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ペルソナ3[百合] 求めあう魂

作者:hastymouse
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前編

 
前書き
【警告】これは特殊な小説です。WARNINGであります。
百合漫画とか百合SFとか、最近は百合がブームです。ペルソナで百合といえば何と言っても千枝と雪子ですが、ゆかりと美鶴もかなりなものです。最初は反発してたのに、京の河原でひっぱたいて口説き落とすその展開は、よりドラマチック。後日談(FES)での美鶴のメロメロぶりは目を疑う程です。
ちょっと書きかけていたものがうまく行かなくて中断したので、勢いをつけるために禁断の世界に手を出してしまいました。
原作のキャラをイジられるのが嫌な人は、読むのを控えていただければと思います。 

 
「乙女が恋も知らずに死ねるもんですか。」
その時、ゆかり は熱弁をふるっていた。
彼女の前では最近お気に入りの紅茶が湯気を立てている。
ここはポロニアンモールの一画にある喫茶店「シャガール」。お洒落で落ち着いた雰囲気であり、ここで過ごせば自分の魅力まで上がるような気がすると学生の間でも評判の店だ。
ニュクスとの決戦を控えて日ごとに緊張感が高まる中、ゆかり は『彼女』と二人で、息抜きの為にポロニアンモールを訪れていた。
「絶対に勝って、生き延びて、バラ色の青春を送ってやるんだから。」
最後の戦いは目前に迫っていた。敵は圧倒的に強く、はっきり言って勝てる可能性は限りなく少ない。
しかし、それでも諦めたくはない。最後まで抗い続けたい。そのための戦いだ。負ければ人類は滅びるのだから・・・。
決戦は1月31日の影時間。戦えるのは特別課外活動部の7人と1匹のみ。他の誰にも頼ることはできない。
メンバー全員一致で、この戦いに挑むことを決めたのだ。同じ志の仲間がいることがこれほど心強いとは思ってもいなかった。
しかし決心を固めたとはいえ、常に不安感のとろ火に焼かれ続けている状態は過酷であり、ともすると心が折れそうになる。こんな生殺しの状態が続くなら、今すぐにでも決戦に挑んだ方がマシだ、と思ったりもした。ゆかり は己の怯む心に活を入れる為、ことさら前向きなセリフを吐き続けていた。そうでもしていなければ、膝をついて動けなくなってしまいそうだった。
「ゆかり は学校でも男子に人気があるんだから、その気になればいつでもカレシ作れるでしょ。選り取り見取りじゃん。」
それに対して、『彼女』はプレッシャーなどまるで無いかのようにのんびりとした調子で応じていた。
「そんなことないよ。第一 良く知りもしない人に人気があったとしても意味ないし・・・。」
ゆかり はその余裕のある態度が急に腹立たしくなってきて、『彼女』をやり込めてやりたくなった。
「そういうあんたの方こそどうなってんのよ。」
「何が・・・?」
『彼女』がキョトンとする。
「わかってるでしょ。例えば真田さん。女子にモテモテで、それこそ引く手あまたなのに、今まで全く興味を示してこなかった人なのよ。その真田さんが、あんたにだけは明らかに態度が違うでしょ。」
「そうかな?」
ゆかり の言葉にも、まるでどこ吹く風といった顔をしている。ゆかり はイライラをぶつけるように続けて言った。
「それに天田君だって、完全に意識しちゃって『あんたを守るのは自分だ』みたいな雰囲気出しまくってるじゃない。」
「天田君、可愛いよねー。」
相変わらず全く動じずに涼しい顔でジュースを飲む。
「亡くなった荒垣さんだって、強面で孤高の人だったのに、あんたにだけは熱い視線を送ってたし・・・。はっきり言ってうちの男子、総ナメじゃん。・・・順平以外は・・・。」
「別に私は誰かを特別にってことはないんだけどなー。」
「なん股女子高生よ。恐れいるわ。」
ゆかり は、あまりに平然とした態度にあきれ返った。本当に誰とも何もないのか? それとも、そもそも恋愛に全く興味が無いのか?
そんな ゆかり の疑問をよそに、『彼女』は突然 ニカッと笑うと
「私だったら、なんてったって ゆかり が一番なんだけどな~。」と言った。
「何言ってんの?」
あっけにとられて聞き返す。
「明るくて可愛いし、まじめで優しいし。勇ましくて頼りがいあるし・・・。それでいてちゃんとお料理もできたりして、何気に女子力も高いし。惚れるなって言う方がおかしいと思う。どんな女の子もメロメロになっちゃうと思うな。」
「女の子、メロメロにしてどうすんのよ。」
何を言い出すかと思えば・・・と、ゆかり はため息をつく。それを気にも留めずに、『彼女』が身を乗り出して言った。
「ゆかり、今まで好きな男子いなかったんでしょ。ひょっとすると同性愛《そっち》の方の素質があるのかもよ。」
「ないない。好きになった女子だっていないし・・・。私はちゃんと男の人が・・・。」
手のひらをパタパタさせてそこまで言ったが、あまり妥当な男性の顔が浮かんでこなかった。
この年まで本気で好きになった人がいないって、やっぱり少し変なのだろうか。お父さんが死んだ後、お母さんが男をとっかえひっかえしてるのをずっと見てたから、そっちの方に拒否反応が強いのかもしれない。
(私ってファザコンなのかもね~。・・・いやいや、そんなのは関係ない。私は単に理想が高いだけ。)と ゆかり は思いなおした。
「いやあ、分かんないよ~。ねえ、試しに私と付き合ってみない?」
「あのねー。」
なんだか気が抜けてきた。もはやイライラはどこかに消え失せていた。さっきまで熱くなっていたことが急にばかばかしくさえなってきた。
しかし、これが『彼女』の持ち味なのだ。物事にまったく動じない。そして、こちらが周りの見えない状況になったときに、いつの間にか気持ちをリセットしてくれる。
真田さんやみんなが片意地張らずに『彼女』と話せるのも、きっとそのせいなのだろう。
「今の時代、男とか、女とか関係なくない? まずは、人間として誰が好きかで考えてみようよ。」
(これって、どこまで本気なんだか・・・いや、絶対にからかわれている。)
そう思って、ゆかり はことさら冷たく突っぱねた。
「あんたは人間として、いい友達だと思うけどさ。恋人とかそんな関係なんて絶対に考えられないから。」
「えーん。フラれた~。きっと ゆかり は風花みたいにおしとやかな乙女の方がタイプなんだ。」
『彼女』が大げさに泣きまねをしてみせる。
「いやいや・・・風花もいい友達だけど、やっぱりあり得ないって。」
「じゃあ美鶴さんだ。最初からなんだかすごく意識してたし・・・修学旅行の後から急に親密な感じになったのも怪しいし。」
「先輩は・・・。」
再度否定しようとして急に言葉が詰まった。美鶴の気品のある美しい顔が脳裏に浮かぶ。特に理由は無いのだが、美鶴を否定することになぜか後ろめたさを感じてしまった。
(いやいや、ここで言葉に詰まるのは、かえって変な感じになるでしょ。)
ゆかり は焦って、しどろもどろに言い訳した。
「ちっ違うよ。先輩は・・・その・・・いつも張りつめてる感じがして・・・。すごく強い人のになんだか危なっかしいとこがあって、つい心配になっちゃうっていうか・・・ともかく、ほっとけない感じがするだけ。」
「・・・おや?。」
『彼女』が目を見開く。
「いやあ、驚いたー。瓢箪から駒。そっかー、先輩が気になってたのかあ。それじゃあ、なまじの男では太刀打ちできないわ。」
そう言いながら『彼女』は腕組みをすると、合点がいったとでもいうように うんうんとうなずいた。
「だ、だから、そんなんじゃないって! ・・・もう、いい加減にしないと!」
ゆかり は赤面して思わず声を大きくした。
「あ・・・ごめん、ごめん、やりすぎだったか・・・。冗談だから、そんなにむきになって怒らないで・・・。」
『彼女』が慌てて、両手のひらでガードするようにして謝った。
「なんなのよ。全く・・・。」
「悪かったって~。ホントに可愛いなあ、ゆかり は~。」
ゆかり はへそを曲げてぷいっとそっぽを向く。
『彼女』はその姿をしばらく黙って見つめた後・・・ニカッと笑って「勝って絶対に生き延びようね。」と言った。
「あたりまえでしょ。」
「愛しい先輩のためにもね。」
『彼女』が ニシシッと笑った。
「まだ言うか。ば~か!」

ニュクスとの決戦まであと数日に迫っていた。
その日、「話がある」と美鶴が全員を1Fのロビーに集めた。
時期が時期だけに、皆が緊張感を漂わせており、集まっても会話がまばらだ。
ゆかり もそうだが、みんなも近づいて来る運命の日のことを考えながら、不安と戦っているのだろう。
そんなメンバーを前にして、美鶴はすくっと立ち上がると厳しい表情で言った。
「集まってくれてありがとう。」
その顔を見て、(先輩、すごく疲れた顔をしてる・・・)と ゆかり は思った。美鶴の感じているプレッシャーは、おそらく ゆかり 以上のものなのだろう。それに耐えながらメンバー全員のことを考え、みんなをリードしようと頑張っているのに違いないのだ。
美鶴は全員を見回すと、それから重々しく宣言した。
「ここ数日、考えていたのだが・・・決戦の前に、死神シャドウに挑戦してみようと思う。」
美鶴の言葉に、全員が息をのむ。
「マジか!」と順平が声を漏らした。
彼女は一度うなずき、さらに厳しい表情で語り続ける。
「ニュクスに勝つために、我々はさらに力をつける必要がある。絶対に負けられない戦いだ。
しかし、残された時間はあまりにも短い。短時間で力をつける手段としては、実戦に勝るものはないだろう。
そこで死神シャドウだ。これまでは逃げ回ることしかできなかった相手だ。しかし、あの『刈り取るもの』を倒せずに、ニュクスを倒すことは難しいだろう。
戦っておけばさらなる経験も積めるし、倒せれば自信もつく。ニュクスとの決戦の模擬訓練としては最適の相手だと考えた。我々の戦いの総仕上げとしてやっておくべきだと思う。」
場が静まり返る。
死神シャドウ『刈り取るもの』は、タルタロスの同一フロアにある程度の時間とどまると出現する強敵だ。探索やシャドウとの戦闘にあまり時間を取られていると、まれに遭遇してしまうことがある。これまでも何度か交戦したことがあり、その桁違いの強さに命からがら逃げだしたものだ。
最近では、ともかく時間を短く切り上げてフロアを移動し、極力 出会わないようにと気を配ってきた相手だ。安全を考えれば、まともに戦うというのは有り得ない選択だった。
しかし最終目的のニュクスに本気で勝とうと思ったら、安全第一などと言ってもいられないだろう。できることはなんでもやっておくべきなのは確かだ。
それにしても、死神シャドウ相手に模擬訓練とは大胆な発想だ。自分がただイライラを募らせている間に美鶴はそんなことを考えていたのかと、改めて感心してしまう。
とは言え、この厳しい選択を決心する為に、美鶴はどれだけ一人で悩み、葛藤したのだろうか。昼間、『彼女』におかしなことを言われたせいか、ゆかり は美鶴の様子が気になって仕方がなかった。
よく見れば、美鶴はぎりぎりまで思い詰めた余裕のない表情をしていた。その様子に不安を覚えた ゆかり は思わず声を上げていた。
「先輩・・・あの、それって命がけの模擬訓練ってことになりますよね。」
「ああ、そうなる。」
美鶴が ゆかり を見返し毅然と答える。
「じゃあ、実施は全員の一致で決定することにしませんか。」
美鶴がハッとしたような表情を浮かべた。いつもの彼女なら自然にそうしていたはずだ。美鶴もゆとり無くして気が回らなくなっているようだ。
「・・・確かに・・・そうだな。私の独断で進めるべきことではなかった。
みんなの意見を聞かせてくれ。事が事だから、全員の気持ちが知りたい。」
少し戸惑いの表情を見せつつ、美鶴が改めてみんなを見回した。
そこで、すかさず ゆかり が手を上げる。
「私は賛成。残された時間で力をつけるって言ったって、この後何したらいいかわかんないし・・・ニュクスに本気で挑むなら、それくらいの覚悟が必要なんだと思う。」
改めて賛同することで(自分はいつでも美鶴を応援している。)と伝えたかった。
「俺も賛成だ。残り時間の少ない中でレベルアップするには格好の相手だ。死神相手に模擬戦とは、さすが美鶴だ。絶対に挑戦すべきだ。」
続けて真田が力強い声で言った。真田はいつも前向きでブレがない。こういうときには心強い先輩だ。
「あの・・・反対ではないんですけど・・・決戦を前に、無理をしない方が良くはないですか? 仮に倒せたとしても、誰かが怪我したりしたら逆に戦力ダウンになるし・・・。」
風花が不安げに問いかけてきた。慎重な風花らしい、もっともな意見だ。
「正直迷うところだ。山岸の言うこともよくわかる。私もさんざん考えたのだが、このままいきなり本番というのは、それこそリスクが高いと思う。負けられない戦いだからこそ、もし課題があるならば今のうちに見つけて対策を立てておくべきだろう。」
美鶴の答えを聞いて、順平がいつになく厳しい顔で口を開いた。
「まあ、あれだな。確かにこえーけど、それくらい腹をくくらないといけない状況ってことだよな。」
「そうですね。僕もそう思います。」
天田もうなずく。コロマルも勇ましく「ワン!」と吠えた。
「皆さんの決意が固まっているなら、私も全力でバックアップします。」
風花も、それを聞いて心を決めたように力強く言った。
「アイギス、お前はどうだ。」
美鶴は風花にうなずいて見せた後、発言していないアイギスにも意見を求めた。
「私はニュクスとの戦いそのものに反対でした。でも、皆さんは強い意志でそれを決めました。私は皆さんのその意思を尊重します。皆さんが決めたことであれば、私は一緒に戦い、力の及ぶ限り皆さんを守るだけです。」
アイギスが答えた。
「わかった。ありがとう。」と言った後、美鶴は全員を再度見回し、そして ゆかり に目を止めて(これでいいだろう?)と確認するようにうなずいた。ゆかり がうなずき返す。
「・・・ということだ。リーダーは君だ。決めてもらっていいか。」
美鶴が『彼女』の方を見る。あらかじめ美鶴から相談されていたのだろう。話を振られた『彼女』は迷いなく立ち上がると、ニカッと笑って見せた。
「大丈夫。みんなすごく力をつけてるんだ。確かに手強い相手だけど、今の私たちなら絶対に倒せるよ。自信を持とう。」
落ち着いた声で、力強く宣言する。
「これまで、さんざん追い回されて来たんだ。今度は思いっきりぶっ倒してやろう!」
『彼女』が声を張り上げる。全員がそれに「オー!」と応じた。
いつしか、全員の声に勢いが出てきていた。
とりあえずの目標ができて、腹が据わったようだ。
決戦までもう間が無い。死神戦の決行は、翌日の影時間ということで全員の意見が一致した。

解散後、部屋に戻ろうとしたところで、ゆかり は美鶴に呼び止められた。
「さっきは、その・・・ありがとう。」
先ほどまでの毅然とした態度はどこへやら、美鶴はひどく不安げでうつむき加減だった。
「何がです?」
不審に思って聞き返す。
「全員の一致で決めよう、と言ってくれただろう。命がけの戦いになる。確かに私の一存で決めるべきことではなかった。」
美鶴は勝手な思い込みで責任を感じている。しかしそれは ゆかり の意図したことではなかった。
ゆかり は慌てて自分の考えをきちんと説明した。
「えーと、誤解しないんで欲しいんですけど、先輩が一人で決めたことを責めてるんじゃないですからね。
先輩は、ニュクスにどう立ち向かうか、その方法を一生懸命考えてくれてたんですよね。私なんか、ただ頑張ろうって言ってただけ。あとはイライラしてて、具体的には何も考えてなかったのに・・・。
だから私は真っ先に賛成したんです。それはみんなもよくわかってることだし、だから満場一致で賛成されたんじゃないですか。」
「結果的にはそうだったが、しかし・・・やはり配慮が足りなかった。」
「そうじゃないです。私が提案した時点で、ああいう結果になるのは最初からわかってましたよ。」
「そうなのか?・・・それでは、なぜ ゆかり はあんな提案を? みんなの士気を高めるためか?」
「そっちはリーダーがちゃんとやってました。」
ゆかり は正面から美鶴の眼を見つめる。美鶴を批判することが目的ではなかった。それをわかって欲しくて、熱をこめて語りかけた。
「私はただ先輩に全てを背負わせたくなかっただけなんです。誰かケガするかもしれない。へたすると死ぬかもしれない。そんな厳しい戦いを、先輩一人の判断で決定してしまったら、何かあったときに先輩はその責任を感じてしまう。
だからみんなが自分の意志で決めて戦ったんだって、そう言えるようにしておきたかったんです。
ニュクス戦だってそうでしょ。誰かに言われたから戦うっていう人は、ウチらの中には一人もいません。だから、そんなに一人で背負い込まないでください。」
「君は・・・そんな・・・私のことを心配してくれていたのか・・・。」
美鶴が思わず声を震わせる。普段、人前では絶対に見せない気弱な表情だった。
(みんなには気丈に見せているけど、責任感が強い分、先輩も余裕がない状態なんだ。私なんかよりずっと・・・。だから先輩に頼ってばかりいないでサポートしてあげないと・・・。)
ゆかり は力づけるように笑顔で返した。
「もっとみんなを信頼してください。私のこともね。私達、最高のチームなんですから。」
「そうだな。全く君の言うとおりだ。ありがとう。気遣いに感謝する。」
美鶴は ゆかり に熱い視線を向けてそう答えた。

翌日の影時間、最上階手前のフロアに、風花を除く全員が待機していた。
普段は何かあったときの備えてバックアップメンバーをエントランスに待機させるが、今日ばかりは総力戦だ。
タルタロス最上階への道は、今はまだ閉ざされている。
エントランスにいる風花のナビでシャドウとの遭遇を避けつつ、全員で死神の出現をひたすら待ちつづける。こうしていると、タルタロス内はいつも以上に不気味に感じられた。
強敵との対決を前にみんな緊張した面持ちだったが、とりわけ美鶴の追い詰められたような厳しい表情が気になった。
「最初のころは、あいつと戦闘になると、本当に全滅するかと思った。でも最後に戦った時にはかなり持ちこたえられたし、勝てる気こそしなかったものの、それでも自分たちが強くなっているという実感は持てたんだ。あれから結構経ってるし、こちらも経験を積んでさらに力をつけてる。今度はこわがることはないよ。」
『彼女』が落ち着いた声でみんなにそう告げる。緊張した雰囲気をなんとか和らげようとしていた。なんだかんだ言って、信頼できる良いリーダーだ。
「そうだな。仮にどうしても勝てなかったとしても、以前よりは離脱に苦労はしないはずだ。無駄におびえる必要は無い。ともかく落ち着いて戦おう。」
美鶴も士気を高めようと、みんなに呼び掛けた。
「『刈り取るもの』は死の象徴なんだ。こちらが死を恐れるほど力を増す。しかしニュクス戦を前にして、命がけの私達にはもうそんなことは関係ないでしょ。だから必ず勝てるよ。」
『彼女』がそう締めくくり、その後、美鶴がフォーメーションを発表した。
前衛は切り込み隊長の真田に、耐久力のあるアイギス、多彩な攻撃のできる『彼女』、そして美鶴となった。
この4人がとりあえず前に出て戦い、残りが後衛となってバックアップ、状況次第で臨機応変に入れ替わることとした。
美鶴は自ら先頭に立って戦い、みんなの盾になろうとしている。
ゆかり は密かに、美鶴を絶対に守り切ろうと心に決めた。
「そろそろか・・・。」
真田が言ったタイミングで
【現れました。『死神シャドウ』です。】と風花から通信が入った。
全員に緊張が走る。
【前方から近づいてきています。もう間もなく接触します。みんな、頑張って!】
どこからともなく、チャリ、チャリ・・という鎖を引きずるような不気味な音が聞こえ始める。やがて通路の奥に、炎のような赤い陽炎を身にまとった『刈り取るもの』の黒い不吉な姿が現れ、滑るように急接近してきた。その姿に威圧されるが、今日は後に引くわけにはいかない。
距離のある内に、まず ゆかり が弓を引いて戦闘が開始された。
矢は一直線に 『刈り取るもの』の胸につき立ったが、死神は全くひるむことなく接近してくる。
アイギスが飛び出し機銃攻撃で牽制。真田がカエサルを呼び出し、ジオダインを放つ。
さらに美鶴がアルテミシアで氷結攻撃。同時に『彼女』がシヴァを呼びだす。
たちまち乱戦の状態になった。
死神の全体攻撃に美鶴と真田がダメージを受けて膝をつく。
すかさずアイギスが「オルギアモード」と叫び、リミッターを解除して二人の前で盾となる。
真田と美鶴の代わりに順平と天田が飛び出し、ゆかり が美鶴と真田に回復スキルかける。
激しい攻防が繰り返され、やがて活動限界がきて行動不能になったアイギスの代わりに、コロマルが前に出てケルベロスを呼び出す。
『彼女』はペルソナをメサイアに付け替え全体回復スキルをかける。
回復した美鶴はすかさず立ち上がると、限界に来ていた天田と入れ替わった。
さらにダメージを受けて退いたコロマルに代わり、ゆかり がイシスを呼び出して疾風攻撃を放つ。
まさに総力戦。こちらの必死の攻撃を死神は平然と受け止め続けた。一方、こちらも以前のように一撃で行動不能に陥るようなことはないものの、それでもぎりぎりの状態が続いた。
戦いは果てしなく続くかのようで、気力と体力がみるみる消耗していく。
どのくらいの時間がたったのか・・・。果てしない攻防に思えたが、時間にすれば15分から20分といったところだろうか。
しかし、前衛・後衛入れ替わりながらとはいえ、死と隣り合わせで全く気の抜けない状況の中、休みなく戦い続ける20分は永遠に思えるほど長い。
敵の攻撃は強力で、絶え間なく防御スキルをかけているにもかかわらず、一撃でこちらに大きなダメージを与えてくる。防御と回復と攻撃が連携して繰り返され、綱渡りのような戦闘がひたすら続く。ひとつ間違えば、それで誰かが死ぬ。
何度、回復スキルをかけられても、疲労はどんどん蓄積していった。全員、集中力の限界が近かった。
ゆかり は精神的にも体力的にもいっぱいいっぱいの状態で、ただ敵の攻撃を避け、反撃することだけに専念していた。
【みなさん、あと少しです。頑張ってください!】
風花の声にハッとし、改めて死神を見る。気づけば明らかに敵の動きがおかしくなっていた。
さすがの死神も、繰り返し与え続けた最大級の攻撃の蓄積で、いつしかかなりのダメージを受けていたらしい。
「あと一息だ。たたみかけろ」
ここぞとばかり、美鶴が全員を鼓舞する。
死神の変調にみんなが勢いづいた。
真田が応じて電撃を放ち、順平が物理攻撃を行う。
死神が大きく体制を崩した。総攻撃チャンスだ。
「終わらせる」
美鶴がそう叫んでゆかりの前に飛び出た。
だが、そのタイミングでいきなり死神が攻撃を放ってきた。
「危ない!」
とっさに美鶴を突き飛ばす。次の瞬間、ゆかり は激しい衝撃を受けて吹っ飛んだ。
激痛と共に目の前が真っ暗になる。
意識を失う寸前、どこか遠くから『彼女』の「メギドラオン」という掛け声が聞こえた気がした。
 
 

 
後書き
前編はまだそれほど脱線してませんね。
私はゆかりをペルソナ3のメインヒロインだと思っているので、男性主人公がいるとこの展開は書けません。しかし女性主人公なら、ゆかり のポジションは微妙になるので、ハメを外してもいいかな、と思った次第です。
後編では濡れ場もありますので、それが気に入らない人はくれぐれもご注意ください。 
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