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詩人の目

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第一章

               詩人の目
 これはアッバース朝のカリフがハールーン=アル=ラシードの頃のことである。
 カリフはある夜に宮中にいる女奴隷の一人を見た、そうしてだった。
 その女奴隷が美しいので少し来るものが来たので彼女のところに来て声をかけた。
「余と一晩過ごさぬか」
「カリフとですか」
「そうだ、如何か」 
 女奴隷に好色な目を向けて問うた、普段は堂々として気品があるカリフだがこの時はどうにも好色さが勝っていた。
「そなたがよしと言えばな」
「そうですか、では」
「うむ、どうだ」
「明日の晩までお待ち下さい」
 女奴隷はカリフに笑って答えた。
「その時まで」
「そうか、明日だな」
「今夜は考えさせて下さい」
「わかった」
 カリフは女奴隷に鷹揚に応えた。
「ではな」
「そうして頂けますか」
「アッラーの名にかけて」
 カリフは女奴隷に約束した。
「では今夜はだ」
「宜しいですか」
「そなたの言う通り待とう」
 こう答えてだった、カリフはこの夜は女奴隷を自身の床に呼ばなかった。だが次の日の昼にだった。
 このことについて女奴隷から今のうちに返事が聞きたくなった、それでカリフは宮中のある者に女奴隷の名を告げてこう命じた。
「この女から昨夜の返事をとな」
「聞いて来る様にですか」
「そなたに命じる」
「わかりました」
 その者はすぐに応えて女奴隷のところに向かった、そして暫くしてカリフの下に戻ってきた。カリフはその者にその場で問うた。
「それであの者はどう申しておった」
「はい、一言でした」
「一言か」
「笑ってこう言われました」
 一息ついてからだった、その者はカリフに告げた。
「夜の言葉は昼が消す!と」
「今は昼だからか」
「消えていると」
「ははは、面白いことを言う」
 その言葉を聞いてだった、カリフはすぐに笑った。そうしてその後でこう言った。
「それはまた」
「宜しいのですね」
「その返事が気に入った」
 女奴隷のところに行かせたその者に答えた。
「だからな」
「宜しいのですね」
「そうだ」
 使者にはっきりと答えた。
「だからな」
「それで、ですか」
「よい、そしてだ」
 カリフはさらに言った。
「このことで詩を詠ませてみるか」
「ではですか」
「我等にですか」 
 丁度その場に三人の詩人がいた、その中にはアブー=ヌワースがいて彼は今も気持ちいい感じに酔っていた。
 その彼も見つつだった、カリフは詩人たちに命じた。 
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