GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり
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第11話 協定違反
前書き
オリジナル怪人とは別に主人公、千堂の怪人態を5月末まで募集します。ドーパント、ゾディアーツ、ショッカー怪人のいずれかでお願いします。
アイディアは感想欄、またはメッセージにお書きください。
「ハイヤッ!」
「ボーゼス!急ぎすぎだ!後続が落伍しているぞ!」
薔薇騎士団が全速力で馬を走らせイタリカに向かっていた。
先頭の騎士達のあまりの速さに土煙が舞い上がり、後方の歩兵達が置いてけぼりを食らう。
「まだ遅い!ピニャ殿下が私達を待っておられるのよ!!」
そう言い放つ薔薇騎士団副団長ボーゼスだったが―
「パナシュ……私達、間に合うかしら」
ボーゼスが不安に負けてつい呟く。
「姫様なら保たせるさ……きっとな」
ショッカーの占領下に置かれたイタリカには地球儀を鷲掴みにする鷲の旗が翻り、ショッカーの戦闘員を乗せた装甲車が次々と入城した。市民達は盗賊達を追い払ったショッカーの軍勢を複雑そうな顔で見つめる。
当初、帝国の物流に打撃を与える目的で占領する予定だったイタリカだが文明レベルが判明してくるにつれて財団Xやノバショッカーなどの企業や財務省などが『物流を抑える』という占領目的が見直すように要請し、新たな占領目的に置き換わっていった。その新たな占領目的とは―
翼龍の鱗をカトー師匠の知り合いの商人リュドーに売り終えたレレイ達と入れ替わるように白服の男が2人、リュドーの商談部屋に入る。
「突然ですみません、リュドーさんはいますか?」
レレイが売って行った翼龍の鱗を眺めるリュドーに男達が話しかける。
「リュドーは私のことですが……失礼ですが貴方達は何者ですか?」
「申し遅れました。私共はこういう者です」
そう言うと異世界語で書かれた名刺を取り出して商人に手渡す。
「財団X?どういった団体ですか?」
「なんと言いますか…ショッカーの商人ギルドのような物とお考えください」
ショッカーと聞いて動きが止まる。ショッカーといえばイタリカに攻めてきた盗賊団を返り討ちにし、イタリカを占領している異界の軍勢。その商業ギルドがわざわざ自分のところに来たのだ。只事ではないと腹を括った。
「で…その商人ギルドが私に何の用ですかな?」
「私共としましては衣類や食料、生活用品をイタリカを通じて帝国の商人に流そうと考えています。これらはその輸出品の種類と価格が載った目録です」
予想外だった。てっきり商人としての家業を畳まされイタリカから追放されるのかと思っていたからだ。
ショッカーが何故、敵であるはずの帝国に自国の商品を輸出したがるのかは分からないが商談と聞いて応じることにする。
しかしショッカーには協定で得た関税を含むありとあらゆる免税特権がある。普通に考えて関税が無ければショッカーの輸出品は高く買われ、イタリカ側の商品を安く買い叩かれてしまう。
そう思うとゾッとした。彼は恐る恐る手渡された目録を見る。
実際はその反対だった。
ショッカーの輸出品が"超"低価格だったのだ。
リュドーは驚きの余り、声を上げそうになった。それほどショッカー側の品々が安かったのだ。
(だ……だがこれほど安いということはきっと粗悪な物に違いない!騙されるな!)
リュドーはそう心に言い聞かせる。
「それとこちらは商品の見本なのですが……」
そう言うと職員は大きめのスーツケースを開けてリュドーに見せる。
中にはショッカーが特別に製造した帝国製よりもずっと精巧な短剣、象牙、香辛料、木材やろうそく、そして衣服等の布製品などありとあらゆるものがズラリと入っていた。職員の男達はそれらの見本を机の上に並べていく。
「こっ……これは……!!」
(なんて精巧なんだ!!短剣なんかまるで鏡のようじゃないか!?それに衣服は丈夫だし、象牙は今まで見たことがないほど美しい!)
特にリュドーの目を引いたのは香辛料だった。
文明レベルが中世程度のこの世界では香辛料は"超"どころか"超超"高級品である。それを『"超"低価格』でショッカーから購入し、『低価格』で市場に流す。それだけでどれだけの莫大な利益が見込めるかは想像に難くない。
(これはすごい!かなり大きな商機だぞ!!)
リュドーの商人としての勘が彼にそう告げる。
「して…我々は何を帝国から"輸入"し、ショッカーに"輸出"すればいいのですか?」
「奴隷を売って頂きたい。できるだけ亜人種をお願いします。敵である帝国が我々に売ってくれるとは思えませんからリュドー氏の名義で仕入れ、それを我々に売って頂けるようお願いします」
リュドーはまた頭をかしげた。何故、ショッカーが亜人の奴隷を欲しがるのか分からなかった。
しかし職員の次の言葉でその疑問も吹き飛ぶ。
「男女問わず亜人種の奴隷なら1人につき20シンク金貨でどうでしょう?」
「20シンク金貨!?!?」
リュドーは驚きの余り、椅子から転げ落ちた。
転げ落ちるのも無理はない。前回も書いたが銀貨5枚で1日暮らせるこの世界で奴隷1人に20シンク金貨は相場の数倍以上の値であるからだ。それも1人につきである。"超"低価格で高品質の品々を仕入れられる上、奴隷を"超"高価格で買ってもらえる。こんなにおいしい話はないし、それに飛びつかないほどリュドーも馬鹿ではなかった。
「分かりました。この商談、喜んでお受けしましょう!」
「ありがとうございます。これからも末永いお付き合いをしていきましょう」
財団Xの職員は握手しようと手を差し出す。
リュドーは何をしようとしているのかが分からなかった。
「これはそちらの世界の儀式か何かですか?」
「いえ、儀式というほどのものではないのですが……これは握手というものです。お互いの手を握ることで友好を深めようという私達の世界の習慣です」
「ほう、いい習慣ですね」
両者共に握手して円満ムードで交渉は終わった。
だがリュドーは分かっていなかった。
外国製の安くて質のいい製品が一旦、市場に入れば質の悪い自国製を誰も買わなくなるということを―。
そしてそれは自国経済の"侵略"行為であるということを―。
亜人種の奴隷を買ったのも研究目的とは別に帝国の労働力を少しでも減らすという"悪意"があることを―
数年後、いや早くて数ヶ月後にはショッカー製の安くて質の良い製品が帝国の市場を席巻するだろう。そしてその時には帝国製の製品には誰も見向きもしなくなってしまう上に奴隷という貴重な労働力が減り、帝国の経済は壊滅的な打撃を負うことになる。
ショッカーは密かに帝国を内部から崩壊させようと暗躍するのだった。
「これより……オ・ンドゥルゴ基地へ帰還する」
千堂の第1小隊はレレイらと共に装甲機動車に乗り、イタリカからアルヌスを周回してオ・ンドゥルゴに帰投する。
しかし、その道中で加頭が双眼鏡を取り出して叫んだ。
「騎馬を数騎発見!こちらに向かってきます!」
「何だと?」
千堂は目を凝らして見る。金髪と銀髪の女騎士を先頭に騎馬隊がこちらに向かってくる。
「姫様の言っていた騎士団か……遅いな、中世レベルなら仕方ないか…」
そう言っている間に金髪と銀髪の騎士達が高機動車に近づく。
「貴様らどこから来てどこへ向かう?」
金髪の女騎士…ボーゼスが千堂に尋ねる。千堂は車から降りて答える。
「イタリカから来て、オ・ンドゥルゴの丘へ帰る」
「オ・ンドゥルゴの丘だと!?貴様ら異世界の敵か!!」
銀髪の騎士……パナシュが叫ぶと後ろに控えていた女騎士達が剣を抜く。
「降伏しなさい!」
パナシュは千堂の首筋に剣を向けるが千堂は臆することなく言う。
「……これはピニャ殿下並びにイタリカ政府と結んだ協定の違反行為と受け取るがそれでもいいのか?」
「協定だと!?姫様が敵と協定など結ぶものか!!!」
「どうやら知らないようですね。いいですか、殿下はわれわ―」
千堂が言いかけた時に
「ええい、黙りなさい!!」
ボーゼスは千堂に殴りつけて言葉を遮った。
「敵対行動だ!このバカ女共を拘束して小隊長をお守りしろ!!」
加頭が小隊員に指示すると兵士の1人がネット銃を取り出してボーゼスに発射する。するとネットがボーゼスに覆い被さる。
「なっ、何だ!?卑怯も…グワァァ!」
ネットから逃れようとするボーゼスにネットから電流が流され彼女は気絶する。
「ボーゼス!おのれ!」
剣を抜こうとするパナシュに別の小隊員がゴム銃を発砲する。パナシュの胸部にゴム弾が直撃し落馬する。
「グワッ!」
パナシュを援護しようとした他の騎士達にもゴム弾を食らい次々と悶絶して倒れる。
辺りに気を失った騎士達が転がっている。
「誰がここまでしろと言った!」
千堂は加頭に怒鳴りつける。
「しかし……これは正当防衛です!それに相手は隊長に剣を向けたのみならず暴行に及びました!明らかな協定違反です!」
「ったく、取り敢えず基地に通信してこの事を報告しろ。そしてイタリカにこの騎士達を送り届けるぞ」
千堂達はボーゼス達、騎士団を捕縛し、イタリカにいるピニャに送る為、そして協定違反を告げる為にイタリカに戻るのだった。
その頃、ショッカー世界の世界統治委員会は真っ二つに割れていた。
事の始まりは日本との外交を決める会議で委員会の3分の1のメンバーが対日強硬派を自称し、日本世界に宣戦布告して侵攻すべきと主張したのだ。残りの3分の2…いわゆる対日穏健派とぶつかることになった。
ショッカー世界は急速な人口爆発が起こっておりこれ以上、人の住める土地がないのだ。食料自給率は100%超えといえど人の住める土地がなければ意味がない。かといって日本世界の中国の「一人っ子政策」のような出生制限をすれば少子高齢化が待っている。何をしようにも八方塞がりなのだ。
そこで対日強硬派は日本世界へ進軍し、占領した上で大量植民を行って征服すべきと考えたのである。同時に反ショッカー報道を潰せるので一石二鳥でもあった。
「宣戦布告などすべきではない!!日本との国交開設交渉がようやく進んだというのに―」
「日本、日本、日本、いつから我々は日本の属国になったのだ!?!?攻め滅ぼしてしまえば彼の国にも植民できるのだぞ!?メリットだらけじゃないか!!」
「派兵した後、どうするのだ?兵站は?占領統治は?それに進行中に自衛隊や在日米軍に『門』を破壊されたら意味がないだろ!!」
「それなら蝙蝠男ウィルスを使えばいい!秘密裏にあれを日本に撒けば理論上僅か11時間で日本人全員がショッカーのシンパになるぞ!!」
「"理論上"はな!あのウィルスには感染者の指令の為に蝙蝠男がある程度の位置にいなきゃならんし、そもそも個々に応じた指令ができんだろうが!!」
対日強硬派の主なメンバーはネオショッカー大首領、テラーマクロ、ジャーク将軍など地球出身でない者が多い。
対して対日穏健派は地球出身が多数を占め、いくらか日本の事情が分かる者が多い。
対日強硬派の主張を簡単にまとめると
「人口問題はショッカーの支配体制崩壊の可能性を孕んでおり、異世界は人口問題解決の鍵である。にも関わらず日本と共闘したばかりに大規模な軍事侵攻が不可能となってしまった。障害となっている日本国及び日本世界を即刻、征服しつつ、帝国領内の進撃を再開し、彼の世界と帝国のある異世界の両方植民すべきだ」というものである。
対して対日穏健派は「使節団派遣を控えているのに日本世界に侵攻して心象を悪くするなど愚策。時間はかかるが日本世界は裏工作で影から支配し、帝国に関しては経済を通じて傀儡化してショッカーの代わりに異世界を征服させる方が効率的」というものである。
戦争というのはすごい勢いで金と人命を吸い上げていく。それはショッカーにおいても例外ではない。武器弾薬の製造は勿論、新たな改造人間の作成・訓練費用が財政を蝕むことは確実。さらに当たり前ではあるが日本世界に宣戦布告すれば同時に198ヶ国相手にしなければならない。帝国戦以上に広大な戦線を維持しなければならない上に占領地での行政の執行や治安維持の手間を考えれば日本世界に対しての軍事行動は余程の挑発行為でもない限り極力、控えるべきだ。
仮に日本世界の国々に攻め入ってショッカーが誇る最新兵器や改造人間で圧倒したからといってそこで「戦争」が終わるわけではない。征服者が戦闘の終結を宣言しても占領民が納得しなければレジスタンス化し、本当の戦闘も戦争もそこから始まることは歴史が証明している。
「最強」を自称するショッカー防衛軍でさえ泥沼の長期戦となると戦い方としてはつらい。
最悪、米軍が中東で経験しているような兵隊と民間人の区別がつかないゲリラ戦に巻き込まれていくことは容易に想像できる。
尤も対日強硬派がそんなことさえ分からなくなっていたのにはショッカーが世界を征服してしまい、仮想敵らしい仮想敵がいなかったことと、ショッカーに楯突く者を「不穏分子」として1人残らず粛清してきたことが関係しているのは言うまでもない。
「死神博士、発言の許可を求める」
対日強硬派の1人であるネオショッカー州の魔神提督が挙手した。
「ではネオショッカー大首領代理 魔神提督。発言を許可する」
「穏健派の諸君は現在のネオショッカー州の人口がどれだけかご存知か?」
対日穏健派のメンバーが静まり返る中、魔神提督が立ち上がって発言する。
「20億人だ……ただでさえ狭いあのヨーロッパにそれだけの人間や獣人、異種族がひしめきあっておるのだ!すぐさま移民を送らねばネオショッカー州で反乱が起きるぞ!!!」
それを聞いていたジャーク将軍とテラーマクロが発言する。
「ネオショッカー州だけではない!我がクライシス自治区の人口は80億人とピークを迎えようとしているのですぞ!」
「我がドグマ自治区も限界だ!!せめて異世界の占領した地域だけでも植民を認めろ!!」
「しかし……それでは日本世界の諸国に警戒されてしま―」
「警戒されたところで何だと言うのだ!?我々は日本国の奴隷になったつもりはないぞ!!!」
会議はその後も続いた。
(対日強硬派は現実が見えていない。それにGOD秘密警察からは軍上層部の一部が自身の出世の為の手柄欲しさに日本と戦争したくてウズウズしてるという情報も入っている……はて、どうしたものか)
議長である死神博士は頭を抱え、何とか折衷案はないかと模索し始めた。
後書き
次回予告
協定違反を知ったピニャはショッカーに謝罪しにオ・ンドゥルゴ基地に向かう。
そこでショッカーとの戦力差を思い知ることになり……
次回、乞うご期待!!
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