海を見て
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第一章
海を見て
港町に住んでいる女子高生藩敦子は今は波止場にいた、ウェーブがかかった黒髪を肩の高さで切り揃えている。背は一六六で優しい顔立ちで目が奇麗である。その彼女が足元にいる自宅の猫ホワイトに言った、名前通り白猫で性別は雄である。
その猫にだ、彼女は言った。
「帰る?」
「ニャア・・・・・・」
ホワイトは敦子の言葉に頷く様に応えた、そしてだった。
敦子に抱かれて家に帰った、敦子は家に帰ると両親に言った。
「ホワイト今日も波止場にいたよ」
「そうか、今日もか」
「何処に行ったかって思ったら」
「お兄ちゃん達にこと忘れられないみたいね」
こう両親、父の学と母の玲に話した。父は逞しい日に焼けた顔で大柄で筋肉質である。漁師に相応しい外見だ。母は穏やかで丸々と太っている。まるで肝っ玉母さんである。
その二人にだ、敦子は言った。
「まだね」
「もう一年経つがな」
父は苦い顔で話した、漁師仕事は今日は休みでずっと酒を飲んでいる。漁師は真夜中と言っていい時間に仕事をして朝に魚を港に送る。それが終わってから飲むのだ。だが今は仕事が休みでそれでずっと飲んでいるのだ。
「それでもか」
「まだね」
「そうなんだな」
「お兄ちゃんにも香菜さんにも懐いてたからね」
兄とその妻だった人にというのだ。
「だからね」
「仕方ないけれど」
今度は母が心配そうな顔で言った。
「あれはね」
「事故だからね」
「ええ、海に出ていて急にね」
それこそというのだ。
「荒れて」
「それでよね」
「波に飲まれたから」
「二人で遊んでいた時に」
「もう仕方ないわ」
こう言うのだった。
「事故だから」
「誰が悪いものじゃなくて」
「だからね」
「そうよね、けれどね」
「ホワイトはまだ忘れられないのね」
「うん、お兄ちゃん達が死んだってね」
その様にというのだ。
「考えられないかも知れないわ」
「そうなのね、けれどね」
「お兄ちゃん達は死んで」
そしてというのだ。
「もう帰って来ないから」
「だからよね」
「波止場でずっと待っていても」
それでもというのだ。
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