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一発ネタ
【お試し版】もしも十二国記の転生者が王になったあと蝕で真・恋姫♰無双の世界に流されたら?①
「徇麟、よくやってくれた」
洛陽郊外。董卓軍の本陣へと麒麟が優美な姿で空を駆けてくる。それを嬉しそうに舜極国徇王は見ていた。周囲の董卓軍の将兵たちはいまだ愕然とした面持ちで、その光景を見ていた。麒麟や空行師の存在を知っていた董卓や賈 詡たちでさえ。
徇麟に続けとばかりに舜国左将軍、公孫瓚が空から白馬義従を引き連れると、地に降り一斉に伏礼をした。
最速の麒麟の足で以て、反董卓連合との決戦前に援軍を連れてくるのに成功したのである。
◆
虎牢関から撤退した董卓軍は洛陽郊外に布陣していた。その数は7万余騎。兵数11万を号していた当初に比べると随分減ってしまった。ただそれは敗北による被害ではない。ほぼ無傷である。
士気が低く裏切りの可能性が高かった何進所縁の将兵を遠ざけたためであるからだ。籠城戦では目を光らせることができても、野戦での内応を防ぐのは困難なのである。
だから、信頼できる将軍に預ける。
「丁原殿、徐栄殿。お任せしました」
「相国殿。なあに、足止めくらい任せんしゃい」
「もし別働隊が来たら――倒してしまっても構わんだろう?」
しかし、董卓軍の予想外の連戦連勝を受けてか。旧何進派の将兵は、当初に比べ手のひらを返したように協力的であった。そのため洛陽への迂回ルートを守備するよう指示してある。
武勲を立てるには足りないが、それなりに重要な役目であり旧何進派の将兵の士気も低くはない。皇帝直々に言葉を貰ったのも大きいであろう。
他方、25万余騎とも言われた反董卓連合は、15万を切るまでに痛撃を受けていた。なんとか洛陽郊外へと駒を進めてきたものの、汜水関、虎牢関と醜態を晒し続けてきた。
「おーほっほっほ、董卓さんは強敵でしたが最後に華麗に勝利するのはわたくし袁紹以外に他なりませんわ!」
「麗羽様、勝ち筋は見えておりますが、用心は必要です」
「田豊さんは心配性ですわね」
戦術的には負けたが戦略的には勝っている。それが反董卓連合の面々の認識であり、兵数もほぼ倍する。
洛陽は象徴的な都市であり防戦には向いていない。故に、決戦は洛陽郊外の平野であり、万に一つにも負けることはあるまい。
籠城戦と違い、野戦は兵数の差が有利不利に如実に現れるのだから当然であろう。将帥の質だって負けていない。
「はわわ、董卓軍が何を考えるのかしゃっぱりわかりましぇん。噛みました」
「あわわ、これは軍師の賈 詡の策ではありましぇんね。おそらく張角が献策しているはずでしゅ。噛みまみた」
「朱里ちゃんと雛里ちゃんは心配性だよ~。きっと大丈夫ですよね。ご主人様?」
「うん。俺が知る歴史でも董卓は敗れている。史実通りだと洛陽に火をつけて逃げるだろうから、この一戦で決着をつけよう。
まあ、皆女性だったり、呂布と張角が二人いる時点で天の知識は役に立たないかもしれない。注意してくれ」
しかしながら、一部の知恵者たちは董卓軍の動向を訝しんでいた。はっきり言って、不気味なのである。
諸葛亮。龐統。曹操。荀彧。周瑜。といった少数の名だたる将帥は必死に情報を集め、罠を警戒していた。もっとも対陣するまで何もつかめず。徒労に終わったものと判断していた。
「なんか嫌な予感がするのよね」
「ふむ、雪蓮の勘はよく当たるからな。だが念入りに調べたが、罠らしきものはなさそうだ。万一何かあっても野戦で倍の兵力なのだ。押し込めるだろう」
「うーん、そうなんだけど。冥琳の言う通りね。罠があっても食い破ってやるわ!」
唯一、孫策だけがその動物的な直感により、董卓軍に切り札があると確信していた。が、その正体が分からない以上、対策ができようはずもない。
だが切り札が何であろうと孫呉の精鋭ならば必ず切り抜けることができるであろうとも信じていた。
「董卓といえど、この曹操の覇道を防ぐには足りなかったわね」
「華琳様を超える者など漢のどこを探してもいないでしょう。連合で見どころのあるものと情報を共有しておりますが、罠の心配はないと思われます」
「うむ、華琳様の大剣である私がいる限り負けはない!」
「姉者、虎牢関の借りは倍にして返しましょう」
故に、皆が連合の勝利を疑いようもなく確信していたのである。――ふと空を見上げるまでは。
「おい、あれを見ろ!」
始まりは何となく空を見ていた兵士だった。遠くにぽつぽつと黒い影が空を飛んでいる。鳥の群れが近づいているのだろう。
だが急速に接近した影は、空を駆ける馬や怪鳥に人が騎乗している姿――彼らは知らないが空行師である――であった。一瞬、脳が理解を拒む。が、すぐに大声を上げるのだった。
「ひ、人が空を飛んでいるぞ!」
「馬鹿な!?」
つられて空を見上げた兵士たちが驚愕して大声を上げていく。うねるような叫び声の連鎖は、動揺を増大させていく。
「た、助けてたも!」
「お嬢様、孫策さんたちを囮に逃げますよ~」
連合の将帥は宥めるに必死であったが、すぐに無駄に終わる。
「槍が降ってきたぞ!!」
「逃げろおお!」
「て、天がお怒りになったのか!?」
天馬や怪鳥から槍が降ってきたのだ。大声は悲鳴へと変わった。今や空を埋め尽くすばかりの空行師が槍の雨を降らせていた。その数は千を超えている。
そして、援軍の派遣に成功した徇麟たちを張角は労うに至っていた。
「公孫瓚、元気そうじゃな」
「主上こそご壮健なお姿で、感無量であります!」
「うむ。よくぞ援軍を連れてまいった。じゃが、予想より多いのう。禁軍、殷州師合わせて五卒くらいと思っておったわ」
「功への備えである楚州を除く七州よりかき集めましてございます」
「なるほど、よくやった。他の将軍たちも頑張っているようじゃし、左将軍も存分に武を振るいなされ。護衛は奉先がいるので心配はいらぬ」
「かしこまりまして」
公孫瓚と呼ばれた左将軍――董卓達の知る公孫瓚とは別人であった――は嬉しそうに礼を述べると、白馬義従を連れ戦場に飛び去っていった。
徇王と名乗る彼が、舜極国という未知の国の王であるとは聞き知っていたが、冗談のような空行師や伏礼する臣下の姿を見るにつけて圧倒されてしまう。どこか半信半疑であったことは否めない。
董卓とて徇王が援軍の空行師を呼ぶとは聞いていたのだが、まさか千を超える数とは思わなかった。
董卓を含めた全員が、漢王朝の方が優れていると根拠なく思っていたのだから、なおさらであろう。
青ざめる董卓と陳宮、滅多に見れない呂布の驚愕した姿、乗ってみたいと騒ぐ張遼と華雄たち、賈 詡の百面相を見て呵呵大笑する徇王。
「ふえ~、すごい数です」
「なんたる理不尽です!」
「……びっくり」
「なあなあ、うちにも乗せてくれひん?」
「わ、私も乗ってよいだろうか」
「あとでじっくり話を聞かせてもらうからね!」
色々と聞きたいことはあるが、いまは戦に集中するべき。混乱する連合軍に止めを刺すべく、賈 詡は総攻撃を命じた。
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