猫がもたらすもの
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第一章
猫がもたらすもの
猿野正太郎は居酒屋で自分を店に誘ってくれた八条出版から出ている週刊誌週刊実在の編集長盛田公則にこう言った。長めの黒髪に無精髭の顎の先が尖った細面の男で歳は三十三だ、背は一七四程で痩せている。仕事はフリーのジャーナリストだが事実上八条出版専属で仕事をしている。服装はラフナものでスーツの盛田とは正反対だ。
その盛田、サングラスと四角い顔にパンチパーマがその筋の人にしか見えない彼に猿野はこう言った。
「うち来ます?今度」
「ああ、女の子がいるんだよな」
「はい、これがいい娘なんですよ」
猿野は焼酎を飲みながら笑って話した。
「それで最近です」
「飲みに行こうって言ってもか」
「早く帰ってました」
「今日は特別か」
「だってあれじゃないですか」
笑ってだ、猿野は言った。
「今五時で」
「早いからか」
「ですから」
「早く帰られるからか」
「お付き合い出来ています」
「女の子がいるとか」
「遅いと文句言うし何するかわからないですからね」
それでというのだ。
「俺もです」
「最近付き合い悪かったか」
「そうなんですよね」
「離婚して暫くずっと飲んでいたよな」
「家でもそうでした、まああっちがホストにギャンブルで」
別れた妻の方に問題があってというのだ。
「慰謝料も貰って金には困ってないですがね」
「やっぱり離婚は堪えるんだな」
「きますよ、後でじわじわと」
今は酒が身体にそうなってくるのを感じつつ話した、肴は焼き鳥だ。
「本当に」
「そうなんだな」
「それで、ですよ」
その焼き鳥も食べつつ言う。
「お世辞にもいい女房じゃなくても」
「一人になったのが堪えてか」
「飲んだくれていました」
「そうだったな」
「けれどあいつが来て」
それでというのだ。
「変わりました」
「そうか、じゃあな」
盛田はビールを飲みつつ言った、前の健康診断で痛風を忠告されたがそれでも好きなので飲んでいる。
「次は君の家に行ってな」
「それで、ですか」
「飲むか?コンビニでビールやつまみを買って」
それでというのだ。
「家でな」
「いいですか?それでも」
「君がいいならな」
それならというのだ。
「それでな」
「それじゃあ」
「どんな娘か見たいしな」
「可愛いですが我儘ですよ」
「ははは、どんな娘か楽しみだな」
盛田はさぞかし美人なのだろうと思いつつ応えた、そしてだった。
居酒屋では飲み食いを早々に切り上げて猿野の家で飲みなおすことにした、それで二人でコンビニで酒につまみを買ってだった。
猿野の家に行くと盛田はその女の子を見て驚いた。
「おい、この娘がか」
「はい、そうなんですよ」
猿野はその娘を見て驚く盛田に話した。
「この前庭にいまして」
「それでか」
「餌やったら庭にいついて」
「それでか」
「飼いはじめました」
「ニャ~~~~」
見ればそれは小さな猫だった、白地だが耳と耳の間それに足首が濃い茶色である、玄関のところでちょこんと座って猿野を見て鳴いている。
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