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戦国異伝供書

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第六十八話 上洛に向けてその七

「まことにな、そしてその戦の前に」
「うむ、武田家と長尾家の仲裁をしてな」
 雪斎はまた元康に話した。
「武田家に恩を売り」
「その後で」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「そこからな」
「武田家、長尾家との盟約をより強固にし」
「三つの家で」
「それが済んでからな」
「上洛なりますな」
「打つ手は全て打ち」
「全てを万全にしたうえで」
「そしてことを進めるものであるから」 
 それ故にというのだ。
「外の政もする、そして織田家は確かに強いが敵は我等だけではない」
「斎藤家もですな」
「うむ、弾正殿の奥方は斎藤家の方であるが」
 それでもというのだ。
「それは先代殿のことでな」
「今の斎藤家とはですな」
「敵同士じゃ」
「弾正殿は美濃の正統な主とも言われていますが」
「それは奥方が斎藤家の方であるからじゃ」
 道三の娘帰蝶が妻だ、このことからのことなのだ。
「しかしそれはな」
「斎藤殿にとっては、ですな」
「絶対に許せぬことじゃ」
 斎藤義龍、彼にとってはというのだ。自分にとっても帰蝶にとっても父である道三を討って美濃の主になった彼にとっては。
「絶対にな」
「それ故にですな」
「今織田家と斎藤家は宿敵同士」
「それ故に」
「織田家は当家だけでなくな」
「斎藤家ともですな」
「敵同士じゃ」
 まさにそれだというのだ。
「つまり織田家は当家以外にも厄介な敵を抱えておる」
「そこが狙い目ですか」
「当家としてはな、殿もそう見ておられる」
 義元にしてもというのだ。
「その様にな」
「つまり美濃からも織田家を挟み撃ちに出来る」
 ここで井伊が言った。
「左様ですな」
「うむ、しかしな」
 井伊の挟み撃ちという意気込んだ言葉にだった、雪斎はこう返した。井伊とは違い落ち着いた顔であった。
「そうもいかぬ」
「それは何故でしょうか」
「当家は斎藤家とも仲が悪い」
 このことがあるというのだ。
「このことはお主も知っておろう」
「そういえば」
「そもそも斎藤家は下剋上の家」
 雪斎は斎藤家のこのことを指摘した。
「あの道三殿は主家を追い出し美濃を乗っ取った」
「そのことは有名ですな」
「そうした御仁であるからな」
 だからだというのだ。
「殿もお嫌いなのじゃ」
「それで、なのですか」
「うむ、当家は上様より駿河と遠江の守護を任されておる」
「その守護として」
「左様、守護を追い出し幕府に従わず一国を動かす家なぞじゃ」
 それことという言葉だった。
「殿が好まれる筈がない」
「幕府の秩序を乱しますな」
「当家は吉良家も迎え入れておる」
 三河の守護であるこの家もというのだ、今川家は実質的に三河を手中に収めているがそれでもこの家を大事に扱っているのだ。
「そうしておるな」
「はい、そのことは」
 その三河に生まれた者だ、元康もはっきりと答えた。 
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