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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第255話「情報整理」

 
前書き
優奈だけはそれぞれ何があったのか大体把握出来ていますが、他は記憶を読み取ったりした訳でもないので情報が行き渡ってません。
そのための情報整理の回となっています。
(作者自身、誰がどの程度知っているか把握出来ていなかったり……)
 

 













「……ぅ、ん……」

 優輝と優奈によって創られた仮拠点。
 その医務室に相当する部屋で、リンディが目を覚ます。

「あ、艦長!目を覚ましましたか?」

「……エイミィ?ここは……」

 目を覚ませば、知らない場所だ。
 辛うじて医務室のような部屋なのは理解できるが、アースラは撃墜されたため、別の次元航行艦なのだろうかと、リンディは考える。

「優輝君達が作った仮拠点……らしいです。とにかく、詳しい説明をするので、艦長も来てください」

「………」

 エイミィも詳しい事は理解出来ていない。
 だからこそ、その説明を聞きに行こうとしていた。
 そんな中、リンディはエイミィが言っていた言葉から、一つの事実を確認した。

「(……そう。緋雪さん達は、彼を取り戻したのね)」

 優輝が戻ってきていると言う事。それだけは理解出来た。
 つまり、先の戦いは何とかなったのだろうと、そこから推測も出来た。

「分かったわ。すぐ向かいます」

 艦長としての態度に切り替え、起き上がる。
 身支度しようとして、髪や顔以外は整っている事に気付く。
 戦闘でボロボロだったはずの服は、何故か綺麗な状態になっていた。
 眠っている間に、優輝や優奈が全員の服なども直しておいたのだ。







「……集まったようですね」

 リンディが向かったのは、大学の教室のような大広間だ。
 説明する側が前に出て、それ以外は席に座る形になっている。
 リンディが入った所で、前に立つ優輝の隣にいたルフィナが言った。

「よし、全員じゃないけど……聞いてほしい人は集まったな」

 集まったのは、あの場でずっと戦っていた緋雪達に加え、リンディや澄紀を始めとしたそれなりの立場の者だ。

「(直接交流があった人と……私含め、部下など複数の人に情報を伝達できる人を集めたと言った所ね……。まぁ、全員に伝えるのは難しいから当然だけど)」

 入ってすぐにリンディはどういった意図で集めた人員なのか見抜く。
 尤も、今の状況ではそんな気にする事ではない。すぐに席に座った。

「さて……情報を整理する前に自己紹介をした方がいいだろうな。頼む」

「じゃあ、トップバッターは私ね」

 情報を整理する前に、名前と素性は知っておいた方が良い。
 そう判断して、まずは優奈から名乗る。
 優奈の存在を元々知っていた者もいるが、正体そのものを知っている者は少ない。
 そのため、彼女も一度詳しく自己紹介すべきだと判断したのだ。

「椿とか、一部の人は知っているだろうけど、私は志導優奈。以前、優輝が神降しをした代償によって生まれた人格にして、もう一人の優輝よ。……そうね、簡単に言えば“女性として生まれた優輝”が私ね。ここまでは椿達なら分かるでしょう?」

 優輝のIF。それが優奈の姿だ。
 だから、優輝の面影が残り、妹である緋雪に似た容姿になっていた。

「でもそれは、飽くまで“人間”の私。器こそ人間ではあるけど、根幹の“領域”は神界の神と同じよ。言うなれば、“可能性の性質”の神の半身……それが私」

 ……だが、根幹の正体はそこからさに一歩踏み込む。

「預言にもあった“可能性の半身”が私よ」

「……やっぱり、そうだったのね」

 正体そのものが分かっていた訳ではない。
 それでも、以前の言動などから単なるもう一つの人格ではないと椿は見抜いていた。
 だからこそ、優奈の言葉に納得し……そしてもう一つの事実に行き着く。

「そうなると、今の優輝も神界の神と同質という訳ね」

「……ああ」

 椿の言葉に対する優輝の返答に、驚愕の反応を示したのは半数程度だった。
 司や緋雪も、何となく察していたのだろう。

「次は僕が説明すべきだな。椿の推測通り、“志導優輝”は飽くまで人としての名前だ。本来の“領域”は神界の神と同じだ。名前も、神としての名は“ユウキ・デュナミス”だ」

「“性質”はもちろん“可能性の性質”。これまで何度も奇跡を掴み取ったのも、この“性質”による影響よ」

 優奈が補足するように説明する。
 見方によれば、それはまるで全部優輝のおかげだと言っているようなモノだが……

「尤も、実際その“可能性”を掴んだのは当人達の頑張りのおかげだ。例え“性質”だろうと、僕が出来たのはせいぜいそんな“可能性”もあると示しただけだ」

 優輝が神界に残る時以前は、そもそも自身が神界の神だった自覚もなかった。
 そのため“性質”を意図して扱う事が出来るはずもない。
 あったとしても影響があるだけで、実際に頑張ったのは当人だと、優輝は言う。

「どういった経緯で人間になったとかは……後で纏めて説明しよう。先に……ミエラ、ルフィナ。次はお前らだ」

「はい」

「分かりました」

 ミエラとルフィナが前に出る。
 見た目はいかにもな容姿と服装をした美少女二人だ。
 一瞬、その容姿に見惚れるかのように場が鎮まる。

「我が主の眷属が一人、ミエラ・デュナミスと言います」

「同じく、ルフィナ・デュナミスです。ミエラの妹でもありますね」

 身に纏う衣の端をつまみ、二人はお辞儀をする。
 どちらも丁寧な物腰ではあるが、ミエラは凛々しく、ルフィナは優しげな雰囲気という違いが、それだけで分かった。

「神界の神が眷属を持つのは知っているはず。……まぁ、話の流れから分かる通り、神としての僕の眷属だ。なのはと奏を依り代にしていたのがこの二人だ」

 なのはと奏に別の存在が宿っているのは周知だ。
 その正体が“天使”二人だったのも、現場にいた者は大して驚いていなかった。

「次は―――」

「私ですね」

 次に祈梨が前に出る。

「以前も名乗った通り、私の名は祈梨です。“祈りの性質”を持ちます。……ただ、正しい名前は聖奈祈梨……いえ、本来はリエル・セーナですが」

「……聖奈……」

「はい。司さんと同じ苗字です。私は、司さんの先祖にあたる存在です」

 “ざわっ”と動揺が広がる。
 神界の神が、知人の先祖だというのだ。

「かつて、私は全盛期のアンラ・マンユを祓いました。ですが、その後私は地球の日本へと流れ着き、そこで過ごす事になったのです」

 そこから、祈梨は簡単に経緯を説明する。
 元々、祈梨は“リエル・セーナ”と言う名の人物だった。
 アンラ・マンユと戦い、地球の日本に流れ着いた時に、名前を変えたのだ。
 リエルは元々“祈り”の意味を持つ言葉からもじったため“祈梨”に、セーナは発音から考えて“聖奈”へと、日本の発音になぞらえて。

「―――ですが、天巫女という事を踏まえても強力過ぎる力を持った私を、“世界”はそのままにしておきませんでした」

 恐るべきことに、地球に流れ着いた当初ですら、祈梨は()()()()()()()()()のだ。
 成長し、子を成した時には、“世界”にとってすら異常な強さになっていた。

「厳密には、単純な強さは異常という程ではありません。天巫女の力、才能が異常であり……世界の理すら捻じ曲げる事が可能だったのです」

「結果、“世界”から浮いた存在になった……と」

「その通りです。それでも“領域”は強くなり……貴方達でいう存在の“格”が昇華され続け……結果、神界の神の目に留まりました」

 その後は、“天使”となり、そして神へと昇華していったと祈梨は語る。
 祈梨以外、今の所同じように神に至った存在はいない。
 否、いるかもしれないが、探す必要がある程、数は少ないのだ。

「……まぁ、私の身の上など今はどうでもいいです。今回の戦いについて説明しましょう。……イリスの封印が解けた際、一度私は他の神と共に会敵しました。そして、敗北し一度洗脳されましたが……完全に自我を失った訳ではありません」

「洗脳される際に、“闇”が“領域”を侵蝕する。……そこから、僅かだけでも“領域”の一部を隔離してそこから抵抗した……そうだな?」

「その通りです。時間こそかかりましたが……間一髪、私も助けになれました」

 洗脳された神も、全員が無抵抗な訳ではない。
 祈梨のように、洗脳されてなお足掻こうとしている神もいるのだ。

「……っと、このように今は正気だ。今の緋雪や司なら、洗脳されてるかどうか見分ける事も出来るだろう?」

「……うん。イリスの“闇”は感じられないよ」

「洗脳状態のお兄ちゃんをずっと視てたからね。もう、見分けられる」

 話が少し逸れた所で、優輝がソレラとエルナに視線を向ける。
 話の軌道を戻すついでに、次に移るようだ。

「妹のソレラは既に知っているだろうから、私だけだね。私はエルナ・ズィズィミ。ソレラの姉であり、姉妹で一つの神だ。私が“守る性質”、ソレラが“守られる性質”で、お互いに影響し合っている」

「“守り守られし女神姉妹”……それが彼女達の事よ」

「……なるほど……」

 優奈の補足に合点がいったようにクロノは呟く。
 実際、エルナがソレラを庇う形で力を発揮していたため、納得がいったのだ。

「私の場合、洗脳を解く事が出来たのは姉妹神の特性にあります」

「姉妹……まぁ、兄弟も同じだけど、さっき言った通り二人で一つの神だからお互いに影響し合う。……片割れに異常があれば、それを察知する事も出来るし、正常に戻そうと自浄作用が働く」

「結果、タイミングこそギリギリでしたが、正気に戻る事が出来たのです」

「私がソレラの場所に来れたのは、姉妹神である事と“守る性質”のおかげだね。ソレラ限定だけど、世界を隔てて転移出来る」

 妹であるソレラを“守る”ために、エルナは世界の壁を無視して転移出来る。
 今回もそれを利用してソレラの下へ転移したのだ。

「これで全員……いや、後三人いるな」

「え……?」

 これで全員自己紹介は終わったはずだと、緋雪は思う。
 それなのに、優輝は後三人いると言い、三人分の場所を開けた。
 直後、その場所の空間が“回った”。

「っ……!」

 現れたのは、仙人を思わせる容姿の白い髪と髭を生やした老人と、それぞれ赤と青の髪色が特徴的な二人の女性だ。

「あ、あの人って、確か……!」

 緋雪は老人を見て驚く。
 その老人は、記憶が確かであれば自身を転生させた神だからだ。

「その人達は……」

「イリス達を撃退した後、神界への道を封印してくれた人達だ。……同時に、父さんと母さんを助けてくれた恩人でもある」

 視線が優輝の両親である優香と光輝に集まる。
 二人も、“その通り”だと答えるように頷いた。

天廻(あまね)じゃ。“廻す性質”を持っておる」

「サフィア・スフェラと言います“蒼玉の性質”を持っています」

「ルビア・スフェラと言いますー。サフィアちゃんの姉で、“紅玉の性質”を持っていますよー」

 それぞれが自己紹介する。
 三人共、見た目に相まった口調をしていた。

「神界への道を封印とは、それはつまり……」

「いや、飽くまで応急処置のようなものじゃ。確かにイリスからの干渉をいくらか防げるが、絶対とは言えぬ。こちらも、あちらも、準備を整える時間が必要じゃ。封印は、その間の奇襲を防ぐ役割でしかない」

 これ以上神界から攻められないのかと、リンディは考えたが天廻に否定される。

「道を封じたのは時間を稼ぐためです」

「一応、この世界にとっては時間を稼ぐだけでも十分なんですけどねー」

「……?それってどういう……」

 まるで勝つ必要はないと言われたようで、アリシアが聞き返す。
 サフィアがそのまま答えようとして、優輝がそこで制した。

「そこから先は情報整理した後に話そう」

「……そうですね」

 仕切り直す。ここからが本題とばかりに、全員が姿勢を改める。





「……全ての始まりは、イリスが生れ落ちた時に遡る」

 イリスは、“闇の性質”を持つ神としては最年少だ。
 他にも同じ“性質”の神はいたが、イリスはその中でも一際“性質”が強かった。
 神として幼いながらも強かったイリスは、“性質”に囚われていたのだ。

「“闇の性質”故に、イリスはその闇で全てを支配してしまいたいという欲求に囚われた。そういった“性質”だからこそ、そうするべきだと考えたんだ」

 確かに“闇”というのはそう言ったモノをイメージする。
 イリスもその例に漏れず、そうするべきだと思ってしまった。

「……なまじイリスはずば抜けて優れていたために、神界は混乱に陥った。本来、洗脳されるはずのない神すらも洗脳するイリスを、すぐさま対となる“性質”……“光の性質”を持つ神が危険視し、大規模な戦争となった」

 イリスが生まれたのと時を同じくして、対となる“光の性質”の神も生まれていた。
 その神も一際強く……それ故に、イリスの危うさにもいち早く気づいていた。

「戦いは激化し、神界の半分以上の神が“領域”を砕かれた。……幸い、それほどの戦いでも“領域”が消滅するとまではいかなかったが」

 規模で言えば、地球のどの戦争よりも大きかった。
 “光”と“闇”がぶつかり合い、その被害は甚大だった。

「その戦いを終結させたのが―――」

「……貴方なのね、優輝」

 優香が優輝の言葉に続けるように言い当てた。

「……聞いていたんだな」

「大まかな流れは、ね」

 現実味はなかったのだろう。
 それでも、自身の子供がそんな経験をしていると知って、優香だけでなく光輝も複雑な思いを抱いていた。

「“可能性の性質”を持つ神は複数いる。出力だけで言えば、僕より上の神もいた。……それなのに、僕がイリスと戦えたのは、“性質”が特殊性に長けていたからだ」

「特殊性……?」

「概念や因果、そういった“形のないモノ”に働きかける力……と言うべきか。直接的に戦闘に干渉出来る訳ではないが、使い方次第で非常に強力なものになる」

 身近な存在で言えば、ソレラとエルナもそういった特殊性を持つ。
 その場に働きかける力は時に物理的な力よりも強力になる。

「“可能性”を掴み取る。その一点のみの力で、僕はイリスと戦った。結果、僕の“領域”は消滅したが、イリスを封印する事に成功した」

「消滅……それじゃあ、なんでお兄ちゃんは……」

「一種の賭けだったんだ。神界の神は転生するかわからない。元よりその必要がない存在だからな。だけど、その“可能性”を掴み取った。ミエラとルフィナも同じだ。……それが、僕が神から人になった理由だ」

「……改めて聞くと、分の悪い賭けどころじゃないのう。輪廻に干渉出来る身ではあるが、その力もなく転生するなど正気じゃないわい」

 天廻が思わずそう呟く。
 “廻す性質”を持つ天廻は輪廻にも干渉出来る。
 だからこそ、優輝が荒唐無稽な賭けに出た事に驚きを禁じえなかった。

「……まぁ、これが僕らが人に転生していた理由だ。ミエラとルフィナの場合は、人を依り代にしなければ“領域”を保てなかったのだろう」

「その通りです」

 転生しても“領域”はそのままだ。
 だが、消滅するはずだった“領域”を保つには、“天使”では力が足りなかった。
 そのため、なのはと奏のように人を依り代にしていたのだ。

「とにかく、これがかつて起きた神界での戦いだ。一人の神と、その“天使”を犠牲に、イリスは封印された。……けど、残った爪痕は深かった」

「何と言うか、神として幼いからか、イリスは優輝に執着しちゃうようになったみたいなのよね。だから、封印が解けた後、とことん優輝を狙ったの」

 優輝の説明を、優奈が繋ぐ。
 イリスは、優輝の“可能性”に魅せられたのだ。
 だが、その方向性が悪かった。
 イリスはどこまでも神として幼かった。
 故に、優輝に執着し、手に入れようと周到に手を回してきたのだ。

「それだけならまだいい。……いや、周りに迷惑を掛けていたが……それよりも問題となるものがあったんだ。……緋雪、司、奏、帝、神夜。そして、人間だった頃の僕にも、関係している」

「私達……?」

「……転生?」

「そうだ」

 椿が六人の共通点に気付き、優輝が肯定する。

「イリスとの戦いは、神界のみならず他の世界に影響を及ぼした。因果に、理に影響が及んで“本来起こりえない事象”が起きた」

「本来起こりえない……まさか……!?」

「転生……いや、厳密には“死ぬはずのないタイミングでの死亡”だ」

 そもそも、転生出来たのは本来死ぬはずがなかったからだ。
 奏の場合はむしろ死ぬのが遅かった程だが、それでも因果が捻じ曲がっていた事には変わりない。

「……待って。優輝君がイリスを封じた神なんでしょ?なのに、人間に転生した後にその影響を受けたの?時期がずれている気が……」

 そこで、司が疑問を口にする。
 戦いの影響ならば、その後に人へと転生した優輝が影響を受けるのは、時期的におかしいと考えたのだ。

「いや、合っておる。……それだけ、影響が長く残っていたのじゃ。今でこそ数は減ったが、以前までは数百人単位で影響が出ていた」

「……そんなに……」

「もしかして、私が倒してきた転生者の霊も?」

「その内の一人だろうな」

 かつて鈴が倒した転生者達の霊も、その影響による産物だった。
 それだけ、転生者が多かった事に、同じ転生者の司達は驚いていた。

「……あれ?転生の時は、確か違う事情だったような……」

 ふと、緋雪が転生の時の出来事を思い出して疑問に思う。
 あの時は、ネット小説にありがちな神のミスによる死だと説明されていたのだ。

「あれはのぅ……神界の戦いの事を無闇に知らせる訳にはいかなくての。話した所で違う世界の者には信じられないと思い、ごく一部の創作の物語であるような設定を参考にさせてもらったのじゃよ。その方が、まだ現状を受け入れやすかったじゃろう?」

「………確かに」

 天廻の説明に、緋雪は完全とまではいかないが納得する。
 確かに、いきなり“神の世界で大きな戦いがあり、その影響で死んだ”と言われてもピンと来ないだろう。
 それならば、ネット小説であるようなテンプレートな事情で死んだと言われた方が、それを知っている者としてはポジティブに考えられる。

「神界は、それこそ他の世界全てに影響を与える。……その神界が、壊滅の危機に陥っていたなんて、不安になるような事は言えなかったんだろう」

「……そりゃあ、確かにな……」

 神界に一度取り残されたからこそ、帝は納得した。
 単純な力だけでなく、概念的干渉も神界の神は強い。
 世界そのものの“領域”も侵蝕する神もいるのだから、それを知る神としては不用意に説明すれば不安がられると思うだろう。
 ……尤も、実際に話した所で実感は持たれないのがほとんどだろうが。

「話が逸れたな。“今”の話にしよう。イリスは封印されたが、それが解けたのは現状からしてわかっているだろう?ちなみに、封印が解けた直後の神界は―――」

「私とサフィアちゃんが詳しいですよ。説明しましょうか?」

「ああ、頼む」

 ルビアとサフィアが前に出て、説明を始める。
 優輝は知らないが、彼女は封印が解けた瞬間を見ている。
 そこからの経緯も自ら経験しているため詳しいのは当然だ。

「封印が解けた直後、まず私はサフィアちゃんを逃がしました。その後、私と近くにいた神でイリスを足止めしましたが……元より封印ぐらいにしか長けていませんから、当然のように私達は敗北、洗脳されました」

「その間に、私が他の神に封印が解けた事を知らせました。ですが、一部の神はむしろイリスに味方してしまいました」

「イリスと同じような……端的に言えば“悪役”のような“性質”の神だな。イリスのように“性質”に囚われた神や……それこそ神界がどうなっても構わない神はイリスに味方する」

 ルビア、サフィアの説明に優輝が補足する。
 これは司達も推測はしていた事だ。
 帝に至っては、実際にイリスに味方していた悪神と戦っている。

「その後、ソレラさんとエルナさんのように、姉妹神の特徴を活かして姉さんを正気に戻す事に成功しました」

「正気に戻るまでの記憶もありますが、その間イリスはずっと戦力を増やしていましたねー。とにかく孤立していた神を洗脳して数を増やしていました」

「ただ、単純に正気に戻しただけでは姉さんは敵陣の中にいたままです」

「そこで、儂の“性質”使った訳じゃ」

 “廻す性質”により、空間と空間を“廻す”ように入れ替える事が出来る。
 加え、姉妹神の特徴により、サフィアがルビアの居場所を特定した。
 それによって、ルビアだけを近くに転移させ、正気に戻したのだ。

「儂の“性質”と、敵の居場所さえ分かれば決して捕まらん。じゃから、たった四人でもイリスの勢力内で動けたのじゃ」

「……四人?」

「私も一緒にいたんだよ」

 誰かが疑問に思った呟きに、エルナが答える。

「私が天廻様と合流するまでに、ソレラさんとエルナさんとも合流していたのです。しかし、途中で奇襲を受けて、天廻様の力で逃げるまでソレラさんが殿に……」

「私が残って囮になった方が、結果的に一番戦力ダウンを抑えられますからね」

 ソレラとエルナは二人で一つだ。
 だが、二人どちらかが欠けるならば、ソレラの方がマシだった。
 サフィアも、ルビアを正気に戻すため不可欠だった。
 だから、ソレラが囮になったのだ。

「話を戻しましょう。逐次神界の様子を見ましたが、どこもかしこも戦闘になっていましたね。正しく前回の大戦の再現です」

「僕らが前回見た戦線も、所詮は氷山の一角だろうな。再現とも言える程なら、もっと規模が大きいはずだ」

「っ………」

 実際に神界に行ったメンバーは、優輝の言葉に息を呑む。
 あれだけでも、かなりの激しさだったのだ。
 それが、ほんの一部でしかない事に戦慄した。

「イリスの初動が早かったためか、洗脳された神はかなりいますね。サフィアちゃんが知らせて回るのを追いかけるように、どんどん勢力が広げられました」

「対抗勢力がいるはずだが……そっちはどうなんだ?」

「残念ながら、私達は逃げ回っていたのでそこまでは……。ただ、何度か倒された敵の神を見かけました。そこから考えると、ある程度は拮抗しているかと」

「戦線もあったからな……一応、イリスの対となる“光の性質”の神も、かなりの強さを持っている。総力戦になったとしても、長引くだろう」

 洗脳された神を元に戻す事も神によっては可能だ。
 優輝達がイリスの出鼻を挫いた事で、洗脳による勢力増大も抑えられていた。
 これによってお互いの勢力は拮抗していると優輝は考えた。

「……要は、今も神界では戦いが続いていると言う事だ。……父さんと母さんは、逃げ回っていた彼女達に助けられたのか?」

 神界の情報を優輝が纏める。
 同時に、両親がどうやって助けられたのか確認のため尋ねた。

「その通りじゃ。イリスとの戦いは儂らも見ておった。二人が消滅させられそうになった時に、咄嗟に儂が空間を“廻した”。座標を入れ替えて緊急避難させたのじゃよ。……尤も、引き際を誤っておれば儂らもやられていたじゃろうな」

「そうですか……。ありがとうございます」

 本人の代わりに天廻が答える。
 あの時、助けがなければ間違いなく二人は消滅していた。
 だからこそ、優輝は天廻に感謝した。

「一通り説明したが、細かい事は各自聞いてくれ。じゃあ、次の話に移ろう。どちらかと言えば、こっちが本命だ」

 一拍置き、優輝は全員を見渡す。
 本命の話と聞き、全員が注目する。
 そして、優輝はその話題を口にした。







「……神界に攻め入る、及びイリスの討伐についてだ」

 そう言って、優輝は攻勢に出る事を宣言した。













 
 

 
後書き
“祈りの性質”…そのまま天巫女の力の上位互換。祈りを力に変える事が出来る。

“廻す性質”…物理的に回すのはもちろん、輪廻や“廻”を含む概念にも干渉出来る。

天廻…仙人のような容姿の神。“廻す”事に干渉出来る。割と階級が高いようで、サフィア達や優輝にも敬語を使われている。

“蒼玉の性質”…サファイアに関する事に干渉出来る。戦闘に直接使う力がほとんどなく、特殊なサファイアで防御や敵の拘束などが行える程度。戦闘向きではない“性質”。

“紅玉の性質”…上記のルビーバージョン。同じく戦闘向きではない。一応、何かを封印する事には向いている。

ルビア…サフィアの姉。キャラのモデルとしてはFateのルビー。お調子者で愉快な事を好む性格をしているが、現状が現状なため、今は控えている。サフィア含め苗字のスフェラ(宝玉のギリシャ語)は今回が初出。


本編にはほとんど出てないけど、実は大量の転生者がいた事実。以前閑話で鈴が倒していた転生者もその一人です。
なお、神界の戦いの影響が強く出ていた頃は、様々な世界で起こりえないような天変地異が起きていたりします。

ちなみに、今回一通り説明した際、詳細は文章から省いています。
一応、ちゃんと情報を行き渡らせておいたので、全員情報整理は出来ています。 
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