す証拠を捉えたこのカメラだけは無事だった。トムはカメラを大事そうに抱えた。


「ハァハァ、ここまで来ればもう大丈夫だ」


「ジョンが……ジョンが殺られた……」


ジョンというのは先程、ネズミ怪人に殺された男である。余程、親しい仲だったのだろう。生き残った仲間は涙を流していた。


「あいつもCIAの局員だ。きっと覚悟はしていたさ……。あいつの死を無駄にしないためにもこの情報は絶対に本国に持ち帰ろう」


そんな中、トムは自分達の元に個人タクシーがやって来た。怪物から逃げるのに必死で気づかなかったがどうやら自分達はタクシー乗り場にいるようだ。


「タクシーに乗るぞ…。人通りの多いところに行けばアイツも手を出してこないだろう」
  


トムは手を上げてタクシーを停める。
車内に入って「どちらまで?」と尋ねる運転手にトムは「東京駅まで」と答えた。


そしてタクシーが発進し、タクシー乗り場がどんどん遠くなる。
トム達はもう安全なのだと胸をなでおろす。


「とにかく……もう、逃げ切ったな…」


トムが息を吐くように言った時だった。



キキィィィィ!!!


突然、タクシーが闇夜の道路の真ん中に急停車したのだ。
トム達は何が起きたのか分からず見動きができなかった。


「逃げ切っただと?それはどうかな?哀れな目撃者さん」


そう言ったのは目の前でハンドルを握っているタクシーの運転手である。
運転手は助手席から白い蜘蛛型の仮面を取り出して自身の頭部にカチッと装着した。
蜘蛛男(スパイダー)……その姿を表すならそう称するのが一番ふさわしかった。


「ま、まさか!!お、お前も……ショッカーの怪人(モンスター)か!?」


「フッ…残念だが我々の姿を見た者は死なねばならないのだ…」


ショッカー第2世代の改造人間、スパイダーは仮面越しにトム達をジロリと見た。まるで蜘蛛の巣にかかった獲物を見るように。
このままでは殺されると思ったトムはすぐさま隠し持っていた拳銃を引き抜き、スパイダーの頭部に銃弾を数発叩き込む。しかし相手は何事もなかったかのように動じない。全く効いていないのだ。

スパイダーは無言のまま、恐怖で固まって動けないケビンの顔を鷲掴みにすると―


グシャッ!!!


ケビンは後部座席に座った姿勢で赤黒い血を流して糸の切れた操り人形のようにグッタリとトムの膝の上に倒れ込む。

 
「ケビン!!!」


「さて次はお前の番だ」


「冗談じゃねぇぇ!!!!」


トムはタクシーのドアを乱暴に外に逃げ出した。少しでも距離を離せば、それだけあの蜘蛛野郎から逃げられる確率が高まると思ったからだ。
それに殺された仲間達の無念を晴らす為にもこのカメラと情報は絶対に持ち帰らなければならなかった。



バシュッ!!!


突然、足に違和感を感じ、身体が前に進まなかった。足の方を見ると粘く白い糸がまとわりついていた。


(これは……蜘蛛の糸か!?)

 
トムは懸命に蜘蛛の糸を取払おうとした。しかし一度、脚に絡みついてしまった蜘蛛糸を、ましてや怪人の放った強固な糸を取り去ることなど不可能だった。
蜘蛛の糸を取り去ることができないことを悟ったトムはスパイダーに向けて再び拳銃の引き金を引いた。


カンッ!カンッ!


全ての弾がスパイダーの頭部に命中するも全くダメージにならず、ヘルメットに少し、傷が入っただけだった。


「ハッ!まだ諦めないか。改造人間である俺にそんなおもちゃが通用するわけがなかろう…!」


スパイダーはゆっくりとトムに近づき、彼が握っていたカメラを取り上げる。


「返せ…!!…死んだ仲間の為にも…絶対に……持ち帰らなけれ……グェッ!!」


倒れているトムの首をスパイダーは片手で容赦無く掴んで持ち上げる。


「ハッ、その脆弱な肉体と下らぬ使命感で何ができるというのだ。哀れなり、異世界人。まぁ、さっきの仲間や貴様の血が我らの異世界征服の人柱となれることを喜んで死ぬといい」


ゴキッ!!!



闇夜に骨が砕けるおぞましい音が響いた。スパイダーはトムの死亡を確認すると遺体をタクシーのトランクに乗せ、現場から走り去っていった。

―――――――――――――――――――――――――――
後日―。


千代田区永田町にあるEP党本部はこの世界におけるショッカーの最大の拠点であり、事実上の日本国支部であった。
   
地下にある薄闇に包まれた結構な広さの空間に3枚の大型モニターが浮かび上がる。
モニターにはチャイナドレスを着た美女とストリートなファッションの若者、そして大幹部である死神博士が映し出された。
そして彼らが映し出されたモニターに跪いて頭を垂れているのはEP党党首である鳩川である。


『鳩川よ、集会中にひと騒動あったようだな?』


「いえ、騒動というほどでは…ただ我らの正体を知ろうとする不埒な輩がいたのでキレイに消しただけです」


鳩川の返答にチャイナドレスを着た美女が怪訝そうな顔をした。


『どうかしら?本当に全員仕留めたの?』


「は、はい……そのはずです」


『その"はず"?ちゃんと調べなさいよ。貴方達の正体がバレたら異世界征服計画はお終いなのよ?本当に分かってる?
それに前線基地の警備もずさん過ぎよ。死神博士、こんな無能は死刑にすべきかと…』


『うむ、そうだな。死刑が妥当なところやもしれんな……』


鳩川は恐怖で声も出なかった。死刑にされるということに実感が沸かなかった。だが考えてみればただの異世界人をショッカーが全幅の信頼を置くはずもない。使えないと分ければ『処分』されるのがオチだ。

だが恐怖に固まる鳩川を見かねた若者風の幹部が助け舟を出す。


『まあいいじゃないか…スパイは殺したんだしさ。それより鳩川君、そっちの世界での進捗状況を教えてほしいな。聞くところによると君は活躍してるそうじゃないか』


鳩川は冷や汗をかきながらスーツの内ポケットから数枚の書類を取り出して読み上げる。
 
 
「はい。現在、GOD秘密警察と連携して財界人、大学教授、政府要人を内部協力者に仕立て上げている最中です。
さらに海外においてはベルリン支部、香港支部、ニューヨーク支部の設置が完了し、現在、征服作戦を遂行中であります。ジャカルタ支部、ブラジリア支部、ラゴス支部、イスタンブール支部の設置完了はもう間もなくでございます」


震える声で鳩川は続ける。


「数ヶ月後には衆院選も控えております。我々、日本支部としましてもその際に与党となるべくありとあらゆる工作を行っているところです。仮に第1党になれなかったとしても現在の与党には連立合意を結ばせる予定です」
 

『ほう……』


「そのために第1段階として他の野党へのネガティブキャンペーンを展開しております。間もなく第2段階を実行予定です」


『改造人間の製造に関しては?』


鳩川は顔を上げる。その表情は死への恐怖に引きつり、脚はガタガタと小刻みに振動していた。


「これは日本に限った話ではないのですが……、主に大学生などの若者や格闘家などを拉致して改造してます。さらにEUや中国、ロシア、中東、アフリカでは体制に不満を持つテロリストやレジスタンスに武器の支援を行っております」


『確か、日本支部における征服計画は君の立案だったね。それなりに成功を収めている……と』


若者はモニター越しに死神博士に向き、提案を開始した。


『どうでしょう?死神博士、鳩川はまだ利用価値があるみたいですし、殺すのは時期尚早かと……』


『うむ、それもそうだな……』


死神博士は何かを考える素振りを見せた。


『よし、鳩川よ。今回の貴様の失態に関してだが順調に進んでいる征服計画に免じて貴様の失態を許そう』


「ありがとうございます!!」


鳩川は勢いよく土下座をして感謝する。


『だが今回だけだ。2度目はないぞ。次、何か失敗したら命は無いと思え。貴様の代わりなどいくらでもいるのだからな』


土下座の姿勢のまま、死神博士の冷血な言葉に鳩川は再び身震いする。



ショッカー 日本支部は世界征服の野望に向け、暗躍し続ける。多くの日本世界の住民の血を塗り重ねながら。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ドイツ ベルリン 


日本の次にショッカーの勢力が秘密裏に拡大しているのがここ、ドイツである。
積極的な移民の受け入れを行う現政権に対する国民の怒りはネオナチ団体への支持という形で表れ始めていた。
それから間もなく、ネオナチ団体に扇動された国民はデモを行ったが政府はデモ隊を軍を動員して鎮圧。(※第6話参照)

その事件を契機に国民の政府に向ける感情は怒りから憎悪に変わった。
ショッカーはこの流れを利用し、民衆を扇動したネオナチ団体と極秘に接触。来るヨーロッパ征服に向けて多額の金や武器などの支援を行っていた。
やがてそのネオナチ団体はドイツ版EP党と呼んでも差し支えないくらいに大規模になっていた。






ベルリンの地下にあるショッカー ベルリン支部ではとある人物の支部長就任を祝って主要なメンバーが支部長室に勢揃いしていた。


総統閣下(マインフェーラー)、ベルリン支部長就任、おめでとうございます」


「はぁ、総統と言うのはやめろと何度も言っただろう?もう余はドイツ第三帝国の総統ではないのだ」


そう言ってチョビ髭の男はデスク上の書類を整理し始めた。この男こそ、悪名高きドイツ第三帝国の国家元首として世界各国から嫌悪される独裁者の典型……アドルフ・ヒトラーその人である。
彼はWW2末期にベルリンで自殺した後、遺体を秘密裏にショッカーに回収され、後にGOD機関によって怪人ヒトデヒットラーとして息を吹き返していたのだった。



「まぁ…余の着任を皆で祝ってくれるのは嬉しいのだが…今は仕事をしようじゃないか。まずドイツ征服作戦の現状を説明してくれ。祝い事はその後だ」


ヒトラーがそう言うと"元"ドイツ国防軍参謀総長であり、カルピスことクレープスがペンでベルリンの地図を指し示す。


「ベルリン市内に広範囲にアジトや改造人間のプラントを建設中です。南はツォッセン、北はパンコとフローナウの間、東はリヒテンベルクです。
さらに裏で支援しているネオナチ団体にはSNSやインターネットを使わせ、支持者を増やさせています」


続いてハゲことヨードルが説明する。


「同団体には我々の改造人間も多く入団しており、もはや我々の傀儡です」


「そうか……順調だな」


ヒトラーは満足そうにフッと笑うと明後日の方向を向いた。
しかし、あることが気にかかり、不満そうな顔をした。



「…余は恵まれてる。敗れて死んだ身でありながらこうして息を吹き返し、改造人間にまでしてもらえた…でも何故、何故なのだ…何故、かつて部下だったゾルやゼネラルモンスターの改造素体が狼やヤモリで余はヒトデなのだ……なんというか、その…かっこ悪いだろ」


ヒトラーは溜息をつく。
自分を蘇らせてくださった大首領様には感謝してもしきれないし、改造人間となった今の身体を誇りには思っている……だが―。


「もっとカッコいい動物が良かったなぁ。鷲とか狼とか……」


ヒトラーは改造されてからこの数十年ずっと素体に関する不満をグダグダと垂れ流していた。最初こそ親身になって聞いていた部下達も何度も見たこのやり取りにイライラし、素っ気ない返事をするようになっていた。


「そんなのありふれてるじゃないですか。ヒトデくらいの方が個性が出てていいと思いますよ……」
「そうそう、総統閣下にはヒトデがお似合いですよ」


ピキッ


部下達の返事に空気が凍りついた。
部下達が気づいた頃には遅かった。
ヒトラーの表情を見ると無表情ではあったが苛立ちからかぷるぷると震える手でメガネを取る。

部下達の適当な返事に怒っているのは明らかだった。



(((あ、やべぇ。いつものやつだ)))


その場にいる誰もがそう思った。
ヒトラーのこの一連のメガネを取る動作は苛ついた時、それも噴火寸前の時にする動作だった。


「余の素体に賛成な奴は残れ……」


空気を読める者達はゾロゾロと部屋から退室する。残ったのはいつものメンバー…ヨードル、カイテル、クレープス、アンポンタンことブルクドルフである。


「またお前らか!!いつもいつも余をイライラさせおって!こんなに余を怒らせるのはお前らとシュタイナーぐらいなもんだ!!大ッ嫌いだ!!」


「総統閣下、一体何が不満なんです!?改造人間ですよ!素体なんか気にしてどうするんです!?」


「うっさい!!大ッ嫌いだ!!ヒトデの怪人なんかパッとしないからな!!あいたたバァーーカ!!」


ヒトラーは勢いに任せてペンを机の上に叩きつける。


「ちくしょーーーめーーー!!!」


そして机をバンバンと叩きつけながら叫び続ける。
そしてその怒りはやがてヒトラーの上司となった1人の人物へと向かう。


「大体、何だ!?アポロガイストの奴!!大幹部だからと偉そうに!!何の説明も無しに余をこんなところに送りやがって!!!
アホかいねッ!!ヴァーカ!!それに聞くところによると余の素体をヒトデにするように命令したのもアヤツだというじゃないか!!!It,s判断力足らんかったぁ〜!!
大幹部じゃなきゃアヤツを粛清しとるわ!そう、スターリンのように!!!」


ヒトラーはオーバーなジェスチャーでアポロガイストへの不満を語る。
そして天井を見上げて―


「そう思うだろ!!柴田さんッ!!」


柴田さんとはヒトラーが蘇生後に仲良くなった日本エリア出身者の男性でヒトラーの改造手術を担当した執刀医(見習い)でもある。


「……最初は胸踊ったさ、自分が怪物になって強大な力を得るんだぞ?相手が女性ならまさにエロゲ展開だ。それこそ……目に刺さるようなッ!おっぱいぷるーんぷるん!!」


またおっぱいの話か……。残った部下達は神妙な表情のまま互いに目配せする。
ひとしきり喋りまくった総統閣下は突然、椅子にどっかりと座ってうなだれる。


「とにかく……余は…余は、それだけが…怪人としての素体とアポロガイストの余への態度が不満なのだ。あとは満足なのだ。誓ってこれだけは本当だ………」


支部長室になんとも言えない空気が流れる。


「まぁ、余も今や支部長だ。この国…いや、世界征服の為ならばどんな恥も耐えてみせよう」



ショッカー ベルリン支部は世界征服の為に歩み続ける。頼りない支部長と愉快な仲間達と共に………。 
 

 
後書き
今回、出てきた登場人物や団体は皆、実在の人物や団体と一切、関係ないですからねッ!!本当ですよッ!

さて……、次回から第2章が幕を開けます。
2章はざっくり言うならショッカー、日本世界、帝国。3つの世界の闇がぶつかり合う物語です。

それに関連して、Pixivの方では過度な政治表現や残酷な描写を若干抜いた感じにしようと思います。
さしずめ暁で投稿するのが「猛毒版」、Pixivの方が「毒抜き版」と言ったところでしょうか。
物語の結末も暁版とPixiv版では少し変わってくる……かも。

それと番外編がスタートしました。
題名は『SHOCKER 世界を征服したら』。
https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~25020
現在はプロローグ編なので世界征服前の話ですが、基本的には世界征服後の世界を舞台にした1話完結のパーソナルストーリーです。
駄文だらけですが気が向いたら読んでください。
長文すみませんでした。 
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