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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第1楽章~覚醒の伴装者~
  第17節「笑顔で囲む食卓」

 
前書き
初めての食レポ!即ち初めて書いた飯テロ回!
あと前回から分割した糖文の残り半分を食らえぇい! 

 
 油が敷かれた鉄板の上に広がる生地が、ジュワッと音を立てる。
 その上からは、さっきまで鉄板の上に広げられたのは何だったのかと疑問になるほどに大盛りのキャベツがドサッと盛られ、そこへ更に生地を垂らす。
 音を立て始めた土台がモクモクと湯気を上げ始め、ゆっくりと固まっていく。
 小山のように盛られたキャベツと睨めっこすること暫く。その間に店主のおばさんは、立花の分のお好み焼きを作り始める。注文通り、こちらもキャベツ大盛りで。
 
 パチパチと弾けていた油の音が、少しずつ静かになっていく。
 漂い始める焼きたての生地の匂いに腹の中の獣が唸り声を上げるが、まだだ、まだだぞと言い聞かせる。気持ちは分かるが、もう暫く待たなくてはならない。
 やがて、2つのヘラが底面の両端に差し込まれ、キャベツの山が綺麗にひっくり返される。
 返しながら先程まで焼いていた生地を移動させ、油を敷き直すとそこへ麺と、生卵を落として火にかける。
 黄身を潰され広がった卵の上に、ソースで味付けされた麺の塊を。その更に上から先程焼いた生地を重ね、更に卵を重ねる。
 仕上げに形を整え、ハケでソースを塗りマヨネーズを波状に。仕上げに青海苔をかければ……。
 
「ほら、御上がり」
「おお……!これはこれは……」
 待つこと15分ほど。目の前の白い皿に乗せられた粉物料理の王様は、ホクホクと白い湯気を上げながら、食卓というステージへと登壇した。
 早速食べようと箸を手に取って、隣の席を見ると、立花は何処か上の空な様子で虚空を見つめていた。
「立花、皿、来てるぞ」
「え?わっ、もう来てたの!?」
「どうした?考え事か?」
「ううん、何でも。わあ、ソースのいい香りだぁ……冷めちゃう前に、早速食べちゃおうよ!」
「そうだな。では……」
「「いただきます!!」」
 両手を合わせた後、箸で切り分け、ふーふーと息を吹きかけて冷ましながら一口。
 
 焦げた生地の苦味と、熱で萎びたキャベツ、そして飴色の玉ねぎのシャキシャキとした食感と僅かな甘さの対比が口の中というホールの中で織り成すハーモニーは、まさにお好み焼きの華。
 よく焼けた卵が歯の間で千切れる食感と、1枚のお好み焼きの中に押し込めらた大量の麺の歯応えが、空きっ腹に言い知れぬ多幸感と満足感を与え、次の一口へと誘う。
 一枚だけ仕込まれた豚肉は、その中でも自身の存在をアピールするかのように舌を撫で、奥歯の中心へと引き寄せられていく。
 それら別々の食材達の個性全てを総括しつつ引き立たせ、焦げの苦味を程よく包み込むソースとマヨネーズの濃厚さは、まさしくお好み焼きという楽団に於ける指揮者と言えるだろう。
 総合した上で感想を述べるなら、この一言に尽きる。
「美味い!!」
 ただそれだけで事足りる。否、真に美味なる食に対して、それ以外の言葉は不要だ。
 
 半分ほど食べ進めた辺りで視線を感じて振り向くと、立花が何やら物欲しそうな目でこちらをじっと見つめていた。
 視線の先を辿れば、そこにはまだ半分ほど残っている俺の皿が……。
「立花……もしかして、食べてみたいのか?」
「くれるの!?」
「別に構わないが……君の事だ。この店のメニューは食べ尽くしているんじゃないのか?」
「いやー、翔くんがあんまり美味しそうに食べてるもんだから、見てたらそっちも食べたくなって来ちゃって」
 そんな風に言われると悪い気はしない。まだ半分も残っているんだ。お裾分けするくらい何でもないさ。
 そう思い、中の具があまり抜け落ちないように気をつけながら切り分けると、立花はこちらに向けて「あ~ん」と口を開けた。
 君は餌を待つ雛鳥か、とツッコミつつも、切り分けたお好み焼きを箸で運び、彼女の口へと滑り込ませる。
 立花はそれを何度か咀嚼すると、ぱぁっと華が開くような笑顔で言った。
「ん~~♪美味し~い♪」
「それはよかったな。でも口角、ソースついたままだぞ?」
「え?嘘!?どっち!?」
「慌てるな、落ち着け、制服の袖で拭こうとするんじゃない!ほらナプキンだ。右端の方に付いてるから、しっかり拭き取るといい」
 立花が紙ナプキンを受け取り、口を拭くその一瞬の間に何やら表の方から物音が聞こえた気がするが……振り向いても店の表には何も見えない。気の所為だろう。
 
「しかし、こうなると立花が食べてる方も食べてみたくなるな。スタンダードな豚玉のはずなのに特製、と銘打たれている所が興味をそそる」
「え?食べる?」
「じゃあ、一口もらおうか」
 俺がそう言うと、立花は自分のお好み焼きを切り分ける。
「はい、あ~ん」
「んぁ……」
 条件反射で口を開けると、直ぐに生地とキャベツのホクホクとした熱が口の中に広がった。
「はふはふ……」
「大丈夫?やっぱり熱かった?」
「ひあ
いや
……ん、こりゃ美味い!」
「でっしょ~!ふらわーのお好み焼きは世界一なんだから!」
「そう言って貰えると嬉しいねぇ」
 店主のおばさんが、やたらニヤニヤしながらこちらを向く。
 確かに、工程がシンプルでもこの味は俺も初めてだ。
 おそらくこのソース……これが生地とキャベツ、玉ねぎ、豚肉、それぞれの味と食感、その全てを引き立たせる働きを担っているんだろう。
 一体何を材料にしているのか……。
 
 ドンガラガラズッドン!
 
 と、ソースの分析を始めようとしたその時だった。
 店の表から、今度はハッキリと物音が聞こえた。
「おや?猫がゴミ箱でもひっくり返したのかね?」
 おばさんが店の戸を引くと、そこに居たのは……。
 
「あ……どうも、こんにちは……」
「あはは……これはどうも」
 サングラスが顔からずり落ちそうになっている姉さんと、姉さんを羽交い締めにして取り押さえている緒川さんだった。
 
 ∮
 
 数分後。ふらわーのカウンター席には左から順に立花、俺、姉さん、緒川さんが並んで座っていた。
 姉さんと緒川さんの前には、立花が勧めてくれたお好み焼きが湯気を立てている。
 一体どうして、店の外でコソコソしていたのかと聞いても、姉さんはそっぽを向くだけで答えてくれない。
 緒川さんに目をやると、こちらもただ愛想笑いで濁すだけだった。
 状況としては、企画していた食事会が前倒しになった形だが、これはこれで都合がよかったかもしれない。
 ただ、先程から姉さんはずっと黙りこくったままだ。空気が重いというか、少し気まずい。立花も先日の件以来、姉さんと上手く喋れず萎縮してしまい、居心地が悪そうだ。
 俺がなんとかしなければ……。
「姉さん、お昼まだなんでしょ?ほら、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「そうだな……。それでは店主の女将さんに失礼だ。ありがたく頂こう」
 割り箸を綺麗に真っ二つに割って、姉さんがお好み焼きに手を付ける。
 それを待ってから、緒川さんも自分の分に手を付け始めた。
「「いただきます」」
 眉間に皺を寄せながら、箸で摘んだ生地を一切れ。
 咀嚼するうち、姉さんの表情がみるみるうちに和らいで行った。
「こ、これは……何たる美味!!」
「この味と食感、チェーン店では味わえませんよ!」
 緒川さんも目を輝かせて次のひと口へと手を伸ばす。
 だが、それ以上に姉さんだ。ひと口、またひと口と箸を動かす手が早くなっていく。
 食べる度に姉さんの顔には、少しずつ明るさが戻って行った。
 
 いつだったか、ライブの後の奏さんが言っていた気がする。
 思いっきり歌うとすっげぇ腹減るらしい、と。
 また、空腹は人の心を荒ませる。満腹は人の心を柔らかくする、とも聞いた事がある。
 では、今の姉さんに当てはめてみるとどうだろうか?
 見事にドンピシャだ。自分を追い込み、鍛錬と任務でも一人きり。その上常に気を張りつめていたら、そりゃあストレスが溜まって行く。
 でも今、姉さんはこうして美味しいものを食べる事で、そのストレスを発散しているのだ。ここ数日、余計なくらいにすり減らし続けた精神的なカロリーを補うかのように。
「すみません……お代わり、頂けますか?」
「はいよ」
 おばさんは、姉さんの食べっぷりに少々驚いたような顔をして。でも、その表情を見ると満足気な表情を見せ、次の生地を広げ始めた。
 
「立花、今なら行けるだろ?」
「うん、そうだね……」
 立花は席を立つと、姉さんの方まで歩み寄る。
「あの、翼さん……」
「立花?」
「その……この前は、どうもすみませんでした!私、翼さんの気持ち全然考えてなくて……奏さんの代わりになるだなんて……」
 深々と頭を下げて謝罪する立花。
 それを見て、姉さんは……。
「いや……。私の方こそすまない」
「え?」
「今朝の任務で思い知ったよ……。一人では何も守れない。なのに私は、翔やお前を巻き込みたくないばかりに、突き放すような態度を取ってしまった……。悪いのは立花、お前だけではない」
 そう言うと、姉さんも立花の方を向いて頭を下げた。
 これは……やったのか?
「立花、お前はあれだけ突き放した私の事を信じて頼ってくれた。だから、これからは私もお前を頼らせてもらう」
「翼さん!それって……」
「ただし、お前は戦場(いくさば)に立つ者としては、まだまだ未熟な身だ。これからはシミュレーターで、みっちり扱いてやるから覚悟しておくんだぞ?」
「へ!?えぇー!そ、そんなぁ……」
 そう言うと、姉さんはようやく立花に向けて、優しさと不敵さの混じった笑みを向けた。
 よかった。これでようやく、一件落着だ。二人の蟠りが解けて、俺も嬉しく思う。
「……だが、それはそれとして。私の目が黒いうちは、翔に手出しはさせん。分かったな?」
「……へ?それってどういう?」
「……姉さん、何を言っているんだ?」
 よく意味の分からない最後の一言に、俺も立花も揃って首を傾げる。
 だが、姉さんはふふん、と満足気な表情でテーブルの方と向き直ってしまった。
 緒川さんに視線を送ると……緒川さんは何も言わず、ただ肩を竦めるだけだった。 
 

 
後書き
次回は遂にアニメ1期第3話へ!お楽しみに! 
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