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学校のお庭番

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第一章

               学校のお庭番
 諸星揚太郎はある名門高校の用務員をしている、定年までは普通のサラリーマンだったが定年を機会にだ。
 親戚のつてでその高校の用務員になった、彼はその話を親戚である従妹で学校の教師を務めている彼女からはじめて言われた時こう返した。
「俺がか」
「ええ、今用務員の人が空くの」
「前の人はどうなったんだ?」
「ずっと働いてくれてたけれど脳梗塞になって」
「それは大変だな」
「早期だったから大変なことにはならなかったけれど」
 それでもというのだ。
「わかるでしょ」
「ああ、脳梗塞になったらな」
 諸星もこの病気のことは知っている、痩せてすっかり白くなった短い剛毛の髪の毛が目立つ顔で言う。目は鋭いが光は普通のものだ。背は一七二位でやはり痩せた身体である。
「身体がな」
「満足に動けないから」
「その人も早く見つかってよかったな」
 まずはこのことをよしとした。
「本当に」
「そうでしょ」
「倒れてからじゃ遅いからな」
「幸い倒れる前にね」
「見付かってんだな」
「何か手の動きが悪くて」
 それでというのだ。
「病院に行ったらね」
「脳梗塞だったんだな」
「その場で入院してね」
「今は治療中か」
「そうなの、けれどもう働けないから」
「だからか」
「今用務員の人空いてるから。丁度春休みで」
 それでというのだ。
「新学期からね」
「俺に入って欲しいか」
「ええ、どうかしら」
「定年して暫くはな」
 諸星は従妹の話を聞いて言った。
「実はな」
「気楽になのね」
「過ごそうと思っていたけれどな」
「暫くはでしょ」
「また働くことは考えていたさ」
 この考えは事実だったというのだ。
「やっぱり人間働いた方に生活にハリが出るからな」
「それにお金も入るし」
「だからな」
 この二つの理由でというのだ。
「考えていたさ、けれどな」
「暫くは、なのね」
「気楽に過ごそうと思ってたけれどな」
「まあそれでもね」
「ああ、折角だからか」
「どうかしら」
 こう彼に言うのだった。
「このお話は」
「そうだな、じゃあな」
「それならよね」
「そのお話受けさせてもらうな」 
 諸星は従妹に答えた。
「働くな」
「宜しくお願いするわね」
「具体的にどんな仕事か知らないけれどな」
「そこは話すから」
 従妹は諸星に微笑んで答えた。
「ちゃんと」
「そうしてくれるか」
「ええ、だからね」
「安心していいな」
「大丈夫よ、じゃあ新学期からね」
「働くか」
「またね」
「定年したてだったが」
 つい昨日そうなったばかりだ、子供は皆結婚したり独立して家を出て妻と二人だけとなっていて悠々自適の生活を送ろうと思っていた。 
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