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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
  第44節「陽だまりに翳りなく」

 
前書き
タイトル通り、いよいよです。
いつだって、陽だまりに翳りなく……。これが最初で最後の、一番普通であったかい、歳相応の少女らしい喧嘩……。

何故ひびみくは夫婦喧嘩のスケールがいちいち大きくなってしまうのか(苦笑) 

 
「──ッ!?今の悲鳴は、まさかッ!」
 よく知るその声の方向へ、わたしは駆け出した。
 辿り着いたのは解体工事中のビル。きっとこの中に……!
「誰か!誰かいませ──」

 ブオオォォォォォ!!

「な……くッ!」
 頭上から突き出された触手に破壊される足場。手すりを足場に跳躍し、宙返りしながら体勢を整え着地する。シンフォギアを装着していなくてもこんな動きが出来るようになったのも、きっと師匠や翔くんのお陰だ。
 ……っと、それはともかく。見上げるとそこには、タコみたいな姿をしたノイズがいた。
 あんな所に居座っていたなんて……。でもあの高さなら、シンフォギアを纏えば……!
「……んッ!むぐぐッ!?」
 突然、誰かの手がわたしの口を塞ぐ。
 驚いて振り向くと、そこには……。
(しー)
 身を屈め、人差し指を口に添えた未来がいた。
 やっぱり、あの悲鳴は未来だったんだ。よかった、無事で……。
 そう思っていたら、未来はケータイに何かを打ち込むと、その画面を見せてきた。
(『静かに あれは大きな音に反応するみたい』)
 そっか……。それで未来はわたしの口を塞いで……。
(『あれに追いかけられて ふらわーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』)
 未来の視線を追うと、そこには気を失って倒れたおばちゃんがいた。
(……だとしたら、シンフォギアの力でないと助けられない。でも、纏うために唄うと、未来やおばちゃんが危ない……。どうしよう……)
 すると、未来はわたしの考えを見透かしたかのように、真剣な眼差しで提案してきた。
(『響聞いて わたしが囮になってノイズの気を引くから その間におばちゃんを助けて』)
「ッ!?」
(『ダメだよ そんなこと未来にはさせられない』)
 わたしもケータイを取り出すと、未来にそう返した。
(『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』)
(『何とかならない……ッ!』)
(『じゃあ何とかして?』)
(あ────)
 その言葉に、強い信頼を感じた。
 もう友達で居られない、なんて言っていたけど……未来はわたしの事、まだ信じてくれてるんだ……。
(『危険なのはわかってる。 だからお願いしてるの。 わたしの全部を預けられるの 響だけなんだから』)
(未来……)
 ポケットにスマホを仕舞うと、今度は耳打ちで、未来はわたしに話しかける。
「……わたし、響に酷いことした。ううん、響だけじゃなくて、翔くんにも酷いこと言っちゃって……。今更許してもらおうなんて思ってない。……それでも、わたしはやっぱり、響と一緒にいたい。わたしだって戦いたいんだ」
「だ、だめだよ、未来……」
「どう思われようと関係ない。わたしも一緒に背負っていきたいの」
 そう言って未来は立ち上がり、大きな声で言った。
「わたし……──もう、迷わないッ!」
 ノイズがその声に反応し、未来の方に触手を向ける。
 それを確認した瞬間、未来はビルの外へと向かって一目散に走り出した。
 何度も触手を躱して真っ直ぐに、一直線に……わたし達を守る為に。
「こっちよ!お前なんかに、捕まったりなんてしないんだからッ!」
 ノイズは完全に未来へと狙いを定め、ビルの外へと出ていった。
「未来……」
 わたしは、未来の気持ちを裏切らない為にも、おばちゃんに駆け寄ると聖詠を唱えた。

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」

 おばちゃんを抱えて跳躍し、ビルの天井に空いた穴から外へと飛び出す。
 安全な場所がないか見回すと、緒川さんの車が停車し、窓が開いた。
「響さんッ!」
「緒川さんッ!」
 車を降りてきた緒川さんの前に着地する。
「緒川さんッ!おばちゃんを、お願いしますッ!」
「分かりました!響さんは?」
「わたしは……。大切な人を、守りますッ!」
 緒川さんにおばちゃんを預け、わたしは再び跳躍する。
 電柱のてっぺんや、ビルの屋上を足場に、未来が走って行った方向へと進んでいく。
(未来……どこ……ッ!?)
 夕陽に照らされ、オレンジ色に染まった街を見下ろしながら、ふと思う。
 何故、どうしてこんなにも広いこの街の中で、まるで運命に導かれるようにわたしは未来の所へ辿り着けたんだろう……って。
 あの時思い描いていたのは、もう一度未来と繋ぐ手と手。それがきっとわたし達を、もう一度引き合わせてくれた。
 未来が囮になるって言い出した時、わたしは戸惑った。それでも、未来はわたしに全てを預けてくれたんだ。
 未来の信頼と優しさを、わたしは絶対に裏切らない!

(戦っているのは、わたしひとりじゃない。シンフォギアの力で誰かの助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだッ!助けるわたしだけが一生懸命じゃない。助けられる誰かも、一生懸命──ッ!)
 あのライブの日、わたしを助けてくれた奏さんの言葉を思い出す。

『おい、死ぬなッ!目を開けてくれッ!生きるのを諦めるなッ!!』

 本当の人助けは、自分一人の力じゃ無理なんだ。だからあの日、あの時、奏さんはわたしに……生きるのを諦めるなと叫んでいたんだッ!
(今なら分かる気がする!だから、助けられる誰か……未来のためにもッ!)

「──きゃああああああッ!」
「──ッ!未来ッ!?」
(……足りないッ!もっと高く……もっと速く、飛ぶようにッ!未来の……所へ──ッ!)
 腰のブースターで更に加速して、着地した場所を駆け抜ける。
(そうだ!わたしが誰かを助けたいと思う気持ちは、……惨劇を生き残った負い目なんかじゃないッ!未来から、奏さんから託されて、わたしが受け取った……気持ちなんだッ!!)
 両脚のパワージャッキを全開にしながら、着地した坂道を滑り降り……一気に解き放つ!
 もう、会いたい人はすぐ目の前に見えていた。

 ∮

(……もう、走れない)
 へとへとになりながら、今にも止まりそうになりながらも、足を前へと進め続ける。
 でももう限界で、遂に両膝を付いて倒れてしまう。
 後ろを振り向くと、タコ型ノイズはもうすぐそこまで迫って来ていた。
(ここで……終わりなのかな……。仕方ないよね、響……)
 タコノイズが飛び上がり、わたしに覆い被さるようにして落下してくる。
 あと数秒後、わたしはあっという間に炭にされてしまうんだろう。
(──だけど、まだ響と流れ星を見ていないッ!)
 今度は翔くんも一緒に連れて来たい。響はそう言って笑っていた。
(大好きな響との大事な約束──破りたくないッ!)
 慌てて立ち上がり、残っている力を脚に込めてもう一度走る。
 その直後、タコノイズが落下してきた衝撃で道路が崩れ、わたしは空へと放り出された。
(そんな……!せっかく、頑張って避けたのに……これじゃ──)
 タコノイズと一緒に、高台から投げ出されて落ちていく。
 このままじゃ、助からないのは目に見えている。
「きゃあああああああッ!」

 響……ごめん……ッ!

〈我流・撃槍衝打〉

 何か、重いものがぶつかる音がして、タコノイズが爆散する。
 目を開いた次の瞬間、もう一度何かがぶつかる音がして、わたしの体は抱き抱えられた。
「私と云う音響き、その先に……優しさを──」
 響だ。わたし、響に抱き抱えられてる……。
 ジャコッ!というスライド音と共に、響の両脚からジャッキが伸びて、後ろのゴテゴテした部分から炎が吹き出し、落下の勢いを軽減する。
 その時、着地の姿勢を取った響の傍を、何かが物凄い速度で通り抜けて行く。
 眼下に見下ろす河原の土手の下へと着地した灰色の影……風鳴くんは、わたし達を見上げて両腕を広げ、両脚のジャッキを展開させていた。
「シンガウトゥウィズアァァァァァァァァァス!……っと、おわっととととと!?」
「あれ?響──え、きゃああああ!!」
「よし、予想通r……ってうおおおおお!?」
 土煙を撒き上げて着地した響は、わたしを抱き抱えたまま、バランスを崩して土手を転げ落ちる。
 それを見越して構えていた風鳴くんも、受け止めるまではよかったんだけど、わたし達の体勢がまずかったのかそのまま巻き込まれ、結果的にわたしと響の下敷きになってしまった。
「「いたた……あいたぁ……」」
「ぐえぇ……な、なんとか間に合った……」
 潰れたカエルみたいな声の翔くんに、慌てて響とわたしは彼から退いた。
 響と風鳴くんの鎧は、一瞬で光と共に消え、元の制服姿に戻る。
 凄い技術だ……いったいどうなってるんだろう?
「しょっ、翔くん大丈夫!?」
「大丈夫だ、問題ない……。いやぁ、かっこよく着地するのも、かっこよく受け止めるのも難しいものだな……」
「いやいや、翔くんはかっこよく着地できるでしょ~!」
「君の事だぞ立花」
「あ、そっか……」
「「「あははははは……」」」
 気が付いたら自然と、3人で笑い合っていた。
 何だか少し、不思議な気分。朝はあんなにギザギザしていた気持ちが、嘘みたいだ。
「それで小日向、無事か?」
「ごめんね未来、巻き込んじゃって。大丈夫だった?」
「あっちこっち痛くて……でも、生きてるって気がする。ありがとう、響なら絶対に助けに来てくれるって信じてた。風鳴くんも来てくれたのは意外だったけど」
「立花は小日向を助ける事を絶対に諦めない。それは小日向の方も同じだと思ったからな。俺は、その諦めない心に応えただけだ」
 クールに返す風鳴くん。その横顔は確かに、お姉さんに似ている気がした。
「未来なら絶対に諦めないって信じてた。だって、わたしの友達だもん!」

 友達。昨日あんな事を言ってしまったのに、響はわたしの事をずっと友達だと思ってくれていた。
 その一言でわたしの目からは、熱い雫が零れ落ちる。
「……う、ううッ……。ひっく、う、うう……。──うわあああああああああん!」
「うわっとっとっとぉ!?」
 抑えきれなくなった感情のままに、響に抱き着く。
 勢い余って響が尻餅をつくことになっちゃったけど……あと一瞬視界の端で風鳴くんが顔を逸らしていたけど……わたしはそのまま泣き続けた。
「怖かった、怖かったの……ッ!」
「わたしも……すごい、怖かったよぉ……」
 響も泣いているのが、声で伝わった。
 わたしも、響も、もう二度と会えないんじゃないかって思ったのは同じだったみたいだ。
「わたし、響が黙っていた事に腹を立ててたんじゃないの!誰かの役に立ちたいって思ってるのは、いつもの響だから!でもっ、最近の響はわたしの知らない所までどんどん遠くへ離れて行っちゃうような気がして……わたしはそれがたまらなく嫌だったッ!また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してたッ!だけどそれは、響を失いたくないわたしのワガママだッ!そのワガママで風鳴くんまで傷つけて……。そんな気持ちに気付いたのに、今までと同じようになんて……できなかったの……ごめんなさい!!」
 心の中につっかえていた物を、全部吐き出すように言いきった。
 響も翔くんも、わたしがその思いを吐き終わるまでは、黙って聞いていてくれた。
 響はわたしの両肩に手を添えて、わたしの顔を真っ直ぐに見つめる。
「未来……。それでも未来はわたしの……ぷ、ぷふふぅっ!」
「え?なに!真面目な事言ってる時に笑うなんてっ!」
「あははっ!だってさぁ!髪の毛ぼさぼさ、涙でぐちゃぐちゃ!なのにシリアスな事言ってるしっ!」
「んもぅっ!響だって似たようなものじゃないっ!」
「うええっ!?うそぉ!?ちょっと翔くん!今のわたしどうなってる!?」
「ん?……ぷふっ、あっはっはっはっは!まあ、2人ともどっちもどっちだな」
 風鳴くんは響とわたしの顔を交互に見比べると、とても可笑しそうに笑った。
「そう言う風鳴くんこそ、髪の毛ぼさぼさで泥だらけだよ?」
「なん……だとぉ!?」
「未来、鏡貸して!わたしの顔見るついでに、翔くんにも顔見てもらわないと!」
「えっと……鏡はないけど……。これで、撮れば……」
 わたしはケータイを取り出すと、内カメラを起動した。
「ケータイのカメラ!未来、ナイスアイディア!」
「あ、わたしも一緒にッ!」
「ほらほら翔くんも!」
「お、俺も?いいのか、俺も入ってしまって……」
「響がそうしたいって言ってるんだし、気にしなくてもいいんじゃない?」
 響を真ん中に、わたしと風鳴くんが並ぶ。さすがに3人ともなると、画面が少し狭く感じる。
「ん~……あああ、もうちょっと──あ、ずれたぁ~」
「こう、もう少し詰めれば……」
「もう、撮るよ、二人とも」

 パシャッ

「のわああぁ、すごい事になってるぅ!?これは呪われたレベルだ……!」
「わたしも想像以上だった……」
「俺もだ……。これはある意味二度と撮れないかもしれん……」
「「「……ぷっ、あはは、あはははははははははッ!」」」
 この時の写真は、3人の仲直りの記念として後で印刷する事になった。
 わたしと響が初めて喧嘩して、仲直りした日。わたしと風鳴くんがようやくちゃんと話せた日。
 そして、わたしが響と風鳴くんの仲をちょっとだけ認めた日の……そんな1枚。 
 

 
後書き
ひびみく色が強過ぎて、翔くんしばらく空気化してなかったかって?
いやいや、そんな事は無い……はず……。
あと今回『私ト云ウ音響キ、ソノ先二』を地の文に落とし込むのが一番大変だったかも……。気付かれているかはともかく。

393「ところで風鳴くん」
翔「どうした小日向?」
393「さっきわたしと響を見て、居心地悪そうに顔を逸らしていたけど、何考えてたの?」
翔「い、いや……女子特有の距離の近さを目の当たりにされたら、健全な男子高校生は気まずさを感じざるを得ないだろ……」
393「ふ~ん。羨ましいんだ」
翔「OPお馴染み、特有のオーラ発しながら言うんじゃないよ怖いぞ」
393「ふふん、こればっかりは女の子の特権なんだから」(ドヤッ)
翔「むう……何故だ、悔しさが込み上げてくるな……」
393「でも、わたしも鬼じゃないから。翔くんだけは特別に許してあげる。肝心な所でヘタレても困るし……」
翔「バッ、何言って……!って小日向、お前どこ目線なんだ……」
393「ん?わたしは響の親友だよ?」
翔「だからオーラを出すな!ラスボス感出てるから!」
393「オッス!我シェm……」
翔「言わせねぇよ!そいつの出番は時系列的に、季節がグルッと一周する頃だ!」
393「まあ、それはともかくとして。あ、いっそ夜の寮に来てみる?鍵開けとくよ?」(ニッコニコ)
翔「話の飛び具合を見てようやく気がついた。俺が今お話してるの小日向じゃない、393だ……!」
393「ふふふ……響がよろこぶなら、わたしはそれで……」
翔「何故そこで平仮名表記ッ!ヤバいヤバい、誰か393を小日向に戻してくれえええええええ!!」

ブラコンSAKIMORI「むっ!?何やら翔にピンチの予感……!」(サイドテールがピンッ!と反応する)
緒川「翼さん……?」

YOME発動時は393表記、頼れる綺麗な義姉はANEMORI表記で、ブラコン悪化させてる翼さんの事をブラコンSAKIMORIって呼ぼう。
393vsブラコンSAKIMORIとかどんな怪獣大決戦だよ……。

次回!OTONAへの報告と、2日ぶりの温もり。そして未来は、響の恋心を知る……。
一方、街を彷徨い、寝床となりそうな廃墟に目をつけたクリスの前に現れたのは……?
ひびみくパート、もとい原作8話のエピローグ。次回もお楽しみに! 
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