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戦国異伝供書

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第八十九話 初陣での大手柄その九

「またとないこと、だからな」
「それで、ですな」
「我等もですな」
「殿の回復を祈願する」
「その様に」
「済まぬ、そなた達もそうしてくれると有り難い」
 元就は家臣達に心から述べた。
「ではな家が一つになってな」
「殿のことをお願いする」
「医師も祈祷師も用意し」
「何とかですな」
「殿のお命を」
「そうしようぞ」
 まさに家が一つになってだ、そうしてだった。
 元就は幸松丸について医師を常に傍に置く様にして祈祷師にも祈りをする様にした、だが妻には秘かに言った。
「これだけしてもな」
「それでもですか」
「人の命程わからぬものはない」 
 達観、そのものの言葉だった。
「特に家臣達にも言ったが子供はな」
「もう何時どうなるか」
「左様、そなたもわかっておるか」
「それは見てきましたので」
 妻にしてもだった、このことは。
「どうしてもです」
「子供はとりわけな」
「何時どうなるか」
「そうじゃ、だから殿もな」
 幸松丸、彼もというのだ。
「この度は手を尽くしておるが」
「それでもですか」
「わからぬ」
 妻にはこう言った。
「だからな」
「それで、ですか」
「いざと言う時のことも考えておる」 
「それは」
「毛利家の次の主のこともな」
「それは」
「わしになるやも知れぬが」 
 それでもとだ、元就は妻に話した。
「その時はな」
「毛利家をですか」
「より大きくしたい」
「そうされますか」
「何をしてもな、例え奸悪の限りを尽くそうとも」
 覚悟を以てだ、元就は妻に話した。
「毛利家を残し出来るならな」
「大きくされますか」
「そうする」
 こう言うのだった。
「必ずな」
「その覚悟ですか」
「うむ、しかしこうした考えを持つのはどうかとな」
「思われていますか」
「人の、ましてや殿がどうなるかと考えるなぞ」
 自分の甥である彼のことをというのだ。
「不忠の極みである、しかしどうしてもな」
「考えてしまわますか」
「因果なことじゃ」
 元就は妻に苦い顔で述べた。
「これは。しかしな」
「それでもですか」
「考えてしまう」
 その因果を思いつつだ、元就は言った。
「どうしてもな」
「そうですか」
「あとな、わしは戒めておることがある」
「お酒のことですか」
「父上も兄上もそれが過ぎた故に早く去られた」
 今度は悲しい無念に満ちた顔だった、その顔で言うのだった。
「だからな」
「お酒は」
「飲むこともあろうが」
 それでもというのだ。 
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