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王への慰め

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第三章

「その分な」
「はい、別れもありました」
「そうだったな」
「私はこれまで生きてきて多くの別れを経験してきました」
「そのことがか」
「その都度辛く悲しいものでした」
 そうした経験だったというのだ。
「どれも。そしてこれまで寿命を知る為に飼ってきたハゲタカ達も」
「そうだったな、そなたはな」
「七羽の死を見なければならず」
「実際にか」
「これまで何羽も見てきました、長い間共に暮らしてきた家族の様な者達でしたが」
 出会い別れてきた人々だけでなく彼等もというのだ。
「悲しいものです」
「長く生きているとか」
「私は最初はわかりませんでした」
「長く生きているとその分別れの悲しみを知ることにだな」
「はい、私は」
「そうだったのか」
「ですが王は普通の人生です」
 自分の様にあまりにも長くはないというのだ。
「ですから」
「このことがか」
「私は王も他の方もです」
「羨ましいか」
「左様であります」
「つまり誰もが羨ましく思うものがあるということか」
 王はルクマーンの話を最後まで聞いて述べた。
「そういうことか」
「左様であります」
「そうか、ではな」
「このことをですね」
「覚えておこう、そして羨んでもな」
「はい、それはです」
「仕方ないな、誰もがそうしたものがあり羨んでも」
 例えそう思ってもというのだ。
「まことにな」
「そこから何かに励めばいいですが」
「自分が羨むだけではな」
「意味がないものです」
「まことにそうだな、では余はこれからだ」
 王の顔ははっきりしたものになっていた、これまでの嘆息したものではなかった。その顔で言うのだった。
「そなたも誰もな」
「羨まれないですね」
「そうしてこれからも王として励もう」
「そうされてころです」
「余であるな」
「左様であります」
 ルクマーンは王に厳かな声で述べた、そしてだった。
 王はもう誰羨むことなく王としての政に励んだ、後に偉大な王と讃えられたがそうなったのにはルクマーンとのこの会話のこともあった。羨んでもそれが羨むだけで終わるのならば何にもならない、そのことを理解し。


王への慰め   完


                    2019・6・12 
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