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木の葉詰め合わせ

作者:半月
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本編番外編
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  此処ではない他の世界で・参

 
前書き
個人的に彼は女子供であろうと手加減しない人だと思うので。
 

 

「六十七点、と言った所か。味が薄い上に、野菜の切り口が乱雑だ。それから味付けには赤味噌を使えと教えた筈だ。そのせいか妙に甘ったるい」

 いけしゃあしゃあと人の作った料理に文句をつけるいけ好かない男に向かって、私は胸の内で罵詈雑言を浴びせかけた。

 うっさい赤味噌が何ぼのもんじゃい、千手の家は代々白味噌派だから私だって白味噌派に決まってらぁ。
 それと薄味の方が私や弟妹達の好みであるからして――要するに、てめえの嗜好なんて知ったことか! と。

 でも口に出して言いはしない。
 ――――何故なら。

「それから、箸の先端に毒を塗るというのはなかなか良いアイデアだったが……この程度の毒でオレは死なん。残念だったな」
「くたばれ!!」

 男の一言を耳にした途端、私は和服の袖から暗器を放つ。
 刃先に毒を塗り付けたそれらは、無表情のままの男に無言で弾き飛ばされた。

 ――ああ、今晩も残念ながら暗殺失敗である。無念極まり無い。



「こんにゃろ、また失敗か!」
「貴様も飽きないな。これで何度目だ」

 やや呆れた様な男の言い分を耳にして、声のする方向を睨みつける。
 先程までの無表情具合とは打って変わってやけに愉しそうな表情だ、心底忌々しい。
 おまけに男が先程弾き飛ばした私の武器は見事に私の方へと跳ね返り、そのまま私の纏っている服を貫いている――ますますムカつく。

 ああくそ、自分とこの男の間の実力差がものすごく悔しい。

 この隠れ家に連れて来られてから何度この男の息の根を止めようと奇襲をしかけ、その度に返り討ちにされた事か。
 こうして毒殺を企んでも毒は看破されるし、隙を狙って暗器を放った所で私の方へと返される。
 舌打ちしながら着物の袂に刺さっているクナイを引っこ抜く、抜き様の勢いのまま近付いて来た奴へとクナイを向ければ、容赦なく蹴り飛ばされた。

「――っぐ!」
「とんだじゃじゃ馬だな、お前は」

 辛うじて受け身の体勢こそ取れたものの、壁に叩き付けられて無様に呻く。
 軽く咳き込みながら上体を起こして、目の前の男の両眼を睨みつけた。

 こいつの猫が獲物の鼠をいたぶる様な振る舞いには心底腹が立ってしょうがない。
 それを行う相手への怒りが湧くのと同時に、それを許してしまう私自身の弱さにもむかつくが。

「奴とは違って貴様は正真正銘かよわい女の身であるというのに、随分と歯向かうな」
「かよわい、は……余計だ。……この誘拐、犯」

 今は弱くても成長すればもっと強くなるんだから、ほっとけ。本当に余計な一言が多いわ、この野郎。
 そう言った意味を込めて赤い目を睨み返せば、愉しそうにくつくつと喉が鳴らされる。分かってはいたけど、この振る舞い――こいつ絶対にドSだ、間違いない。

 何を思ったか、遊ぶ様に奴の手が首をなぞる。
 急所である部分へと触れられる――その感覚が心底気持ち悪くて眉根を顰めれば、どうやら相手の琴線に触れたらしく触れていた指先に力が込められた。

「いっつ……!」
「やはりお前はまだ自己治癒能力は持っていない様だな」

 軽く――いや、かなりの力が込められた相手の爪先が私の首を食い込む。
 微かに漂う鉄の匂いに相手の爪で肌を切られた事が分かった。
 乙女の柔肌(最も私が言えば世界中の本物の乙女達から大ブーイングが来そうだが)に何をしてくれやがる、このドの付く程の鬼畜野郎がぁ!!
 右手が不穏に動いて、隠し持っている毒付きの千本を今にも引き抜きたくなる。
 ……が、それをしたところで返り討ちに遭うのは必須だ。此処は我慢だ、私。

「――――奴も、この年頃の頃はこんなにも弱かったのか……?」

 不意に小さな声で目の前の男が囁く。
 揺らめく炎を映し込んだ様な赤い瞳は私を通して、別の誰かを見ている。それが分かって、空いた片手で頬に触れたままの男の手を振り払った。
 この男が誰なのかは知らないが、この世界の“千手柱間”と縁の深い誰かなのだろう。
 ――だけど、そんな事は私には関係ない。

「……誰だって、最初は弱いだろうが。そこから強くなるのか、そのままでいるのかは当人の努力次第だ。違うか?」
「…………間違ってはいないな。だからといって貴様が強くなれるのかは分からないが」
「大きなお世話だ。強くなるに決まってるだろ。守りたい者がいるんだから」

 戦国の世をどうしようだなんて事までは思わないが、私は私の大事な弟妹達を守れる様に強くなりたいとは願っている。
 ――――後、目の前のこの誘拐犯をボコボコにしてやることも目下の所の私の目標に付け加えられたのだが。

 首に手を当ててチャクラを流し込む。
 それからさっさと男に背を向けて、私は精をつけるために食事を摂る事としたのであった。

 ――――にしても、こんな面倒くさそうな相手に執着されているらしいなんて、この世界の“千手柱間”は結構大変だよなぁ。
 本当にお気の毒だわ、可哀想に。
 むしゃむしゃとご飯を口に運びながら、そんな事を考えた。
 
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