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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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今日は私が女給さん(風鳴翼誕生祭2020)

 
前書き
翼さん、ハッピーバースデー!

ってなわけで、今日は本編ではなくお祝いの短編をお届けします! 

 
「え~っと……翼さん? これは一体……」

緒川は困惑していた。


何故ならば、今、目の前にいる翼の格好は……和メイドだったのだ。

「普段どれだけ頼んでも、慎次さんは休んでくれないじゃないですか。なので、今日の緒川さんは一日休んでてください。今日は私が、慎次さんのお世話を致しますので」
「し、しかし……」
「今日は私の誕生日。慎次さんが休んでくれることこそが、私にとってのプレゼントなのです」
「翼さん……」

食い下がろうとした結果、お誕生日サマ強権を使われてしまった。
これでは、流石の緒川も聞き入れるしかない。

正直なところ、心配ではある。
しかし、他でもない彼女が、日ごろのお礼と労いを兼ねてこうしたい、と言っているのだ。無碍にするわけにもいかない。

というわけで、緒川が翼にお世話される、奇妙な誕生日が始まったのである。

ff

最初に翼が取り掛かったのは部屋の掃除……そう、一番心配なところからである。

翼は整理整頓が圧倒的にダメダメな、いわゆる“片付けられない女”。
彼女に務まるとはとても思えない家事筆頭、それこそがお掃除である。

無論、彼女自身にもその自覚はある。

だが、やるといった手前、やり遂げるまで引かないのも彼女の真面目さだ。
おかげでバラエティ番組からのオファーがどんどん舞い込んでしまうのだが……それはそれとして。

「一番簡単そうなものからやって行こう。まずはハタキで埃を落とすところから……」

ハタキを握ってしばらくした頃である。

「いったああああああッ!?」
「翼さんッ!? どうしましたか!?」

翼の悲鳴に慌ててやって来る緒川。そこには……。

「こここ、小指を……ぶつけてしまいまして……」

なんと、ハタキで埃を落としていたところ、タンスの角に小指をぶつけてしまったらしい。
涙目で足を抑えていた。

「大丈夫ですか……?」
「防人の剣は、この程度で折れたりしませんッ!」
「そうですか……」
(心配だなぁ……)

内心、とても心配なのだが、本人がこう言っているのだ。
任せるより他にない。

「痛みが引き次第、すぐ続きに戻りますので……ッ!」

ff

続いて洗濯。

洗濯物を畳む事が出来ない翼だったが、洗濯なら洗濯機に突っ込んで、洗剤を入れ、スタートボタンを押すだけでいいだろう。

……そう認識していたのが本人なんだから、どれだけ不味いかは想像に難くないだろう。

「ぬおわあああああああッ!?」
「翼さん、今度はどうしたんですかッ!?」

緒川が慌てて脱衣所へと向かうと、そこには……。

「慎次さん! 洗濯物が勢いよく飛び出してきたのですが、これはどうなっているのでしょう!?」
「無理に詰め込み過ぎたのではないかと……」

ドラム洗濯機から飛び出してきた洗濯物に埋まった状態の翼を見て、緒川は苦笑いしながらそう言った。

「二回に分けて洗濯しましょう。仕分けは手伝いますから」
「うう……洗剤の量と押すボタンは間違えなかったのに……」
(練習してきたんだろうなぁ……)

翼の言葉に、彼女の健気さを感じながら、緒川は微笑んだ。

ff

そして昼食。

普段なら、包丁を刀を振り下ろすように使っては、野菜をあっちこっちに転がらせてしまったり、まな板をボロボロにしてしまう危なっかしい行動をやらかし、最終的にはダークマターを作り上げてしまうという悲惨極まりない料理下手を見せつけてくる彼女だが……この日は違った!

なんと、料理上手の弟に加え、見守り隊も全面協力。
せめて入門者並みにはなるよう、徹底的に料理スキルを扱かれた翼は、ちゃんと料理が作れる女には成長していたのだ!

「どうぞ、慎次さん。昼餉です」
「これは……全部翼さんがお一人で!?」
「まあ、翔や春谷(はるたに)さんのお手を煩わせてしまいましたが……なんとか形にはなりました」
(ああ、それで……)

弟、そして頼れる補佐が鍛え上げたのであれば、問題はないだろう。

さて、問題は味の方だが……。

手を合わせ、緒川は箸を手に取る。

まずは厚焼きの卵焼きから……。

「……どう、ですか?」
「んん、美味しいですよ」
「よかった……。まずは一つ、クリアですね」
「ええ、甘くてふわふわしてて、とてもよくできているかと」
「……え、甘い?」

この瞬間、翼の顔から血の気が引いたことに、緒川は気付かない。

「慎次さん、もしかしたら私──ッ!」
「……ッ!?」

……翼が止めようとした時には、時すでに遅し。
緒川はカボチャの煮物を口にしてしまっていた。

「すみません! 砂糖と塩が逆だったようですッ!」
「い、いえ……この程度、どうという事は……」

砂糖と塩、それが逆になってしまうだけで、その味付けは大きく変わる。

甘い煮物にするために、砂糖を大さじ二杯で入れた筈だったのだ。

それが塩大さじ二杯になってしまっていたのだから堪らない。
塩っ辛さが生半可なものではない事は、想像に難くないだろう。

「今すぐお水をお持ちしますので!」

慌ててコップに水を注ぎ、緒川の元へと持っていこうとする翼。

しかし、その途中で足が滑り……。

「あああああーッ!?」
「翼さんッ!」

……直後、コップが割れる音がした。



「翼さん、怪我はありませんか?」
「い、いえ……」

緒川が咄嗟に受け止めたことで、翼は転倒を免れていた。

緒川は思わず、ホッと息を吐く。

すると、翼はポロポロと涙を流し始めた。

「翼さん、どこか痛むんですか!?」
「い、いえ……違います……。ただ……自分が、情けなくて……」

袖で涙を拭う翼を見つめながら、緒川は静かに言った。

「情けなくなんかないですよ。翼さんは、翼さんなりに頑張ったじゃないですか」
「でも……わたし、全然上手く出来てなくて……」
「そんなことありません」
「掃除中に小指ぶつけちゃうし……」
「誰にでもあることです」
「砂糖と塩、間違えちゃったし……」
「時々あることです。それに、とても美味しかったですよ」
「洗濯機の中身全部ぶちまけちゃったのは?」
「あれは…………」

流石に口籠る緒川。
翼は顔を両手で覆いながら続けた。

「わたし、慎次さんに何も返せてません……。今日は慎次さんに休んでもらうつもりだったのに、結局手伝ってもらったり、ご迷惑をおかけしたり……」
「翼さん……僕は迷惑だなんて、思っていませんよ?」
「でも、わたしは……」
「だったら、一緒にやりませんか?」
「…………え?」

思わぬ言葉に、翼は手を下ろす。

「二人でやれば、僕の負担の半分を、翼さんに預けることができます。それに、一人でやるより早く、家事を終えることが出来るはずです」
「でも……わたしでは、慎次さんの脚を引っ張ってしまうのでは……?」
「教えてあげますから、一緒に頑張りましょう。ね?」
「慎次さんと……一緒に……」

見上げる緒川の顔は、相変わらず頼もしく、優しい笑みを湛えている。

「手始めに食器洗いから、お教えしますよ?」
「慎次さん……」

今のままでもいいと。一緒に改善していこうと。
愛する人がそう言ってくれたのが、翼には何より嬉しかった。

そして、緒川と二人で台所に立つ自分の後姿を妄想し……ちょっとだけ、頬を赤らめた。

「その前に、落としてしまったコップを片付けましょう。このままだと、足を切ってしまいます」
「そ、そうですね……。塵取りを持ってきます!」

緒川の腕から慌てて離れると、翼は掃除用具置き場へと向かって行った。

「翼さんも、以前に比べて柔らかくなりましたね……」

と、その時、緒川のスマホが着信の『逆光のフリューゲル』を鳴らした。

「もしもし」
『緒川さん、パーティーの準備出来てますよ』

声の主は、もちろん翔だ。

緒川は、翼に聞こえないように注意しながら答えた。

「翔くん……翼さん、今日も可愛いですね」

すると、翔は一瞬沈黙し、クスっと笑って答えた。

『当たり前でしょう。だって姉さんは──』 
 

 
後書き
改めて翼さん、お誕生日おめでとうございます!!

え?なんか聞き覚えのない名前出てたって?

実はまーた職員さんが増えちゃいましてねw
軽めに設定置いときますw

・春谷(はるたに)さん:情報部に所属する女性職員。緒川家所属のくノ一であり、緒川の補佐として二課に所属している。変装の達人であり、その腕前は役に合わせて全く別の性格でさえ演じてみせるほど。

ちなみにモデルは某恋愛頭脳戦の早坂さん。裏モチーフはタイニーバルタン(バルタン、タイニー→バル、タニー→ハルタニ)

多分、G終わった後の番外編とかで出ます。
それでは、次回もお楽しみに! 
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