【完結】RE: ハイスクール D×D +夜天の書(TS転生オリ主最強、アンチもあるよ?)
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第5章 神話世界のアルマゲドン
第25話 堕天使にラブソングを
冥界、堕天使領にて。
「くっ、ブリューナク !」
『Brionac』
射撃魔法をばら撒きながら後退する。
天界を破壊したあと、一度、アジトに戻った。
そこで、休息をとった翌日に、今度は冥界に攻め込んだ。
「主っ!」
「後ろからか!すまない、ザフィーラ」
背後から放たれた光の槍を避けきれず、ザフィーラに防御してもらう。
――――たった、一日。
天界侵攻からたった一日で、堕天使陣営は、万全の防衛体制を整えていた。
予測をはるかに超えたスピードで迎撃態勢を整えられてしまった。
当初は、天界と同じく、奇襲から大量の広域せん滅魔法の連打で耕すつもりだった。
だが、実際は――――
「はははっ、感謝するぞ、八神はやてッ!これが……これこそが戦争というものだ!!
お前の忠告のおかげで、戦力も十分に準備できた。とくと味わうがいい」
「そりゃどうも。約束通り戦争を起こしてやった甲斐があるというものだよ」
――――攻めあぐねていた。
大地も空も、見渡す限り堕天使や魔獣で埋まっている。
数千、いや、数万かもしれない。
まとめて吹き飛ばそうにも、波状攻撃を仕掛けられ、詠唱する暇がなかった。
甘く見たつもりはない。
事実、ユニゾンしたボクは、オーフィスやグレートレッドといった規格外を除けば、この世界では最強だろう。
ヴォルケンリッターたちも、強化したことで、ランキングトップ10クラスと張り合えるまでになった。
単純な戦力で、八神一家を超える勢力はない――はずだった。
「覚えておけ、戦争は数だ!優秀な指揮官、卓越した戦術と結びついたとき、数は圧倒的な暴力となりえる」
「勉強になるね。ったく、高い授業料を払う羽目になったものだ」
質で劣るならば、数で勝ればいい。
言うのは簡単だが、ただの寄せ集めなら、まとめて撃破されるだけだ。
集めた戦力を、効率よく指揮することで、最大の効果を上げる。
堕天使たちの波状攻撃を受けながら、敵の優秀さに舌を巻いた。
数多の戦場を潜り抜けた経験がなせる技だろう。
「お前は確かに強い――強いが、高威力の魔法の呪文を詠唱するとき、立ち止まる必要がある。ならば、そこをつけばいい」
「ボクの弱点を見抜いていたか。大技が打てないとキツイものがあるね」
ボクには戦場の経験などない。
そして、この場の指揮官はボク。
嫌らしいほど効果的なタイミングで次々と攻撃をしてくる敵に、翻弄されっぱなしだった。
ヴォルケンリッターたちも、ボクのフォローに回され、ますます相手の思うつぼになってしまう。
「この程度で驚かれては困るな。戦争の素晴らしさを余すことなく伝えてやろう!」
「お前を逃したのは、ボクの最大のミスだったのかもね、『コカビエル』」
そう、コカビエルが前線で指揮を取っている。
駒王協定前に戦争を起こそうとした罪で、『地獄の最下層』にて永久冷凍の刑が執行されたにもかかわらず。
こうして前線に復帰していた。
堕天使陣営の危機に際して、アザゼルが封印を解いたのだろう。
アザゼルが総大将として後方指揮に専念し、コカビエルが全線指揮官として働く。
堕天使の群れがまるで一つの生き物のようにボクたちに襲い掛かってきた。
一体一体は大した力がなくとも、数千、数万ともなれば、強烈な圧力となる。
コカビエルの行動が呼び水となり、駒王協定が結ばれ。
駒王協定が結ばれたせいで、禍の団によってテロが起きた。
コカビエルが戦争を求めたせいで和平が結ばれ、和平が戦争を呼び込んだ。
結局、紆余曲折を経て、ヤツの望み通りの展開になったわけである。
戦争狂を自称するだけあって、コカビエルの手腕は見事なものだった。
堕天使たちがたった一日で戦闘準備が整えられたのも、コカビエルのせいだ。
ボクが戦争を開始することを知っていたヤツは、来る戦争に向けて密かに準備していたのだから。
そして、テロリストの一員となったボクとヤツがいまこうして戦っている。
原作ではチョイ役だったからと、侮りすぎたのかもしれない。
このまま時間をかけるのは、まずい。
相手は、明らかに時間稼ぎに徹している。
ここは、堕天使領。
増援はいくらでも出せるし、同盟勢力からの応援も期待できる。
そしてなにより――――
「――ヴァーリを待っているのだろう?」
「ほう?気づいたか。残念ながら俺たちではお前を殺せそうにないのでな。口惜しいが止めはヤツに譲ってやるさ」
数で押されている現状に、高い質を誇るヴァーリチームが加わるのは、面白くない。
いまヴァーリチームは、アース神族たちに戦いを挑んでいるはずだ。
ヴァーリたちをけしかけたのは、曹操。
ボクは、彼と、彼が率いる英雄派とグルになって、ヴァーリチームを戦場から遠ざけた。
曹操は油断ならない強敵だが、『化け物を討伐する』という目的は一致していた。
つまり、協力の余地が十分あり、今回の騒ぎにもお誘いしたのである。
「一つ言っておくけど、悪魔からの援軍は期待しない方がいいよ」
「ほう?仇敵と組むのもまた一興だと思っていたのだがな。何をした?」
「なあに。悪魔領もいま大変なことになっているってだけさ。テロリストはボクたちだけじゃないからね」
曹操率いる英雄派は、原作のように、悪魔領に侵攻している。
しかも、どうやったのか知らないが、旧魔王派も呼応して蜂起している。
いまごろ、悪魔領はさぞ賑わっていることだろう。
とはいえ、このままではヴァーリ・ルシファーたちが到着してしまう。
そうなったらマズイ――――
――――なあんてね。
「さて、戦闘にもだいぶ慣れてきた。いい訓練になった、感謝するよ。コカビエル」
「なに?お前は何を言って―――――」
『――――響け終焉の笛、ラグナロク・ファランクスシフト』
――『Ragnarok Phalanx Shift』
コカビエルの疑問を遮って、ボクの身体の内側から、リインフォースの声が上がる。
呪文の詠唱を終えた彼女の声が、トリガーワードを紡ぐ。
数千を超える極大の砲撃魔法が、瞬時に展開、発射された。
土煙が舞い上がり、視界がふさがる。
粉じんが晴れると、見渡す限りの廃墟が広がっていた。
つい先ほどまで栄えていた大都市は、灰燼と化した。
総勢数千あるいは万を超えていたであろう堕天使たちも、ほとんどが消し飛んだ。
東京と比べてもそん色ないほどの街に残されたのは、瓦礫ばかり。
「八神はやて。呪文の詠唱はフェイクだったのか!?」
驚愕した様子のコカビエルが、問いかけてくる。
見たところ、生き残ったのは、とっさの防御が間に合った実力者のみのようだ。
アザゼル、コカビエルに最上級堕天使たちが数十。
これで、形勢は一気に逆転したことになる。
「いや、呪文の詠唱は必要だし、足を止める必要があるのも合っている」
「だったら、なぜ……?」
「ボクはいまユニゾン状態、つまりリインフォースと合体している。
けれども、リインフォースの意識もしっかりと残っているんだ。
つまり、ボクとリインフォースが別々に詠唱することもできるわけさ。
わざわざ足を止めて呑気に会話をしていたのは、リインフォースの詠唱を待っていたからなのだよ」
得意気に解説してやる。
さきほどまで膠着状態だったのは、ボクが本気を出していなかったから。
本気を出さない理由――それは、経験不足を補うためだ。
歴戦の堕天使たちとの戦いは、よい経験になった。
――――実践に勝る訓練はない。
とは、今回の茶番を提言したシグナムの言葉である。
堕天使陣営の迎撃態勢の見事さを見抜き、よい実戦経験になるはずだ、と進言してきた。
これが、今回の茶番のすべてである。
「さて、こうやって、話している間にも、リインフォースが詠唱していることを忘れてもらっては困るな?」
『――――遠き地にて、闇に沈め、デアボリック・エミッション』
――『Diabolic Emission』
ボクの言葉に反応して、攻撃を仕掛けようとしてきたコカビエルを中心として黒い球体が広がる。
闇が晴れた後には、何も残っていなかった。
◇
ここは、冥界。
堕天使領『だった』。
ボクたちは、今なお抵抗を続ける残党狩りを続けている。
コカビエルを倒してからは、ほぼ作業と化していた。
そして、ついに本命の順番が来ようとしている。
――――視界の先にいる本命を真っ直ぐ見やりながら、言い放つ。
「人の世に巣食う害虫どもめっ!」
シュベルトクロイツを一閃し、堕天使を両断する。
苦悶の表情を浮かべながら死にゆく堕天使。
気にせず、背後に振り返りざま突き刺す。
――――迫りつつある仇敵に向けて、絶叫する。
「苦しめ!!絶望しろッ!!!」
背後からの奇襲のつもりだったのだろう。
驚愕の表情のまま死にゆく堕天使。
遠方で、大勢の堕天使が、隊列を組み、光の槍を放つのがちらりと見える。
――――目の前に来た怨敵に宣言する。
「己の所業を悔いながら死んで往けっ!!!」」」」
『Claiomh Solais』
放たれた槍を無視して、砲撃を放つ。
直後、着弾するが、こちらは無傷。
向こうは、砲撃魔法を受けて全滅していた。
「はやて、こっちは片づけといたぜ」
離れた場所で、残党狩りをしていたヴィータ姉たちが、転移してきた。
「こちらも、雑魚の掃討が終了した――あとは、貴方だけだ」
そう、後に残すは、この救い難い物語の元凶の一人。
憎悪を込めた絶叫を聞かせていた相手。
すべての元凶といっていい堕天使に向けて高々と宣言する。
コイツが、はぐれ悪魔をけしかけさえしなければ、すべての悲劇は起こらなかった。
ミカエルやサーゼクスは、間接的な仇だが、コイツだけは違う。
苦渋の表情を作っているアザゼルを睨み付ける。
「さて、逃げ場はないよ、アザゼル総督」
笑みを浮かべて語り掛ける。
これから胸糞悪い復讐劇を繰り広げるのだ。
天界に続けて冥界の堕天使領を壊滅させたことで、腹も座った。
ボクは戦闘狂ではないが、せいぜい楽しんでやろうじゃないか。
どうせ避けられない戦いならば、楽しむ努力も必要というものだ。
◆
駒王協定の締結前。
公園のベンチに座る主とともにザフィーラはいた。
狼状態になっているので、対外的には「犬の散歩」と称している。
念話でとりとめのない話をしていると――――
「――――よう、八神はやてだな?」
胡散臭い笑みを浮かべた見知らぬ男性が、眼前に立ち、じっとこちらを観察していた。
黒髪のワルな風貌の男性である。
年齢は、二十代程だろうか。
外人で浴衣を着ている所為か、酷く浮いている。
敵の可能性を考えザフィーラは、密かに警戒する。
馴れ馴れしく話しかけてくる男性に不信感を抱きつつ、主は、肯定の返事をした。
「やっぱりか。いやあ、面影があるからな、母親そっくりだぜ」
思いがけない言葉に瞠目する。
ちらりと主を見やると、彼女も、驚きに目を開いていた。
まあ、最初からコイツの正体は想像がついていたが。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は、アザゼル。堕天使の総督をやっている。
お前の両親とも知り合いだった」
その瞬間、殺気が辺り一面を覆いつくす。
主の勘気を悟ったザフィーラも、臨戦態勢をとった。
「おっと、そんなに殺気立たないでくれ」
と、たしなめた後。
「すまなかった」
頭を下げてきた。
急な展開にまたしても瞠目する。
はやての方も、何をいっていいかわからないようだ。
「いきなり、謝罪されても、わからないよな。いまから、理由を説明するよ」
そういって、『理由』とやらを説明してくる。
曰く、天使陣営を追われたはやての両親をかくまっていた。
曰く、自分の力不足で、堕天使陣営から出奔させてしまった。
曰く、彼らが亡くなり、残念だ。
などなど。
「―――というわけなんだ、本当にすまなかった」
真剣な表情で、ひとしきり説明し終わると、改めて頭を下げた。
アザゼルの言う『理由』とやらは、はやてから聞いた話と、大筋は同じだ。
彼は、両親を亡くした少女に心底同情しているようだった。
黙って聞く体勢をとったはやてを見て、彼はなおも続ける。
嘘をつくときには、事実の中に嘘を混ぜればいいとよく言う。
アザゼルの説明は、まさにその通りだった。
彼の話すはやての両親の姿は、彼女から伝え聞く話と合致していた。
はやての両親が、市井に混じることを希望していた話もあったが。
強硬派を抑えるために許可することができず、すまないと謝ってきた。
何も知らなければ、その言葉を鵜呑みにしていたかもしれない。
それほどまでに、迫真の演技だった。
両親の日記、コカビエルからの話を知らなければ、本当に信じていたかもしれない。
真相を話したことを、コカビエルはアザゼルに伝えていなかったのだろう。
だからこそ、『不幸にもはぐれ悪魔に両親を殺害された少女』に対して、アザゼルは、同情を装っているのだ。
「……そう。両親の話を聞けてよかったよ―――ああ、夕飯の支度があるので、ここらで失礼させてもらうよ」
のどから絞り出すように声を出すと、ザフィーラを連れてはやては、公園を後にした。
無表情の主を見やり、ザフィーラは心配の声をかける。
(主、大丈夫ですか)
(……ザフィーラ、ああ、すまない。自分を抑えるのに必死でね)
はぐれ悪魔をけしかけたのは、アザゼルで間違いない。
コカビエルの証言を基に、サーチャーと転移魔法を駆使して堕天使領に忍び込み、裏付けをとっていた。
それにもかかわらず、悪びれもせず、さも同情しています、という態度をとられたのだ。
主の心境は推して知るべし。決して穏やかではあるまい。
――――あやうく、殺すところだった
帰り際に念話で放った一言が、その心中を物語っていた。
◇
アザゼルとの戦闘は、一方的な結果に終わった。
すぐに殺せるところをじわじわとなぶり殺しにする。
既に、四肢は切断され、身体はボロボロになっている。
ありったけの憎悪を込めて、少しずつ壊していった。
だが、それももう終わり。
「は、ははっ。お前の両親を殺したのがいけなかったのか。
それとも、両親ごとお前を殺せなかったのがいけなかったのか。
チクショウ。人生最大のミスだぜ」
「何か言い残すことはあるかい?」
「……ねえよ。言葉を託すべき相手は、お前が皆殺しにしちまった」
「あっそう。ばいばい」
軽妙に答えて、デバイスを振るう。
狙い違わず首を跳ね飛ばした。
古の時代より恐れられていた堕天使総督のあっけない最期だった。
◇
「アザゼルッ!!」
堕天使総督殿の首を跳ねたのと入れ違うように。
聞き知った男の声が背後からする。
この声は――――
「――――やあ、ヴァーリ。手伝いに来てくれたのかい?」
「はやて、お前は何をしているッ!」
声の主ヴァーリ・ルシファーは、ひどくお冠らしい。
彼も含めて、ヴァーリチームが勢ぞろいしている。
怒りに震える視線は、首を跳ねられたアザゼルの死体に向いているようだ。
見ればわかることを、なぜわざわざ尋ねるのだろう。
「何って、害虫駆除だよ」
言った瞬間、怒気が一層膨れ上がる。
まあ、怒って当然か。
だが、ヴァーリ・ルシファーが反駁しようとしたところで、水を差す。
「――――裏切ったくせに、いまさら肩入れするのかい?」
「っく……」
怒りに任せて声を出す寸前に、なんとか飲み込んだようだ。
彼自身、自分の行動が矛盾していることに気づいているのだろう。
育て親を裏切りテロリストの側に立ったのだ。
裏切ったばかりの彼では、ボクを非難しづらい。
「……そうだ。そうだな。だが、禍の団の――オーフィスの目的は、グレートレッドを倒すことだ!お前のような殺戮が目的ではないッ!!」
「うん、まあ、その通りだ。でも、オーフィスの了承は得ているんだよね。『蛇』を貰った取引は、その一環なのさ」
驚愕の表情を浮かべるヴァーリ・ルシファーを見て、してやったりと思う。
オーフィスを味方につけている。
この意味は、とてつもなく大きい。
なにせ、世界の頂点に立つ存在を味方にしているのだから。
まあ、実際は、不干渉に近いのだが、そのへんはごまかしておく。
「ボクと一緒に来ないか、ヴァーリ・ルシファー。これから、全神話勢力を抹殺する予定なんだ。お前の望む闘争を用意しよう」
とりあえず、勧誘してみる。
強者との戦いを追い求める彼ならば、もしかしたら、とも思ったが。
「断る。俺が戦いたい相手は目の前にいるしな」
「そうか、残念」
予想通りの結果、口で言うほど残念とは思わない。
初めから敵対することは、織り込み済み。
すべては、予定調和に過ぎない。
「では、前の戦いの続きと行こうか。一騎打ちはどうだい?ああ、いやなら、全員でも構わないが」
「……いいだろう。その挑発に乗ってやる。お前は俺自身の手で引導を渡してやろう」
怒りを押し殺すような低い声で、こちらの提案に乗ってくる。
これで、ボク(ユニゾン状態)と、ヴァーリ・ルシファーの一騎打ちが実現した。
残りのヴァーリチームについては、家族に任せることにする。
「それは、光栄だね。君の仲間は、ボクの家族が相手をしよう――――彼女たちは強いよ?」
「俺の仲間を見くびるな。それに、お前を倒せば済む話だ」
「くくっ、違いない」
既に禁手化し臨戦状態にあるヴァーリ・ルシファーと、中空で対面する。
お互い、しばしにらみ合う。
その刹那――
「はあっ!」
真っ直ぐこちらに突っ込んできた。
突進を予想していたこちらは、射撃魔法をばら撒きながら後退する。
が、威力を半減させながら、突破される。
「ぐぅっ」
『Panzerschild』
シールドを張りつつ、シュベルトクロイツで何とか受け止めるものの、吹き飛ばされ体勢が崩れる。
そこへ追撃を仕掛けられそうになるが、
『刃以もて、血に染めよ。穿うがて、ブラッディダガー』
――『Blutiger Dolch』
ユニゾン状態のリインフォースが、援護射撃をしてくれた。
ボクとリインフォースの二人が、同時に魔法を行使できるのは、ユニゾンの強みといっていい。
彼女に感謝しつつ、次の手を考える。
数十もの血の色をした短剣が、高速で放たれた。
ヴァーリ・ルシファーは、なおも強行突破を試みる。
が、着弾時の炸裂に巻き込まれて、立ちすくんでしまう。
そのつかの間に、射撃魔法を連射しながら距離を稼く。
十分な距離を稼いだところで、詠唱に入る。
「――――響け終焉の笛、ラグナロク!」
『Ragnarok 』
『彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!』
――『Mistilteinn』
ボクの大規模直射型砲撃魔法と、リインフォースの石化魔法が放たれる。
ブラッディダガーによる硬直から脱したヴァーリは、半減の力で、強引に距離を詰めようとするも。
『その魔法に触れるな!』
「アルビオン?分かった」
石化魔法の危険性を見抜いたアルビオン――ドライグと対をなす白龍皇の意思である――により、間一髪避ける。
半減させても、石化の効果は継続する。
もっとも、石化の効力も半減させられれば、ちょっとした時間稼ぎにしかならないだろうが。
「ミストルティンを避けたか。いい判断だ、ヴァーリ」
「やはり、お前との戦いは楽しいな。次は、どんな手を使うつもりだ?」
「喜びたまえ、次が最後だ。次が、お前の最期になるだろう」
「ほう、それは嬉しい!早く見せてくれよ、八神はやて」
ボクの自信あり気な宣言に、喜びの声をあげるヴァーリ・ルシファー。
どこまでいっても戦闘狂だな、こいつは。
うちのシグナムと気が合うんじゃないか。
まあ、次がヤツの最期だというのは、本当だ。
だって、いま会話している間にも――――
「主はやて、ヴァーリチームを排除しました」
「ご苦労、シグナム。それに、皆」
――――ヴァーリチームの掃討を終えたヴォルケンリッターが加勢に来たのだから
「さあ、残りはキミだけだ。こちらの人数が増えるが、あくまでこれは一騎打ち。手出しはさせないさ」
「それはありがたいな。お前とは一対一で勝負をつけたい。とはいえ、仲間たちの仇――打たせてもらうぞッ!」
仲間が死に絶え、人数的に不利な状況にも関わらず、さらに闘志を燃やすヴァーリ・ルシファー。
一騎打ちは継続されるが、プレッシャーは半端ないはずだ。
いままではお互い様子見をしつつ、切り札を控えていた。
ならば、ここで切り札を使うつもりだろう。
そう考えて、ならば、こちらも切り札を使うことにする。
「我、目覚めるは──」
<消し飛ぶよっ!><消し飛ぶねっ!>
それは覇の呪文。一誠の時と同じ様に、ヴァーリの声と重なって歴代所有者の怨念混じりの声が響く。
「覇の理に全てを奪われし二天龍なり──」
<夢が終わる!><幻が始まる!>
「無限を妬み、夢幻を想う──」
<全部だっ!><そう、全てを捧げろっ!>
「我、白き龍の覇道を極め──」
「「「「「「「「「「汝を無垢の極限へと誘おう──ッ!」」」」」」」」」」
『Juggernaut Drive(ジャガノートドライブ)!!!!!!!!!』
白い鎧を変形させ、先ほどとは比べ物にならないほどの覇気を纏ったヴァーリ・ルシファーが現れる。
だがしかし、ヤツに好き勝手させるつもりは毛頭ない。
『覇龍』状態になるまでの時間を使い、こちらも呪文を詠唱していた。
「黄昏よりも暗き存在、血の流れよりも赤き存在、時間の流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん」
圧倒的な力の本流が集まる。
「我らが前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを!」
眼前には、ちょうどヴァーリ・ルシファーが、覇龍状態に至ったようだ。
だが、相手の好きにはさせない。こちらから先手を討たせてもらう。
「――――竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!」
『Drag Slave』
恐るべき破壊力を持った竜殺しの極大魔法が放たれる。
ヴァーリ・ルシファーの力と刹那の間、拮抗するも、押し切って彼を巻き込み――――
――――すべてが消し飛んだ
煙が晴れたその先には、不毛の大地が広がるのみ。
『歴代最強の白龍皇』と呼ばれたヴァーリ・ルシファーの呆気ない最期だった。
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