神機楼戦記オクトメディウム
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第17話 白陽の騎士と創造の神:前編
こうして姫子と、新たなる戦士である大神士郎の手合わせは引き分けという形で終わるのであった。
だが、持てる力を出し切った二人には悔いというものは全くありはしなかったのである。
しかし、ここで姫子は言っておかないといけないのであった。初めて戦いを見せた士郎には少々酷な話なのであるが。
「ところで士郎君。ちょっとエグい話になるけど、手合わせ終わった直後で何だけど、これからすぐに『本番』に入る事になるけど……いいかな?」
「そういう話……なんだよな?」
その事は士郎の耳にもしっかりと伝わっていたのであった。そう、それは他でもなく。
「すぐに、この近くに『大邪衆』の者が攻めて来るって事だよね?」
それが事実なのであった。そして、その敵の先鋭と覚醒したばかりの状態で士郎は戦わねばならないのであった。
当然、そのような話に持っていく姫子には罪悪感というものが心にこびりつくかのような感覚であったのだ。
「ごめんね……戦えるようになったばかりだってのに、いきなり実戦投入する事になるなんてね」
そう言って姫子は頭を垂れる。天真爛漫な性格であるが、決して無神経ではない彼女の心が良く現れている所であった。
しかし、当の士郎はその首を横に振るのであった。
「いや、姫子さんが気にする事はないよ。これはこの世の存亡を賭けた真剣勝負なんだろう? だったら臆する事なく迎え撃つだけだよ」
そう言って士郎は威風堂々といった態度をして見せるのであった。
「そう言ってくれると、心強いよ。士郎君♪」
そんな健気な士郎に対して、姫子は精一杯はにかむのだった。すると士郎はまたも頬を赤らめて言う。
「お、お安いご用ですよ、姫子さん♪」
敵と戦う姿勢は男らしくとも、好いた異性に対しては少々不甲斐ない所を見せてしまうのが彼のようであったのだった。
「士郎……これは青春ですね……」
「そういう大層なものですか……?」
うんうんと頷きながら感想を漏らす士郎の実兄たる和希に、それに対して斜めから見る幸人が傍らから見ているのであった。
◇ ◇ ◇
そして、手合わせの終わった姫子は士郎と共に、そのまま大神家に滞在する事になったのである。
勿論、これは手合わせで今回の彼女の役割が終わる事はなく、これから敵の襲撃に備えなければならないからであるのだった。
だが、その敵襲の場所を彼らはピンポイントで分かってはいなかったのである。
泉美の立てた作戦は、彼らの住む町を敵がより離れた場所を狙うだろうから、こちらもそれに合わせるというものであったからだ。
故に、さすがの泉美でも二手に分かれた敵が具体的にそれぞれどこどこを狙うかなどというのは予想する事が出来ないのであった。
だから、今回の作戦は敵が動かないとこちらも動けないという受動的かつ大雑把なものであるのだった。
だが、作戦を立てるのと立てないのとでは動くには大きな違いというものが出るだろう。こうして『千影・泉美班』と、『姫子・士郎班』の二手に分かれて迎撃出来るのも泉美の頭の切れが故に他ならなかったのである。
そんな泉美に感謝と、向こうは上手くやっているかという姫子であった。この間にも千影と泉美が敵襲の前に如何わしい行為を行っているとも知らずに。
ともあれ、こちらはこちらで動くだけだろう。士郎が三神器の力を携えたばかりというのが不安要素であるが、彼はこの日の為に日々鍛錬を欠かす事はなかった訳だし、先の手合わせで彼の実力は重々証明されている事からも問題はないだろう。
そのように姫子が思っていると、すぐに事態は起こるのであった。
まず巻き起こった地響き。そして、それが起こった先を見れば巨大な人型の姿があるのであった。
それを見ながら士郎は言う。
「あれが……敵の神機楼という事だね?」
「そういう事。話が早くて助かるよ♪」
事態を飲み込む適応力の優れた士郎に感心しながら、姫子も出撃の準備をするのであった。
しかし、彼女は既に大神家に来てからずっと巫女装束に身を包んでいたので、ほとんど準備万端な状態であるのだった。そして、姫子が終始その姿だったのも、純情無垢な一人の少年の恋心を加速させていた事に姫子は余り意識していなかったのだ。罪な女である。
「先に行ってるよ、士郎君! 頼むよ、ヤサカニノマガタマ!」
言うと姫子は自身の神機楼の召喚から搭乗までの一連の流れを実に滞りなくこなしていったのであった。さすがは大邪との戦いを数回こなした者の手際という奴だろう。
それに負けてはいられないと、士郎も後に続くべく手順を踏んでいく。
まずは、神機楼を扱う為に相応しい『戦闘服』に身を包まねばならないだろう。その為に士郎は懐に差した刀を抜き、それを天に掲げるのであった。
すると、士郎は目映い光に包まれ、気付けば例の如くコスチュームチェンジしているという状態なのだった。
しかし、それは二人の月の巫女とは少々様相が違うのであった。
見ると、彼が纏っていたのは、真っ白な外套であるのであった。そして、その下に着たスーツもまた白一色であったのだ。
そう、これこそが……。
「これが……俺?」
「そうです士郎。それがあなたの力である『白陽の騎士』としての姿ですよ」
驚く士郎に対して、そう和希は説明したのであった。
そして、士郎の気持ちはまだ驚きは引かないものの、自身に備わった力は沸々と感じる所であるのだった。
何故だか、彼には分かるのであった。この姿でいると、自身に力が溶け込むように入ってくるという事が。
故に、彼には迷いは無かったのであった。そして、それは次にすべき行動が何であるかも自然と体が教えてくれるのだ。
「出でよ、剣神アメノムラクモ!」
そう宣言すると、彼の眼前にも巫女達の時と同じように鋼の巨躯たる神機楼が出現するに至ったのであった。
その姿は、シャープな創りに白が基調という幻想的な産物であるのであった。だが、先に出撃した姫子にはそのような説明よりも、もっとズバッと分かりやすくする言い回しというものがあるのであった。
「あ、まるで『フリーダム・ガンボーイ』だね♪」
「正式名称で言ってもダメだ~!」
思わず士郎は頭を抱えるのであった。日の出の名を冠する会社に目を付けられたら堪ったものではないと、彼も別次元な事を考えてしまうのだった。
しかし、そんなやるせないスタートとなったものの、ここで出撃に支障が出てはどうしようもないだろう。故に彼は姫子達と同じように光となって剣神の胸部へと飛び込んでいったのである。
そして、とうとう彼はそのコックピットないへと足を踏み入れた訳であるが、勿論初めての経験である。なので、当然彼には驚くべき光景だったのである。
辺り一面が真っ暗闇で、その中にポツンと土俵のような物が存在するそれは、とてもこの世の産物とは思えない代物なのだから。
「……姫子さん、これは?」
「うん、やっぱり最初だと驚くよね。神機楼の内部ってのは?」
そう言って姫子は戸惑う士郎を宥めるよう、諭すように優しく言葉を掛けるのであった。
「姫子さん……」
そんな彼女の、初めての出陣となる士郎への配慮ある対応に、彼は嬉しくなるのであったが。
「でも、要は気の持ちようだよ。某魔神を駆る英雄の子の場合だって、暗闇の中に龍を模したような操縦管を握っているって奇っ怪な経験をしてるんだから♪」
「……またそういう話する……」
別次元の話題へと転じる事も忘れなかった姫子に、士郎は閉口するのであった。
そんなしょうもないやり取りを暫ししていた二人であったが、ここで漸く意識を『敵』へと向ける。
そこにいたのは、三分間しか地球で戦えないヒーローが相手にするような巨大怪獣然とした様相の存在であったのだ。それを見て士郎は呟く。
「……これが、敵の神機楼?」
「襲撃して来たんだから、多分そうだと思うよ」
「でも、士郎君が首を傾げるのももっともだよ」と姫子は付け加えていうのであった。
何せ、今まで敵が繰り出してきた神機楼と、今暴れ回っている怪獣のイメージは大分掛け離れているからなのだ。
確かに、猫の妖怪のたまの駆る神機楼は人型ではなく四足歩行の獣型であるというケースは存在した。
だが、それでもその機体はれっきとした『機械』で造られた事が分かる代物であったのだ。
しかし、今目の前にいる『怪獣』はそうは思えなかったのであった。
それは、生身の生き物そのものであるのであった。機械特有の繋ぎ目は存在せずに、その四肢は一つの繋がったものとなっていたのだから。
それに違和感を感じつつも、二人は改めて戦う姿勢を見せたのであった。──何故なら、この怪獣が今しがた街を襲っている事に変わりはないからである。
「士郎君。準備はいい?」
「はい、それとここは俺にやらせて下さい」
呼び掛ける姫子に対して、士郎はそう懇願するのであった。
彼は最初の頃だからと奥手に出るつもりはなかったのである。すぐにでも実戦を行い、それに慣れようとする彼の意気込みがそこにはあったのだ。
それは無謀と捉えられるかも知れない振る舞いであろう。だが、これが士郎の焦りなどではない事は、彼と手合わせした姫子には分かる所であるのだった。
──純粋に自分の力量を推し量りたい。それが士郎の望む所だと理解した姫子は、それに承諾して彼に言葉を投げ掛けるのであった。
「うん、ここは士郎君に任せたよ。あなたがピンチになったら加勢するけど、士郎君なら大丈夫だと思うよ♪」
「ありがとう、姫子さん!」
想い人に背を押される形となった士郎は、その後押しを噛み締めながらいよいよ敵の前まで剣神を駆りながら近付いていったのであった。
「そこまでだ!」
そう言って士郎は満を持して敵の眼前へと躍り出たのである。そして、改めて敵を見据える。
──見れば見る程異質である。これが、本当に大邪衆の駆る神機楼であるのか、と。
だが、こうして街を襲っている事は紛れもない事実なのだ。故に、士郎にはそれを阻止する以外の選択肢は存在はしなかったのであった。
「それじゃあ、行くぞ!」
その士郎の言葉に反応するかのように、怪獣は「キシャー」という奇声を上げ、その後自前の爪をその巨腕から繰り出してくるのであった。
それだけで、並大抵の物はなぎ倒されてしまいそうである。さすがは巨体を携えた怪獣といった所であろうか。
だが、士郎の目に映るそれは、全くを以って軽率な行為に他ならなかったのであった。
──攻撃が単調すぎる。これが本当に人の手で操縦されての動きだというのか。
そう思いながら士郎は軽々と敵の大振りの爪撃を避けながら、一気に敵の懐へと潜り込んだのであった。
「そこっ!」
そして、気合の入った掛け声と共に彼は剣神に持たせていた刀を振り抜いたのである。これも姫子と手合わせした時に見せた『居合い』の要領であろう。
その一閃により、怪獣はその腹部を一気に斬られてしまったのであった。その部分への一撃は例え機械である神機楼であっても致命傷となるだろう。
故か、その怪獣は呻くような声をあげたかと思うと、その場で倒れ伏してしまうのであった。
これにて、勝負はあったようだ。
「…………」
初めての勝利を収めた士郎。しかし、彼の胸中にあるのは違和感ばかりなのだった。
まず、生物然とした敵を切り裂いたのに、そこから感じる生き物を傷つけたという罪悪感・不快感が沸かないのであった。
なので、彼は思わずこう呟く。
「……何かおかしいね?」
その士郎の意見には、姫子も同意する所であった。
「うん、士郎君の読みは正しいよ」
「やっぱり」
そう言う姫子を目の当たりにしながら、士郎は自分の感性が狂ってはいない事を再確認するのであった。
だが、姫子はそんな士郎の更に上を行く事を言い始めたのである。
「何たって、今の子には大邪衆の人は搭乗してはいなかったからね」
「えっ!?」
その思いも掛けない言葉に、士郎は度肝を抜かれてしまうのであった。今、姫子は何と言ったのだろうかと。
「姫子さん、何でそんな事分かるの?」
当然の疑問であろう。まるで『見た』かのように姫子はそう言ってのけたのであるから。
そう、それはつまり……。
「実際に『見た』からね。神機楼同士だと相手のコックピット内を見る事が出来るんだけど……この子にには『それが出来なかった』からね……」
「神機楼にそんな機能が……」
「士郎君は初めてだから驚くのも無理はないよね。でも、これから必要になってくるだろうから、覚えておいて損はないよ」
「ありがとう、姫子さん」
その先輩からのアドバイスを快く受け取った士郎。だが、そうなると当然の疑問が沸いて出るのである。
「それじゃあ……『敵の本体』は一体どこに?」
「それはね……って、そこ!」
士郎と言葉を交わしていた姫子であったが、突如として声を荒げると、あらぬ方向へと弾神の持つ銃から光の弾丸を発射したのであった。
すると、その銃撃によって何者かが射抜かれたのであった。
それは、人間をそのままビル郡程のサイズへと引き伸ばしたような歪な存在である、謂わば『巨人』とでも言うべき代物であった。
それも、今の姫子の一撃で頭部を撃ち抜かれてしまっていたのであった。そして、彼は倒れるが、それも生物のそれとは大きく異なっていたのである。
「ふう……危うく今の子に『進撃』される所だったね……」
「また、別次元な事を……」
そう二人が不毛なやり取りをしていると、そこに姫子や士郎とは違う、第三者の声が聞こえてきたのだ。
「へえ、今の奇襲を見破ったんだ……?」
そんな言葉を発するのは他でもないだろう、いよいよ大邪衆の幹部が一人この場に現れたという事なのであった。
そんな出方をしてきた敵に対して、姫子は疑問に感じながら問う。
「ここで本命が登場ってのは悪手じゃない? このまま本体が出ずに今まで通り『偽者』をけしかけ続ければ良かったと思うけどね?」
そう挑発的に言う姫子であったが、どうやら敵はその口車には乗らないようであった。
「それはもう、あなたには通用しない……そうでしょう? 蒼月の巫女さん?」
「そういう事だね」
そう、姫子は既に敵の出方というものを読んでいる状態なのだ。そんな彼女に偽者による攻撃を仕掛け続けてもジリ貧になるだけというものであった。
つまり、敵は自らが姿を現すという選択肢しか残されてはいなかったのである。
それは、敵が追い詰められたと取っていい事であろう。そのような状況であるにも関わらずに、落ち着いた様子で敵は現れるのであった。
その姿は黒が基調で特徴的な帽子という、このイメージが強く広まった『学者』の姿……それを鋼の巨体で再現した様なものなのであった。
その神機楼の名前を含めた情報を、敵の口から語られる。
「この子の名前は『ヤゴコロノトウロ』。そして、私は大邪衆六の首の……」
「『春日レーコ』先生ですよね?」
だが、その説明の最後を補足と言わんばかりに敵に言われてしまうのであった。当然大邪衆──レーコは出鼻を挫かれる形となったのである。
「どうしてそれを……」
当然その事実にレーコは訝るのであった。しかし、その情報源は今では大切な友達にして仲間の一人から聞いたものなので、おいそれと口を割る義理は姫子にはなかったのである。
なので、ここはおどけてしらばっくれておく事にしたのであった。
「それはね──『巨乳の勘』とでも言っておけばいいかな?」
暫し、時間が止まり。そして再び流れ出した。
「良くはないよね!? その理屈だと、貧乳の人は鈍感みたいな言い回しだから! 確かにそのでっかいのは敏感そうだけどね!?」
そうレーコは色々と反論したくなる気持ちを抑える事が出来なかったのだ。彼女もまた、どちらかというと『持たざる者』なので、彼女らの為に代表して怒りの矛先を目の前の持っている者へとぶつけなければならなかったのであった。
そのように、半ば冗談で言ったのに、割と相手は本気75%位で怒ってしまったので、これは失言だったと姫子は思い直す所である。
「今のごめんね。本気にしないでね」
なので、取り敢えず姫子は謝っておく事にしたのであった。相手がいくら破壊行為をする邪神の遣いとはいえ、こういう作法は人として重要なのだから。
「まあ、悪気があった訳じゃないしいいわ……ってそうじゃない!」
思わず敵も納得しそうになるが、本題はそこではないとレーコはかぶりを振るのであった。
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