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ピンクのモーツァルト

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第一章

               ピンクのモーツァルト
 ウォルグガング=アマデウス=モーツァルトについてオーストリアを治めるハプスブルク家の実質的な主マリア=テレジアは側近達に話した。
「あの子は天才です」
「紛れもなくですね」
「音楽の天才ですね」
「ミューズの子と呼ばれていますが」
 ギリシア神話の芸術の神々である。
「その言葉通りです」
「音楽の天才であり」
「その才能は言うまでもないですね」
「素晴らしいものですね」
「はい、ただ」
 ここで女帝はこんなことも言った。
「人柄は」
「確かに。悪人ではないですが」
「もっと言えば邪気のない者です」
「悪意や意地悪とは無縁です」
「そうしたものはありません」
「あれだけそうしたものと無縁な人物もいません」
「そうです、邪気は全くないです」
 女帝が見てもだった、モーツァルトはそうした者だ。
 だがそれでもとだ、ここで言うのだった。
「ですが」
「それでもですね」
「彼については」
「無邪気ですが」
「どうにもですね」
「奇抜です」
 そうした人物だというのだ。
「常識に捉われず」
「そうした人物であり」
「変わり者ですね」
「彼は」
「あまりにも。品のない冗談を好みますし」
 それも無邪気にだ。
「困ったところもあります」
「左様ですね」
「音楽については確かに天才でも」
「それでもですね」
「彼については」
「そのことに注意して」
 そうしてとだ、女帝は側近達に強い声で話した。
「曲を作ってもらいましょう」
「そしてその曲を聴いてですね」
「我々は楽しみますね」
「彼の音楽を」
「彼の天才は絶対です」
 そう言っていいまでのものだというのだ。
「あれだけの曲を作っても下らない曲はないですね」
「恐ろしいことに一曲も」
「一曲もそうした曲はありません」
 彼等も認めることだった。
「常に作曲をしてです」
「実に多くの曲を作っていますが」
「歌劇にピアノ、行進曲と」
「ですが」 
 ジャンルも多彩であるがというのだ。
「その全てが名曲です」
「こうした作曲家は他にいません」
「こと音楽については万能で」
「駄作は一曲もないです」
「その才能があれば」
 まさにというのだ。
「これからもですね」
「彼は名曲を作ってくれますね」
「そうしてくれますね」
「ですから」
 モーツァルトは確かに変わり者だが、というのだ。
 女帝も貴族達もそしてオーストリアの音楽を愛する者がモーツァルトの曲を楽しんでいた。だが彼は女帝が言う通り変わり者で。
 下品な冗談を好み変わった手紙も書いた、そのうえ。
 周りの者達に菓子を食べつつこんなことも言っていた。
「ピンク色はいいですね」
「ピンク色?」
「ピンク色というと」
「ですから色の」
 この色の話をするのだった。 
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