ドーベルマンは怖い
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第二章
「散歩も時も人に唸って吠えた勝手な道を行ったり」
「それも大丈夫だ」
「そのこともね」
「人に危害を加えていないしな」
「そんな素振りも見せないでしょ」
「皆ケント見て逃げる位だよ」
ドーベルマンである彼をというのだ。
「そうだよ」
「そうだな」
「あの子を見たら大抵の人がそうなるわね」
両親は全く動じずにこう言った。
「ドーベンマンだから」
「武器を持っていないと勝てないな」
「いや、僕も怖いから」
「怖いっていってもな」
「賢人は襲わないから安心してね」
「そうかな」
両親に強く言われて賢人は従うしかなかった、二人の親に言われると子供としてはだ。だがそれでもケントは怖いままで。
夏休みに家族でキャンプに行く時も両親にケントも一緒だと言われて思わず言った。
「えっ、ケントもなの!?」
「ああ、一緒だ」
「ケンちゃんも家族だからね」
「当然連れて行くからな」
「家族は何時でも一緒にいるものでしょ」
「怖いのに」
今だに夢に出て来てお添われたりするのでこう言った。
「それでもなの」
「ああ、というかケントがいないとな」
「駄目ってわかるわよ」
「そうかな」
賢人は両親に言われて首を傾げさせた、こんな怖い犬が一緒でいいのかと玄関の方に置かれている犬小屋の中にいるケントを見た。ケントは今は寝ているが。
誰かが玄関に来ると絶対に起きる、そして宅配の人にも怖がられる彼を見て本気で両親の言うことは正しいのかと思った。
だがケントはキャンプに来てだった。
両親が立てたテントの前に座った、すると。
「うわ、ドーベルマンだ」
「これは近寄らない方がいいな」
「ドーベルマンは怖いぞ」
「かなり危ないぞ」
こう言ってだった、柄の悪い者は近寄らず。
一家のテントは平和だった、そしてだった。
ある人が賢人の傍にいつもいるケントを見て賢人に言った。この時両親は晩ご飯のカレーの支度をしていて少し離れた場所にいてテントのところにいるのは彼等だけだった。
「いい犬だね」
「ケントがですか?」
「ああ、その子の名前だね」
「ケントっていいます」
ケントを見つつその人に話した、見れば口髭と顎髭を生やし丸眼鏡をかけた大柄な登山服に身を包んだ男の人だ。
その人にだ、賢人は話した。
「もう怖くて仕方ないです」
「ドーベルマンだからだね」
「はい、怖くて仕方ないです」
こう言うのだった。
「とても」
「けれど君に吠えたり噛んだりしないね」
「はい」
賢人はその人に素直に答えた。
「というかここに来てからずっと僕の傍にいて離れないです」
「それは君を護ってるんだよ」
「僕をですか?」
「そうだよ、君を家族だって思っているから」
だからだというのだ。
「ずっと君の傍にいてね」
「そうしてですか」
「護っているんだよ」
「そうですか」
「これまでもそうだったんじゃないかな」
「そういえば」
賢人は子供心ながらに思い出した、彼と一緒に散歩にいて。
声をかけてきた人に唸った時はその人は随分胡散臭い感じだった、そして柄の悪い人達を睨んだりしていた。他にも。
車の多い道や工事中で足場の悪い道には行かなかった、考えてみればだ。
全部そうだった、それで彼は言った。
「そうかも」
「そうだよ、ドーベルマンは確かに怖いよ」
このことは事実だというのだ。
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