人徳?いいえモフ徳です。
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五十六匹目
国王アルフレッドと王太子アーネストが店に入ると、一部の者達がひざまづいた。
それはドラゴニュートの三人娘だったり、オーガーの大男だったり、どこにでもいそうなおじさんだったり、それなりに可愛い娘だったり。
「顔を上げよ。この店の入り口にあっただろう。この店に来る物に貴賤はない。
国王だろうが、子供だろうが、皆等しく猫を愛する者としてここにくるのだ」
アルフレッドが皆を立たせる。
少し気まずそうではあったが、皆猫を愛でに戻った。
アルフレッドとアーネストがソファー席に腰かける。
シラヌイが深夜テンションで作り上げた超低反発ソファーだ。
「一つ欲しいな…」
「シラヌイ君の手製だそうです」
「今度会ったら頼んでみるとしよう」
アルフレッドがソファーの前のテーブルに置かれたメニュー表を手に取る。
「ふむ。少し早いがここで食べるとしようか」
「そうですね。ここから城に戻っていては昼食の時間には遅れてしまいます」
メニュー表を開くと、そこにはメニューがイラストと共に書いてある。
「ふむ…? 見たことの無いメニューが多いな…。シラヌイ君の世界の食べ物だろうか…。
ふーむ………?」
アルフレッドが対面のアーネストにメニュー表を手渡す。
「……………………父上。私に渡されましても」
「そうか、そう言えばお前はあまりシラヌイ君とは交流が無かったな…。おや?」
「どうされました父上?」
「このホットケーキとやら、前にクーコが食べたとかどうとか聞いたような……」
「私はそのような話をされたことが無いのですが…」
「少しはクーコに構ってやれバカ者」
アルフレッドがウェイターを呼んだ。
「このホットケーキセットを二つ貰おう」
「畏まりました。ドリンクはどうされますか?」
ウェイターがメニュー表のドリンクコーナーを指差す。
「ふむ…? 聞いた事の無いメニューが多くてな。君のオススメは何だ?」
「そうですね。ではサイダーなどどうでしょう? シラヌイ様の考案された物と聞いております」
「ではそれにしよう。アーネストもいいか?」
「はい。私もそれで」
「畏まりました。ホットケーキセット二つ、ドリンクはサイダーで宜しかったですね?」
「うむ」
「少々お待ち下さい」
ウェイターが引っ込む。
そこで足元でニャァと鳴く声に気づく。
アルフレッドのズボンに一匹の猫が顔を擦り付けていた。
「おや」
アルフレッドがその猫を抱き上げ、膝に乗せた。
それなりに大きい猫だが、おとなしい。
「おぉ…癒される」
アルフレッドは膝の上に乗せた猫を撫で回していた。
「にゃぉん……ごろごろ…」
「ここか? ここがいいのか?」
猫が顎の下を撫でられてごろごろと音を出す。
「どうしたアーネスト? 羨ましいのか?」
「いえ…」
「なぉーん…?」
いつの間にか、アーネストが座るソファーの肘掛け部分に猫が居た。
「………………………………」
「にゃぅ?」
こてん、と首をかしげる猫。
アーネストが手を伸ばし、猫を抱く。
「うにゃーん♪」
「お、おぉ…!」
手に感じるモフッとした反発にアーネストが驚きの声をあげる。
綺麗に整ったその顔の、瞳をキラキラと輝かせる。
まるで子供のようなその瞳を見てアルフレッドはクスリと笑った。
暫くして、二人の前に注文した物が置かれた。
「ふむ…?」
丸い皿の上に少しずらして置かれた二枚のホットケーキ。
その横に置かれた注ぎ口のついたカップには練乳がなみなみと入っている。
そこまではいい。
問題は……。
しゅわしゅわしゅわしゅわしゅわ……。
「これは飲んでも大丈夫な物なのだろうか」
炭酸が目一杯入ったサイダーだ。
その様子は酸に金属を入れたときのようで、飲むには躊躇う。
この世界にも炭酸の入った酒はある。
ありはするのだが、ここまで派手には炭酸が出ない。
「大丈夫でしょう。空戦遊撃隊の隊長も飲んでいますし」
アーネストが指差したのはドラゴニュートの女性客三人……攻勢師団群第五師団空戦遊撃隊隊長とその副官二名だ。
「そうだな。それに、その程度で死ぬ体でもないしなぁ」
アルフレッドがサイダーにつけられたストローを加えた。
その瞬間強烈な炭酸がアルフレッドの口に広がった。
コクリとアルフレッドの喉が動く。
「なんと刺激的な…!」
驚くアルフレッド。
アーネストもサイダーを口に含む。
「おお……これは……新しいですな」
コトリとサイダーのグラスを置く。
「さてホットケーキだが…これは牛乳か…? それにしては粘度が高いが」
ホットケーキに練乳をかけながらアルフレッドが呟く。
練乳をかけたホットケーキを切り分け、口に運ぶと…。
「こ、これは牛乳ではないな…。これはなんだ?」
「私に聞かれましても」
「それにこの生地も不思議だ…」
二人は無言でパクパクとホットケーキを食べ、直ぐに完食した。
ウェイターがいいタイミングで皿を下げる。
そのあと二人は時を忘れて猫をモフっていた。
そう、時を忘れて。
「アルフレッド? 一向に戻ってこないと思ったら何をしているの?」
「つぇ、ツェツィーリア!?」
「母上っ!?」
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