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一人旅の女

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第二章

「妖怪になってな」
「悪さをするのか」
「ああ、栄螺鬼っていってな」
「鬼か」
「そう呼ばれるんだ、それでこの栄螺鬼がな」
「人を襲って喰うか」
「攫っていくんだよ」
 襲って喰うのではなく、というのだ。
「そうするんだよ」
「人をか」
「ああ、とにかく男好きでな」
「男を攫うのか」
「そうだ、人の家に奇麗な女が夜に来てな」 
 そしてというのだ。
「一晩泊めてくれって言ってきてな」
「ああ、それが栄螺鬼か」
 磯部もそこはわかった、それで弁当のご飯を海苔で食べつつ応えた。
「奇麗な女が」
「それで家の亭主を誘惑してな」
「攫っていくんだな」
「そう言われているんだよ」
「それ明らかにやばいだろ」
 磯部はすぐに言った。
「妖怪に攫われたらな」
「ああ、そうなったらな」
「もうどうなるかなんてな」
 それこそというのだ。
「言うまでもないよな」
「だからこの辺りじゃな」
「奇麗な女が夜家に来てか」
「泊めてくれって言ってきてもな」
「泊めないんだな」
「そうしているんだよ」
「まあ普通はな」
 どうかとだ、磯部は弁当の握り飯を食う松村に言った。
「女が夜に一人で来るとかな」
「ないことだな」
「その時点でおかしいな」
 こう言うのだった。
「そもそも」
「そうだろ、だからな」
「家に女が来てもか」
「夜にな、それでもな」
「泊めないでか」
「追い返せ、さもないとな」
「攫われてか」
「後はどうなるかわかったものじゃない」
 それこそといういのだ。
「だからお前さんも気をつけろよ」
「それじゃあな」
 磯部は松村の言葉に頷いた、そうしてだった。
 今は彼と共に飯を食って少し休んでから午後の仕事に入った、職場は今日も大忙しで磯部は夜遅くにアパートに帰った。
 家に帰ると女房で共働きの美香子が帰ってきていた、垂れ目で丸顔で黒い髪の毛を後ろで束ねている。背は一五二位で少し太っている。歳は磯部より二つ下で職場で知り合って結婚して彼女も同じ職場で働いている。
 その美香子が家に帰った彼に言ってきた。
「今日はコロッケでいいよね」
「ああ、いいさ」
「今日も忙しくて」
「コロッケだな」
「帰りに肉屋さんで買ったのよ」
 商店街のそこでというのだ。
「いつも通りね」
「忙しい時のな」
「しかも安かったし、お味噌汁は作ったから」
 こちらはあるというのだ。
「これとお漬けものでね」
「晩飯だな」
「そうしましょう、今から」
「それじゃあな」 
 こうした話をしつつだった、磯部は仕事着である作業服から私服とはいってもシャツとトランクスだけになってそれでちゃぶ台に座って美香子と一緒に食べはじめた、コロッケを箸で潰して拡げてからソースをかなりかけてそれで飯を食う、そうしつつテレビがあれば等という話を夫婦でしていると。 
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