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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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戦姫絶唱シンフォギアG
第1楽章~黒の装者達~
  第7節「S2CA」

 
前書き
今回はタイトル通りです。
アニメ第二話までは今回で達成、まずはひと段落といったところですね。

それと、前回後書きのModel―GEED詳細に書き忘れていた設定がありましたので、追記しました。ご確認ください。

それでは皆さん、ご唱和ください!
これがわたし達のぉぉぉぉぉ!絶唱だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 

 
黄緑色の閃光と共にステージ上へと現れた巨大なノイズ。

それは、黄緑色のブヨブヨとしたイボだらけの肉塊を寄せ集めたような、かなりグロテスクな外見をした未知のノイズであった。

「うわあぁぁ~……ッ!? なにあのでっかいイボイボッ!?」
「……分裂増殖タイプ」
「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!?」

驚く響達だが、『フィーネ』の装者達も困惑している。
どうやらこのノイズの出現は予想外であったらしい。

「マム……」
『三人とも退きなさい』
「……分かったわ」

マリアは両腕を合わせ、空へと掲げる。

すると、マリアの両腕のプロテクターは合体して射出され、一振りの黒い槍の形へと変化した。

そのプロセスは、天羽奏がアームドギアを形成する時と同じもの。
それを見た翼は、先程まで手こずっていたマントが単なるサブウェポンだったと気付き、驚愕する。

「アームドギアを温存していただと!?」

マリアはアームドギアの穂先をノイズへと向ける。
アームドギアの先端が真ん中から分割されると、その中心部へと紫色のエネルギーが充填され始める。

そして、チャージされたエネルギーはやがて、一筋の閃光としてノイズへと向けて放たれた。

そう、使役している巨大ノイズを自ら攻撃したのだ。

〈HORIZON✝︎SPEAR〉

「おいおい、自分らで出したノイズだろッ!?」

爆散するノイズ、肉片のように飛び散るノイズの体躯。

マリアはマントを翻し、切歌、調と共にステージの隅へと走って行く。

「ここで撤退だと!?」
「折角温まってきたところで、尻尾を巻くのかよッ!」

翼とクリスが追いかけようとしたその時だった。

「あぁッ!? ノイズが!!」

響の驚く声に周囲を見回すと、飛び散ったノイズの欠片が不気味に蠢いてるではないか。

しかも先程、マリアのアームドギアに貫かれた本体も、まるで風船が膨らむかのようにブクブクと、元の大きさへと再生していく。

「はッ!」

翼はアームドギアを大剣型に変形させ、蒼ノ一閃を放つ。

飛び散ったノイズの身体は炭となり消し飛んだが、一部を切断されるに留まった個体は再生し、更に増殖していく。

「こいつの特性は増殖分裂……」
「放っておいたら際限ないってわけか……そのうちここから溢れ出すぞッ!?」
「響、姉さんッ!」
「クリスちゃんッ!」

三人がノイズの特性を確認した所で、観客席の奥からこちらへと走って来た翔と純が合流する。

「翔くんッ!」
「この状況は!?」
「見ての通りだ。あいつら、厄介な置き土産を残して行きやがったッ!」
「分裂増殖タイプ、か……。いつにも増して趣味の悪い外見しやがってッ!」
『皆さん、聞こえますかッ!』
「緒川さん、何でしょう?」

そこへ、緒川からの通信が入る。

『会場のすぐ外には、避難したばかりの観客達が居ますッ! そのノイズをここから出すわけには……!』
「観客ッ!?」
「皆が……!」

響と翔の脳裏に、未来達親友らの顔が浮かぶ。
純やクリスも、苦虫を噛み潰したような表情で周囲のノイズを見回した。

「迂闊な攻撃では、いたずらに分裂と増殖を促進させるだけ……」
「どうすりゃいいんだよッ!」

翼とクリスが万策尽きたかと思い始めたその時、響が呟いた。

「絶唱……。絶唱ですッ!」
「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

しかし、響の表情は確信に満ちていた。
翔の方を見ると、彼もまた無言で頷いている。

「増殖力を上回る破壊力にて一気殲滅。立花らしいが、理には適っている」
「おいおい、本気かよ!?」
「他に策はない……か。今はこれが最善だと思うぜ、クリスちゃん。早くしねぇとあのグロいのが外に出ちまう……。やるしかねぇ!」

セルノイズ本体は更に膨らみ、脂肪のようなイボイボを破裂させては、更に分裂増殖を繰り返している。

迷っている暇はない。クリスは首を縦に振ると、響と手を繋ぐ。
クリスの右手を純が繋ぎ、響の左手は翼に繋がれた。

翔が四人の背後でアームドギア、天詔琴(アメノノリゴト)を構える。

「サポートは任せろ。響だけを苦しませはしない」
「ありがとう、翔くん」

翔に微笑みかけると、響は……そして四人の装者は、眼前の災厄を毅然と見据える。

「行きますッ! S2CA・トライバーストッ!」

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl──』

戦姫達の唄が、誰も居なくなったライブ会場に響き渡る。

それは、雑音を掻き消し静寂をもたらす破邪なる唄。

重なる五つの歌声が一つの唄となり、災厄を打ち払う力と束ねられていく。

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl──』

唱え終わったその瞬間、強大なエネルギーの本流が逆巻き、五人の髪を舞い上げる。

「スパーブソングッ!」
「コンビネーションアーツッ!」
「セット、ハーモニクスッ!!」

響の胸に残る傷跡が、ギアの内側から光り輝く。

束ねられた三色の音色が、虹色の光を放ちながら響の身体へと収束していく。

既に余波で何体かは消し飛んだものの、絶唱のエネルギーはまだ解き放たれてはいない。

「うああああああああッ!」
「耐えろッ! 立花ッ!」
「もう少しだッ!」
「気合いだッ! 踏ん張れッ!」

響が苦しげに唸る声。
手を繋いだ翼達は、響の手をしっかりと握り締め、彼女を激励する。

響を中心に広がっていく虹色の光は、絶唱と共に明かりが落ちたライブ会場の外にも溢れ出し、避難した観客達は揃って空を見上げていた。

“S2CA・トライバースト”。
それは、装者3人の絶唱を響が調律し、ひとつのハーモニーと化す大技。

それは、手を繋ぐことをアームドギアとする響にしか出来ない、とっておきの中のとっておきだ。

だが、その負荷は響一人に集中してしまう。
他の装者の苦しみを響は一人で肩代わりし、バラバラな音色を一つに束ねて放つのだ。

しかし……そんなデメリットを、黙って響に背負わせる事を良しとしない男が一人。

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッ!」

当然、響達の背後で天詔琴を伴奏する翔である。

彼のアームドギア、天詔琴が奏でる「生命の旋律」には、フォニックゲインを安定化させる力がある。

その力で響に集中し、荒れ狂うエネルギーの奔流を押さえ込み、その調律を手助けする事で響の負担を減らす事が可能なのだ。

無論、絶唱クラスのフォニックゲインともなれば、調律する翔の肉体にも負荷がかかる。

だとしても、響だけを苦しませたくはない。
翔の覚悟は、負荷による苦しみを捩じ伏せ、確かに響への負荷を通常の半分以下に減らしていた。

やがて、分裂増殖を繰り返す肉塊は全て消し飛ばされ、イボノイズの本体がその姿を現す。

分厚い肉塊に覆われていたその本体は、先程までとは真逆のひょろっちいものだった。

人間のものに似た脊髄に細長い二本足、そしてウチワエビの様な形の頭部をした青いノイズ……。
それがセルノイズの正体である。

「今だッ!!」
「レディ……!」

響のギアのプロテクターが、脚部から頭部にかけて順に展開されていく。

両腕を合わせると、かつての奏や先程のマリアのように、響の両腕のプロテクターがひとつに合体した。

だが、先の二人と異なっているのはその形状。
そのまま腕から着脱され、槍の形状へと変わる二人と違い、響のプロテクターはそのまま右腕で変形・展開され、タービン型のナックルの形を取った。

周囲に広がっていた虹の光が、響のナックルへと集束していく。
右腕にエネルギーを集めた響は、拳を握り構える。

「ぶちかませッ!」
「ブラックホールを吹き荒らせッ!」

クリス、純の叫びと共に響は跳躍し、腰背部のブースターでノイズの頭部まで加速する。

「これが私達のッ! 絶唱だァァァァァッ!!」

拳がノイズに突き刺さった瞬間、ナックルの縁に存在する四つのブレードが展開され、ナックル全体が高速回転する。

そして、ガンッ!という鈍い音と共にパイルバンカーの要領で打ち込まれた膨大な絶唱エネルギーは、ノイズを一瞬で炭素の塊へと粉砕する。

否、そのエネルギーはノイズを殲滅するに留まらず、虹色の竜巻となって天へと登り、空を穿ち、大気圏を飛び越えてようやく霧散する程のものであった。



その光景はライブ会場を撤退し、離れたビルの屋上からその様子を伺っていた三人の装者にも届いていた。

「なんデスか、あのトンデモはッ!?」
「綺麗……」

あまりの突飛な光景に瞠目する切歌。
その一方、場違いとも言えるが率直な感想を呟く調。

そして……

「こんなバケモノもまた、私達の戦う相手……くッ」
「……」

虹色の竜巻を睨みながら歯噛みするマリアを、ツェルトは静かに見つめていた。

ff

ライブ会場の様子をモニタリングしながら、ビル下の立体駐車場に駐車された特殊車両の中。

モニターに表示されるのは、虹色の竜巻。
そして、二つの聖遺物らしきもの。

一つは赤子のように蹲った、甲殻生物の幼体のような見た目をしたもの。

もう一つは欠片。そちらは弦楽器の弦を支える琴柱(ことじ)によく似ていた。

それらの画像の上には『COMPLETE』の文字が点滅する。

絶唱により生まれる強大なフォニックゲイン。
それは響達の与り知らぬ所で利用され、二つの聖遺物を同時に起動する為に使われてしまっていたのだ。

「フッ……夜明けの光ね」

そして暗がりの中、マムと呼ばれている老年の女性は、自分達の目的への第一歩に、満足気な笑みを浮かべていた……。

ff

ノイズの驚異を退け、明かりの落ちたライブ会場には再び、不気味なほどの静寂が訪れていた。

後に残るのは風に吹かれて舞い散るチラシや、炭素分解されたノイズだったものの塵ばかり。

その真ん中で一人、立花響は膝を着く。

既にギアは解除されており、今の彼女は私服のセーター姿だ。
俯くその表情にいつもの明るい微笑みは消え失せ、代わりに広がるのは暗い影であった。

『そんな綺麗事をッ!』
『痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言って欲しくないッ!』

彼女の心の中に反響しているのは、先程交戦した紅刃のシンフォギアを纏う少女……調からの言葉だった。

調は手を差し伸べようとする響の言葉を、偽善だと斬って捨てた。
偽善。その言葉は、響の胸に酷く突き刺さる。

「無事か、立花ッ!」

ギアを解除した翼達が駆け寄る。

「へーき……へっちゃらです……!」

振り返った響の目には涙が伝っていた。
それを指で拭って笑う響に、クリスはしゃがみながら肩に手を置く。

「へっちゃらなもんか! 痛むのかッ!? まさか、絶唱の負荷を中和しきれなくて──」
「響ッ!!」

翼の隣を走り抜け、響の前にしゃがんだのは、先程まで純に肩を抱えられていた翔であった。

「どうした? 何があった!? 何処か痛むのか? まさか、俺の伴奏が不完全だったとか──」
「ううん……」

慌てる翔に、響は首をブンブンと横に振る。

「わたしのしてる事って、偽善なのかな……? うっ……」
「響……」

響の脳裏にフラッシュバックする、モノクロの記憶。

心無い言葉の書かれた紙が一面に貼られた家の玄関。

窓から差し込む温かい太陽の光さえ遮られる、形ある悪意。

泣き崩れる祖母。祖母に寄り添う母。

古傷を抉られたように、響の目からは止めどなく涙が溢れ出す。

「胸が痛くなる事だって、知ってるのに……ひっく……」



その泣き顔は、とても懐かしいものだった。

と言っても、それは全然穏やかな記憶ではなく、寧ろ俺にとっては忌むべき思い出。

響にとっては一生忘れる事が出来ない、深い傷跡。

この、声を噛み殺すような響の泣き方を、俺はよく知っている。

腸が煮えくり返るような怒りが湧き上がる。

誰だ、響を泣かせた奴は。

誰だ、彼女を苦しませるのは。

響から笑顔を奪ったのは……俺の太陽を曇らせたのは、何処の何奴だ!!

……だが、その怒りは一瞬にして収まる。

今、俺がすべき事を、心が、魂が訴えているからだ。

俺はもう、あの日の“僕”ではない。

溢れる涙が落ちる場所は──ここにあるのだから。

「うっ……うぅっ……ひっぐ……うう……」
「……響」

響の身体を抱き寄せ、その顔を胸に埋めさせる。

シャツが濡れるとか、知った事か。
響の涙を受け止めるのは、その恋人と認められし風鳴翔の責務だ。

「翔……くん……?」

響の背中と後頭部に回した腕に力がこもる。

怒り以上に心を占めた感情が、俺に自然とそうさせた。

口から出た言葉もまた、あの日から一日たりとも揺らいだ事は無い。

俺は、響のヒーローなのだから……。

「たとえ誰が否定しようとも、俺は響の味方だ」
「ッ……!」
「だから……思いっきり泣いていいぞ。痛みを堪える君の顔が、俺には何より辛いんだ」

その瞬間、響の腕が俺の背中に回され、痛いくらいに強く力を込められた。

「うっ……ぇぐっ……うわああああああぁぁぁん!! うぅ、ああ、わああああああぁぁぁぁん!!」

俺の胸に顔を押し付けて、子どものように声を上げて泣き喚く響を、俺はもう少しだけ力を込めて抱き締め、頭を撫でる。

何があったのか、聞けるのは泣き止んだ後でいい。

今はただ、こうしていたい。
彼女の心に寄り添い、抱き締める事だけが、今の俺に出来る最善なのだから……。

ff

そして、少年少女の様子を物陰で窺いながら、ニヤリと歯を見せほくそ笑む、銀髪白コートの男が一人。

「やれやれ……。ルナアタックの英雄も、蓋を開けてみればただのJKってわけですか」

生化学者ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。通称、ウェル博士。
右手に握るソロモンの杖を待機状態に変形させ、彼はゆっくりと非常口から立ち去っていく。

「英雄は涙を流さない。英雄が涙を流す時は、愛する者と死別した時だけで十分ですよ。取るに足らない言葉一つで傷付く英雄が、世界の何処に居るって言うんですかねぇ」

扉を抜け、階段を降り、監視カメラをすり抜けられるルートで集合ポイントへと向かいながら。

誰に聞かせるわけでもないのだが、そんな独り言を呟きながら彼は暗がりを歩き続ける。

「やはり、真の英雄に相応しいのは……くひっ……」

欠けた月に照らされた顔に映されし狂気は、果たして何を呼ぶのか……。

彼の野望が顔を出すのはまだ、この先の話である。 
 

 
後書き
第一楽章、これにて終了!
響を泣かす奴は許さないけど、泣いている響には涙を押し殺してほしくない翔くん。
だからこそ、「泣くな」ではなく「泣いていいよ」を選んでいます。
木陰は照らすものではなく、覆い包むものですから。

え?純くんいるのに三重奏はおかしいって?
その辺りは無印第六楽章~魔塔カ・ディンギル~を読み返してもらえれば分かりますよ。
じゃあ純くん何してるのかって?
絶唱を口にするクリスの手をしっかりと握ってくれているだけです。大事なことですとも。

それからS2CA発同時、原作だとギアの展開後に響の姿が明滅を繰り返して、一瞬だけ暴走状態の姿になっているのですが、こちらではその演出がありません。
翔くんの伴奏で安定性が向上している証ですね。愛ですよ、愛。

次回からは第二楽章、「ネフィリムの目覚め」へと突入します。
トラウマが……G編屈指のトラウマの足音が近づいてくるぅぅぅ!!

ちなみに、執筆のためにGYAO!のお世話になっております。
近隣のゲオにシンフォギアのレンタルを開始するように要望を出したい……。

ウェル「久しぶりの次回予告、再会を楽しみにしていた皆さんは多いでしょう。というわけで、G編初の次回予告はこの僕、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスがお送りいたします。え?お呼びでない?猫被ってるんじゃねえ、ですって? やだなぁ、何を言っているんですかそうです僕こそ真実の人ぉ!ドクター・ウェルぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 今はまだまだ序盤ですからねぇ。まあ、物足りないのも仕方ないでしょう。ですがこれは、僕が英雄になるまでの物語。君達が読んでいるのはまだまだその序章に過ぎないのですッ! ここから様々な試練を乗り越え、僕は真の英雄へと至るッ!さあさあ紳士淑女少年少女、それからついでにオジサンオバハンまでどうかご覧あれ!君達は歴史の目撃者になるのですからッ! というわけで『博士(はくし)絶叫ドクター・ウェル~生化学者の英雄譚~』、次回も見逃せませんよォ! うぇひっ!うぇひひひひひひひひ……!」
ツェルト「勝手に乗っ取ってんじゃねぇぞこの非モテメガネ!」
ウェル「あべしッ!」
ツェルト「次回『戸惑いのカルマ―ト』。サービスシーンもあるぞ。だが男どもは見るなッ!」
ウェル「男が見ちゃいけないサービスシーンとはいったい……」
ツェルト「お前にだけはツッコミ入れられたくないわ~……」

……なんか濃い人来ちゃいましたね(汗)
それでは、次回もお見逃しなく! 
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