魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第225話「もう一度会いたい」
前書き
原作キャラにも焦点は当てたいけど、まずは緋雪と椿、葵から。
ここしばらくは戦闘描写はないです(模擬戦、手合わせなら少しあるかも?)。
「………」
手を開き、閉じる。
軽く体を伸ばし、調子を確かめる。
「……うん、大丈夫かな」
体力がある程度回復したと判断し、緋雪は呟いた。
「あたしも結構回復したかな」
「私はもう少しね。……少し、過剰に霊力を使いすぎたわ」
葵も回復し、対して椿はまだ時間が掛かっていた。
式姫に霊力は不可欠なため、過剰に消費した分回復も遅れているのだ。
葵の場合はユニゾンデバイスにもなっている事があり、早かったのだろう。
「他の式姫達も、結構厳しいみたいだよ。まだ目覚めてないし」
「クロノやヴィータ、あの場にいた2割程は同士討ちで重傷を負ってるものね……」
「そっか……」
フェイトやプレシア、ザフィーラ、那美も重傷を負っている。
軽傷で済んだ者以外は、未だに目を覚ましていない。
過剰な力の行使と相まって、回復が遅くなっているのだろう。
「それぞれ、身内が寄り添っているから、そこまで心配はいらないわ。医者が見た所、死ぬ心配はないみたいだしね」
「あたし達は、無理さえしなければ自由に動いていいって」
今の状況、大人しく療養に専念している猶予はない。
尤も、療養自体はむしろ勧められているが、本人達が許さなかった。
「司さんは?」
「事情聴取の後、ジュエルシードの回復に専念してるわ。後は……トレーニングルームで、天巫女の力を確かめてるわね」
「ちなみに、奏ちゃんはなのはちゃんと一緒に体の調子を確かめてたよ」
他の動ける者の状況を椿と葵から聞く緋雪。
「……私達は……」
「緋雪の好きにしなさい。少しなら私達も付き合うわ」
「………」
いざ好きにしろと言われると、緋雪はすぐに何かを思いつく事が出来なかった。
神界での敗北に心が引きずられて、消極的になっているのだ。
「……一旦、家に帰りたい……かな」
「……そう。分かったわ」
緋雪は現世に戻ってから、碌に家に帰っていない。
戻ってすぐに神界との戦いに備え、八束神社の結界で修行していたからだ。
その事を椿もすぐに汲み取り、葵に目配せをする。
葵はそれを受け取り、すぐにリンディ達へ伝えに行った。
「………」
久しぶりに見た自宅を、緋雪は見上げる。
碌に家に帰らなかったとはいえ、修行中にも何度か帰っていた。
だが、神界の戦いがあったからか、数か月ぶりのような感覚だった。
それは椿と葵も同じようで、感慨深そうに眺めていた。
「……ただいま」
アースラに預けていた鍵を使って、玄関を開ける。
当然ながら、誰もいないので返事をする人はいない。
寂しく、電気の付いていない廊下が緋雪達を出迎えた。
「………」
何も喋らないまま、緋雪はリビングへと向かう。
電気が付けられ、そのままソファに座り込んだ。
「……静か、だね……」
外は大門の後処理や、管理局の存在によって静かとは言えない程度には騒々しい。
だが、家の中はまるで隔絶されたかのように静かだった。
「……お兄ちゃん、お母さん、お父さん……」
椿と葵はいる。
だが、改めて優輝達がいないと実感させられて、緋雪の胸に悲しみがこみ上げる。
「……ぁ……」
ふと、壁際の棚の上に立てかけてある写真が目に入る。
「………」
写真の数は全部で四つ。
幼い頃、優輝が小学校に入学した際の、家族四人で撮った物。
両親が行方不明になった後の、緋雪の入学記念に優輝と二人だけで撮った物。
椿と葵が家族になり、その記念に四人で撮った物。
緋雪が死に、両親が戻って来た後の、優輝の中学入学の際に五人で撮った物。
どれもが、大切な思い出を表した写真だ。
「……小さい頃しか、家族が揃った事、ないんだね……」
優輝が小学校に入学した際の写真以外、家族が揃っている写真がなかった。
優輝と緋雪の二人だけの写真に至っては、少し無理して笑顔を作っている。
いつも誰かが欠けている。そんな写真の数々に、緋雪の胸が締め付けられる。
「皆で笑顔で写真を撮る事は……もう、ないんだね……」
涙が零れる。言いようのない寂しさが緋雪を苛む。
両親と大切な兄を、緋雪は目の前で続けて喪った。
その事実が、緋雪にとってどうしようもなく辛かった。
「緋雪……」
「雪ちゃん……」
それを、椿と葵は見ている事しか出来ない。
「(また、喪った。大切な人を)」
「(あたし達は、また無力だった)」
椿と葵も、緋雪とはまた違った辛さを味わっていた。
とこよを喪った時と同じように、また喪ったのだと。
しかも、今度は自分達の目の前で、だ。
「っ……ぅ、ぅ……!」
「なん、で。あたし達は……!」
「今度こそ……今度こそって思っていたのに……!」
三人の嗚咽が、リビングに響く。
敗北して、大切な人を再び喪い、三人の心は限界だった。
アースラにいた時は耐えていても、家に戻り、改めて現実を直視した事で、もう耐える事な出来るはずがなかった。
「……“可能性”を、託す……」
絶望の最中、緋雪は思い返すように椿から伝えられた言葉を呟く。
「私達が、倒す……」
最後に託された。
その事実が、緋雪の心に浸透する。
「……そんなの、出来っこないよ……」
一度敗北した経験は、“勝てない相手”として深く刻まれる。
あれほどの規格外の相手を、どうすれば倒せるのかと、考えれば考える程、そのどうしようもなさに絶望する。
「…………でも……」
だが、そうだとしても。
「……お兄ちゃんが、私達を信じて、託した……」
優輝が信じ、後を託した。
それだけでよかった。それだけで、緋雪が立ち上がる理由に出来る。
「……いつまでもくよくよしてたら、笑われるよね」
涙を拭い、顔を上げる。
まだ潤んではいたが、それでもその瞳は決意に満ちていた。
「……緋雪?」
「雪ちゃん……?」
「立ち止まってもいい。後悔する事も、悲しみに暮れるのもいい。だけど、それをいつまでも引きずらない。前を向いて、少しずつでも歩いていく」
かつて、自分が死んだ時のために、優輝へ送ったメッセージ。
それを、今度は自分に言い聞かせるように緋雪は呟く。
沈み込んだ心を救い上げるように、胸の前で拳を握る。
「……私は」
振り返り、椿と葵を見据える。
二人に宣言するように、自ら誓いを立てるように、一泊を置く。
「私は、もう一度会いたい……!お兄ちゃんに……!だから、だから!前を向いて、少しずつ……でも、決して!諦めない……!」
未だ、緋雪の心はボロボロだ。
だが、“それでも”と、緋雪は決意を口にする。
「それに、お父さんとお母さんの仇も、絶対に取る……!後を託された、私達が倒すように、お兄ちゃんに言われた、信じて託してくれた。だから!」
「……緋雪」
それは最早、決意の表明ではない。
絶望に対し、負けないと、まだ折れないと、今も足掻いているのだ。
意地を張って、震える心を押さえつけて、折れそうな膝を曲げずに立ち上がった。
そんな緋雪の姿を見て、椿と葵は目を見開いた。
……二人の涙は、いつの間にか引っ込んでいた。
「……そう。そうね……託してくれたんだもの。まだ、足掻けるのよね」
「まだ挽回できる。だというのに、ここで立ち止まっていたら、それこそ優ちゃんに託された“可能性”が無駄になるよね」
失ったものは取り返せない。
だが、まだ失っていないのなら、取り返せる。
だからこそ、立ち止まってはいけないと、椿と葵は奮い立つ。
「私、とこよ達を手伝ってくるわ」
「あたしも」
「……じゃあ、ここからは別行動だね」
早速やれる事をやるために、椿と葵は行動する。
それを見て、緋雪は別行動すると告げる。
「緋雪はどうするの?」
「別のアプローチで何か出来ないか探してみるよ」
椿と葵を見送り、緋雪は一人になる。
ソファに座り、緋雪は自分の掌を見つめる。
「(物理的な“力”は、通じない訳じゃない。そこを鍛えるのは当然として、そんな物理的な“力”を覆す、もしくは蹂躙するのが神の“性質”)」
思い返すのは神界での戦い。
物理的な戦闘力において、緋雪は決して負けていなかった。
拮抗する相手はいても、完全に上回られる事はなかった。
「(問答無用に物理的・概念的にその“性質”による影響及び効果を相手に付与出来る、神界の神固有の能力。概念的なものであれば、回避は不可能に近い)」
例えば、“貫く性質”であれば、文字通り障壁などを貫ける。
だが、物理的に貫くだけなら、回避は可能だ。
しかし、その効果が概念的なものであれば?
予備動作もなく、タイムラグもない。その攻撃を放った時には、対象の座標にて既に“発生”しているのだ。避ける暇などない。
「(感情がない時のお兄ちゃんなら、意図的に無視できたけど)」
避け切れないのなら、無効化するしかない。
故に、神界の初戦で優輝は相手の神の“性質”を無視した。
「(確固たる意志があれば、抵抗も出来る。……違う、それは勘違いだ。もっと、根本的な方法で……)」
そう。“性質”については、祈梨やソレラから聞いたものばかり。
洗脳されていた二人の説明が正しいとは限らない。
「(……“領域”。他に表現できる言葉が思いつかないけど、とにかく重要なのはその“領域”だ。“性質”はそのまま“領域”となっていた……)」
実際に戦った事を思い出しながら、分析していく。
理屈や理論は無視して、漠然と神達の力を紐解いていく。
「(戦闘が“戦闘”として成立するのは、戦闘がそう言った“性質”だから。……もし、両者か片方が違う戦闘方法を“戦闘”として思い込んでいたら、或いは……)」
誰もあの場では試さなかった事だ。
緋雪達にとってはその余裕がなく、神界側にとっては物理的な手段で充分だった。
「(私達は、常に相手の土俵で戦っていた。“性質”で完封されるのはそれが原因だ。……だったら、それを、根本から覆せれば……?)」
考えておきながら、無茶な事だと緋雪も理解している。
何せ、相手は神だ。盤上をひっくり返すような手法が通じるとは思えない。
しかも、その方法が……
「(負けない“意志”があれば、実際に負ける事はなかった。それが神界での戦闘の真理なら……神に対して心や意志、気持ちで上回れば……!)」
要は、精神性において神を上回る。そういう事だった。
それも、ただ負けないつもりで上回るだけでは足りない。
相手の“性質”を受け付けない、そんな精神性が必要だ。
「(……でも、今の私じゃ、絶対に無理だよね)」
心身共に弱っている緋雪ではそれは不可能に近い。
いくら立ち直ったとはいえ、敗北の経験がさらに足を引っ張る。
そんな状態で、精神性において相手を上回る事など不可能だ。
「(……せめて、肉体的に強くならないと)」
精神の余裕は直接的な戦闘力で差をつける事でも生む事が出来る。
そのため、改めて鍛えようと緋雪は結論を出した。
「(結局、この結論に行き着いちゃったな。……でも、単純なら分かりやすい。それに、どうすればいいか片鱗だけでもわかったのなら、御の字!)」
笑みを浮かべ、緋雪は拳と掌をぶつける。
“バシッ”と小気味いい音を立て、改めて気合を入れる。
「さて、鍛えるにしても頭打ちだし、この前までの特訓方法じゃ“足りない”。何か、別の方法を……」
そこまで言って、ふと緋雪の脳裏にある事が過る。
「……狂気」
そう。緋雪が克服したはずの狂気。
その狂気を再起させられて敗北した戦闘を思い出した。
「(……そうだ。克服した……つもりだった。でも、飽くまでそれは狂気に呑まれないように制御できるようにしただけ。……そんなの、“克服した”とは言えない)」
とこよのおかげで、緋雪は自分から起こさない限り狂気に呑まれなくなった。
だが、イコール狂気を克服した訳ではなかった。
無理矢理狂気を呼び起こされれば、先の敗北のように呑まれてしまう。
「(狂気を受け入れて、その上で完全に制御できないと、“克服”じゃない。何より、このままだともう一度あいつと戦ったらまた負けてしまう)」
緋雪が戦った神は“狂気の性質”を持つ。
狂気の素質があれば、問答無用でその狂気を呼び起こしてしまう。
緋雪が負けたのも、抑えていた狂気を爆発させられたからだ。
故に、狂気に呑まれないようにするよりも、狂気そのものを何とかするしかない。
「(吸血鬼……生物兵器。……私は……)」
狂気に満たされた忌々しい記憶を思い出す。
生物兵器として改造された体は、血を欲す。
それを完全に抑えていたというのに、それではダメだと理解させられた。
「(でも……)」
不安はある。制御出来ずに、結局狂王として力を振りまいてしまう不安が。
だが同時に、受け入れない限り勝ちはないという事も理解していた。
相反する考えが渦巻き、緋雪を悩ませる。
「(……シュネーの時の力が、完全に制御出来れば)」
そこへ、もう一つ。緋雪の決断を後押しする情報を思い出す。
まだシュネーだった時、生物兵器としての全盛期の時の事。
「(今の私は、力を抑えている状態。“志導緋雪”としては全力でも、“狂王”としては全力じゃない。……その力は暴走と同義だから)」
当時の力は、制御出来ていないために大雑把だったが、今の緋雪より強い。
大雑把故に導王流にはあしらわれやすかったが、単純な強さなら今まで鍛えてきた事を加味してもなお、現在の緋雪を上回る程なのだ。
「(それを再び使うには……やっぱり、血が必要)」
リスクもあるが、それ以上のリターンがある。
故に、緋雪はその力を使う事を決める。
もう、遠慮や自重をしている余裕はないのだから。
「(……ごめんね、お兄ちゃん。私、人間をやめる事になるかも)」
かつてのように、暴走するかもしれない。
それでも、力を求める。
大切なモノを取り返すために。
「……とは言っても、どうやって血を……」
生物兵器としての力を開放するには、血が必要だ。
しかし、今の緋雪に血を調達する伝手はない。
誰かから貰う手もあるが、飽くまでそれは最終手段だ。
「……あ、そういえば」
少し考え込んで、緋雪は一つ心当たりがあることを思い出した。
「(やっぱり、騒がしいな)」
思い立ったが吉日とばかりに、緋雪は行動を開始していた。
家を出て、未だに大門の後処理で俄かに騒がしい街を駆ける。
「えっと……あそこだね」
一度電柱の上に立ち、目的地の位置を確認する。
そして、そこから一気に跳躍し、目的地……月村邸の前に着地した。
「久しぶりに見たけど、やっぱり豪邸だよね」
一度死んで以来、緋雪は月村邸に来ていない。
大門が開いていた時や、修行中に上空から視界に入った事はあったが、実際に来るのは本当に久しぶりだ。
「さて、忍さんがいればいいけど……いなかったら、すずかちゃんに言おうかな」
インターホンを鳴らし、緋雪は返事を待つ。
すると、然程間もなく返事が聞こえてくる。
『緋雪ちゃん……?どうしたのかしら?』
応答したのは忍だった。
月村邸には監視カメラもあるため、それで緋雪が来た事に気づいていたのだろう。
緋雪が幽世から戻ってきた事も、すずかから聞いているため、驚いていない。
だが、自宅へどんな用件で来たかはわからず、緋雪に尋ねた。
「実は、頼みがあって来ました」
『頼み……ね』
いつになく真剣な声色。
それを聞いて玄関先で済ましてはいい事ではないと判断する。
『ノエルを寄越すから、まずは入って頂戴』
「わかりました」
しばらくして、ノエルがやってくる。
その案内の元、緋雪は忍の所までやってきた。
「いらっしゃい。緋雪ちゃん。また会えて嬉しいわ」
「お久しぶりです。忍さん」
客間の一室にて、忍は緋雪を出迎える。
ノエルが紅茶を出し、まずは軽く挨拶を交えた。
「話は聞いているわ。……それで、どうして私の所に?正直、今更何かの役に立てるとは思えないのだけど……」
「……単刀直入に言います」
深呼吸し、一泊置いてから、緋雪は忍の目を見据えて発言する。
「……夜の一族として供給している血。私にも分けてくれませんか?」
「ッ……!」
その言葉に、忍の表情が僅かに強張る。
別に緋雪が知っているのは何もおかしくない。とっくに知っている事だからだ。
だが、今までそういった事を気にせずに接してきていた。
その上で突然こんな提案をされれば、困惑するのは当然だ。
「……なんの目的で?」
「このままではいけないからです。私は、まだ全ての力を開放していない。……いえ、“志導緋雪”としての力は開放していても、根幹にある力はまだ残ってます。……その力を開放するために、血が必要なのです」
忍の目が鋭くなる。
夜の一族として、どうするべきか見極めているのだ。
「……そういえば、緋雪ちゃんは吸血鬼に近い体質だったわね。……そう、なるほどね。だから“血”なのね」
「そういうことです。例え、制御しきれないとしても、リスクの方が大きいとしても、私はこのままではいけない。だから……だから、お願いします……!」
「………」
頼み込む緋雪に、忍はしばし無言で考え込む。
「……緋雪ちゃん」
少しして、忍は口を開く。
見極めるように、見定めるように緋雪を見据えながら。
「貴女の覚悟、それとなぜ私達の所に来たのかも理解できたわ。……けど、いいのかしら?聞いた話では、その力は……」
「わかってます。……その結果が、人間をやめる事になるかもしれないのも、理解しています。……でも、その力を使ってでも、私はもう一度、お兄ちゃんに会いたい」
もう、緋雪の中で結論は決まっていた。
その答えを曲げる事は決してなく、故に忍も観念したように溜息を吐く。
「……わかったわ、緋雪ちゃん。それほどの覚悟を見て、断るなんてできないわよ」
「……ありがとうございます」
「礼は後。優輝君と再会してからよ」
忍は緋雪の頼みを聞き入れ、血を用意する事を了承した。
「ただ、あまり量は用意できないわよ?私達夜の一族は確かに血を備蓄してるけど……今は大門の後処理の最中。怪我人も多くいるのだから、私の家からも輸血パックとして病院等に提供しているのだから」
「あ……そうですか……」
「……これは、アースラの方でも頼んだ方がよさそうね」
「ですね……」
要は血さえ手に入ればいい。
日本だと、大門の件で怪我人が多数発生しているため、輸血用の血に余裕がなくなっているが、海外や地球以外の次元世界なら、当てはある。
「再三言うけど、気を付けなさい。貴女のその力は、私達夜の一族よりも遥かに人から外れたモノになるわ。……呑まれるわよ」
「……それは、誰よりも理解しています。でも、神を倒すには、そんな人から外れた力を手にしないと到底できません」
話は終わり、緋雪は帰ろうとする。
忍がそんな緋雪に最後の忠告をするが、緋雪は当然とばかりに言い切る。
「……そう」
「それに……」
一拍置いて、緋雪は振り返る。
そして、柔らかく微笑んだ。
「……心は、人であり続けますから」
「……全く、本当に緋雪ちゃんは優輝君の事が好きなのね」
「自慢のお兄ちゃんですから!」
ただ諦めたくないだけじゃない。
兄が託してくれたから、信じてくれたから緋雪は立ち直れた。
だから、例えリスクがあろうとその手段を取った。
「“例え、体が化物になっても、心は人で在り続ける”……うん、分かってるよお兄ちゃん。……お兄ちゃんに言われた事、忘れてないよ」
帰路。緋雪はシュネーだった頃を思い返していた。
忍に言った言葉も、かつてムートに言われた事だ。
「……だから、私は使いこなしてみせるよ。生物兵器としてではなく、お兄ちゃんが大好きな志導緋雪として、忌避したあの力を」
何度も励まされた。
何度も助けられた。
何度も暴走した所を止めてくれた。
緋雪にとって、未だに恩を返しきれていないのだ。
「……今度は、私が助ける番だよ。お兄ちゃん……!」
決意を改め、道を照らす夕日に向かって拳を握る。
「(お兄ちゃんが助からない未来。全てが終わってしまう未来。……そんなの、私が破壊してみせる。そのためなら、私は限界を超える。破壊してみせる……!)」
紅く輝く瞳が、夕日を貫く。
手が届かなかった存在に、今度は届かせると誓うように。
今度こそ、倒して見せると、力強く緋雪は睨んだ。
「―――待っててね、お兄ちゃん………!!」
後書き
総合力では現在の緋雪の方が遥かに上ですが、単純な身体能力などは未だにシュネーの方がかなり上を行きます。
緋雪は自身の力を制御できる範囲でしか全力を出していないと言う事です。
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