戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第12節「昇る朝日が求めているのは」
前書き
原作4話Aパート後半!
聞き覚えのある単語がちらほらありますが、元ネタ全部分かるかな?
ここでお知らせ。ストックが遂に底を尽きました……。
って事で明日は前から予告してた通り、「夜に交わる伴装者」の方で翔ひびみく3Pを公開します。
それでは、推奨BGMはご自由にお楽しみください。
舞い上がる爆煙。
翔は着地し、ツェルトの様子を窺う。
(やったか……? いや、煙の奥を確認するまで、楽観視は禁物がド定番! まだ隠し球があってもおかしくは──)
次の瞬間、煙の奥から飛び出してきたワイヤーが翔の腕に巻きついた。
「ッ!? このワイヤーはッ!?」
「フィィィィィィィィィッシュッ!」
腕に巻きついたワイヤーが伸縮し、翔は引っ張られてバランスを崩す。
そして翔は、釣られた魚のように振り回され、防波堤に背中から叩きつけられた。
「ごはッ!?」
「危ねぇ危ねぇ……。直撃の寸前に、聖遺物を切り替えておいたのさッ!」
煙の奥から姿を表すツェルト。
その周囲には、彼を包むように黒鉄の鎖が渦巻いていた。右腕からは、前回同様に黒地に金の紋様が入った楔付きのワイヤーが射出されている。どうやら、光刃を鎖の結界で防御していたらしい。
「だが、Model-GEEDの弱点を見抜いたのは、流石だと褒めといてやる。俺がギアとして鎧う事のできる聖遺物はこの『エンキドゥ』のみだ」
「エンキドゥ……。王の友、か……!?」
エンキドゥ。メソポタミア神話に登場する、神々に創られし英雄の名だ。
人類最古の英雄譚、ギルガメッシュ叙事詩に登場し、暴君ギルガメッシュを諌める為に遣わされるも、神々の意に反して彼の無二の友となり、最期は神の罰として土に還されたという逸話を持つ英雄。
その名を冠する聖遺物こそ、ツェルトの本来のRN式。神より遣わされし天の鎖。
「さて……俺に見合わない得物がお気に召さないってんなら、お望み通りにしてやるぜッ!」
「ッ!? うわああああああああッ!?」
ワイヤーで腕を縛られたまま、翔はグルグルと宙を回される。
左腕の刃でワイヤーの切断を試みた瞬間、ツェルトは翔に巻き付けていたワイヤーを外した。
「くッ!? ぐううううッ!?」
翔は何とか空中で体制を整え着地するも、目を回してふらつき、尻餅を着いた。
「ウェーブスインガーの乗り心地は如何だったかな? リバースしそうなら、エチケット袋くらい貸してやるぜ?」
「こい、つ……減らず口、を……」
ふらつきながらも立ち上がり、ツェルトを睨む翔。
だが、苦戦を強いられているのは翔だけではなかった。
「信じ合って 繋がる真の強さを──」
「がは──ッ!?」
バットのように振られた鎌の柄が、クリスの腹部に容赦なく叩き込まれる。
怯んで頭が下がった隙に、柄本で殴られたクリスは地面を転がる。
奪取したソロモンの杖もまた、彼女の手元を離れてしまった。
「クリスちゃんッ!」
響がクリスに駆け寄り、調はローラーで地面を滑りながらソロモンの杖を回収に向かう。
「くッ……させないッ! 転調ッ!」
純がRN式を纏い、転がる杖へと手を伸ばす。
「ふんもっふッ!」
「あぁッ……!」
しかし、それより早くツェルトのワイヤーが、ソロモンの杖を釣り上げる。
そこへ接近してきた調は目の前にいた純へと、ヘッドギアの左右のホルダーからアーム付きの巨大な2枚の回転鋸を展開し、無防備な純を斬り裂いた。
「邪魔……ッ!」
〈γ式・卍火車〉
「ぐわああああッ!」
「ジュンくんッ!」
純の身体は宙を舞い、クリスの目の前まで転がった。
「時間ピッタリの帰還です。お陰で助かりました。むしろ、こちらが少し遊び足りないくらいです」
ウェル博士の周囲に、フィーネの装者達が集まり、ツェルトがウェル博士にかけられた手錠を破壊する。
「助けたのは、あなたのためじゃない」
「や、これは手厳しい」
調からのドライな返しに、ウェル博士はわざとらしく肩を竦める。
その態度に、ツェルトは溜め息を吐きながら、破壊した手錠を投げ捨てた。
「純、大丈夫かッ!?」
「なん、とか……」
「大丈夫ッ!? クリスちゃんッ!」
「くそったれ……。適合係数の低下で、身体がまともに動きやしねぇ……ッ!」
翔は純に、響はクリスに肩を貸し、立ち上がらせる。
「──でも、一体どこからッ!?」
「本部、どうなってるんですかッ!?」
『装者出現の瞬間まで、アウフヴァッヘン波形、その他シグナルの全てがジャミングされている模様ッ!』
「二課が保有していない異端技術……ッ!」
友里からの索敵結果に、翔は苦々しげに歯噛みした。
ff
翼は左膝を抑えながら、息を整える。
その一方でマリアもまた、翼に追い打ちを仕掛けられずにいた。
先程の打ち合い。押し勝ったのはマリアだったが、翼のアームドギアは僅かにマリアの横腹を斬り裂いていた。
切り傷の付いた部分をマントで隠しながら、マリアは眼前の翼を見据え続ける。
(こちらの攻撃に合わせてくるなんて、この剣──可愛くないッ!)
翼はというと、手を握り、開きを繰り返していた。
ギアの動作が、先程に比べて軽くなって来ているのを感じていた。
(……少しずつだが、ギアの出力が戻って来ている……いけるか?)
「はぁ……はぁ……」
(ギアが重い……ッ!)
睨み合う両者。両者共に傷を負っており、おそらく、先に動いた方が不利となるだろう。
平行線を辿る睨み合いを終わらせたのは、ナスターシャ教授からの通信だった。
『適合係数が低下しています。ネフィリムはもう回収済みです。戻りなさい』
「──ッ! 時限式では、ここまでなのッ!?」
「──ッ!? 時限式……?」
マリアが口走った言葉は、翼にその答えを連想させるのには充分であった。
フラッシュバックするのは、あの日のライブ。
この両腕の中で塵と消えた片翼が、最期に見せた一筋の涙。
(まさか……奏と同じ、LiNKERを……?)
その時、上空からの激しい風圧が吹き付け、翼は思わず手を翳した。
上空を見上げると、そこには紫色の光と共に浮かび上がるシルエット。
「く──ッ! ヘリッ!? どこから──ッ!?」
それは、両翼にそれぞれプロペラを持つ大型ヘリであった。
F.I.S.が保有する大型ヘリ、『エアキャリア』。姿を隠し続けていたそれが今、ようやく全容を現した。
「あなた達は、いったい何をッ!?」
「保管されていた生弓矢を奪い、姉さんのライブ会場を襲って……目的は何なんだッ!」
仲間に肩を貸しながら、響と翔は問いを投げかける。
ずっと疑問だったのだ。彼女達が何故、テロリストになったのかを。
その問いかけに調とツェルトは、逆行を背に答える。
「正義では、守れないものを、守る為に」
「世界を救い、大切な人を取り戻す……。ただ、それだけさ」
「──えッ……?」
「どういう……く──ッ!」
その意味を聞き返すより先に、エアキャリアからワイヤーが降下され、調と切歌は跳躍すると、ワイヤーの先に結ばれたグリップを握り上がっていく。
そしてツェルトは、アームドギアのワイヤーを貨物室のハッチに引っかけ、口元を少々引き攣らせながらウェル博士を抱えて昇っていった。
博士と装者を回収したエアキャリアは上昇を始め、この場から離れて行く。
「ぐッ……逃がすかよッ!」
「わわっ!?」
そこへクリスが、響の肩を振りほどいて前に出ると、アームドギアをスナイパーライフル型に変形させる。
頭部アーマーがカメラアイを伸ばした狙撃モードへと変わると、ネフシュタンの鎧に似たデザインのバイザーが下り、左目の部分にスコープが展開される。
〈RED HOT BLAZE〉
「ソロモンの杖を……返しやがれッ!」
位置はスコープのど真ん中。ターゲットロックの寸前。
紫色の光に包まれ、エアキャリアは空へと溶けるように消滅した。
「──はッ! なん、だと……ッ!?」
「ヘリが、消えた……ッ!?」
スコープからはあらゆるシグナルがロストしている。もう正確な位置も、距離も分からない。
いや、おそらく既に離脱済みだろう。
目の前で標的を逃し、ソロモンの杖をまたしても奪われた。
クリスはそこで糸が切れたように脱力し、ふらついた。
「ちく……しょう……ッ!」
「クリスちゃんッ!」
「すまねぇ……」
翔から離れ、慌ててクリスを支える純。
響と翔は数秒、水平線の向こうを見つめていたが、間もなく二人へと駆け寄るのだった。
ff
「反応……消失」
本部内の弦十郎達も、エアキャリアの消失を確認していた。
敵の撤退が確認され警戒態勢が解かれると、発令所の職員達が徐々に脱力し始めた。
下手を打てば本部が破壊されかねない戦いだったのだ。緊張するのも無理はなかっただろう。
「超常のステルス性能……ッ! 先刻の伏兵を、感知できなかったのもそのためか」
「そのようです。レーダーのデータレコードを確認しても、敵は唐突に出現し、そして消失しています……」
「これもまた、異端技術によるものか……?」
弦十郎は、今回の相手は現在の自分達だけで対処できない存在だと痛感する。
あちらには異端技術の専門家がいる。しかし、現在の二課にはそれが欠けているのだ。
とっくに退院できる所まで回復しているものの、先の一件で政府から警戒され、検査入院の名目で厳重な監視下に置かれてしまっている彼女。
その頭脳を今、特異災害対策機動部二課が必要としていた。
「そろそろ、了子くんを呼び戻さなければ……」
ff
エアキャリアの操縦室。
内部は最新鋭の輸送機と同等の設備が整っており、異端技術で改良されている分、そこらの軍用ヘリよりも高性能なこのヘリを操縦しているのは、ナスターシャ教授ただ一人。
そして各種計器類の一番上には、特殊ステルス機能『ウィザードリィステルス』の発生装置に接続された7つめのギアコンバーターが、射し込む陽光に照らされて赤く輝いていた。
(神獣鏡の機能解析の過程で手に入れた、ステルステクノロジー。私達のアドバンテージは大きくても、同時に儚く、脆い……)
「ごほっ……! ごほっ、ごほっ……!」
咳に口を押え、自らの掌に目をやるナスターシャ教授。
そこには赤黒く、吐き出された喀血が溜まっていた。
「急がねば……。儚く脆いものは他にもあるのだから……」
世界終末までのカウントダウンよりも先に迫る、自らの命のタイムリミット。
ナスターシャ教授は一人静かに、焦燥に煽られ始めていた。
一方その頃、貨物室内では……。
「ぐッ!?」
突き飛ばされたウェル博士が、背中から壁にぶつかり尻もちをついていた。
「下手打ちやがって! 連中にアジトを抑えられちまったじゃねぇか! オイオイドクター、俺達はこれから計画実行まで、何処に身を潜めろってんだ? まさか敵地の真っただ中で焚火炊いてキャンプでもしましょう、なんて言いだしたりしねぇよな?」
博士の胸倉を掴み上げるツェルト。コートを掴む手と反対側、硬い右手がギチギチと拳に握られる。
「そのくらいにしておきましょう。ドクターをいくら殴ったところで、何も変わらないのだから」
「……チッ」
ツェルトはドクターを突き放すように手を放す。
切歌は勝手に動いたドクターへの苛立ちを現すかのように地団太を踏んだ。
「胸糞悪いデスッ!」
「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか」
「どの口が言うか、どの口が!」
『虎の子を守りきれたのがもっけの幸い。とは言え、アジトを抑えられた今、ネフィリムに与える餌がないのが、我々にとって大きな痛手です』
操縦室から届く、ナスターシャ教授からのテレビ通信。
既に口元から垂れていた血は拭われている。
「今は大人しくしてるけど、いつまたお腹を空かせて暴れまわるか、分からない」
調の視線の先には、ビームを格子とした檻の中で眠る、ネフィリムの幼体。
アジトを失った今、エアキャリアの内部で暴れられれば一巻の終わりだ。
「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失ったわけではありません」
「あんのか? 腹ペコのネフィリムを満足させられる量の餌を用意する方法が」
「ええ、ありますとも」
立ち上がり、コートの襟を正しながら、ウェル博士は不敵に笑う。
切歌や調の首元に光る、ギアペンダントをじっと見つめながら……。
ff
「無事かッ! お前達ッ!」
甲板の搭乗ハッチを押し開け、弦十郎が上がってくる。
海上を航行する仮設本部の甲板にて、ギアを解除した装者達はそれぞれへたり込んでいた。
「師匠──」
「叔父さん……」
俯いていた装者達が顔を上げ、弦十郎の方を向く。
その顔には、それぞれ困惑や悔しさが滲んでいた。
「フィーネさんとは、たとえ全部分かり合えなくとも、せめて少しは通じ合えたと思ってました……。なのに──」
再び俯く響の肩に、翔が腕を回す。
弦十郎は装者達をまっすぐ見つめ、拳を握りながら言った。
「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろッ! 言葉より強いもの、知らぬお前達ではあるまいッ!」
弦十郎の言葉にクリスと純が笑い、翼は表情を引き締める。
そして響は両手を拳に握りながら膝で立ち、いつもの調子で答えた。
「言ってること、全然わかりませんッ! でも、やってみますッ!」
「きっと、必ずこの手は届く。いや、届かせてみせるッ!」
若者達の姿に、弦十郎は優しく微笑む。
また一つの戦いを終えた彼らを、海から顔を出し始めた太陽が明るく照らしていた。
後書き
気付いた人は多いと思いますが、セリフのいくつかが地獄から来てましたね。
ストリングで法螺貝かっさらったシーン(孤独な少年の為に戦う男ッ!)の弾幕ネタは、多分気づいてもらえないだろうからここで言っとく。
あとこれまでのアームドギアの元ネタは、
ライフル、ナイフ、純の盾片手で掴むシーン→北国の最強暗殺者
ハンドガン二丁拳銃→S.H.I.E.L.D.最高の女スパイ
直刀→吸血鬼狩りの剣士
ワイヤー→NYの親愛なる隣人
……と、それぞれアメコミヒーローになってます。
他にもハンドガン(ビーム)二丁でスター・ロードとか、バリエーションはまだある筈ですw
エンキドゥ:ジョセフ・ツェルトコーン・ルクスが身に纏うRN式シンフォギア。古代メソポタミア神話におけるウルクの第五代王、ギルガメッシュが無二の友とした千変万化の神造人間。
文献通りであればネフィリムと同じく自律型の聖遺物だが、発見されたのは破損した躯体の一部だけであった。
肉体を自在に変化させる能力を持っていたらしく、ツェルトはそれを鎖、及び極小の鎖を束ねたワイヤーとして使用している。
アームドギアが現在の形状へと至った理由として、暴君を諌め、民に愛された英雄の姿に「親愛なる隣人」を見たとはツェルトの談。
エンキドゥ、この名前にズッ友チェーンと反応した方は多いと思われます。
書くにあたって調べなおしたのですが、エンキドゥorエルキドゥ=鎖、というイメージはfateが発祥でして、原典にはそういった記述は存在しないとのこと。
でもわかりやすいイメージでしたし、文献によって外見が違うのも身体構造を変化させる能力があったと考えれば納得は可能ですので、極小の鎖を束ねたワイヤーという設定にしています。
あと今回、ツェルトの台詞に(ホ)いつの間に(!?)かパロディ仕込んでるのですが、察しの良い方々はもうお分かりでしょうね。
お前アメコミじゃないだろ、とか言わない。一応出演はしてるんだから。
次回は秋桜祭、つまりは文化祭回だ。
ここぞとばかりにオリジナル挟んでかなきゃ勿体ない!でもその分カロリー使うんだよな~!
更新が遅れてもお許しを。その分甘いの出しますので。
って事で次回もお楽しみに!
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