魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Saga11-A勝敗の行方~First victory~
†††Sideイリス†††
私たちを包囲する木々から伸びてくる巨大ハエトリグサを迎撃してるところに、「セラティナ・ロードスター、いきます!」後方に控えさせてたセラティナがいきなり名乗りを上げた。その突拍子の無さに呆けてると、セラティナが放出し始めた魔力がこれまでの質とは違うことに気が付いた。
「うそでしょ、神秘を含んだ魔力・・・!」
セラティナがいつの間にか魔術師として覚醒してたことに驚愕した。でもそれ以上に、心強い援軍として立ってくれてることに感謝や嬉しさがあった。セラティナはゆっくりとわたし達の側までやって来ると、「初めての大魔術なので、出来れば大目に見てくれると嬉しい」って苦笑い。でも目はそう言ってないね~。
「まずは周囲の木々を潰す。アリス、お願い!」
またも突然そう叫ぶものだから「はいっ! はい?」って返事しちゃった。側に立つセレスが「あなたじゃないでしょ。名前似てるけど」って嘆息。ブワッとさらに魔力を放出したセラティナがパンッと手を打った。
「残酷審判の聖域!!」
それを合図としたかのように何百個っていうハエトリグサが、同数の正四角形の結界に閉じ込められた。
「墓殺!」
両手をキュッと握り拳にしたセラティナの声に反応して、何百個の結界は急速収縮。そのまま手の平サイズにまで収縮して、ハエトリグサもろとも消滅した。
「閉塞円環結界!!」
なおも健在な木々がドーナツのようなチューブ状の巨大結界の内部に閉じ込められた。その様子にわたし達が「おお!」って感嘆してると、「今のうちに攻撃を!」ってセラティナに言われたから、わたしは「セレス、強烈なのを1発!」と指示を出す。
「任された! セラティナ! 私はどうすればいいの!?」
「結界に向かって攻撃! 出来れば砲撃系!」
「楽勝! 氷星の大賛歌・大合唱!」
セレスは自身の四方に魔法陣を展開して、クルッとその場で一回転しつつ冷気を纏う“シュリュッセル”で魔法陣を引っ掻いた。それがトリガーとなって魔法陣から氷結砲撃が四方に発射された。4発の砲撃を迎え入れるかのように結界の4か所に穴が開いて、砲撃が結界内に入ったところで穴が塞がった。そして結界内壁に着弾した砲撃は、膨大な冷気となって結界内を満ちた。全ての木が完全凍結されて崩壊するのを確認したセラティナが「よしっ、上手くできた!」結界を解除した。
「シャル。アリスが言うには、この創世結界ももう解除されるって」
「あー、うん。了解。・・・ていうかさ、さっきから出てくるアリスってどちら様?」
「結界王アリス・ロードスター。私の前世のお方! シャルと騎士シャルロッテと似たような感じって言えば解かってくれるかな」
わたしの問いに対して即答したセラティナにいろいろと聞きたいことはあるけど、アリスが何者なのか判った今は後回しにして、「反撃の起点は任せるから、好きに動いて!」って指示をしておく。
「了解! 対創世結界用の結界術式をスタンバイする!」
そう言ってセラティナは足元に楕円十字、その中央に十芒星っていう魔法陣を展開した。魔法陣から噴き上がる魔力はすさまじくて、創世結界用って言われてもおかしくない。ただ、もう少しで解除されるって言うのにわざわざ発動する意味は・・・。
『みんな、T.C.を釣るから攻撃の準備を!』
創世結界を長く維持したい侵入者を誘き出すためのハッタリ。セラティナのハッタリは、「ふざけんなぁ! 話が違うじゃねぇかよぉ!」侵入者の怒鳴り声がある地点から聞こえたことで、上手くいったことを示してた。
「何で結界王が魔術師化してんだよぉ!? 誰の差し金だぁ!?」
――ドラゴーン・デ・アルボル――
(さっきからうるっさいなぁ、アイツ。セラティナの魔術師化は予定になかったって言ってんの?)
侵入者の姿を視認。龍のように地面を進む樹木に立ったまま、こっちに向かって来てた。セラティナが魔術師になれることを知っている奴が敵の中に居る。もしくはセラティナが裏切ってる・・・なわけない。でも、だとすればそんな特級レベルの機密を知る人間なんて、一体どんな奴なのかってなる。
――アタケ・デ・ライス――
「俺様を始末したいのかぁ!? 命令違反で邪魔になったってかぁ!? やってみろやぁぁぁぁ!!」
もう勝手に怒鳴りまくる侵入者の周囲の地面が盛り上がって、複数の極太の根っこが蛇みたいに先端をもたげると、一斉に突っ込んできた。わたし達はデバイスを構えて迎撃態勢に入ったんだけど・・・。
――守護聖定の聖域――
わたし達どころかオバラトル氏のような巨体をも収めるほどの円柱型の巨大な結界が展開された。直後、侵入者の乗る龍と蛇のような根っこが激突した。でもセラティナの結界はビクともしなかった。
「このメタトロンの聖域は、サンダルフォンの聖域と逆の効果を持ってるの!」
「ということは・・・」
「こっち側からあっち側への攻撃はフリー?」
「うわぁ。これまた反則級」
「でも、すごくいい」
セラティナから教わった結界の効果に戦慄しながらも、結界を包囲して体当たりを繰り返す木の龍と蛇に迎撃を開始。
「トロイメライ、行くよ!」
≪Jawohl≫
“T.C.”が魔術師の集団かもしれないって判った際、ディードに頼んでフライハイト邸のわたしの部屋から持ってきてもらった、アームドデバイスであり神器でもある“トロイメライ”。シャルロッテ様の“断刀キルシュブリューテ”を持っていきたかったけど、デバイスのような待機形態がないから持ち歩き・使用に少しばかり面倒な手続きが必要だったから、何の手続きも必要ない(上層部に神器と知れたら手続きが発生するかも)“トロイメライ”を選んだ。
「炎牙崩爆刃・連刃!」
炎を纏わせてた水色の刀身を持つ長刀“トロイメライ”を振るって、炎の斬撃を連続で放つ。斬撃は結界をすり抜けて、体当たりから締め付け攻撃に変更した複数の蛇に直撃して、寸断すると同時に燃焼して炭化させてく。
「(威力が増大した・・・?)セラティナ! この結界、まさか・・・!」
「うんっ! 結界を通過するとき、魔術効果が強化されるみたい!」
「へぇ、それはすごい・・・ね!」
――悪魔の角――
螺旋状の氷の杭を数えきれないほど発射したセレス。杭はわたしが撃ち漏らした蛇に撃ち込まれて、着弾個所から凍結させてく。
「ルフト・クーゲル!」
「業火拳衝!!」
ルミナは不可視の拳圧を、ミヤビは拳状の炎熱砲撃を侵入者の立つ龍に放った。ルミナの攻撃は龍を大きく弾き飛ばして、ミヤビの砲撃は龍から落ちた侵入者に直撃。爆発に飲み込まれながら黒煙から飛び出してきた侵入者は「許さねぇ」って空中で杖を振るって・・・
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
――ディアブロ・デ・ラ・プランタ――
そう叫んで杖を地面に投擲。杖が地面に突き刺さることで魔術が発動。結界を包囲してた蛇を再利用して再び造り出される巨人上半身バージョン、その数20体。もちろん黙って見守ってやるほど優しくないわたし達が一斉に攻撃しようとしたとき、創世結界が揺らぎ始めた。かと思えばそのまま完全に解除されて、森の中に在る石畳のステージへと戻ってきた。
「時間切れかよ! 遊び過ぎたぜ!」
創世結界の解除と同時に上半身だけの巨人も完成する前に消失。創世結界の発動中にわたし達を倒せなかったことに苛立ってる侵入者だけがポツンと立ってた。
「セラティナ!」
「一方通行の聖域!」
侵入者は高速移動系の魔術で後退して結界から逃れようとしたけど、セラティナの結界はそれ以上の広範囲だったことでアイツはギリギリ結界の効果範囲に入った。魔法ならいざ知らず魔術としての結界であり、効果が閉じ込められた対象の魔術行使を一切封じるっていうものだから、アイツはもう逃げられない。
「さあ! 素顔を晒して素性も明かしてもらおうか!」
人が5人ほど入れるかどうかってくらいのサイズにまで小さくなった結界の元へ向かい、杖や拳や足で結界を叩く侵入者にそう告げてやった。“T.C.”メンバーの初めての確保だ。今すぐ連行したいけど、侵入者を救出、“輝石”の奪取を行うべく送り込まれるかもしれない新手に警戒しないといけないから、このままで聴取することに。メンバーを逮捕し、護衛対象を護り切るのがベストだけど、今後の展開によってはどっちかを切り捨てないと。
「なんならわたしが優しく取ってあげようか?」
まずは目出し帽を脱いで顔を見せてもらおうって考えてそう言うと、「うっせぇ、ブス!」って中指を立ててきた。イラっとはしたけど、これまでの事件でブスだブサイクだって挑発してきた間抜けは数知れずだから、「脱げ、早く」スルーしてもう一度通告する。
「言うことなんか何もねぇよ。他のメンバーが来る前に俺様を解放して、とっとと消えな」
「さっきさ、あなた言ってたでしょ? 俺様を始末したいのか、邪魔になったってかって。それってつまり、あなたも危ういってことじゃないの?」
シューシューと“シュリュッセル”の剣身から冷気を放出させてるセレスがそう聞くと、侵入者は「命令違反ならまだ注意されるだけだが、T.C.について話したらそれは裏切りだ。どちらかを選ぶか、判るだろうが。あ?」って肩を竦めた。
「何が来ても、誰が来ても、わたしたち特騎隊があなたを護り切る。だから安心してくれてもいいよ?」
「冗談だろ?」
「冗談なわけないでしょ。T.C.は必ず潰す。構成員から王って呼ばれるリーダーも、もれなく全員逮捕する」
「くはっ! くくく、はははは、あはははははははは!!」
手放された杖が地面に転がるのも気にせずに侵入者はお腹を抱えて大笑い。クラリスが「何がおかしいの?」って苛立たし気に問い質す。クラリスもクラリスで“T.C.”に苦汁を舐めさせられてるからね、苛立つのも仕方ない。
「俺様ひとりにここまで苦戦していたお前らが、認めたくねぇが俺様より強い奴がまだ居るのに、そいつらが束で来るかもしれねぇってぇのに、よくそんな馬鹿な断言が出来るよなって話だよ!」
ツボに入ったのか笑い続ける侵入者。ルミナが1歩2歩と結界に向かって歩いて、すぅっと結界内部に進入した。そんな突拍子もない行動に他のわたし達は「は?」目を丸くした。侵入者はルミナの接近に「なんだよ、怒ってるのか?」って厭らしい笑みを浮かべた。
「自分で取るの嫌なんでしょ? 私が取ってあげる」
「はっはっ! やってみろや小娘!」
ルミナはそう言って侵入者の目出し帽に向かって手を出した。侵入者は体を逸らしてルミナの手から逃れたけど、徒手格闘でルミナに勝てる奴なんてそうそういない。結界の効果で魔法が使えないルミナは純粋な身体能力で、「チッ!」舌打ちしながらも必死に躱す侵入者を追い詰める。
「ねえ、結界に入る前にバインドを使えばよかったんじゃない?」
「ルミナがそれを判ってないわけないでしょ? バインドじゃなくて直接手で捕まえて、そして身元を明かしたいんだよ。バインドで済ませるつもりはないって判断するほど、ルミナの怒りも大きいわけだ」
蹴り上げてキャッチした杖を振るってルミナを攻撃しようとする侵入者だったけど、あんな遅い振りでの攻撃なんてルミナには止まって見えるだろうね。ルミナは杖を左手でパシッとキャッチして、後ろに流すように引っ張った。
「むお!?」
無理やり引っ張り込まれたことでつんのめる侵入者は、体を引き起こすより前転受け身を選択した。だけどアイツが前転をする前に、ルミナは「おらぁぁぁぁ!!」杖をグイっと持ち上げた。杖を持ってる左腕が持ち上げられたことで上手く前転が出来なかった侵入者に、「ふんっ!」ルミナは蹴りを打ち込んだ。
「ごはっ・・・!」
蹴っ飛ばされて結界の内壁に激突した侵入者は何度か咽た後、杖を支えに激しい呼吸を繰り返して、「これが女の蹴りかよ。このっ、馬鹿力が!!」って中指を立てた。ルミナは「男ならもっと力付ければ? 軽すぎ」って立てた右親指を下に向けた。
「ルミナ。サポートは?」
「要らない。素手で屈服させてやりたいから」
ルミナは首をコキコキ鳴らして、「くそがよぉ・・・!」って吐き捨てる侵入者に歩み寄ってく。ルミナがアイツの意識を刈り取る前に、わたしは「じゃあさ。あなた自身のこと教えてよ」って聞いた。
「はあ!? この状況で! 俺様に! 自分のことを話せって!? っざけんな! そんな暇も余裕もねぇよ! 見て判んねぇのかよ! このクソ女にボコされてんだよ! つうか、いつ助けが来んだよ! 見てんだろ! さっさと助けろよ!」
でも他の“T.C.”の助けはやって来ない。結界っていう狭い空間の中で、お互いに魔法も魔術も使えない状況で、身体能力のみで互いを打ちのめそうと拳や足を振るい続ける。ルミナは掠らせることすら許さず侵入者をボコボコにして、侵入者は杖っていうリーチで勝ってるのに防戦一方。
「おーい。そろそろわたしの質問に答えてくれる~? あなたのお名前は~?」
「本当にさぁ、お前らさぁ、マジでぶっ殺――へぶっ!?」
とうとうルミナの右ストレートを顔面に受けた侵入者はガクッと膝を折って、うつ伏せに倒れ込みそうになるのをルミナがガシッと頭を鷲掴んで止めた。そしてルミナは「さわんな」って呻く侵入者を無視して目出し帽を剥ぎ取った。
「声からも判ってたけど若いね」
「20代なのは間違いと思うよ」
緑色の髪は肩にかかるくらいのセミロング。顔立ちは整ってるけど、ルミナに殴られ過ぎてちょっと酷いことになってるね。チラッとルミナを見れば満足そうに「むふー」って鼻息を漏らした。
「これまでに局が舐めてきた辛酸の分も返せたから満足♪ もうバインド掛けていいよ」
そう言ってルミナが結界から出ようとしたけど「あたっ?」額と鼻を内壁にぶつけてフラリと後退、そんで蹲った。セラティナが「サンダルフォンだから、解除するまで出られないよ」って苦笑い。割と強くぶつかってたし、痛いだろうな~。
「返せ・・・見るんじゃねぇ・・・」
ルミナの持つ目出し帽に手を伸ばす侵入者に、わたしとクラリスはリングバインドを発動。アイツを直立不動で拘束した。とりあえず素顔は判ったから、その写真データから前歴や身元を調査できる。そこから“T.C.”の尻尾を捕まえてやる。
「さてと。残る問題は、輝石なんだけど・・・」
「コイツを捕まえたからと言って、二度輝石がもう二度とT.C.に狙われなくなるってわけでもないし」
チラリと“輝石”とオバラトル氏を見る。オバラトル氏が魔術師相手でも戦り合えるほどの戦力なら、このまま帰ってもいいと思うけど・・・。
『私と輝石が、君らの悩みの種になっているようだね。輝石の力をどうにかしない限りまた別の盗人が来るというのなら、君らに預けるのが一番なんだと考えたんだ。輝石を残したまま、中身だけを持って行ってもらいたい』
“T.C.”の目的である“輝石”に宿る膨大な魔力だけ、わたし達が貰い受ければもう狙われない。そんなわたしが考えてた解決法を、オバラトル氏から提示してくれた。だから「ありがとうございます」って深々と頭を下げた。
「さてと、問題は・・・。こちらイリス。ルシルの調子はどう?」
『すまない。今目を覚ましたばかりだ』
“シャーリーン”に通信を繋げれば、展開したモニターにしょんぼり肩を落としてるルシルが出た。わたしは腕を組んで嘆息1回。そして「セインテスト一尉。本事件解決後、何らかの処分があることを覚悟してください」って部隊長としての態度と口調を以て告げた。
『了解です。フライハイト部隊長。ご迷惑をお掛けしました』
「んっ。じゃあ今すぐ出られる? 輝石の魔力を吸収してほしいんだけど」
『あ、ああ。やはりその結論か。了解した、すぐに出る』
「待ってる」
通信を切って、待つこと数秒。クララ先輩の転移スキルによって“シャーリーン”から飛ばされてきた「ルシル!」が合流。ルシルはわたし達を順繰りに見て、改めて「迷惑を掛けた。すまなかった」って頭を下げた。
「過去の記憶に引っ張られたとはいえ、連携を崩すような真似はペケ。次は気を付けてね」
「結果オーライ」
「クラリスの言った通り、ああしてT.C.を捕まえられたしね」
ルシルの謝罪に笑顔で応えてくセレス達。わたしもルシルの背中をバシバシ叩きながら「ま、次から頑張ってこ♪」そう笑顔を向けた。
「ありがとう。・・・緑色の髪にダークブルーの瞳。髪型や服装は違うが、オリジナルの記憶通りの顔だな」
侵入者の腫れた顔を見たルシルは、「ま、追及はあとだな」って“輝石”の側へ。そして「氏よ。結界を解除してもらっていいだろうか」ってオバラトル氏にお願いした。オバラトル氏は『どうやって?』って首を傾げた。まさかの返しにわたし達は「へ?」目を丸くした。
「この結界、氏のものでは・・・?」
『いいや。ひい爺さんの頃からって聞いてる。大体6000ちょっと前くらいから、この結界は在るんだよ。私にも触れないんだ。すまないね』
みんなして呆けてる中、ルシルだけは「なるほど。ではこちらで解除させてもらいます」って、ひとり“輝石”を護る結界に近付くと左手を翳した。
「女神の救済」
発動するのは魔力を吸収するコード・イドゥン。ルシルは結界を構築してる魔力を吸収するようだ。ルシルの手が結界に触れた瞬間、バチッ!て大きな音が。ルシルが「くっ・・・!」眉をしかめるけど、「いくぞ!」結界の魔力の吸収を開始。ルシルの右手に透明に近い小さな魔力結晶ができ始めた。結界の魔力は30秒くらいですべて結晶に変換された。
「ふぅ」
「大丈夫? 休む?」
汗を掻いて肩で息をしてるルシルを心配すると、ルシルは「いや、すぐにでも取り掛かる」って答えて、さらに『アイリがしっかりフォローしてるから大丈夫』っていうアイリからの思念通話が。ユニゾンしてたのか~。
「アイリ」
『ヤヴォール!』
――女神の救済――
“輝石”に左手を触れたルシルがイドゥンを再発動。“輝石”からルシルの体を通して、右手の平の上に輝く魔力結晶に流れてくのが目に見えて判る。何せ透明だった結晶が、“輝石”と同じ虹色に輝きだして、なおかつ巨大化してくから。今度は1分くらい掛けて“輝石”の魔力を全吸収したルシルは「シャル。この魔力結晶、どうする?」って聞いてきた。
「ん? んん~・・・とりあえず上に報告。保管するなら保管だし、こっちで処理してって言うんなら・・・ルシルが貰っておけば? リアンシェルトやガーデンベルグとの戦いで必要でしょ?」
「それは助かるが・・・。まぁ期待しないでおくよ」
でもま、これで“輝石”の問題はクリアした。あとは侵入者を連行するだけだ。未だにアイツを助けに来るような援軍も来ないし、ささっと連行するに限る。と、その前に・・・。
「オバラトル氏。ご協力誠にありがとうございました」
わたしの敬礼に続いてみんなも「ありがとうございました!」って敬礼。オバラトル氏は『良いものを見せてもらえたし、輝石も悪者に奪われなかった。こちらこそありがとう』と頭を下げてくれた。
そうしてわたし達は、ヴォルキスでの任務を勝利で終えた。ルシルの魔術によって強制睡眠にされた“T.C.”メンバーと一緒に“シャーリーン”に帰艦。他のメンバーには申し訳ないけど本局に戻るまで交代制で“T.C.”の監視を任せた。そして部隊の隊長のわたしと副隊長のルシルは、監査官のロッサに報告するために執務室へ。
「――以上が、第25管理外世界ヴォルキスでの“T.C.”メンバーとの戦闘および護衛対象・アポローの輝石の処置です」
詳細は後で書く報告書に記すとして、まずは簡単にさっきまでの事を報告だ。するとモニターの向こうで聞いてたロッサは『良い報告が聞けて良かった!』って笑顔を浮かべた。これまで局は“T.C.”に負けっぱなしだったからね。一勝とはいえすごいのだ。
『本局までの道中、どうか気を付けてくれ』
ロッサへの報告も無事に済んでから、監視の順番が回ってくるまでに少し休もう。執務室を出て「お疲れ様、ルシル」ってウィンク。ルシルの「お疲れ様」の声を聴いて、わたしとルシルはそれぞれの目的地に向かうために通路を歩きだした。
ページ上へ戻る