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閉じられた口も

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第一章

                閉じられた口も
 娘のまどかが家に帰ってきて暗い顔で言った話に結城詩織はどうかという顔になって娘にすぐに聞き返した。大きな目で肌は白く赤がかった黒髪をショートにしている。胸は大きくえんじ色のセーターと青のジーンズを着ている。
「それ本当のこと?」
「うん、赤崎さんのお家の近くの田んぼのところにね」
 まどかは母に話した、母と同じ茶色がかった黒髪の毛を左右でツインテールにしている。あどけない顔立ちで目は大きい。黒と白の小学校の制服と帽子それに赤いランドセルが似合っている。
「黒と白の犬がいるけれど」
「お口縛られてるの」
「それで凄く苦しそうなの」
「ワンちゃんは舌を出してそれで体温を調整するのよ」
 母は娘にそのことを話した。
「息だってするし」
「食べて飲んでね」
「そう、だからお口をそうされたら」
「大変よ」
「じゃあ」
「すぐに案内して」
 その犬がいるところにというのだ。
「助けてあげないと」
「じゃあ今すぐに」
「行きましょう」
 こう言ってだった。
 詩織は娘に案内されてそうしてだった。
 その場所に行った、すると。
 そこには顔の真ん中から口に首そして腹のところが白く他の部分は黒い耳が垂れたライカ犬がいた。口を赤い紐でぐるぐると縛られていてとても苦しそうだ、そうして田んぼのあぜ道を彷徨っている。首輪はない。
 その犬を見てだった、詩織はすぐに犬のところに駆け寄って。
 そうして懐から出した鋏で犬の口を縛っていた紐を切った。するとすぐに犬は口を開いて舌を出して必死にへっへっへ、とやりだした。
 詩織はその犬を見てすぐに娘に言った。
「獣医さんのところに行くわよ」
「そうするの?」
「とりあえず紐は切ったけれど」
 そして口が開く様にしたがというのだ。
「まだね」
「危ないの?ワンちゃん」
「ずっとお口を閉じられていたから」
 だからだというのだ。
「どうかわからないから」
「獣医さんのところに行くの」
「ええ、あとこの子野良犬か捨て犬みたいだし」
 それでともだ、母は娘に話した。
「獣医さんに見せた後でね」
「うちで飼うの?」
「そうしましょう、お父さんにはお母さんが言うから」
 実はそのことは大丈夫だと思っている、夫の克己も犬好きだからだ。
「だからね」
「この子うちの家族になるのね」
「ええ、そうよ」
 こう言ってだった。
 詩織はまどかと一緒に犬を病院に連れて行った、すると獣医はこう言った。
「お口を縛られていて体温が熱くなっていて呼吸も出来ずお水も食べものも口に出来なかったので」
「それで、ですか」
「弱っていますが命に別状はないです」
「そうですか」
 詩織もまどかも獣医の言葉を聞いてほっとした。
「よかったです」
「はい、ただ犬の口を縛るとは」
 獣医は詩織から聞いたそのことについて顔を曇らせて言った。
「随分と酷いですね」
「とんでもないことですよね」
「犬は舌を出してそれで体温を調整します」
「そこから汗を出して」
「犬の口は呼吸や飲食だけに使いません」
 体温調整にも使うというのだ。
「ですからそんなことをするなんて」
「酷い人をいますね」
「全くです、ですが発見が早かったので」
「この子はですね」
「命に別状はないです」
 獣医は微笑んで話した、そして実際にだった。 
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