魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第253話「再臨」
前書き
―――想定していた訳じゃない。ただ、信じていただけだ
ようやく優輝sideの話に戻れます。
なお、展開自体はあまり進みません(´・ω・`)
「ッ―――!?」
大きな衝撃が走る。
その衝撃により、優輝は失われたはずの意識を取り戻した。
「……そうか。賭けに勝ったのか」
体は動かせず、そもそも肉体そのものがない。
そんな精神世界で、優輝は確信していた。
「……これだから、人の“可能性”は面白い。どんな絶望に陥っても、一縷の可能性を掴み取り、その事象を覆すのだから」
先程の衝撃は、緋雪が限界突破した際に使った“破壊の瞳”によるものだ。
これにより、イリスの“闇”の支配が弱まり、優輝は自我を取り戻した。
未だに外部から洗脳を解く事は出来ないが、自我が復活したのなら話は別だ。
後は、優輝自身が内側から体の支配権を取り戻せばいい。
「(ただ、ここからも賭けだ。どんなに急いだ所で、間に合わないかもしれない。最悪でなかったとしても、誰かはやられているかもしれない)」
しかし、それを実際に為すのは至難の業だ。
自我を取り戻したとはいえ、それは優輝という存在のごくごく一部だけだ。
例えるならば、人を構成する細胞の内、一つだけが正常になっているような状態だ。
「……それでも、“可能性”を掴む。それが僕だ」
“闇”に堕ちた思考が、四方八方から優輝を苛む。
その中で、優輝は足掻き続ける。
イリスの支配に打ち勝つその時まで。
―――「止めなさい!優輝!!」
―――「止めるんだ!優輝!!」
「ッ………!」
しかし、変化は程なくして現れた。
外から声が聞こえてきたのだ。
「母さん、父さん……?」
それは、神界で消滅したはずの両親の声。
その声が、“闇”に堕ちた思考を乱した。
「ッ、はぁっ!!」
その隙を優輝は逃さずに、理力を放出した。
徐々に、徐々に精神を取り戻していく。
それは、例えるならば癌が体を蝕むその逆だ。
体を侵蝕するように、逆に自我を取り戻していっているのだ。
「っづ……!?」
直後、衝撃が優輝にも走る。
「これは、“破壊の瞳”……だけじゃない……!?」
感じ取った魔力の質から、緋雪の“破壊の瞳”だと察する。
だが、それだけではありえない衝撃も走った事に驚愕した。
「(微かに今の僕の行動が感じ取れる。……なるほど、“刹那”か……。……緋雪の奴、いつの間にか導王流を会得していたんだな……)」
納得したように、どこか嬉しそうに優輝は笑う。
これで、また一つ“闇”の支配が緩んだ。
―――「届け、私の、私達の想い!」
そして、間髪入れずに再び声が届く。今度は司の声だ。
「……本当に、よくやってくれた……」
祈りの力による、“闇”の浄化。
全てを祓う事が出来なくとも、確かに優輝に響いていた。
実際、体の支配権は先程より飛躍的に取り戻せるようになった。
……それでも、一割にも満たないが。
「………」
その後も、続けざまに椿、司、葵、奏、両親と声が響く。
その度に“闇”に揺らぎが生じ、そこから優輝は自我を取り戻していく。
特に、緋雪の懇願染みた声には、洗脳されてなお響くものがあったのだろう。
真っ暗で何も見えない精神世界に、視界が戻ってくる。
「緋雪……!」
優輝もまた、足掻き続ける。
声のした方向へ駆けるように、藻掻く。
―――「戻ってきて、お兄ちゃん……!!」
そんな優輝を後押しするように、再び緋雪の声が響く。
同時に、“破壊の瞳”と祈りの力が精神世界を揺らした。
「これでも、まだ、か……ッ!!」
時間を掛ければ確実に自我は取り戻せる。
焦っている訳でもない。
それでも、緋雪達の頑張りがあってなお自我を取り戻しきれない事に歯噛みした。
「―――ん?」
それでも足掻き続けて、しばらく。
自我を二割近く取り戻した所で、何かが精神世界に入り込んでくるのを感じた。
「……イリス?」
現れたのは、イリスだ。
しかし、雰囲気が明らかに違った。
優輝に執着していた時のものでも、“闇”に満ちたものでもない。
どこか穏やかで……優しげな雰囲気を持っていた。
「……桃子、さん?」
ふと思い当たったのは、なのはの母親である桃子だ。
姿こそイリスだが……どこか似通ってると感じた。
否、桃子だけではない。
「いや……安那に……アリス、まで……?」
前世における初恋の相手にして友人。
導王の時代において、最後まで味方でいた侍女長。
その二人とも似通っているように感じた。
そして、確信する。
「そうか……そういう、事だったのか……!お前も、僕と同じで何度も転生を……いや、人に宿っていたのか……!」
「……はい。貴方のように、いくつもの“可能性”を見るために……」
イリスもまた、自身と同じように人として生まれ変わっていたのだと。
今敵対しているイリスとは別に、“人”を知るために、何度も……。
「気づかなかった……。この分だと、覚えていない人生でも、傍にいたのか?」
「そうでもありましたし、そうじゃなかった時もあります」
その言葉に、優輝は感心したように息を漏らす。
「……それで、“成果”はあったか?」
「……はい。いくつもの、人の“可能性”見ました。貴方のものだけでなく、ありとあらゆる存在の“可能性”を……」
非常に満足したような表情で、イリスは優輝の言葉に答える。
「例え善なる者でなくとも、“可能性”は示せる。……それこそ、私のような存在でさえ。……あの時、貴方の言った通りでした」
「違う生き方が、出来たんだな」
「はい。……貴方のおかげです」
神界の存在は、そのほとんどが“性質”に縛られている。
イリスのように“闇の性質”であれば、どうしても悪や負によった存在になる。
だが、それは絶対ではない。
光が闇を示す事もあれば、その逆もあり得る。
例え“性質”があろうと、それは変わらない。
……イリスは、ようやくその事に気付けたのだ。
「こんな私でも、違う生き方が……光を、可能性を示す事が出来ました。……それで、十分です。きっと、貴方や外で戦っている人が、さらなる可能性を拓くでしょう」
「……消えるのか」
「はい」
それは、尋ねるような口調ではなかった。
優輝も分かっていたのだ。目の前のイリスが、もう限界だと言う事に。
“領域”すら犠牲にして、“可能性”を拓いたのだと
「未練はないのか?」
「もちろんありますよ。もっと何か出来たんじゃないかって、もっと別の選択が出来たんじゃないかって……」
儚く微笑むイリスから、涙が零れる。
声は上擦り、表情が悲しみに染まっていく。
「もっと……もっと、貴方と話をしたかった……!」
「イリス……」
本来、神界の存在にとって“死の恐怖”というのは存在しない。
“領域”が消失するというのは、自ら選ばない限りあり得ないからだ。
だが、このイリスはその“領域”の消失を選んだ。
誰かのために、皆のために、その身を犠牲にしたのだ。
転生とは違う、正真正銘の“死”を、初めて味わうのだ。
「貴方に魅せられた!貴方に教えてもらった!貴方に見せたかった!……貴方に、ずっと恋していたかった……!」
「………」
「でも、それはもう叶わない。私は、ここで消えるから……」
やり遂げた。だから、これ以上は諦めた。
そう、イリスの顔が語っていた。
「……イリス。お前は言ったな?“可能性を示した”と。……なら、少しぐらい報われる“可能性”もあるだろう」
「え……?」
「生憎、僕は数多の可能性があろうと、大団円のハッピーエンドが好きなんでね。……イリス、例えお前が本来のイリスのごく一部分でしかなかろうと、消えさせはしない」
目の前のイリスが消えようと、“イリス”という存在そのものに影響はない。
だが、優輝はそうであっても目の前のイリスが消える結末を否定した。
「……せっかく諦めがついていたのに、そういう事を言われたら……期待しちゃうじゃないですか……!」
「ああ、期待しておけ。……完全無欠のハッピーエンドを掴んでやるよ」
気が付けば、周囲の“闇”はほぼ消え去っていた。
優輝が力を取り戻したらしく、一気に自我を取り戻したのだ。
「っ……そういう、そういう所ですよ、本当に……」
「悪いな。僕は良い意味でも悪い意味でも諦めが悪いんでな」
「(だから……だから、私は貴方を………)」
いつの間にか、イリスの涙は止まっていた。
「……後は任せます」
「ああ。お前が示した“可能性”、一片たりとも無駄にはしない」
その会話を最後に、イリスは光の粒子となって消えた。
だが、優輝はその粒子を掴み取り、大事に抱えるように自分の体に取り込んだ。
「……あっちのイリスにも、お前の想いを思い知らせないとな」
刹那、ガラスの割れるような音と共に、優輝の意識は現実へと戻っていった。
同時に、溢れんばかりの理力を体の内から漲らせていた。
「来い、ミエラ、ルフィナ」
慄くイリスを前に、優輝は“天使”の名を呼ぶ。
現れるのは、奏となのはの体を依り代にしたミエラとルフィナだ。
「ようやくですね、主よ」
「この時を待ちわびていましたよ、主様」
「待たせたな」
短い会話を済ませ、優輝は理力を集束させる。
その理力は二つの人の……否、“天使”を形作った。
そして、ミエラとルフィナが光に包まれ、その光がそれぞれの人形に入った。
「これで、私達も本来の姿に戻れます」
姿が変わり、ミエラは膝裏まで届く程の長髪、ルフィナはセミロング程の長さの、亜麻色寄りの金髪になっていた。
容姿も変わっており、ミエラは騎士のような凛々しさを、ルフィナは聖母のような優しさを思わせるモノに変わっていた。
服は理力で構成したのか、それこそ天使のような衣を纏っていた。
「依り代はお返ししましょう」
残ったのは奏となのはの体だ。
本来の体に戻った二人は、その体を抱えて近くにいた士郎と奏に渡す。
直後、分身体を使っていた奏は元の体と一つになり、元に戻った。
「……お兄ちゃん……?」
「ありがとう、緋雪。……緋雪の、皆の想いはしっかりと聞こえていたぞ」
「っ……!」
感極まって緋雪は優輝に抱き着く。
それを優輝はしっかりと受け止め、少ししてから優しく引き剥がす。
「詳しい話は後だ。……まずは、イリスを退ける」
そう言って、優輝はイリスへと視線を向ける。
イリスは忌々しそうに優輝を……否、先程までもう一人のイリスがいた場所を睨んでおり、こちらに仕掛けてきてはいなかった。
だが、無防備という訳ではない。
攻撃しようとすれば、容赦ない反撃が来るだろう。
「……“倒す”とは言わないのね」
「ああ。どうあっても今イリスを倒すのは無理だ」
椿の言葉に、優輝はそう答える。
それは、勝てる勝てないではなく、“倒す”事自体が不可能だと物語っていた。
「ミエラとルフィナは他を頼む。イリスは僕がやる」
「承りました」
「では、そちらはお任せしますね」
多くを語らず、ミエラとルフィナは背中の羽をはためかせ、飛んだ。
「行かせませ―――ッ!?」
「えっ……?」
刹那の間だった。
ミエラとルフィナを止めようとしたイリスが、咄嗟に体を逸らす。
すると、寸前まで上半身があった所を優輝の蹴りが薙いだ。
特別速い訳じゃない。十分速いとはいえ、緋雪なら同じ速度を出せる。
だが、緋雪と優奈、祈梨以外は目で追う事すら出来なかった。
緋雪も、同じ事をされれば絶対に避けられないと思える程だった。
「今のは……?」
「……無意識の隙を突いた攻撃よ」
「なっ……!?いくら優輝でも、そんな事が!?」
司の呟きに、優奈が答える。その答えに椿が驚愕する。
「知っているの?かやちゃん?」
「……一応ね。いくら意識しても、どこかに隙がある。それが無意識の隙。……要は、認識されないように動いたのよ、優輝は」
「その通り。つまり、目の錯覚とかと似た現象を利用しているのよ。近づいているのにそうと気づけないように……例えるなら、“コリジョンコース現象”のような、ね」
コリジョンコース現象とは、見晴らしのいい十字路で起きる現象だ。
車が二台、同じ速度で交差点に差し掛かると、衝突寸前まで近づいてきている事を認識できず、ぶつかってしまうという。
それと似たように、優輝はイリスに接近し、攻撃を繰り出していたのだ。
元々のスピードに加え、そんな無意識の隙を利用したために、このようにほとんどが見る事すら出来なかった。
「でも、この状況じゃあ、それこそ霊術とかを利用しないと出来ないはず。……優輝は、それを単なる動き方だけでやったと?」
「さすがに理力を利用しているわ。……でも、後は導王流を使っただけ。一部の武術は、極めればああいった事が出来るのよ。今回は、それを理力で昇華させた訳」
「……なのはの“神速”も、似たもの……?」
「そうね。身近に同じような事が出来る流派がいたわね」
知覚外の速度で動く“神速”。
あれも認識されないように動いている技だ。
「……ただ、あれの場合は理解されれば二度は通じないわ」
見れば、戦いはずっと続いていた。
初撃を躱したイリスは、ミエラとルフィナに構わずに優輝と相対した。
膨大な“闇”を繰り出し、優輝はそれを貫くように突破して凌ぐ。
「なっ……!?」
それだけではない。
転移を利用し、再び無意識の隙を突く。
肉薄し、瞬時に連撃を繰り出した。
「飽くまで、“そのまま”では、だけどね」
「転移と合わせれば、同じ事が出来るのね……」
イリスはその連撃を“闇”の障壁で防ぐが、衝撃は通り後退る。
「“エラトマの箱”による“領域”の侵蝕……これでお前の有利なフィールドに変えていたようだが……残念だったな。他ならぬお前自身が、それを打ち消した」
「ッ……!」
「状況を見るに、“領域”の侵蝕によって多数相手に渡り合っていたみたいだな。優奈もそれで押されてばかりだった……か」
理力を徹すように打撃を繰り出しつつ、優輝は冷静に状況を分析する。
近接戦から引き剥がそうとして、イリスが“闇”を放つが、転移で躱す。
結果的に距離を取られたが、転移直後に理力を針のように圧縮して放つ。
「くっ……!」
「シッ!」
理力の針が“闇”に突き刺さる。
圧縮された理力なためか、防がれはしたものの、“闇”を突き破っていた。
そこへ、転移と同時に優輝が鉤爪のように付けた理力の針を突き出す。
事前に刺さっていた針に、針が追突。圧縮された理力が炸裂する。
「ッ、はっ!!」
「ふっ……!」
「ッ―――!?」
障壁が破られ、攻撃を迎撃しようとイリスは先手の一撃を放つ。
だが、そこにいたのは分身魔法によるダミー。
本体は、上空に転移すると同時に理力の砲撃を放っていた。
「遅い」
「ぐっ……!?」
ついに、イリスが吹き飛ばされた。
転移からの無意識の隙を突いた攻撃。その二連。
一撃目はギリギリで回避したが、二撃目は躱せなかったようだ。
「……決まりね」
「えっ?」
それを見て、優奈が呟く。
「今の優輝は、神としての力に加えて導王流の極致を使っているわ。さっき言った無意識の隙を意図して突けるのなら、イリスに勝ち目はないわ」
「じゃあ、倒せるって事?」
「……そうね、あのイリスなら倒せるわね」
司の問いに、優奈は答える。
そして、その回答の答え合わせをするかのように、戦況が変わった。
「ぁ、ぐっ……!?」
「シッ!!」
攻撃の出が見えない程自然なカウンターを繰り出す導王流の極致、“極導神域”。
それを、優輝は攻撃に応用していた。
実際にイリスの反撃をカウンターで返しつつ、創造魔法で自分に攻撃する事で、“攻撃の勢いを利用したカウンター”を自分から起こしていた。
さらに無意識の隙を合間合間に突く事で、決してイリスに対処されないように立ち回り、一方的に攻撃を加え続けていたのだ。
「……俺達が束になっても勝てなかった相手に……」
「……本来なら、今の優輝でもあそこまで圧倒出来ないわ。良くて互角……かしら?それなのに圧倒出来るのは……」
「さっきのもう一人のイリス、だね?」
「ええ」
帝の呟きに優奈が答え、司がその言葉を先取りする。
そう。今優輝がイリスを圧倒出来ているのは、もう一人のイリスのおかげだ。
あの時、イリスは世界中の“可能性”を拓いた。
同時に、イリスによる“闇”の侵蝕を相殺したのだ。
結果、動きや力を阻害される事なく、優輝は立ち回れていた。
「今なら、私や帝、それと祈梨辺りでも物理的になら勝てるわ」
「そのようですね。力の衰えていた世界の“領域”も元に戻っています。転移も阻害されなくなっているようですし、いくらでもやりようはあります」
祈梨も同感だったのか、優奈の言葉に付け足す。
「ぅ、ううん……」
すると、その時なのはが目を覚ます。
奏と違い、体をそのまま使われていたので、今の今まで気絶していたのだ。
「なのは!」
「……あれ?お父さん……?」
目を覚ましたなのはは、目の前に両親がいる事に困惑する。
「どうしてここに……」
「母さんを追って来たんだ」
「お母さんが……?っ……!」
ズキリと頭が痛み、なのはは頭を押さえる。
直後、ルフィナの今まで見てきた記憶が流れ込んできた。
同時に、なぜ桃子がここに来たの理由と、それを理解するための知識も。
「大丈夫か?」
「……うん」
なのはは視線を優輝とイリスに向ける。
明らかに規格外同士の戦い。
それを、なのははちゃんと“見て”いた。
「か、ふっ……!?」
戦況が、さらに動く。
イリスの腹に優輝の拳がめり込み、勢いよく吹き飛んでいった。
「取った!?」
思わず緋雪がそう叫んだ瞬間、優輝は追撃を繰り出していた。
吹き飛ぶイリスの座標に、突如理力が炸裂したのだ。
それは、イリスも“闇”でやっていた“過程のない攻撃”だ。
予備動作も、対象に向かって飛ぶ事もない。
ただその場に出現する攻撃。故に回避は困難を極める。
「っづ……!」
「逃がさん!」
イリスが転移で逃げようとする。
しかし、転移先を知っていたかのように、優輝は攻撃を命中させた。
「どこへ行くか分からなくとも、“可能性”を絞ればお前から当たってくれる。今のお前なら、逃げる事も出来ないと思え」
「くっ……!」
理力の棘で四肢を固定されるイリス。
ご丁寧に、司の転移封じを模倣した理力の術式で転移も封じた。
これで、イリスは逃げる事が出来ない。
「貴方はまだ以前よりかなり弱いはず……なのに、なぜ私をこうも……!」
「圧倒出来るか、か?なに、単に導王流と相性がいいだけだ。……後は、“可能性”を掴み取っているのと、運が良いって所だ」
そう言いつつ、優輝は理力を集束させる。
確実にイリスを倒すため、普通は必要ないはずの“溜め”を行っているのだ。
「……同じ私の癖に、とことん邪魔を……!」
「おかげでお前の“領域”による影響がない。……となれば、直接戦闘において有利なのは僕の方だ。……こうなるのは、必然って訳だ!!」
―――“希望となれ、極光よ”
金色の極光が、イリスを呑み込む。
耐えるためにイリスも“闇”を放出したのだろう。
触手がうねるように、極光の中で“闇”が蠢く。
だが、それごと優輝の極光が消し去っていった。
「こう、なったら……!!」
「む……!」
イリスを中心に、理力が魔法陣となって広がった。
直後、イリスは極光に呑まれて消えていった。
「最後のは……」
極光が収まった時には、イリスは消えていた。
「倒した、の?」
「“領域”の気配がない。確実に消し去った」
緋雪の言葉に対する返答に、皆はふと気づく。
“領域”は消し去れるものではなかったはず、と。
「所詮、分霊だ。復活したばかりの僕でも圧倒出来る程度の、な」
「分、霊……?」
「……そういえば、祈梨もやっていたわね……。やはり、“神”とあるだけあって、分霊が可能……つまり……」
「イリスは、まだ健在よ」
倒したはずのイリスは、ただの分霊だったのだ。
椿とそれに続けられた優奈の言葉で、ほぼ全員が警戒を強める。
「この世界にはいない。おそらく、神界のどこかにいるんだろう」
「イリスも万が一負ける事を考えていた。だから分霊だけこの世界に来たのよ」
「……じゃあ、一旦は安心できるって事……?」
目下の最大脅威であったイリスは退けた。
残党の神も、ミエラとルフィナが援軍に行ったため、無事に勝てるだろう。
つまり、一時的に脅威は去った―――
「とは、言えないな」
―――訳ではない。
「え……?」
「最後に、イリスは置き土産をしていった。それの対処をして、ようやく一息がつけると見た方がいいだろう」
「置き土産……」
あの時、消し去る直前の魔法陣がそれなのだと、全員が確信する。
そして、その効果はすぐに現れた。
「理力の数……多数……!」
「おそらく、強制召集と言った所だろう。……この世界に来た神や“天使”が、この戦場に全て集まるようだ」
見れば、敵である神や“天使”の数がどんどん増えていた。
イリスを退けた事から若干安堵していた心に、その数は絶望したくなるほどだ。
「……狼狽えるな。確かにさらにあの数を相手にするのは厳しいだろう。……だけど、裏を返せばあの数を全て倒せば、同時に他世界も一時的に安全になる」
「そっか……“全世界”だもんね」
「ここさえ、乗り切れば……!」
今まで同時に襲われていた地球の他地域や、他の次元世界。
その全ての神達が来ている。
今こうしている間も、他世界は一時的に安全になった上に、今ここで全て倒しきれば、一旦休める事が確定している。
その事実に、全員が再度奮い立つ。
「踏ん張れ!ここが正念場だ!何としてでも勝ち取れ!!」
優輝の激励に、戦意の炎が灯る。
既に限界を超え、無茶をしている状態だ。体にもガタが来ている。
だが、その上で全力を発揮し、緋雪達は敵へと挑みかかった―――!
後書き
希望となれ、極光よ…“希望の光”のギリシャ語(適当)。“可能性”を利用し、確実に敵を滅する威力を引き出す極光。今回はただの攻撃だが、同名の技名で違う効果も引き出せる。
綺麗なイリス(仮称)は本来のイリスから病み要素を完全に抜いた感じの性格になっています。多分、作中で最も清楚な性格になっています。
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