雪国
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第六章
そして一年経って髪の毛を伸ばしはじめようとしたが。
髪の毛に白いものが混じっていた、しかも。
一年の間に髪の毛の量も減っていた、丸坊主にしていたので気付かなかった。だが伸ばしはじめてわかって娘に言われた。
「お父さんもきたわね」
「ああ、そうだな」
「一年の間でね」
まさにその間でだ。
「きたわね」
「やれやれだな」
「けれどもうこれでお母さんに二度と言えなくなったわね」
「そうだな」
「ええ、ただね」
「ただ、何だ」
「私お父さんとお母さんの娘だから」
それでというのだ。
「絶対にくるわね」
「お前もか」
「だって両親共にだったら」
髪の毛がそうならというのだ。
「子供は絶対にでしょ」
「そうなるか」
「そのことがわかるから」
自分自身でというのだ。
「気をつけるわ」
「今からか」
「そうするわ、後ね」
「後?」
「お母さんは私が言っても笑うだけよ」
髪の毛のことをというのだ、俺がうっかり言って大変なことになったそのことについて。
「それでね」
「俺とは違うか」
「そうよ、実の娘だから」
「旦那とは違うんだな」
俺はここでわかった、そのことが。
「旦那は所詮他人か」
「そうね、けれど娘はね」
「自分が産んで育ててるからか」
「もうね」
それこそというのだ。
「血を分けた存在だから」
「だからか」
「私は他人じゃないから」
「髪の毛のこと言ってもいいか」
「笑ってあんたもとか言われるだけよ」
「それだけか」
「そう、そしてね」
それにと言うのだった。
「私は気をつける様に言っているのよ」
「そういうことか」
「そうよ、まあ髪の毛のことはこれでいいわね」
「ああ、俺も減ってきたからな」
ちょっと前までふさふさで黒々だったがだ。そうなったからには。
俺はもう女房に髪の毛のことは言わなくなった、そして女房も自分もだったので言わなかった。秋田まで言った話は何時しか家族でも会社でも笑い話になっていた。髪の毛は俺が部長になった時には半分白くなり量もそれ位になっていた。
雪国 完
2019・11・26
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