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作者:秌薊
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焼きおにぎり

 
前書き
二人でこっそり夜食を作って食べる話(1,000文字程度)
 

 

 炊飯器に残っている白米を手早く、丸みのある三角に握る。うっかり柔めに炊けてしまっていたのだが、少し時間が経ったことで丁度良い硬さになっていた。出来上がった白く小さめのおにぎりを三つ、薄く油を塗ったアルミホイルの上に並べればタイミングよく差し出される舟形皿。行儀は悪いが、たれを混ぜるために使ったティスプーンの背を利用して米の表面を色付けていく。今は自分と共犯者の二人だけだ、誰に咎められることもないとトースターを閉じ、つまみを捻る。途端にじりじりと鳴り出すカウントダウンは静寂の中やけに耳に付いて、思わず顔を見合わせた互いの口元には人差し指が一本立てられていた。

 微かな笑い声を暗闇に溶かしながら、返す返すたれを沁み込ませては焼いたおにぎりから食欲を刺激される香りが広がってくる。深夜に似つかわしくない軽やかな音を最後に取手を引けば、匂いがぐっと濃くなった。

「うまそうだな」
「うん、上出来だね」

網の上からアルミホイルごと平皿へ乗せかえて早速、といきたいところではあるが流石に熱すぎる。ゆらゆらと立ち上る湯気を横目に、齧りつきたいところをぐっと堪えて使用した器具を洗って綺麗にし、もとの場所へと戻しておく。とはいえ時間としてはほんの数分、飛び散った水滴もきちんと拭きあげて、いざ。

「いただきます」
「あちィ、あ、いただきマス」

 やっぱりおいしいな。一口目から醤油の塩気と味醂のわずかな甘みを舌が拾い、自然と喉がきゅうと絞まる。中の方は白米自体の味がそのままというところも個人的にはポイントだ――もちろん、全体がしっかりたれに染まっている方も捨てがたいけれども。更に所々出来たおこげのさくりとした食感が香ばしさを加速させて、もう最高としか表現のしようがなかった。しっかり夕食は食べたはずなのにと本日の献立を脳裏に浮かべたとて、小腹の空き具合も咀嚼するスピードも変わりはしないのだが。

「うまかった」
「あー……夜食におにぎり、サイコー」

 奇数分の余りの一つは、歪になってしまったものの仲良く分けてぺろりと完食。ああ、もっと食べたかったな。次は出汁茶漬けアレンジもいいし、ねぎ味噌も捨てがたいと考え始めると眠気もどこかへ飛んでいってしまう。共犯者も興味を示してくれている上、別のメニューの提案を挙げるものだから、また機会を見つけなければ。

「クー、これ内緒だからね?」
「おうさ」

 楽しげな二人の影と囁き声は、隠しきれていない香りを残したまま宵闇へと消えていった。

 他の誰かにバレてはいけないというスリル感と空腹と、冒険心のどれもが満たせる"今日のお夜食"。今回は焼きおにぎり――、ご馳走様でした。 
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