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誰が恐れるか

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第二章

「そしてこれまでの歴史ではだ」
「オーストリアやロシアに翻弄され」
「トルコも長い間居座っていました」
「先のドイツもあり」
「ブルガリアやルーマニア、ギリシアも介入してきて」
「常に惨たらしい戦争が繰り返された」
 それがユーゴスラビアの歴史だったというのだ。
「血が血を呼びだ」
「殺し合ってきました」
「憎しみ合い」
「そうした歴史でした」
「それがこの国の歴史でした」
「そのユーゴスラビアを治めることだ」
 まずはというのだ。
「それが先決だ」
「共産主義や資本主義よりも」
「まずはそのことですね」
「イデオロギーとして使えるから共産主義である」
「それだけですね」
「そうだ、コミンテルンよりもユーゴスラビアだ」
 優先すべきはそちらだとだ、チトーは断言した。
「この国をどうすべきかだ」
「もう惨たらしい殺し合いはさせない」
「この国にいる全ての民族を争わせない」
「そのことこそが重要ですね」
「何といっても」
「そうだ、スターリンが何を言ってもだ」
 それでもというのだ。
「私は何ということはない」
「大事なのはあくまでユーゴスラビアであり」
「この国はどう平和に治まっていくか」
「そのことが大事ですね」
「何よりも」
「その為にはモスクワの言うことも聞いておられない」
 スターリン即ちコミンテルンのというのだ。
「だからいいな」
「はい、自立ですね」
「ソ連から離れ」
「我々は独自路線を歩みますね」
「ユーゴスラビアの為に」
「そうする、スターリンに逆らってユーゴスラビアが崩壊するなら」
 それならばというのだ。
「私はユーゴスラビアを選ぶ」
「では」
「スターリンが何を言ってきてもですね」
「ユーゴスラビアを優先しますね」
「そうするだけだ」
 こう言ってだ、チトーはスターリンに逆らってでもユーゴスラビアを平和に治めることを選んだ、そうして独自路線を歩むと。
 スターリンは激怒して二つのことを決めた。
「ユーゴスラビア共産主義者同盟をコミンフォルムから除名する」
「追放しますね」
「彼等を」
「そして友好相互条約もだ」
 これもというのだ。
「破棄する」
「あの国との関係を完全に断つ」
「そうしますね」
「軍を送れるか」 
 ここでスターリンは部下達にこのことを問うた。
「それはどうか」
「やはり大戦の傷が大きいです」
「また今は東欧諸国を支配下に置くことで手が一杯です」
「ユーゴスラビアに兵を進めることは無理があるかと」
「どうしても」
 軍人達はスターリンにすぐに答えた。
「それにあの国は山岳地帯です」
「攻めるに難しい場所です」
「かつてドイツ軍もあの地では手を焼きました」
「またチトーはゲリラ戦術の名手です」
「若しあそこに入りましても」 
 攻めても大きな損害を出してしまうというのだ。
「ですから」
「攻めるべきでないかと」
「あの国は」
「ではだ」
 侵攻は無理と聞いてだ、スターリンは一つの決断を下した、その決断はどういったものかというと。 
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