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黒檀の馬

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第二章

「そなたがな」
「この馬を使ってですか」
「自由にあらゆる国を行き来して」
 そうしてというのだ。
「空も飛ぶといい」
「空もですか」
「右肩の雄鶏の鶏冠の様なねじを回せば」
 それでというのだ。
「空を飛ぶ、そして左のねじを回せばな」
「どうなりますか」
「地面に降り立てる」
「それは凄いですね」
「そうした馬だ、試しに使ってみるか」
「いや、僕はです」
 シンドバットは笑ってだ、青い羽根のマラーイカに答えた。
「素晴らしい贈りものですが」
「いらないのか」
「はい、あらゆる国に一瞬で行けることは確かに凄いことですが」
 このことは認めるがというのだ。
「どの国、どの場所に行くにもその道中もまた楽しいので」
「難破したり遭難してもか」
「それもアッラーの思し召し、生きていますから」
 これまでの冒険でいつもそうした事態に遭ってきたがというのだ。
「いいです」
「そうなのか」
「それにです」
 シンドバットはマラーイカにさらに話した。
「空に上がったこともです」
「あるのか、そういえば」
「ロック鳥の巣で」
「そんなこともあったな」
「あの時はどうなるかと思いましたが」
「そなたは難儀を逃れていたな」
「あの時も今思うと楽しいですが空はあの時に飛びましたので」
 それでというのだ。
「今はいいです」
「そうなのか、では」
「お心だけを頂きます」
 こう言ってだった、シンドバットは黒檀の馬を受け取らなかった。それでマラーイカ達は馬はカリフに与え彼を楽しませることにした。
 その後でだ、彼等は天界に戻って話した。
「人はそれぞれか」
「あの馬をいいと言う者がいるか」
「シンドバットの様に」
「冒険家のあの者なら相応しいと思ったが」
「すぐにあらゆる国を行き来出来れば面白くない」
「空を飛ぶこともいいか」
「生粋の冒険家にはかえって便利なものはいらないのだろうか」
 青い羽根のマラーイカは考えつつ述べた。
「そういうことか」
「そうかも知れないな」
「少なくともシンドバットはそうだな」
「だから馬を受け取らず」
「自分で冒険をしていくか」
「そうした者もいるか」
「ならいい、スルタンに楽しんでもらおう」
 黒檀の馬、それをと言ってだった。青い羽根のマラーイカはまた新しいものを造りはじめた。そうして暇潰しに造った機械仕掛けのおもちゃで自分達で楽しむのだった。


黒檀の馬   完


                2019・8・7 
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