台風の中で
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第三章
「こうした理由だった」
「そうなんだな」
「ああ、それでだ」
父はさらに言った。
「母猫はずっとこの部屋にいるしな」
「飼うんだな」
「そうすることにした」
こう息子に答えた。
「こうなっては仕方ない、子猫達もな」
「飼うんだな」
「うちで産んだ、ならな」
それならというのだ。
「五匹共だ」
「親父が飼ってか」
「育てる」
そうするというのだ。
「これからはな」
「そうか、いいことだな」
「いいことか」
「家で一人でいるよりずっといいだろ」
息子は父に笑って話した。
「それよりもな」
「そうだな、一人でいると何もすることがないが」
「猫がいるとな」
「その分騒がしくてか」
「賑やかにもなるだろ」
だからだというのだ。
「俺はいいと思うな」
「ならこれからはな」
「その六匹と暮らすか」
「そうする、名前も考えてやるか」
「あと病院にも連れて行けよ」
息子は父にこう言うことも忘れなかった。
「子猫用の餌とかも必要だしな」
「ミルクもだな」
「ああ、何かとやることは多いぜ」
「全く、後はお迎えを待つだけだと思っていたが」
父は苦笑いになってこの言葉を出した。
「それがな」
「よかったな、家族が出来て」
「よかったか」
「これから猫達と幸せに生きろよ」
「やれやれだな」
「それでも悪い気はしないだろ」
「確かにな」
父は猫達を見つつ笑って答えた、そしてだった。
猫達と共に暮らしはじめた、すると自然と笑顔が増えてもっと生きようとも思う様になった。朝から晩まで猫達といてだった。
息子に電話で言った。
「名前も決めたぞ」
「何てしたんだ?」
「母猫はリリィにした」
「女の子だからか」
「谷崎潤一郎の小説からだ」
猫と庄蔵と二人の女からだというのだ。
「名付けた」
「親父谷崎好きだったんだな」
「学生の頃結構読んだ、それで子猫達はな」
「何て名前にしたんだ?」
「雌はサツキ、キク、雄はジュウ、ライ、ゴンにした。それぞれ首輪に名札も付けた」
そうもしたというのだ。
「それで病院にも連れて行った」
「病気なかったか?」
「なかった」
「それはよかったな」
「朝から晩まで大変だ」
父のこの言葉は笑っているものだった。
「本当にな」
「それでも楽しいだろ」
「ああ、毎日な」
「本当によかったよ、今度女房と息子連れて行くからな」
「猫を見せにだな」
「うちは犬いるけれど猫もいいからな」
それでというのだ。
「今度は家族で行くな」
「待っているぞ」
「ああ、そういうことでな」
息子も自然と笑顔になっていた、そうして父と猫の話をした。それは決して悪いものではなかった。心から楽しいものだった。
台風の中で 完
2020・4・22
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