戦国異伝供書
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第百話 両翼を奪いその十三
「しかしな」
「そのお二方のことはこちらにも伝わっていますな」
「山陽、山陰までな」
「相模の北条殿もですが」
「このお二方は特にじゃ」
「とかくお強いと」
「武田殿は戦も政も素晴らしく上杉殿は鬼神じゃ」
二人の具体的なことも話した。
「そうした御仁達であるからな」
「そして家臣の方々もですな」
「優れた方が揃っておる」
この二つの家もというのだ。
「それでじゃ」
「天下に知られた家になっていますな」
「この二つの家も天下を目指せるが」
「織田家はですか」
「その武田家や上杉家以上にな」
「人が揃っているので、ですか」
「強くなる、遅くとも数年のうちにな」
それだけでというのだ。
「あの家は恐ろしいまでの大きさになりな」
「政もですか」
「素晴らしいものになるからな」
だからだというのだ。
「じきに当家を凌駕してじゃ」
「天下もですか」
「制する様になるぞ」
「これまではうつけ殿と言われていましたが」
「それは大きな間違いとはお主もわかるな」
「桶狭間のことを聞きますと」
その鮮やかな勝ちをというのだ。
「どう見ましても」
「そうであるな」
「今では尾張の蛟龍とさえ言われていますな」
「わしは織田殿には勝てぬ」
元就ははっきりと言った。
「毛利家は織田家にはな」
「勝てませぬか」
「わしの謀もな」
「それもですか」
「織田殿には通じぬ」
「これまで父上の謀は見事でしたが」
「それは謀に弱い相手だからじゃ」
それで通じたというのだ、尼子家にしても陶にしても他の者達にしてもそうであったというのである。
「通じたのであってな」
「織田殿にはですか」
「通じぬ、優れた方だからな」
「それ故にですか」
「わしの謀は通じず」
そしてというのだ。
「戦もな」
「当家の力ではですか」
「勝てぬであろう」
「戦になった時の織田家の力では」
「当家では敵わぬ」
そこまでの力の差が出来ているというのだ。
「だからな」
「織田家とは揉めず」
「あの家の様に優れた家臣を多く置きたいが」
「織田殿の様に集めることはですか」
「わしも出来ぬ」
元就にしてもというのだ。
「とてもな」
「だからですか」
「織田家の様にはなれぬ」
身分や出自に捉われぬ用い方は出来ぬというのだ、信長の様にそこまで出来はしないというのである。
「だからな」
「織田家の様にはですか」
「当家も強くなれぬ、だからな」
「織田家にはですな」
「そうじゃ、だから織田家とは戦になってもな」
「激しく戦わず」
「降ってでもな」
例えそうしてもというのだ。
「そしてわしが腹を切ろうとも」
「家は守られますか」
「そうする」
「父上が腹を切られると」
どうかとだ、元清は父に言った。
「それがし達は」
「だがそれで家を守れるならな」
「そうされますか」
「気付けばわしも歳を取ったわ」
元就は笑ってこうも言った。
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