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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第36節「戦場にセレナーデを」

 
前書き
そろそろ毎日更新から、火水金土日の5日更新に切り替えるべきなのでは、と悩み始めた今日のこの頃。

今回はいよいよ原作第11話の終盤です。残りあと2話!
あっちもこっちも仲間割れしてます。おおマジか……辛いわ……。

聖詠のタイトルを地の文に仕込んだり、調の『PRACTICE MODE』の歌詞を見ながら書いた地の文があったり、中の人繋がりな選曲で仕込んだパロディもあるので、よければ探してみてください。

推奨BGMは『Edge Works of Goddess ZABABA』、『Next Destination』、それから鉄男社長のBGMでお楽しみください。 

 
先に出撃した純とクリスは、本部からの通信で翔と響が調、ツェルトの二人と共に出撃した事を知らされ驚いていた。

「翔と立花さんが、F.I.S.の装者達と一緒に?」
「ったく、あのバカ。想像の斜め上すぎんだろ……」

悪態をつきながらも、クリスはどこか納得したように笑っていた。

「了解です。直ちに合流します」
「ノイズを深追いしすぎたか……。純くん、戻ろうぜ」

二人が来た道を引き返そうとした、その時……大量の剣が降ってきた。

「「ッ!?」」

後ろに飛んで避ける二人。
着地と同時に純がシールドを大盾へと変形させ、降り注いだそれらを防いだ。

「どうやら誘い出されたみてぇだな……そろそろだと思ってたぜ」
「……」

見上げた小高い崖の上には、刀を手にした翼が立っていた。


ff

「待ってろマリィ……絶対に助けに行くからなッ!」
「でも、どこに向かってるんだ?」

一方、響と調、翔とツェルトはそれぞれのマシンの轍をフロンティアの大地に刻みながら、中央遺跡へと向かっていた。

「あそこに皆がッ!?」
「わからない。……だけど、そんな気がする……」
「気がするって──」

響が首を傾げた次の瞬間、いきなりターンしてブレーキをかける調。
同時にツェルトもバイクを止めた。

「──うわああッ!? ど、どうしたの?」
「あれは……ッ!」

調の見つめる先を見上げる一同。
そこに立っていたのは……マフラーを風になびかせ、悪魔の角つきフードを被った切歌だった。

「切歌ちゃんッ!」

「──Zeios(ゼイオス) igalima(イガリマ) raizen(ライゼン) tron(トロン)──」

次の瞬間、切歌は自らの胸の歌を口ずさむ。
“夜を引き裂く曙光の如く”と……。

イガリマのギアを纏い、切歌はその手に小鎌を握る。

「切ちゃん……ッ!」
「調ッ! ツェルトッ! どうしてもデスかッ!?」

鎌の柄を伸ばし、グルグルと回しながら大鎌へと変形させた切歌は、それを構える。あちらは既に臨戦態勢のようだ。

「ドクターのやり方では、何も残らないッ!」
「調の言う通りだッ! あの野郎、フロンティアを利用して人類の支配者になるつもりだぞッ! 世界を救うつもりなんて微塵もねぇんだッ!」
「ッ! それでも……ドクターのやり方でないと何も残せないデスッ! 間に合わないデスッ!」

言い合いを始める三人。響は慌てて割って入る。

「3人とも落ち着いてッ! 話し合おうよ!」
「「戦場で、何をバカなことをッ!!」」
「まあ、そうなるわな……」
「いつぞやの姉さんと雪音を思い出す……」

呆れるツェルトに、今のやり取りが何処か懐かしく感じてしまう翔。
埒が明かないと判断した調は、響と翔を交互に見る。

「あなたたちは先に行って……ツェルトと、それにあなたたちなら、きっとマリアを止められる──手を繋いでくれる」
「調ちゃん……ッ!」
「調……ッ!」
「わたしとギアを繋ぐLiNKERにも限りがある……だから行ってッ! ──……胸の歌を……信じなさい」

その一瞬、調の赤い瞳が金色に染まっていたように見えた。

翔と響の脳裏に“彼女”の最期がよぎる。
この言葉を知っているのは、あの時、あの場に居た彼女と自分達だけだ。

「…………うん……ッ!」
「…………わかったッ!」

進もうとする二人。そこへ、ツェルトがアタッシュケースを投げる。

「翔、持っていけッ!」
「これ……」
「俺のはエアキャリアから取ってくるッ! 生弓矢は十中八九、ウェルの野郎が持っているッ! 奴を探して奪い取れッ!」
「ああ、大事に使わせてもらうぜッ!」

アタッシュケースを受け取り、走り出す翔と響。

「調……切歌を頼む」
「うん……任せて。ツェルトはマリアをお願い」
「当たり前だ……ッ!」

本当は自分も切歌を説得したい。だが、今自分が最も駆けつけなくてはならないのはマリアの元だ。
調からマリアを任されたツェルトもまた、バイクを方向転換させると、翔達とは別の方向へと走りだす。

「させるもんかデスッ!」

先へ進もうとする翔と響に攻撃しようとする切歌。
だが、そこへ調のα式が飛ぶ。

「ダメ」
「調! なんであいつらを!? あいつらは調の嫌った偽善者じゃないデスか!」

飛来した丸鋸を、鎌を回して弾いた切歌は調に疑問を投げかける。

「でもあいつは……自分を偽って動いてるんじゃない……。動きたいことに動くあいつが、まぶしくて羨ましくて……少しだけ信じてみたい……ッ!」

調はヘッドギアのツインテールから、丸鋸付きのアームを展開しながらそう答えた。
その目に宿る強い意志に、切歌は納得せざるを得なかった。

「さいデスか……。でも、アタシだって引き下がれないんデス……ッ! アタシがアタシでいられるうちに、何かをカタチと残したいんデスッ!」
「切ちゃんでいられるうちに……?」

月を見上げながら叫ぶ切歌。
その胸にもまた、譲れない思いがある。

「調やマリア、ツェルトやマムの暮らす世界と──アタシがここに居たって証を残したいんデスッ!」
「それが理由?」
「これが理由デスッ!」

調のギアの足裏から、ローラーが展開される。
対する切歌の鎌も、刃が3つに分割された。

「フッ!」

〈切・呪リeッTぉ〉

「はあッ!」

〈γ式・卍火車〉

紅と翠、ぶつかり合う二つの刃。
二人の旋律が重なり合い、調べ歌が鳴り渡る。

「警告メロディー 死神を呼ぶ 絶望の夢Death13 レクイエムより鋭利なエレジー 恐怖へようこそ──」

回転ノコギリ付きのアームをを左右2つずつ、計4つ展開し、四方から切歌を追い込む調。

〈裏γ式・|滅多卍切〉

跳躍を繰り返し、調の懐に飛び込もうとする切歌。
だが、調の丸鋸がそれを許さず、立体的な動きで斬り合う二人。

「DNAを教育してく エラー混じりのリアリズム──」

調の攻撃を避け、後方へと飛び退く切歌。
左肩からもう一本、新たな手鎌を取り出すと、そちらも大鎌に変形させて構え直した。

「この胸に──」
「ぶつかる理由が──」
「「あるのならああああああああッ!!」」

互いが互いを思い合うからこそ、二人は握った刃を振り下ろす。

戦場に響くデュエットは、彼女達が大好きな相手へと向けるセレナーデ。
矛盾を抱えながら、それでも二人は手を緩めない。

己の存在を懸けて。或いは、初めて己の心を溶かしたものを伝えるために。
重ね合った手を離さないためにと、突き立つ牙となった純心をぶつけ合う。

「いますぐにjust saw now 痛む間もなく──」
「だからそんな、世界は──」
「「切り(伐り)刻んであげましょう──ッ!」」

ff

「はッ!」
「くう……ッ!」

翼の剣を、銃で受け止めるクリス。

間髪入れずに放たれた至近距離からの銃撃を、翼は剣で弾いて切り込む。

「はッ! やッ!」
「く……ッ! オラッ!」

振り下ろされ、薙ぎ払われる翼の剣を、後退しながらバク転して避けるクリス。

今度は左右交互に二丁銃撃。それを翼は後退しながらまたも剣で弾く。

「はあッ! ふッ! はあぁッ!」
「ふッ! このッ!」

弾丸を避けながら振るわれる剣。クリスもまた、後退しながらこれを躱し、銃撃を続ける。

残弾が尽きた瞬間、クリスは翼の剣をマガジンを交差させることで受け止める。

直後、バク転しながらマガジンを外して着地。

腰アーマーから飛び出した新しいマガジンが装着され、一瞬でリロードが完了する。

「へッ! あたしのリロードに隙はねぇッ!」
「ならば……はあああああッ!」

翼は両脚のブレードを展開して滑空、加速すると、クリスの銃撃を左右に躱しながら接近する。

クリスの周囲を一周して跳躍、頭上から刀を大きく振りかぶって斬りつける。

「せぇいッ!」
「そうはいくかよッ!」

クリスはその場を飛び退き、避けながら発砲する。

「はぁぁぁぁッ!」

翼の頭上をバク中しながらの発砲。
それを側転で避けた翼は、水たまりに着地し、刀を構え直す。

同じく着地したクリスもまた、翼に銃口を向けて睨み合う。

一進一退、両者の戦いは互角であった。

(あいつは何を考えてあたしらを裏切ったんだ? 考えがあるにしては、随分余裕のなさそうな顔してやがる……)

睨み合いながら、クリスは思案する。
翼が何を目的としているのか、それを知らなければ支えてやることもできないと分かっているからだ。

言葉を交わすより先に彼女の剣が振るわれるなら、クリスは翼の挙動からその真意を読み取ろうとしていた。

(……ん? あいつの首……)

そしてクリスは、翼の首に何やら不審なものが巻かれていることに気が付く。

(あんなもの……ギアのパーツにはなかったよな?)



一方、翼とクリスの戦いを双眼鏡で覗く何者かは、今か今かと機を伺っていた。

「ふ、ふふふへへ……ッ!」

言うまでもない、ウェルである。
肩を揺らし、狂気を顔いっぱいに広げた彼の右手にはソロモンの杖が握られている。

否、それだけではない。
ソロモンの杖を握る生身の右手には、ツェルトのModel-GEEDによく似たガントレットが装着されていた。

「見つけたぜ……ウェルッ!」
「おや、姿が見えないと思ったらそんな所に居ましたか」

名前を呼ばれ、振り返るウェル。
そこには、クリスと翼の戦闘が始まった瞬間から戦線を離脱し、何処かで見ているであろう彼を探すべく走り回っていた純だった。

「もう逃がさねぇぜ。観念しやがれッ!」
「ハッ、身の程を弁えてくださいよ。僕は英雄、全ての人類に崇め奉れる存在なんですからねぇ」
「支配者気取りの愚かな科学者が、自惚れまみれの稚拙な定理を並べてるだけだろ。そんな奴が英雄名乗ろうなんざ……2万年早いぜッ!」

眼鏡を外した純の啖呵に、ウェルは一瞬口元をヒクつかせた。

「僕は天才だぁッ!」
「どうだかな。戦場に於いて、果たしてその頭だけで何処まで逃げ切れるか、試してみるか?」
「ならば見せてあげましょう……僕の頭脳が生み出した、最高の研究成果をお披露目してあげます」

そう言ってウェルはソロモンの杖を収納し、コートの裏に仕舞う。
そして代わりに、右腕に装着された赤いガントレットを起動させた。

「それは……ツェルトと同じModel-GEEDッ!?」
「転調・“天詔琴(アメノノリゴト)”ッ!」

ウェルが叫んだ次の瞬間、彼の右手に何かが形成される。

それは、純にも見覚えのあるシルエットだった。
戦場で見かけるには不似合いだが、それは確かに純の知るそれと一致していた。

楽器だ。戦場に旋律を奏でる弦楽器……翔のアームドギアの一つであり、生弓矢の形の一つ。
“天詔琴”のアームドギアが、ウェルの手に握られていた。

「盗んだ生弓矢を、RN式に組み込んだのかッ!?」
「本当のお楽しみはこれからですよ……くひひひひ……ッ!」

口元を釣り上げて嗤うと、ウェルは弓を引く。

次の瞬間、純の頭上から何者かが飛びかかる。

「──ッ!?」

気配を察知した純がその場を飛び退いた直後、激しい音と共に、先程まで彼が立っていた場所が陥没した。

「な、なんだ……ッ!?」

純は盾を構え、追撃に備える。

煙はやがて晴れ始め、その奥から襲撃者のシルエットが浮かび上がる。

そのシルエットは、とても女性的だった。
シルエットからでも分かる、豊満な胸部。

身長は高めで、まるで鳥の羽毛のような長い髪は風にたなびいている。
地面に突き刺さっているのはおそらく、彼女の得物だろう。

そして何より目を引いたのは、柄の先を足場にされているその得物だ。

色は白いが、その槍は間違いなくマリアのアームドギアと同じものだった。

「白い、ガングニール……ッ!?」

まさか、とは思った。
有り得ない、と目を疑った。

しかし、風に剥がされたヴェールの向こうから現れた彼女の姿に、純は絶句した。

崖の下から見上げるクリスも驚きに目を見開き、翼は目を伏せた。

「アタシを楽しませてくれるのは……お前か?」

「どうして……どうして、あなたがここに……ッ!?」

かつて戦場に消えたはずの生命。
死体すら残さず塵となり、この場に立っているはずのない人物。

人としての生を捨て、戦士と生きて死んだ片翼の奏者が、仮面の奥で笑っていた。

ff

ブリッジのモニターにも、戦場で対立する二組の様子は映し出されてる。
当然、調と切歌の戦いの様子も……。

「どうして、仲の良かった調と切歌までが──私の選択は、こんなものを見たいがためではなかったのに……ッ!」

モニターの前で膝を着き、泣き崩れるマリア。
そこへ、制御室のナスターシャ教授からの声が届く。

『マリア』
「──マムッ!?」
『今、あなた一人ですね? フロンティアの情報を解析して月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました』
「え……ッ!?」

驚くマリア。
心を降り砕かれた彼女の耳に届いたのは、ナスターシャ教授が見つけ出した、最後の希望だった。

『最後に残された希望──それには、あなたの歌が必要です』
「──私の、歌……」

ff

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」
「大丈夫か、響……ッ!」

マリアの元へ向かう翔と響は、F資料にあったフロンティアの内部構造を頼りに走り続けていた。

「これくらい……へいき、へっちゃらッ!」
「なら、もうひと踏ん張りだ……もうすぐ入り口だぞッ!」

背中を押してくれた彼女の言葉を胸に、二人は走り続ける。
目指す中央遺跡はもう目の前だ。

「行こう、翔くん──」
「ああ──」
「「胸の歌が、ある限りいいいぃぃッ!!」」

息を切らしながらも、二人は真っ直ぐに、一直線に進んでいった。






そして、エアキャリアの一室では彼もまた──

「セレナ……俺に力を貸してくれ……」

セレナのカプセルに触れながら呟いたツェルトは、自らの部屋に設置された装着アームを起動する。

「行くぞ、Mark-Ⅳ……これが最後の戦いだ」

着替えたインナーの上から装着されていくプロテクター。
毎回誰かに手伝ってもらう事で装着している二課とは違い、完全に機械操作での装着。
気分はやはり天才大富豪。決戦に赴く覚悟を決め、ツェルトは足を踏み出した。

「待ってろマリィ……今、迎えに行くからな……ッ!」 
 

 
後書き
如何でしたでしょうか?

きりしらの戦闘シーン、原作とほぼ変わらないし殆どカットしても問題ないかもしれない。
その分、次回に挟むのは……言うまでもないですね。

遂に回収された伏線。前々からずっと予告していた彼女の帰還……奏さん復活です!
どうやって復活したのか。その説明は次回になりますが、ギリギリまで悩んでようやく納得がいく理由を見つけました。
度肝抜かれたら褒めて欲しいな……。

次回──

ウェル「さあ、ガングニールの乙女よッ! その力を僕に示してくれぇぇぇッ!」

奏「なぁ? もっとあたしを楽しませてみろよッ!」

クリス「あんたが望んだものは……こんな事じゃないだろッ!」

第37節『君ト云ウ 音奏デ 尽キルマデ』

純「許されねぇッ! てめぇのやったことは……許されねぇッ!!」

次回もお楽しみに!

予備のModel-GEED:ツェルトの義手に組み込まれたRN式とは違い、ガントレット型として設計された赤のModel-GEEDは、ツェルトのそれの原型モデルである。

元々複数の聖遺物の力を融合させ、兵器として運用する為に作られたのがModel-GEEDではあるが、聖遺物同士の反発で設計コンセプトが実現できない不備や、そもそも起動できるものが居なかった事などから、元となったRN式同様、失敗作として扱われていた。

後にフィーネから横流しされたデータから、改良型としてツェルトの義手に組み込まれることとなったのだが、ナスターシャ教授は残されていた原型機をF.I.S.から持ち出し、予備パーツとして整備・調整を重ねていた。

ウェル博士はそれを、死者を蘇らせる右腕……神の奇跡を行使するための道具として利用し、英雄としての地位を確固たるものとするのだった。 
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