緋弾のアリア 〜Side Shuya〜
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第1.5章(AA1巻) 切られし火蓋(リマインド)
第17弾 覚醒(バーサーキング)
前書き
第17話です
首都高11号線に沿ってバイクを飛ばして行く。何処だ。奴はどこにいる?
俺は芝浦ふ頭駅まで来て気が付いた。
奴はこっちには来ていないと。
俺は急いでレインボーブリッジへと引き返す。
そしてカーブのあたりの壁から一般道側を見る。
そこに奴はいた。
やられた……! あそこから一般道へ降りてしまえば上空からの追跡は首都高11号線を死角にして防ぐことができる……!
つまり、上空からの援護等を受けることができない……。
俺は2挺のDEに自身の作成した武偵弾『反動弾』をそれぞれ2発ずつ装填した。
この『反動弾』は、俺の開発した試作型の武偵弾だ。
元々は非殺傷弾の打突力を強化する事を念頭に置いて開発したものだが、余りにも反動が大きすぎて普通に撃つのには適さない弾となってしまったのである。
その反動は、俺1人が吹き飛ぶほどである。
それ故に、今は落下時の速度軽減用の弾として扱っている。
弾の装填を確認し一度壁から距離を取り、ある程度のところでハヤブサを前方へと急発進させた。
壁に向けて加速して行くハヤブサ。そして壁にぶつかる直前、両手を離しDEを即行抜きすると反動弾を路面に向けて放った。
発砲と同時に俺の両腕に凄まじい衝撃が走った。
「———ッ!?」
そして、弾丸が地面に着弾すると同時に俺を乗せたハヤブサの車体が浮き上がった———否、吹き飛んだ。
因みに言い忘れていたが、今の俺はベルトでバイクとつながっている。
故に車体も浮いたというわけだ。
が、予想以上に車体が重い!?
このままだと着地できずに真っ逆さまに落ちる……!
そう感じた俺は、ハヤブサに着いたボタンを押した。
すると車体の正面側から2本のアンカーが射出された。
射出されたアンカーは道路の壁へと向かって行き、先端に着いた鉤爪状の金具がその壁にしっかりと引っかかった。
金具が引っかかっるのとほぼ同時に、俺はもう1つのボタンを押した。
今度はアンカーのケーブルが物凄い勢いで巻き取られて行った。
それにより車体も壁へと引き寄せられていく。
そして一般道の車線の壁を超え、道路へと着地する。
が、まだ先ほどの勢いが残っているため、車体は正面にある壁の方へと向かっていく。
「———クッ!」
ハンドルを曲げて車体を横向きに滑らせていく。しかし、止まることはない。
咄嗟に俺は、2挺のDEを抜き壁に向けて放った。
———中に入っていた弾は反動弾。
反動弾の勢いでなんとか車体は止まった。
やった。成功した。無事に着地することが出来た。
まさか『何かの時の為』にと付けておいてレッカーの際にしか役に立たなかったアンカーが役に立つなんて。
本当に付けといて良かった。そう思えたね。
だが、今までの一連の流れで、激しい衝撃を加えすぎた。……こりゃ車体の何処かが逝ってるだろうな。
そう思った俺は、ハヤブサを破棄することにした。
そして、改めて武装を確認してみる。
ベレッタはさっき装弾してから1発も撃ってないから弾は入っている。
DEは再装填しなきゃだな。
周囲を警戒しつつDEに弾倉を装填すると、俺は走り出した。
そして、水蜜桃の駆る『P・A・A』の前に立った。
「やっと来たか。でも、思ってたよりも早かったな」
機体のスピーカー越しに水蜜桃が言った。
「ちょっとした近道をしてきたからな」
DEを向けながら返した。
『まさか、バイクごと飛んでくるとはな』
……知ってる?
『見てたのか?」
「バッチリな』
見ていたのなら俺を狙う暇もあったはず。
「待っていてくれたのか?」
『まあ、な』
どういうつもりなんだよ———こいつは?
「なんの真似だ?」
『別に何も無い』
……何も無い?
ますます奴の狙いがわからない。
「じゃあ、なんで……」
「簡単なことだ」
そう言って水蜜桃はP・A・Aの右アームに取り付けられたM60の銃口を俺に向ける。
『お前と正面からやりあって潰すためだ』
言い切った直後、無数の7.62mm弾が銃口より放たれた。
俺は咄嗟に神回避で射線からズレた。
そして神回避と同時に、3点バーストに切り替えたDEをM60の中心に向けて放つ。
しかし直撃した50.AE弾は全て弾かれた。
「……なッ?!」
想定外のことに俺は動揺した。
僅かにだが硬直して隙の出来てしまった俺のもとに、再び7.62mm弾が飛来した。
先程のように神回避で避けることは不可能だと悟った俺は、上体を後ろへと倒し、どこぞの映画よろしく銃撃を躱しながら、DEで銃口撃ちを行う。
即座に銃撃は止んだ。
俺は上体を元の位置に戻す。
「……えッ?!」
俺は目の前の光景に戦慄した。そこには、使い物にならなくなったはずのM60が、健在していた。
「嘘だろ……?!」
確かに銃弾は奴の銃口を捉えて着弾した筈。
なのに、何故壊れていない?
俺は再び、銃口撃ちを行う。
その瞬間、バーストモードの目は捉えていた。
奴のM60の銃口が閉じるのを。
「な、なに?!」
本体と同じく、防弾性に長けた材質で作られている様で、俺の銃撃は再び弾かれる。
———なるほど。
あの時メヌエットがさっきの避け方をやめた方がいいというのはこういう事か。
彼奴の忠告を守っておけば、無駄撃ちせずに済んだ訳か。
『驚いたか?』
水蜜桃がバカにするかのように聞いてくる。
「当たり前だ。逆にそんなの見せられて驚かない奴の方がおかしいだろ」
普通じゃない武偵高に通ってる俺が驚くレベルなんだよなぁ……。
『やっぱウチの技師は最高みたいだな』
「ああ、凄い腕前だよ。ただ、それを悪事のためにしか使ってないのは———気に食わねぇけどな!!」
俺は左腰のホルスターに入っているDEを即行抜きすると、再びM60に向けて放つ。
『何度やっても同じ事だぜ?』
水蜜桃の小馬鹿にするような言葉を聞いた俺は———嘲笑した。
此奴は何も分かってはいないと。
そして、弾はM60に着弾した。すると、P・A・Aの機関銃の固定部分が変な音を立て始めた。
『……なんの音だ?』
俺の狙いは銃口では無い。
機体と銃を固定している部分。つまり接続部だ。
そこへ、追い打ちをかけるかのように銃声がした。
今のはルーマニア製の狙撃銃、PSL狙撃銃の音。
それにより、P・A・AとM60を接続する金具は破壊された。
そしてM60は大きな音を立てて地面へと落ちた。
「……ナイスタイミング」
俺はそう呟くと振り返った。
そこには1台のボックス車が停まっていた。
———トヨタのボックス車ハイエース。
その車の上部からは、上半身を外に出した状態で狙撃銃を構える人影があった。
『———間に合ったみたいだね』
インカム越しにマキが言った。
「ああ。俺の予想したタイミングピッタシだ。流石だよ」
———まさかここまでしっかりと合わせてくれるとは思わなかったよ。
「次は———分かる?」
俺はマキに尋ねる。
『分かるよ。あの機体の撹乱でしょ?』
本当、以心伝心なんだな。
———俺とマキは。
「そうだ。マキは———」
『煙幕による撹乱、でしょ?』
先読みされちゃいましたよ。
逆に怖くなってきたね。
「頼むよ。俺の合図と同時に発射してくれ」
『うん』
そう言ってインカムの回線を一旦切り、会話をしながら武偵弾音響弾を装填したDEを構える。
そして、軽く体を引きながら、引き金を引いた。
これは俺とマキの間での合図だ。
この動作とほぼ同時にPSL狙撃銃の銃声が聞こえる。
しかし、俺のベレッタからは銃声がしない。
この時、嫌な考えが横切った。
だが、それは現実に起こってしまっている。
そして確信した。
(———不発ッ?! よりにもよってここでかッ!)
俺は弾倉を抜いた。
そして、既に装填されている音響弾を取り出し破棄した。
PSL狙撃銃を抱えたままのマキがこちらへと走り寄ってきた。
「どうしたの?」
「不発だ。弾に不備があったみたい。マキ、音響弾あるか?」
「あるよ」
そう言ってマキは懐から音響弾を取り出した。
俺はそれを受け取ろうとした。
その時、煙幕の向こうからガシン! と言う音が聞こえた。
俺は何の音だか分からなかった。
答えを探した俺は自然とそちらを向いた。
俺の視線が音源に向いた瞬間、そこから無数の弾丸が俺めがけて飛来した。
瞬間、俺は何もできなかった。
ただただ悟ることしかできなかった。
(あ、これ死んだな———)
そして弾丸が俺に当たるまで2mぐらいのところで、刀を盾がわりにしたマキが割り込んできた。
そして、無数の7.62mm弾をその身に受けた。
「……マキッ?!」
俺はマキに駆け寄り、抱きかかえた。
その身体は、刀で守れたところ以外至る所に銃創があり出血していた。
「……マキ? おい、マキッ!」
俺は必死にマキの名前を呼んでいた。しかし返事が無い。
傷口からはかなりの量の出血が起こっていた。
そして、マキの身体は普段よりも軽く感じた。
そう思った瞬間、俺の体内の血流が勢いを増した。
あの、1年の3学期にアイツと対峙した時と同じ血流だ。
ドス黒く破壊と憎悪の感情のみが意識を支配するあの人格。
徐々に徐々に現れ始めた———9条を破りかけた時の俺が。
今あの状態になれば、確実に9条を破り奴を殺してしまう。
だが、一度現れてしまったこの血流を止めることはもう出来ない。
(飲まれるなッ! アレに支配されてしまったらもうお終いだッ!)
そう自分に言い聞かせ足掻くが、それも無駄な足掻きに終わる。
負のみで出来上がっている『ソレ』は徐々に俺の理性を蝕んでいった。
多分今の俺は、怒りと憎しみのみに囚われ、殺意を剥き出しにし、誰にも見せられない様な酷い顔をしているに違いない。
そして、俺の意思とは関係なく体が動こうとする。
体のコントロールすらままなら無くなってきた。
同時に、俺の理性もほぼ無いに等しかった。
俺はただただP・A・Aを睨みつけていた。
その俺の首に腕が巻き付けられた。
俺は思わずマキの方へと顔が向いた。
その時、何か柔らかいものが俺の唇に当たった。
「……ッ?!」
数瞬遅れてそれが何かを理解した。
今当たっているのはマキの唇だということを。
つまりこれはキスなんだと。
「マキ……なんで」
理性が消えつつある状態で何とか言葉を捻り出して聞いた。
「シュウ君に……これ以上……苦しんで欲しく……なかったから」
マキはそう答えた。
「……俺……に?」
俺の疑問にマキはそっと頷いた。
「去年……シュウ君が……刀を振らないって……言ってきた時、私は……シュウ君に……何もして……あげられなかった」
マキは途切れつつも、話を続けた。
「それに、シュウ君は……『力』を持っている。だから、約束……して。その……力を……正しい事に……使うって」
マキの言葉を聞いて、頭の中にあるものが浮かんだ。
(———武偵憲章3条『強くあれ。但し、その前に正しくあれ』)
それを理解した瞬間に、俺の中を流れていたドス黒い血流が徐々に上部から真芯へと集まっていくような感覚が現れた。
これと似た感覚を聞いたことがある。
そして血流は徐々に普段と変わらない血流へと変わっていった。
しかし、今の状態は普段のバーストモードとは異なっている。
だが、今の血流は普段のものよりも強い。
そして何よりも、サイレントアンサーと同等の思考力。
これが決定的な違いだ。
俺の頭を1つの考えがよぎった。
(———ヒステリアモード———)
ところどころ違うとは言えど、今の状態はキンジから聞いたヒステリアモードの感覚に類似している。
だが、今はそんな事は関係ない。
これがなんだって構わない。
これが、この力が、マキとの約束を守れるものならば。
何かを悟ったらしいマキは軽く微笑むとそっと目を閉じた。
俺はマキを抱え上げると、ハイエースの方へと歩き始めた。
『これでも喰らえ!』
その声と共に後方から無数のミサイルが発射された。
俺はそれらを見ることなく、尚且つマキに負担が掛からない様に全て避け切った。
『な、何っ?!』
水蜜桃は焦ったような声を出していた。
俺はそれを無視して進む。
対する水蜜桃は、なおも追いかけようとする。
俺は、懐の武偵弾『炸裂弾』を、衝撃を加え奴の足元へと巻いた。
それにより、P・A・Aは一時的に行動できなくなってしまう。
『な、なんでだ?!』
俺は水蜜桃を無視して、ハイエースへと辿り着く。
中に乗っていた歳那はいつもと変わらず表情を読み取れない顔をしていたが、意識の戻っていたらしい凛音は唖然とした様子だった。
「……今……貴方何を」
「……今はどうだって良いだろ? それよりも、だ」
俺はマキを最後部座席へと寝かせる。
「マキのこと、頼むよ」
2人へそう伝えた。
「待って、貴方はどうするの?」
凛音に呼び止められた俺は振り向く。
「決まってるだろ、あいつを止める」
「そんな、無理に決まってるわ! 一度冷静になって考えなさい!」
———そうだな。多分アレを倒すのは普通に考えたら無理だろうな。
「ありがとう……でも、俺はある奴と約束したんだ。もう、『無理』だとか『疲れた』、『めんどくさい』みたいな人の可能性を押し殺すような事は言わないって。だから、今の俺は無理なことでも———やる。それと」
俺は自身の背面からステアーAUGを取り出し、凛音へと渡した。
「これ、残弾補充はしてあるから。もし足りないなら5mぐらい後ろで倒れてるハヤブサの荷台に弾が入ってるからそれを使って」
それだけ告げると俺は水蜜桃の元へと走りだした。
直後、物凄い勢いでP・A・Aが俺めがけて迫ってきた。
『死ねぇぇ!』
先程まで機関銃の付いていた右アームはマニュピレーターへと切り替えたらしく、そのマニュピレーターで俺を殴り飛ばすかのように突き出してきた。
俺は即座にブレザーの裏側に背負っていた『霧雨』と『雷鳴』を取り出し自身の前でクロスさせるようにして構えた。
そして、マニュピレーターが衝突してきて、凄まじい衝撃に襲われた。
その勢いで後方へと流された。
だが、俺はそれを受け止めた。
『な、何ッ?!』
あまりの事に水蜜桃は驚いていた。———俺だって驚きだよ。
そのまま強引に刀を振りマニュピレーターを弾き飛ばす。
相手が後方へ仰け反った直後に本体へと斬りかかる。
案の定攻撃は弾かれた。
だが、空かさず次の斬撃をコンマのズレもなく同じ箇所へと叩き込む。
先程の攻撃とは違いこちらは装甲に弾かれることなく切り傷をつけた。
俺は3回目の斬撃を叩き込もうとした。
その時、上部から再びマニュピレーターが迫ってきた。
『このッ!』
俺はそのマニュピレーターを避けると少し距離を取った。
俺のいた地点はクレーターができていた。
そんな事は御構い無しに、再びP・A・Aに詰め寄る。
今度はアームを捥ごうと斬りかかった。
そして右のアームに飛びつき斬りつけた。直後、自身の右側から無数の7.62mm弾が飛来してくることに気がついた。
行動をキャンセルせざる終えない俺は、アームを思いっきり蹴り飛ばしてそれらを避けた。
そして、アスファルトに背面から着地し、横向きのまま転がり、その勢いで立ち上がる。
そこからまた、相手の元へと突っ込む。
P・A・Aは背面のコンテナから無数のミサイルを発射してきた。
俺はそのミサイルを躱し、斬り、叩きつけながら避ける。
そして、最後に飛んできたミサイルを叩き斬ることができなかったので、バク宙で避けた。
しかし、それは攻撃を完全には避けきれてはいなかった。
既に水蜜桃の狩るP・A・Aは、マニュピレーターを振りかぶっていた。
俺は既に避けられないと思った。
だが、俺の理論的予感と本能的直観により、自然と体を反時計回りに捻り、神回避を行なっていた。
直後、俺のいた位置を1発の銃弾が駆け抜けて行った。
「……ッ?!」
その銃弾はズレることなくP・A・Aの人間で言う肘の部分を貫いた。
それによりマニュピレーターは動かなくなってしまったようで、垂れ下がるような状態になってしまった。
『何だ?』
あまりの事に水蜜桃は驚いていた。
この一連の出来事の直後、俺の聴覚がある1つの音を捉えた。
そして呟いた。
「———ドラグノフ狙撃銃。レキか!」
俺は後方へ振り向く。
今度は俺の視覚が、ここから1900mほど離れたビルの上に狙撃銃を構えたレキの姿を捉えた。
流石だな、狙撃科のSランカー。
この距離から、あの無数の配線の中の動力系を確実に撃ち抜くなんて。
だが、何故レキが?
そんな事を考えながらも、目の前の敵へと視線を向け直す。
『この、なんで動かないんだ!』
水蜜桃は動かないマニュピレーターを動かそうと必死になっていた。
マニュピレーターが動かない状況は優勢だと言える。
だが、いくらマニュピレーターが動かなくなったしても、戦況が不利なのには変わりがない。
『チッ……動かないか。まあ、いい。だったらこっちだ!』
マニュピレーターを動かすのを諦めたらしい水蜜桃が、左アームのM60を構えた。俺は、弾丸を撃ち落とすために身構えた。
すると上空から2発の発砲音がした。
そして、煙幕がP・A・Aを包み込んだ。
『今度は何なんだ!』
水蜜桃が叫ぶ中、俺は上空を見上げた。
そこには上空からこちらへと向かって降下してくる人影があった。
あれは———
「———アリア?!」
上空からパラグライダーに足を引っ掛け、逆さまの状態で降下してきたのは、双銃双剣のアリアさんことアリアだった。
「……あんたホントにバケモノね」
パラグライダーから足をはずした後、宙返りしつつ着地したアリアにそんな事を言われた。
アリアさんも十分化け物じゃないですかね?
というか十分と言わずに十二分でもいいんだけど。
「あんた今失礼なこと考えなかった?」
なんだこいつの直感は。
お前実は超能力者じゃねぇの?
「そんな事ないけど」
アリアは怪訝な顔をしていたが、直ぐに普段の武偵の顔に戻る。
『どうなってやがる、レーダーがイカれてる!』
水蜜桃は未だに何もできない様子だった。
「お前、何したんだ?」
横目でアリアに聞いた。
「チャフの入った煙幕を巻いただけよ』
チャフ入りかよ……そりゃ何もできる訳ないよな。
「というか、なんでここにいるんだよ?」
「は? あんたまさか忘れた訳? あたしも手伝うって言ったわよね?」
若干キレ気味のアリアは睨みながら言った。
そういえばそうだった、ということを今更思い出したなんていえねぇ……。
言った瞬間に殺されると思う。うん。
「……じゃあ、レキは———」
「あたしの呼んだ助っ人よ」
なるほど。それなら筋が通るな。
「で、どうするの? 今回の作戦の指揮権はあんたにあるのよ?」
……そうだ、この作戦の指揮権は俺にある。
今までの流れで、アイツに対しては俺1人では倒すことができないことは明白だ。
俺はインカムを起動した。
「……みんな、俺の指示に従ってくれるか?」
俺は改めて全員に聞いた。
『勿論よ。この作戦は貴方に全ての指揮があるのだから』
と、凛音。
『分かりました』
と、歳那。
『ハイ』と、レキ。
そして俺はアリアへと視線を向けた。
アリアは『もちろん』と言った感じで頷いた。
「ありがとう。じゃあ、俺が合図を出したら全員同時に———」
俺は普通なら絶対あり得ないであろうことを言った。
「———俺を撃ってくれ」
『貴方正気なの?!』
凛音がインカム越しに叫んだ。
「ああ。至って正気のつもりだが」
『でも、自分を撃てなんて———』
「良いんじゃないかしら?」
凛音の言葉を遮るかのようにアリアが言った。
「シュウヤに指揮権があるんでしょ? ならその作戦に従ってみましょう。あたしはシュウヤの作戦にかけるわ。レキもそれでいいわね?」
『はい』
アリアに問われたレキは短く返答した。
「歳那は?」
俺は歳那へと問いかけた。
『構いません』
歳那も了承してくれた。
『……分かりました。みなさんが賛成なら私も実行に移します』
凛音も了承してくれたようだ。
「全員オッケーみたいね。因みに合図は?」
「合図は、俺がこのベレッタM93を右手で構えたのが合図だ。良いね?」
一同は了解と答えた。アリアは俺に向き直ると口を開いた。
「シュウヤ、必ず成功させなさいよ。失敗したら———」
アリアは2挺のコルト・ガバメントを構えるとこう言った。
「風穴開けるわよ!」
「ああ、わかってるさ。だから、お前らも俺に賭けてくれ!」
そう言うと俺は水蜜桃の元へと走り出した。
そして、漸く動けるようになったらしい水蜜桃もこちらへと向かってきた。
『このッ!!』
水蜜桃は再び背面からミサイルを放ちつつ突撃してくる。
俺はこのミサイルをひたすら右に左にと避けながら進む。
そして、最後の1つを飛び上がり回避した。
『同じことを!!』
水蜜桃は今度は機体そのものを回転させることによって生まれた遠心力でアームを叩きつけようとした。
俺は左手でDEを即行抜きすると、迫り来るアームへと反動弾を発砲した。
直後、俺は凄まじい衝撃により後方へと流される。
反動弾で撃たれたアームは若干凹み、遠心力とは反対の方向へと進み始める。これにより、P・A・Aはバランスを崩した。
『うわぁ!!』
俺は吹き飛ばされながらも右手でベレッタを抜くと同じく反動弾を放った。
同時にベレッタの発砲音ではない音が無数に響いた。
前方へと飛ばされている俺の元に4つの弾丸が後方より飛来した。
俺はその弾丸を自身の体に擦らせ、軌道を変更する。
右腕で左肩の接続部方向へ、左腕で右肩の接続部方向へ、右足のアウトサイドで左膝の接続部へ、同じようにして左足で右膝の接続部へと修正していく。
(……ッ! 弾の擦った場所が痛い……! だが、マキの痛みに比べれば……!)
自身にそう言い聞かせながら弾丸の軌道を修正した。
軌道を変更させられた弾は、P・A・Aの両肩、並びに両膝の関節部分に狂いなく着弾した。
そして、最後に遅れて飛んできたレキのドラグノフの弾を右肩に擦らせコクピットへと撃ち込む。
この一連の動作、名付けるなら———経由撃ちッ!
なんとか着地した俺は、即座に武器を刀へと変えると、P・A・Aの両肩の接続部を切り裂き、アームを本体から切断した。
そして、コクピットへと近づく。
コクピットを外から開こうとした瞬間、コクピットが開かれた。
「これでも食らえッ!!」
中から飛び出して来た水蜜桃は、フルオートに切り替えたM16A1を俺めがけて掃射した。
避けることが出来ないと判断した俺は、強引に刀でそれらを叩き落とした。
しかし、何発か叩きおとせず腹部へと直撃した。
「……グフッ!?」
それにより軽く吐血した。
それでも構わずに俺は銃弾を叩き落とし続けた。
「……な、弾切れ?」
弾が切れた瞬間に俺はベレッタを抜き、相手の足元めがけて発砲した。
俺が今放った弾は『粘着弾』。
名前の通り鳥黐を搭載した弾で、相手を捕獲するための武装だ。
「クソッ! なんなんだこれ! 取れねぇぞ!」
これにより足が、シートに固定された状態になってしまった水蜜桃は踠いていた。
「もう逃げられないぞ、大人しくするんだな」
俺はベレッタを向けながら水蜜桃へと言った。
すると水蜜桃は突然大人しくなった。
俺が怪しんでいると突然笑い始めた。
「何がおかしいんだ?」
俺は若干睨みながら問いただそうとした。
すると、水蜜桃は座席についていたボタンを押した。
同時に凄まじい振動が起き俺は地面へと落とされた。
「……イッ! なんなんだ?!」
俺が再びコクピットへと視線を向けるとコクピットが飛び立とうとしたいた。
「残念だったな! この機体には脱出機能がついてるんだよ!」
……マズイ、ここでこいつを逃したらもう捕まえる術がない!
俺は考えを巡らせた。
だが、なんの案も出てこなかった。
そうこうしている間にコクピットは浮かび上がり始めた。
そして、コクピットがいよいよ飛び立とうとした。
それを見ていた俺がもうダメだと諦めかけた瞬間、凄まじい程の銃声が響き、コクピットに搭載されていたエンジンが爆発した。
俺は、あまりの事に唖然としていた。
そして、数瞬の後に俺は振り返った。
そこには全身に包帯やガーゼを巻いた格好でM60を両手で構えた状態で立つマキの姿があった。
「言ったでしょ、蜂の巣にするって」
マキは、そう俺に微笑んだ。
俺はそれに対して軽く微笑み返すとコクピットの中を覗き込んだ。
そこには伸びた状態の水蜜桃がいた。
俺はその手足に手錠をする。
それを終えると目を覚ましたらしい水蜜桃がこちらをみていた。
「俺はお前を殺したいほどに憎んでいる。だが、殺さない。生きて、生きて罪でも償ってな」
俺はそういうとコクピットから出た。そこへアリア達が駆け寄ってきた。
「シュウヤ、大丈夫?」
俺は口元の血を袖で拭った後答えた。
「ああ、無事だよ。それから、みんなのおかげで奴を逮捕することができた。ありがとう」
俺は凛音、歳那、アリア、そしてインカム越しにレキにお礼を言った。
「悪いけど、あいつのこと連行しておいてくれない?」
全員は頷いてくれた。後のことを任せた俺は、マキの元へと歩み寄った。
「……シュウ君、酷い怪我だね。大丈夫?」
マキは自身の怪我の状態などそっちのけで俺の心配をしてきた。
「ああ、大丈夫だよ。そういうマキも……」
俺はこの先の言葉が続かなかった。
正確には、何を言えば良いのかわからなかった。
戸惑っている俺にマキはそっと抱きついてきた。
「……良かった無事で……シュウ君が……いなくなってたら……私……」
泣きながらマキは弱々しく言った。
「ごめん、本当に……本当にごめん……俺の為にこんなになった挙句に……心配までかけて」
俺は自然とマキを抱き返していた。
同時に、自身の思考とは関係なく言葉が出てしまっていた。
「こんな奴が……相方なんかで……本当に……ごめん」
俺は———泣いていた。
今まで、人前で涙は見せることはなかった。
だが、泣いていた。
「ううん。それは違うよ。シュウ君は私にとって、とても大切な人。だから……もう居なくならないで」
その言葉を聞いた俺は自然とこう言っていた。
「マキ……改めて、俺のパートナーになってくれ」
マキはそっと頷いてくれた。
それを見た俺は安心感のようなものを覚え、徐々に徐々に意識が飛んでいった。
マキが誰かを呼ぶ声を最後に俺の意識は途切れるのだった———
後書き
今回はここまで。
次回から新章になります
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