短期攻略

「出来るならな」
「抑えることですね」
「最初から」
「それが一番ですね」
「何といっても」
「そうだ、だから考えるが」
　古葉はここで腕を組んで述べた。
「穴がとにかく少ない男だ」
「何でも相手チームのピッチャーを一人一人研究していて」
「色々と大学ノートに書いているそうですし」
「勉強家でもあって」
「頭もあります」
「余計に厄介だ、しかしだ」
　それでもとだ、古葉は強い声で言った。
「ブーマーも人間だ」
「はい、確かに凄くても」
「それでもですね」
「人間ですから」
「弱点はありますね」
「絶対に」
「今度は打つ傾向を調べる」
　ブーマーのそれをというのだ。
「いいな」
「はい、どのコースのどの球種が得意か」
「そしてどれが苦手か」
「そのことをですね」
「調べますね」
「今度はそうしていくぞ」
　こうしてブーマーの得意なコースや球種、苦手なそうしたものを調べ上げていった。するとだった。
　ブーマーの弱点がわかった、それは何かというと。
「内角の落ちる球だな」
「ですね、ブーマーはそれが苦手ですね」
「随分穴のないバッターですが」
「そこが弱点ですね」
「あの男は」
「やっと見付けた、ならな」
　古葉の目が光った、そうして言うのだった。
「このシリーズブーマーはな」
「そうしてですね」
「攻めるべきですね」
「ここは」
「そうしていきますね」
「徹底的に封じる」
　こう言ってだ、そのうえでだった。
　広島はシリーズにあたった、まさに阪急の主砲ブーマーをどうするかが勝敗の分かれ目だったが古葉はここでだ。
　投手陣にもブーマーのことを話した。
「いいか、とにかくだ」
「内角の落ちる球ですね」
「それを投げてですね」
「封じるんですね」
「あいつについては」
「そうしろ、とにかくあいつは打たせるな」
　ブーマー、彼はというのだ。
「何があってもな、このシリーズの間だけでいいかな」
「ペナントと違いますね」
「ペナントは長いですからね」
「その間にブーマーも自分の苦手に気付いて」
「それでなおそうとしますが」
「頭もいい助っ人だ」
　古葉はブーマーの研究熱心さからも話した。
「ならな」
「ペナントならですね」
「ブーマーも気付きますね」
「そうなるでしょうが」
「シリーズの間だけでいい、シリーズは最大七戦だ」
　先に四勝した方が優勝となる、相手が三勝してもそれだけだというのだ。
「それならな」
「七戦だけですね」
「それだけブーマーを抑えればいいですね」
「そうしたら勝ちってことですね」
「そうだ、それだけ抑えればいいんだ」
　最大で七戦だけだというのだ。