黒魔術師松本沙耶香 糸師篇
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第三章
「それで」
「実は近頃都内で怪事件が起こっていまして」
「現代の科学では説明がつかない」
「そうです、現代の科学は万能な様で」
どうかとだ、男は自分の前に来たジントニックを受取りつつ紗耶香に話した。
「これが全く以てです」
「未熟なものね」
「若し現代の科学でこの世を全てを語ろうとしますと」
「これ以上はないまでに滑稽な結果に終わるわね」
「そうです、空想科学何とかの様に」
「あれは面白いわね」
沙耶香はにこりともせずに述べた。
「今私が言った通りにね」
「これ以上はないまでに滑稽な」
「そうよ、科学を何もわかっていない」
科学で全てを語ろうとしてそうなっているというのだ。
「無知蒙昧な意見ばかりを言っているわ」
「現代の科学はそれで終わりではないですから」
「これからもどんどん進歩していくわね」
「まさに日進月歩で」
「そうしたあやふやな未熟なもので全てを語ろうとすると」
それこそというのだ。
「本当に滑稽な結果に終わるわ」
「これ以上はないまでの」
「あの人は天才よ」
沙耶香はシニカルな口調になりこうも言った。
「面白くない本を書いて主張を言うね」
「そうした天才ですか」
「そうよ、この世で最も無駄な才能についての天才よ」
シニカルな笑みのままの言葉だった。
「そして人生を誰の何の役にも立たないこれ以上はないまでの無駄なことに捧げているわ」
「そうした人ですか」
「私が思うに。何よりもこの世に科学だけがあると思えば」
それこそというのだ。
「世の中を何もわかっていない」
「そのことの証左ですか」
「そう思うわ、この世には科学以外にも錬金術や法力も仙術も陰陽道もあって」
「魔術もですね」
「あるのよ、それが現代の科学だけで全てを語るなら」
「滑稽なことになる」
「自分が持っているこの世で最も不要な才能を他人に見せつけてしまうわ」
「面白くない本を書く、面白くない主張を言う」
男も言った。
「この世が何もわかっていない、誰の進歩にも励みにもならない」
「そうよ、そのことでの天才であることを示すね」
「そうしたものになってしまうわ」
「そうなのですね」
「ええ、そしてお話を戻すけれど」
「はい、今回の依頼でね」
「場所は何処かしら」
沙耶香は男に今度はスクリュードライバーを飲みつつ尋ねた。
「一体」
「この東京、原宿です」
「あちらなのね」
「馴染みの場所の一つですね」
「東京は何処も馴染みの場所よ」
まさにとだ、沙耶香は男に答えた。
「私にとっては」
「左様ですね、では」
「ええ、それではね」
「依頼を受けて下さいますね」
「報酬は全て口座に振り込んでおいて」
これが紗耶香の返事だった。
「前金も。そして仕事を果たしてね」
「その報酬もですね」
「ええ、仕事を果たした時にね」
まさにその時にというのだ。
「そうしておいてね」
「わかりました、それでは」
「しかし。原宿となると」
紗耶香は仕事先と言われたその地のことについても言及した、今度はトム=コリンズを飲んでいる。
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