剣製と冬の少女、異世界へ跳ぶ
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029話 修学旅行編 3日目(04) 長い夜の終焉
前書き
更新します。
Side ネギ・スプリングフィールド
僕とカモ君、そしてイリヤさんは今もなお杖にまたがりながら魔力が集中している場所を目指している。
その間に、僕は士郎さんが放ったカラドボルクという剣について聞いてみた。
「あら? さすがネギね。カラドボルクのことを知っていたなんて」
「それはもう有名ですから。でもなぜ士郎さんはそんな一級品な武器を…宝具と呼ばれている伝説の魔具を使えるんですか?」
「そういえばエヴァンジェリン戦で使った盾も曰くつきの名前だったな?」
「そっか。やっぱり場所は違えど根本的な伝説は同じってことね。でも今はあまり詮索しないで。後で教えてあげるから」
「わかりました…、ッ! 見えた!」
僕が見た先にはなにかしらの魔法で拘束されているこのかさんの姿が映った。
そこにカモ君が、
「やべぇぜ! あれは儀式召喚魔法だ! なにかでけぇもん呼び出すつもりだぜ!?」
「そうね。コノカの魔力を媒体にするんだからとんでもない化け物が呼び出されることは確かだわ!」
「急ぎましょう!」
だけどそこで背後の森からすごい音が響き思わず振り向くと黒い狗が何匹も飛び込んできた!
これは狗神!?
僕はとっさに魔法で防ごうとしたが間に合わず弾かれてしまって落下した。
!? いけない、僕はともかくイリヤさんは!?
イリヤさんが飛ばされたほうを見たらなにか唱えているのかゆっくりと地面に降下していっているイリヤさんの姿があった。さすが士郎さんのお姉さんだ。
安心していると違う方向から声が聞こえてきた。
「ここは通行止めや! ネギ!!」
「コタロー君!?」
「なに、あなた? 私達の邪魔をしようっていうの?」
「ん? 姉ちゃん何者や……?」
「あら。シロウから聞いていないのね? 私はシロウの姉の衛宮イリヤよ」
「シロウの兄ちゃんの!?」
「ええ。で、通行止めをするなら私も相手になってあげてもいいわよ? これでも私はシロウの師匠なんだから」
「それはいいなぁ? でも今はネギと対決したいんや。邪魔はしないでほしぃやなぁ?」
「そんな状況じゃないわ。早くしないととてもいけないものが呼び出されてしまうのよ?」
「それがどうした? 俺はただネギと戦えればそれでいいんや! 正直嬉しいんや。同い年で対等に渡り合えたんはネギが始めてやったからな……さぁ戦おうや!!」
「で、でもコタロー君!」
「言い訳はええ! 今この状況以外に戦ったとしてもお前は本気をださんやろ? ならここを通りたかったら俺を倒していかんかい!?」
「くっ!」
「挑発に乗るな、兄貴!」
「ネギ!」
なにかカモ君とイリヤさんが言っているが今は耳に入らない。
なぜかわからないけど今コタロー君は僕の手で倒さなきゃいけないような、そんな気持ちでいっぱいだから。
「全力で俺を倒せば間に合うかもしれんで!? 来いやネギ! 男やろ!?」
その言葉が決定的だった。もう今は全力で倒す以外にこのかさんへと続く道は開かない! だからコタロー君を全力で倒す!
◆◇―――――――――◇◆
Side 衛宮イリヤ
まずいわね。すっかりネギの目はコタローって子にしか向けられていない。
私が間に入ってもいいんだけれど無傷とまではいかないわね?
どうしようかと考えているうちにもネギとコタローが戦闘を始めようと駆け出してしまっている。
カモミールもさすがに諦めの顔になっていたけどそこにちょうど良く援軍が来たわね。
二人の間に巨大な手裏剣を放って分身を使ってコタローを吹き飛ばしていた。
本体の方は木の上に立っていて無事だったらしいユエを抱えている。
「遅かったわね、カエデ?」
「すまぬでござる。真名と古と別れた後で夕映殿を回収するのに手間取ってしまって」
カエデは私の前まで降りてくるとユエを降ろして、
「それより、熱くなって我を忘れ大局を見誤るとはまだまだ精進が足りんでござるよ、ネギ坊主」
「な、長瀬さん…!? それに夕映さんも! え、なんで!?」
「今は混乱するより先を急いだ方がいいでござるよ?まずは行動のときでござる」
そういってカエデはネギを後ろから押してやっていた。
「恩に着るわ、カエデ。後でなにかお礼をするわね」
「構わぬでござるよ、イリヤ殿。それよりネギ坊主のこと、頼むでござるよ? 士郎殿ももう先に向かっているし刹那達の方には真名と古が援軍しにいったから安心して行ってくだされ」
「わかったわ」
だけど、そこにコタローがネギの道を塞ごうとした。けどそれはカエデのエモノで防がれていたので私も安心してネギの後を追った。あ、杖に乗っていっちゃた。
「走って追いつけっていうの!?」
私はしかたがなく足に魔力を集中して走ろうと思った矢先に空からシロウが降りてきた。
「…姉さん? 一人なのか?」
「ええ…ネギにおいてかれちゃったわ」
「…それは気の毒だったな。なら乗せていこう」
「それならお言葉に甘えさせてもらうわ」
そしてシロウと一緒に目的地に急ごうと思った矢先に突如光が天に伸びていった。
「なっ!? まさか間に合わなかったのか!」
「急ぎましょう、シロウ!」
「ああ!」
◆◇―――――――――◇◆
Side 桜咲刹那
龍宮と古が援軍に来てくれて幾分戦闘が楽になりかけていたところで、湖の方から光が溢れてなにかが出現しようとしている! ネギ先生と士郎さんは間に合わなかったのか!?
そこに龍宮の声が響いた。
「いけ刹那! あの可愛らしい先生を助けに!」
「そうアル! この干将莫耶があるかぎり負ける気がしないアルから!」
「すまない!」
私とアスナさんはそれで駆け出した。
だが月詠がそんな事情もお構いなく突っ込んでこようとしてきた。
けど龍宮が援護してくれたのでなんとか先生達の方へと向かうことが出来た。
そこでアスナさんはネギ先生から召喚されたようでその場を消え去った。
私も士郎さんによって召喚されたためその場から意識がとんだ。
覚めたときにはネギ先生達のやや後方に隠れている士郎さんとイリヤさんの姿があった。
「無事だったようだな、刹那。して、あの怪物はなにかわかるか?」
「恐らくは二面四手の大鬼からして『リョウメンスクナノカミ』でしょう! まさか封印されていたのがあんな怪物だったなんて!」
「そうか。ではそろそろ向かおう。あの白髪の少年相手にはさすがにネギ君とアスナだけでは荷が重い」
即座に士郎さんは弓矢を呼び出し魔力のこもった剣を幾度も放ち少年の詠唱を邪魔している。
そしてその隙に私達は先ほどの魔法を受けて腕が石化しているネギ先生を見て絶句した。
だけど士郎さんはおもむろにネギ先生の手をとるとなにか歪な形の短剣を突き刺した。
すると石化していた腕がまるで嘘のように元通りになっていた!
「し、士郎さん! その短剣は!?」
「黙秘権を行使する。それよりネギ君、腕の調子はどうだね?」
「…は、い。なんともありません。嘘みたいです…」
アスナさんやイリヤさんもほっと息を吐いていると大鬼の方から白髪の少年が話しかけてきた。
「君が今一番脅威となる存在……衛宮士郎だね?」
「脅威かどうかは知らないがそうだ」
「君には一番目に消えてもらうよ。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト…小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ。時を奪う毒の吐息を。『石の息吹』」
「ふっ……I am the bone of my sword―――……熾天覆う七つの円環――――!!」
士郎さんが叫んだ瞬間、私達の眼前に七つの盾が出現して一枚ほど石化したがあと六枚はほぼ無傷といってもいい。
それにさすがに少年も驚いている。
「出た! 士郎さんの最強の盾!」
「へっ! エヴァンジェリンの魔法も受けきったんだ! これくらいは上等だぜ!」
「すごいです!」
「さっすがシロウね! 今がチャンスね。ネギ、防壁を!」
「は、はい! ラス・テル・マ・スキル・マギステル…! 逆巻け、春の嵐。我らに風の加護を。『風花旋風風障壁』」
そこで先ほどの障壁がまた張られた。
その時間が惜しいのか士郎さんは私のほうへ真髄な目を向けてきた。
「刹那、今俺はあいつを相手にするのが手一杯だ。だからこのかはお前が救いに行け。お前ならいけるはずだ」
「え! でもあんな高いところどうやっていくっていうの、士郎さん?」
「それは……!」
「なに、刹那。きっと大丈夫だ。ネギ君も、アスナも、姉さんも、そしてこのかだってきっと受け入れてくれる」
士郎さんは笑みを浮かべながら私に勇気の言葉をかけてくれる。
その言葉に何度救われたことか。
今なら明かせることが出来る。
「はい……私も覚悟が出来ました。皆さん、今から秘密にしていたことを見せます。見せたらお別れとなってしまいますが……ですが今なら見せることが出来ます」
私は士郎さんにだけ見せた姿を今一度解き放った。
そして真の姿を見せた。怖いけど、アスナさんの「このかがこれ位で誰かを嫌いになったりする?」という一言で気持ちがとても楽になった。
ネギ先生やカモさん、イリヤさんもうんうんと頷いている。
士郎さんも嬉しそうに微笑んでくれている。
「さて、では行け刹那! 奴の相手は任されよう!」
「僕も頑張ります!」
「はい! ありがとうございます。皆さん!」
私は嬉しい気持ちを正直に受け止め翼を羽ばたかせてお嬢様のいる場所へと向かった。
そこに白髪の少年が攻撃を加えてきようとするがネギ先生の一発だが防ぐには十分な矢が決まり私はその場を突破した。
◆◇―――――――――◇◆
Side 衛宮士郎
いったか。これでうまくこのかと仲直りが出来ればいいなと思い、もう片隅では白髪の少年の方へと目を向けていた。
「……君は一体何者なんだい? そんな魔法は見たことがない……」
「何者とは……そうだな。お前達の敵とでもいえばいいのかね?」
「……確かにそうだね。それじゃ僕も全力でいかせてもらうとしよう」
そこで体勢を正して相手をしようとした瞬間、俺……いや、ネギ君達にも聞こえているのだろう。あのお子様吸血鬼の声が頭に響いてきた。
《聞こえるか? ぼーや達に士郎。わずかだが貴様達の戦いを見させてもらった。特にぼーや。力尽きるまでとはいわんがまだ限界ではないはずだ。1分半持ち堪えさせろ。そうすれば私がすべてを終わらせてやろう》
「……!」
「この声って!」
「ああ、姐さん!」
「エヴァか……」
「エヴァね……」
《……なにやら後半からの反応に温度差があるようだが、まぁいいだろう。ぼーや、さっきの作戦はよかったが少し小利口にまとまりすぎだ。今からそれじゃ親父にも追いつけんぞ? たまには後先考えず突っ込め! ガキならガキらしく後のことは大人に任せておけばいいのだ。たとえばそこで時間の無駄だといわんばかりの顔をしている衛宮イリヤや何でも屋の士郎などにな》
「何でも屋とは、ひどい言われようだ……」
「よくわかったわね。エヴァ♪」
《……やはりか。そこで士郎とイリヤ、すべてを終わらせてくれるなよ? 貴様達は待機していろ! ぼーや達に後は任せて戦いでも見物しているがいい》
「しかし……いいのか?」
《たった数分も持ちこたえられることができなければ話にもならん。貴様達は黙ってぼーや達の成長具合を計っていろ》
「だ、そうだけれど? いいの、シロウ?」
「姉さん……強制魔術を俺にかけておいてよく言えるな? いいだろう、了解した。だがまずいと思ったら手を貸すからな?」
《いいだろう》
そこでエヴァとの念話は途絶えた。
ではご要望どおり見物していることにしよう。手の内はあまり敵に見せたくはないからな。
それで俺はネギ君とアスナの方へ振り向き、
「やれるな? ネギ君」
「はい!」
「アスナも頼むぞ」
「うん!」
そして俺達の目の前で白髪の少年とネギ君・アスナの戦いが始まった。
刹那のほうは順調に向かっているようでこのかを無事奪還できたようだ。
ネギ君達も一矢報いたようで少年の顔に強化した拳をネギ君が浴びせていた。
だが、少年はお返しとばかりに拳をぶつけようとしたがそれは彼の影から伸びてきた腕によって止められ一瞬にして湖の奥まで突き飛ばされていた。
その人物は間違いなくエヴァその人だった。
茶々丸も来ているようで上空で拘束する類の銃弾を放ち鬼神の動きを止めていた。
「なんだ、士郎にイリヤ? 本当に力を貸さなかったのだな?」
「まぁな。なにがあるかはわからないからな」
「フッ……まぁいいだろう。貴様にも私の本気を見せてやろう」
「お手並み拝見だな」
「そうね、シロウ」
それからはほぼエヴァの攻撃魔法が止む無く続いて天ヶ崎千草という女が使役する鬼神はなすすべもなく魔法の一方的な応酬で傷ついていった。
「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!契約に従い、我に従え、氷の女王。来れ、とこしえのやみ、えいえんのひょうが!!」
止めといわんばかりの十節以上の長詠唱を唱えだし、同時に鬼神の体は次々と凍り付いていく。
天ヶ崎千草がなにやら鬼神の肩の上で「次から次へと何者や!?」と吠えているがエヴァは鼻で哂い、
「相手が悪かったな女。ほぼ絶対零度150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツでも防ぐこと適わんだろう」
「いや、それ以前にすでにオーバーキル級呪文を連発している時点で防ぐ力も残ってなかろう?」
「士郎は黙っていろ! 貴様も巻き添えにしてやってもいいんだぞ?」
「それは遠慮させていただこう」
「ふん、なら口出しするな」
「ほ、ほんまにあんた何者や!?」
「私が何者かと? ならば聞いて驚け! 我が名は吸血鬼エヴァンジェリン! 『闇の福音』!! 最強無敵の悪の魔法使いだよ!!」
高笑いを上げながらも天ヶ崎千草を見下す表情は変えずにいる今のエヴァはまさに闇の福音に相応しいと言えるだろう。
それにさすがにネギ君達は息を呑んでいるようだ。
まぁ、実際俺と姉さんも驚いているのだから。こんな魔法はあちらの世界では大魔術以上の力を持っているからな。
それをいうとネギ君も充分すごいと実感はできる。
「全ての命ある者に等しき死を。其は安らぎ也……」
そこでさらに追い討ちでエヴァが詠唱を進め鬼神はもう動けぬこと不可能な域にまで達していて体中に今すぐにでも砕けんとばかりに皹が入りまくっている。
だが、そこでエヴァは詠唱を止めこちらを目で射抜くように見てきた。
「……なんだ、エヴァ? 終わらすのではないのか?」
「いや、ここで“おわるせかい”でぶち壊してもいいのだが……最後は貴様が決めろ。一撃で滅ぼせるようなものはなにか持っているのだろう? なぁ? “宝具使いの魔術師”よ」
「!……やれやれ、さすがに使いに使ったからエヴァには見破られたか」
「そのようね、シロウ。だからもういいんじゃない? あんなでくの坊はあれで止めを刺してあげたら?」
「あれというと、あれか……」
「し、士郎さん……宝具使いって一体……?」
そこでネギ君がおずおずと尋ねてきたがもうあまり隠す必要もないので俺は一度視線を向けた後、また前に向けた。
無言のやりとり。それだけでネギ君はなにかを理解したのか押し黙った。遠坂でいう意味のない会話『心の贅肉』とはよくいったものだ。
俺は先ほどまで待機状態だった魔術回路に撃鉄を下ろしていき火を上がらせる。
そしてイメージするのは彼の最速の英雄が所持した当たる前からすでに結果がわかっていて因果を捻じ曲げ必ず心臓を貫く呪いの魔槍。
「投影開始……投影、装填!」
詠唱後に俺の手に顕現するのはルーン文字がいくつも刻まれている赤い槍。
それを軽く回転させた後、四肢を地面に着かせ投擲体勢に入ると同時に周囲のマナが槍に集束していく。それはさながら貪り食うといってもいいほどの速度域。
それに伴い俺の魔術回路も悲鳴を上げだすがそれはひと時のもの。真名開放しようとしているのだからそれ相応の宝具には代償はつきものだ。
槍に込められているその異常なほどの魔力の内包密度にエヴァは「ほう……」と声を鳴らし、姉さんは「やってしまいなさい!」という表情をして、ネギ君とカモミール、アスナは声を上げることも不可能なのかこの槍に目を貼り付けている。
そして……準備は整った。
「全工程投影完了――――さて、大鬼神。その心臓……貰い受ける!!」
俺はその場から足場に魔力を集中させ助走をつけて大きく跳躍をかまし大鬼神の目前まで飛び上がりその場で体を大きく捻り、
「突き穿つ―――死翔の槍ッ!!!!」
俺の手から放たれた魔槍は赤い軌跡を描きながらすさまじい勢いで大鬼神の心臓部を貫き、それでもなお余波は続きそのまま遠き彼方まで飛んでいき山に直撃したのだろう。すさまじい爆発が起こったようだ。
それに伴い心臓を貫かれた大鬼神……リョウメンスクナノカミは崩れるどころか存在そのものが消滅しあっけなくその場から退場した。
「ふ、あははははははッ! まさかケルト神話の英雄、『クー・フーリン』の魔槍まで使うとは! 士郎、貴様がどれだけ宝具を持っているのか確かめたくなったぞ?」
「今回は特別サービスだ。これ以上は見たければ決死の覚悟を抱いてこい」
「はっ! そうかそうか、今の私の前で良くぞ言った。だが今回は月が満月ではないことが残念だが……久々に全開でやれて気持ちがいいから見逃してやろう。いいものも見れたことだしな」
俺は着地した後、ランサーの言葉を拝借しエヴァにそう告げた。エヴァも意気揚々と楽しんでいる表情をしながら満足げの顔をしていた。
少ししてエヴァと茶々丸は地上に降りてきたようでこれで今回はもう危険はないだろうと一安心を吐いていた。
だが、周りは俺に休息を与えてくれないようで色々質問をしてきた。
刹那達も合流したようで賑やかなことこのうえない。小太郎もなぜかその場に一緒にいて、
「すごかったで、士郎の兄ちゃん! あの鬼神を一発で仕留めるやなんてな!」
「そうです! しかもあんな伝説の宝具を使えるなんて本当に士郎さんは何者なんですか!?」
「それは後日に話すとしよう。もう隠してもしかたがないからな。それよりネギ君に小太郎……君達はライバル関係ではなかったのか?」
その俺の一言にネギ君は身構えたが小太郎はどこ吹く風といった顔をして、
「今回はお預けにしといたる。だから引き分けや! 次会うことがあったら俺が勝つからな、ネギ!」
「僕も負けないよ!」
どうやらこちらも心配はないようだ。だから俺はこのかやエヴァ達のいる方へと顔を向けた。
だが、そこで俺は気づいた。白髪の少年がエヴァと刹那、姉さんの後方から詠唱をしていることを!
だからとっさに俺は瞬動をして三人を突き飛ばしアイアスを投影しようとしたが、
「…遅いよ。障壁突破。“石の槍”」
抵抗も空しく俺は突如地面から出現した数々の石の槍に腹部を貫かれてしまった……。
◆◇―――――――――◇◆
Side 衛宮イリヤ
いきなりシロウが私達を突き飛ばしてきたので何事かと思ってシロウのほうへと目を向けて……言葉を失った。
そこには石の槍に貫かれ腹部と口から大量の血を流しているシロウの姿があったから。
「シロウーーーーー!!」
私の叫びにその場にいたほぼ全員が悲痛の叫びを上げた。
エヴァもなにやら険しい顔をしている。
だけどシロウは震える体でアーティファクトを出し、その燃え上がる大剣を持ってして少年を袈裟に切り裂いた。
「…なるほど。やっぱり最初に気づいたのは君だったようだね。でも、その怪我ではもう助かることはできない…不確定要素が一人消えてよかったよ。それじゃ僕はもう退くことにするよ」
「ぐっ…やはり幻像だったか。なんて、間抜け……がッ!?」
少年はまるで水に溶けるようにその場から消え去った。
だけどそんなことに構っているほど私達には余裕がない。シロウは今もなお腹部に穴を開けて瀕死の重傷を負って倒れているんだから!
「シロウ! シロウ! しっかりして!!」
「………ぐっ、はっ……!」
私の必死の呼びかけにもシロウは苦しむ素振りしか出来ないほど弱っている!
「士郎さん! 士郎さん!」
「士郎の兄ちゃん! しっかりせぇや!」
「いややわ! しっかりしてな士郎さん!」
「お嬢様! どうか落ち着いて!」
ネギやこのか達が青い顔をして泣きながらも私と一緒にシロウに呼びかけてくれている。でもそれで事態が好転してくれるわけでもなく私は己の力の無さを嘆いていた。
「え、エヴァちゃん! どうにかならないの!?」
「わ、私は治癒魔法は苦手なんだ……イリヤはどうなんだ!?」
「時間をかければどうにかなるかもしれないけど……こんな深い傷は今の私じゃどうにもできないわ!」
私はまたシロウのことを救ってあげることが出来ないの!? シロウのことは私が護ってあげるって約束したのに!
だけどそこでシロウは小さいながらもなにかを呟いている。
「……ヴァ……ンを……使う…だ…」
「!」
シロウはその一言を呟いてまた喘ぎを上げだした。
でもそうだわ! アヴァロンを使えばどうにかなるかもしれない! でも、こんなみんながいる前で使うなんて…シロウが人間じゃないと誤解されてしまう! どうしたらいいの!?
だけどそこでカモミールがなにかを思いついたのか大声を上げた。
「そうだ! このか姉さんの力なら士郎の旦那を治せるかも知れねぇ!」
「そうか! あのときのセツナを癒した治癒の力でなら! カモミール、すぐに準備をしなさい! 一刻を争うわ!」
「合点ッす!」
カモミールはすぐさまシロウの周りに魔法陣を書き出した。
それで私はこのかの方へと向いて、
「コノカ! 今、シロウを救えるのはコノカしかいないわ! だから……!」
「ウクッ…グスッ……ウチの力で士郎さんが助かるんならなんでもするわ!ウチ、士郎さんに死んでほしいない!」
「わかったわ。それじゃ今から説明するわね!」
教えた後すぐにコノカはシロウの方へと向かい、
「士郎さん……お願いや。死なないで!」
コノカは血だらけのシロウの口に構わずキスをした。
そして魔法陣が起動した瞬間、シロウとコノカを中心にすさまじい光が溢れシロウの傷がすごい速度で塞がっていく。
しばらくして光が収まったその場にはエイシュンと同じ陰陽師姿のコノカの姿と外面は血だらけであることは変わりないが傷は完全に塞がって、ただ反動で気絶をしているシロウがいた。
そのことで一同はしっかりと息をしていることを確認した後、狂喜乱舞して騒ぎあっていた。
しかしコノカはそれでもずっと気絶しているシロウのことを抱きしめていた。
私は涙を流しながらコノカに一言「ありがとう……」といった。コノカは笑顔で「ええよ」と返してくれた。
だけど、同時に私はある決意をした。
………………そんな光景を遠くで見ていた月詠はというと、
「ふふ~。士郎はんが無事でよかったですね~。ウチ、いつか会いにいきますから、待っていて下さいね士郎はん。そしたらその時は今度こそ殺し愛しましょうね♪」
そう言いながら月詠は恍惚の笑みを浮かべていたのであった。
後書き
これにて一件落着。イリヤの決意とはいかに。
そして士郎と戦えなかった月詠はそのうち麻帆良にくるかもですね。
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