戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
第40節「暗雲迫る陽だまり」
前書き
苦めの珈琲を最初に出して、そこへ徐々に糖度の濃い砂糖を足していくのは尊みの基本。
今回は、純クリがほろ苦いと言われてガッツポーズしてた頃の回ですね。
それでは、お楽しみ下さい!
(……奏がなんの為に戦ってきたのか、今なら少し分かるような気がする)
エレベーターで二課本部へと降りて行きながら、私は今日の戦いで胸に抱いていたものを思い返す。
だけど、それを完全に理解するのは、正直怖いかもしれない。人の身ならざる剣
わたし
に、受け入れられるのだろうか?
「……自分で人間に戻ればいい。それだけの話じゃないか。いつも言っているだろう?あんまりガチガチだとポッキリだ──って。……なんてまた、意地悪を言われそうだ」
夢の中で出会えた奏の笑顔を思い出し、奏がよく言っていたあの言葉を呟いてみる。
だが今更、戻ったところで何が出来るというのだろう。……いや、何をしていいのかすら、分からないではないか。
『好きな事すればいいんじゃねーの?簡単だろ』
「……え?」
エレベーターを降りた直後、背後からそんな声が聞こえてきた。
振り向くが、そこには扉を閉じる無人のエレベーターと、誰もいない廊下が続くのみだ。
……夢の中で、奏は言っていた。奏が傍にいるのか遠くにいるのかは、私が決める事なんだって。
だから、きっと……奏は今も私の傍にいる。
ねえ、奏。私の好きな事ってなんなのかな?
(もうずっと、そんな事を考えていない気がする。遠い昔、私にも夢中になったものがあったはずなのだが……)
迷いを胸に私は、司令室へと続く廊下を歩いて行った。
∮
「メディカルチェックの結果が出たわよ。外傷は多かったけど、深刻なものが無くて良かったわ。常軌を逸したエネルギー消費による……いわゆる過労ね。少し休めばまたいつも通りに回復するわよ」
あの後、俺達は司令室に戻っていた。了子さんが、立花のメディカルチェックの結果を報告している。
「じゃあ、わたし……あっ……」
「っと。大丈夫か、立花?」
「あっ……う、うん……」
ふらついて倒れる立花を支えると、少し頬を赤らめながら離れる。
少しドキッとしてしまったが、ここ、このくらいなんでもないぞ。
「ああっ、もう、だから休息が必要なの」
「はあ……。わたし、呪われてるかも……」
「気になるの?お友達のこと……。心配しないでも大丈夫よ。緒川くん達から事情の説明を受けているはずだから」
「そう……ですか……」
立花の心配そうな表情。小日向に色々と隠して活動していたからな……この後の展開は、何となく読めてしまう。
「機密保護の説明を受けたら、すぐに解放されるはずだ。でも、後でしっかり立花の口からも説明するんだぞ?難しいなら、俺も手伝うぞ」
「ありがと翔くん……」
「そういや翔くん、君のお友達は?」
友里さんが心配そうに尋ねてくる。まあ、純に限って問題を起こすとは思えないが……。
「あの雪音って娘を追いかけていきました。なんでも知り合いみたいで……」
「爽々波純。雪音夫妻とは交友関係にあった音楽家夫婦、爽々波夫妻の長男ですね?」
「さすが藤尭さん。もうそこまで調べてたんですね」
藤尭さんは頷くと、現在スマホのGPSを追って捜索している事を教えてくれた。
もっとも、純はスマホの電源を落としているらしく、現在は街中の監視カメラを確認している状態らしいのだが。
「あいつは機密をバラすようなやつじゃありません。雪音を探し終えたら、きっと戻ってきますよ」
「ついでに彼が見つけてくれているといいんだけど……。まさか、雪音クリスと共に、イチイバルまで敵の手に渡っているなんて」
「聖遺物を力に変えて戦う技術において、我々の優位性は完全に失われてしまいましたね」
「敵の正体、フィーネの目的は……」
藤尭さんのボヤきに、友里さんも同意する。
ようやく姿を現した黒幕。しかし、その目的や正体に関しては、全てが未だ謎に包まれている……。
果たして、奴は何を企んでいるんだ?
雪音は確か、戦争の火種を消すとか、人類は解放される……とか何とか言っていたような気がするが……。
叔父さんも同じ事を考えているのか、ソファーに座って考え込んだままだし……。
「深刻になるのは分かるけど、うちの装者は三人とも健在。頭を抱えるにはまだ早すぎるわよ?」
了子さんが笑ってそう言った。
やれやれ。こんな時にこそ、この人のマイペースさはこの職場を和ませる。ムードメーカーはやっぱり大事だなぁ。
「司令、戻りました」
そこへ、姉さんが入ってきた。叔父さんは姉さんの姿を見て、ソファーから立ち上がる。
「翼!まったく、無茶しやがって」
口ではそう言っているものの、叔父さんは何処か分かっていたような顔だ。
もうすっかりいつも通りな姉さんに、むしろ安心しているんだろう。
「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に伏せっているなど出来ませんでした!立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、私や弟と共に戦場
いくさば
に立つには十分な戦士に相違ないと確信しています」
「姉さん……」
あの姉さんが、立花を認めた……。
その事実に驚いていると、姉さんは俺達2人を交互に見てから笑った。
「完璧には遠いが、2人の援護くらいなら、戦場に立てるかもな」
立花が嬉しそうな顔で、姉さんに宣言する。
「わたし、頑張ります!」
「俺もだ。姉さんが本調子に戻るまでの不足分は、俺が頑張って埋めてみせる」
「頼もしいな、二人とも。それでこそ、私が背中を預けるのに相応しい」
姉さんの顔が、前よりもキラキラしている気がする。
もう姉さんは、孤独に戦う必要が無いんだ。そう思うと、ちょっと泣きたくなって来た。2人の前だから、絶対泣かないけどな。
「そう言えば、翔と響くんのメディカルチェックの結果も気になる所だが……」
そう。実は俺も、立花のついでにメディカルチェックを受ける事になったのだ。なんでも、この肉体に融合している生弓矢の状態を確認しておきたかったとか。
「少し疲れはありますけど、大きな怪我はありませんし、大丈夫ですッ!」
俺が自分の結果を答えるより先に、立花は元気いっぱいにそう言った。
うん……俺、やっぱりこんな風に、元気いっぱいの立花が好きだ。
「んー、そうねぇ。どれどれ?」
……と、その時だった。了子さんが指先で、立花の左胸をつんつん、と突っつく。
「にょああああああああああ!?なななな、なんてことをッ!?」
「了子さん!?また立花にセクハラして!!」
立花が悲鳴を上げながら胸を庇い、俺の背後に隠れる。
俺も反射的に立花を庇う構えを取ってしまい、了子さんはその様子を見て笑っていた。
「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が、前より体組織と融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はそのせいかもね」
「だからって立花の胸を突っつくことはないでしょう!?」
「え~。でも翔くんがやると、問題でしょう?それとも私の代わりに翔くんが触診してくれるのかしら?」
「しょっ、触診ッ!?」
「ななななな、何のつもりの当てこすりですか!冗談にしても限度がありますよ了子さん!!」
立花の方を見ると、立花も俺の方を見て真っ赤になっていた。慌てて顔を逸らす。
了子さんめ……まさか、気付いててこんな事を言っているのか!?
だとすれば、なんという趣味の悪さだ……。俺達の恥ずかしがってる姿を肴に愉悦酒飲んでないだろうな!?
「融合……」
(聖遺物と人の融合……?そんな状態で、翔と立花の身体は大丈夫なのか?)
翼はふと、了子の言葉に疑問を覚える。聖遺物という異端技術の塊、それが人間の体組織と融合する事そのものに違和感はない。そういう事もありうるのだろう。
だがしかし、果たして人体にとって異物であるはずの聖遺物が融合して、その肉体にデメリットは存在しないのか。翼は考える。
(──いや、問題を孕んでいるのならば、櫻井女史が軽々に話題にする事は無いはずだろう。問い質す必要は無い筈だ)
聖遺物研究のプロである了子を信用し、翼はその疑問を振り払う。
「ところで翔くん、知ってるかしら?響ちゃんの胸の傷痕、翔くんが生弓矢を突き刺した時にできた傷痕と同じ形してるのよ~」
「ちょっと了子さ~ん……って、翔くんそれ本当?」
「あ、ああ……まあ、その……知ってるというか、なんというか……」
「へ?……って、ああー!!やっぱり見てたじゃん!翔くんのエッチ!!」
「だっ、大事な所は見てないと言っただろう!傷痕と鎖骨と肩以外が目に入る前に、なんとか顔を逸らしてドア閉じたんだからな!?」
「見た場所全部覚えてるじゃん!このスケベー!」
というか、この喧騒を眺めていると、そんな疑問はあっという間に掻き消されてしまう。
「……って、翔!お前、今聞き捨てならない発言が飛び出していた気がするが!?」
「誤解だ姉さん、あれは事故なんだ!」
「え?翼ちゃん、翔くんのお姉さんなんでしょ?小さい頃は一緒にお風呂入ったりしてなかったの?」
「さっ、櫻井女史!そそそういう話を持ち出すのはどうかと思いますが!?」
翼にも飛び火した騒動は、この後しばらく続いた。
「……ふむ。つまり、翔と響くんの体に問題は無いのだな?」
弦十郎の言葉でようやく騒ぎが静まり、ようやく翔の爆弾発言から始まった話が終わる。
「はいッ!ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」
「はい。俺もいつも通り、飯食って一晩寝れば何とかなりますよ」
「大丈夫よ、あなた達2人は可能性なんだから~」
しかし、響の心には不安があった。
一番あっかいところで眠れれば、また元気になれるだろう。でも、そのあったかい親友は今、どんな気持ちでいるのだろう。
嘘をついていた自分に対して、怒っているのではないだろうか?
響と未来の関係は今、雲行きが怪しくなり始めていた。
後書き
そろそろ露骨に見えてきますよね。誰とは言いませんが!
クリスちゃんが迷子を送り届け、純くんがクリスちゃんを探し続けている頃、ひびみくの雲行きが怪しくなり、翔は親友と想い人を心配し、翼さんは弟と未来の義妹の身体に不安を抱き始め、OTONAは親友に疑念を持ち始め、そして緒川さんは忍びなれども忍んでいた……。
この夜は皆何かしら大変ですね……。
クリス「1度目は見えていなかったとはいえ関係ない奴と一緒に吹き飛ばし、2度目は威嚇射撃とはいえ銃口向けてブッ放つ……。うう……あたしのバカ!ようやく逢えたジュンくんに2回も攻撃しちまうなんて、やっぱりあたしはもうあの頃には戻れねぇんだ!うわぁぁぁん!」
?「おねーちゃん、どうしてないてるの?」
クリス「なっ、泣いてなんかいねぇよ!……え?あたし?」
クリス(幼)「もしかして、だれかとケンカしたの?」
クリス「……ああ。ジュンくんに酷い事しちゃったんだ……。きっと、嫌われたよな……」
クリス(幼)「ジュンくんと?……ううん。ジュンくんはきっと、おねーちゃんのこと、キライになんかならないよ」
クリス「え……?」
クリス(幼)「だってジュンくんは、いまでもおねーちゃんのことだいすきだもん!えへっ♪」
クリス「ジュンくんは……あたしのこと、今でも大好き……」
クリス(幼)「だって、いつも、どんなときでもおーじさまは、おひめさまをたすけてくれるんだよ?12じになってまほうがとけても、カエルにされても、とじこめられてたって、ぜったいにたすけてくれる。だから、ジュンくんはぜったいにおねーちゃんをむかえにきてくれる。ぜったい、ぜ~ったい!」
クリス「魔法が解けても、カエルにされても、閉じ込められたって絶対に……か」(左手の薬指に、あの日の思い出を幻視しながら)
クリス(幼)「だから……」
──だから、おねーちゃんはいまでもきっと……。
クリス「……今でもきっと?おい、何なんだよ!その先教えてくれよ!!」(目の前から消えたクリス(幼)に答えを求めてベンチを立つ)
クリス「夢、か……。でも……あたしはまだ、ジュンくんにとっての『お姫様』……なのかな?」
本編補完、タイトルは『あの日のあたしが知る答え』
答えはきっと、2人の胸に。
さて、次回はとうとう未来さんの中の393が百合特有のオーラを放つあの回ですねぇ。
我が国(?)は『OTOME』『OTOKO』『YOME』の3つに分かれ、混沌を極める事になるのでしょう。次回もお見逃し無く!
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