戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第1楽章~覚醒の伴装者~
第9節「任務前夜」
前書き
そのまま護送任務だと思った?
ざ~んねん、あと二話ほど挟ませて頂きます。
ブリーフィング後、俺は立花と二人で自販機の前に立っていた。
「それにしても……まさか約束の日に任務が入るなんてなぁ……」
「朝の5時に任務開始かぁ。って事は起きなきゃいけないのは4時……起きられるかなぁ……」
「俺ら姉弟、朝5時起きは基本だったから余裕だぞ」
ボタンを押し、オレンジジュースの缶を取りながら答えると、立花は驚いた表情を見せた。
「ええ!?夜更かししないの!?」
「朝から筋トレとかランニングしてるからな」
「凄い……未来でも起きるのは6時なのに……」
「未来……ああ、小日向か」
聞き覚えのある名前だと思ったが、確か立花の幼馴染で親友の女子の名前だ。
中学の頃も、クラスの中で唯一彼女の味方だった存在だ。
前に立つ事はなけれども、立花を隣で支え続けていた事を俺は知っている。
正直に言えば、俺には届かない場所に居た憧れとも呼べるだろう。
そうか……立花は、彼女の進路だから同じリディアンに……。
「え?何で翔くんが未来の事知ってるの?」
反射的にビクッと肩が跳ねた。
この瞬間、立花は俺がかつてのクラスメイトだと忘れているのではないか、という疑念が確信へと変わった。
迂闊だった。小日向の名前に反応したばっかりに、その話題に触れることになるなんて……。
「え、ああ、それはだな……」
隠しているつもりはないんだが……正直、俺は立花にあの頃の事を思い出させたくないんだ。
辛かった日々を思い出し、彼女が翳るのが嫌だ。
辛さを堪えて俯く彼女を、二度と見たくはない。
何より、俺の事を思い出した彼女に拒絶されるのが、何よりも恐ろしかった。
再会からたった三日しか経っていないが、今の関係が崩れてしまうのが怖い。
そう思うと、答えることを躊躇ってしまう。
でも、このたった三日の間で分かったこともある。
彼女は過去に囚われずに今を生きていく、強い心を持っている。
人助けが趣味だと豪語したくらいだ。助けたい"誰か"に踏み躙られた過去を持ちながら、それでも彼女は手を差し伸べる事を選んでいる。
そんな彼女ならきっと許してくれる。虫のいい話かもしれないけど、そんな確信があった。
だから……俺は勇気を出してみる事にする。
蓋をして遠ざけていた過去を、いつまでも隠しているのは偲びない。
支えて行くと決めたんだ。その彼女に対しては、誠実でいるべきだろう。
「……立花、俺の事を覚えているか?」
息を呑みながら、立花の答えを待つ。
「え?何が?」
「二年前、俺は立花のクラスメイトだったんだ」
∮
「弦十郎くん、頼まれてた例のやつなんだけどね~」
ブリーフィングが終わり、輸送車の進行ルートを確認していた弦十郎が振り返ると、入室してきた了子は隣の席に座り、弦十郎の席のモニターにデータを送信した。
先程まで確認していたタブを一旦縮小し、弦十郎は送られてきたデータを確認する。
「改良の結果はどうだ?」
「今出来る最大限の事はしたつもり。でもやっぱり、使用者本人に頼る所が大き過ぎて不確定要素が多い面は変えられないわね」
「そうか……」
「でも、なんとかテスト運用出来る所までには調整出来たわよ。後は聖遺物の欠片を嵌め込めば、一応起動出来るわ」
了子が白衣のポケットから取り出した鈍色の腕輪には、中心部にはちょうど翼のペンダントと近い形状の窪みが存在していた。
「RN式回天特機装束……シンフォギアのプロトタイプとはいえ、その性能は劣化版どころか玩具以下のガラクタ同然なんだけど……。実戦投入出来るように改良出来ないか、って言われた時は驚いたわよ」
「俺達でも使うことが出来るのに、倉庫で埃をかぶるだけだなんて勿体ないだろ?」
「まあ、弦十郎くんの精神力なら案外使いこなせちゃったりするかもね~」
RN式回天特機装束。それは聖遺物の力を歌の力ではなく、使用者の精神力によって引き出し、ノイズに対抗する装備の名称だ。
しかし、使用者の精神力の強さによって稼働時間が変わる上、訓練されたレンジャー部隊でさえ数秒と持たず、使えばただ疲労するだけの欠陥品であり、現行のシンフォギアに比べればその性能差は火を見るより明らかだ。
それでも、一応はシンフォギアのプロトタイプであるため、〈シンフォギアtype-P〉とも呼称されるこの欠陥装備は今、ようやく日の目を見ようとしていた。
「念の為、明日の朝、翔くんに預けちゃってもいいかしら?」
「翔に!?ううむ……確かに、前線に近い場所に立つことになるからな……。護身用に持たせる分には構わんが……」
「じゃあ決まりね?もしもの時は生弓矢の欠片で起動してもらうわ。でも長くは持たないから、生弓矢を持ってダッシュする翔くんを回収する手筈も整えなくちゃね」
「無論だ。何があっても絶対に子どもを守るのが、俺達大人の務めだからな」
そう言って弦十郎は、護送車の進行ルートに合流ポイントを加筆して行くのだった。
∮
「え……?それって、どういう事……?」
立花の声が震える。
怒り……違う。これは多分、恐怖の震えだ。
立花本人が自覚しているかは分からない。しかし、あの日の傷は確かに立花の心に刻まれているのだと、その声で実感する。
だから俺は床に膝を着き、頭を下げて謝罪した。
「すまない立花!俺は……俺は、お前の苦境を知りながら……ずっとそれを見ているだけだったんだ!」
「翔くん……?」
「本当は助けたかった!でもあの頃の僕には……勇気がなかったんだ……。足が震えて……声が出なくて……飛び出せなくて……。手を差し伸べられるチャンスはいくらでもあった!なのに、僕は!!」
僕は何も出来なかった……。泣いている誰かに手を差し伸べるヒーローには、なれなかったんだ……。
「……翔くん」
「許してくれなくてもいい……。君に怒られても、恨まれても構わない!嫌われたって仕方ないって分かってる!でも……あの日の事を謝らせて欲しい……。僕の弱さが君を傷付けた事を謝罪させて──」
「翔くん!顔を上げてよ!」
立花の叫びに、ゆっくりと顔を上げる。
視界に映りこんだ立花の顔は、ぼやけてよく見えなかった。
そこで、ようやく自分が泣いていたことに気がつく。
制服の袖で涙を拭うと、立花は穏やかな顔でしゃがみ込んでいた。
「私、翔くんの事を恨んだ事なんて一度もないよ?」
「え……?」
僕の事を……恨んでない?
なんで……僕は、君に手を伸ばさなかった臆病者なんだぞ?
「翔くんの感じた怖さは、人間として当然のものだと思う。誰だって怖いに決まってるよ」
「でも……僕は……」
「それにね。翔くんが私の事心配してくれてたって知った時、すっごく嬉しかった」
嬉しかった……?
なんで、そんな事を……?
「だって、あの教室で私はひとりぼっちじゃなかったんだって、翔くんが教えてくれたから私は頑張れたんだよ?」
「僕が……?」
何の話を……。そう言いかけて、思い出した。
そういえば、立花に直接話しかけたのはあの日の放課後と……もう一つあったんだ。
後書き
未来「私の出番まだ先だけど、名前は出たから予告お願いって言われたので来たんですけど、何を話せばいいんだろう……。そういえば、最近響の帰りが遅くて困ってるって話をしたら、友達から『秘密でアルバイトとか?』『もしかしたら彼氏かもよ?』なんて言われちゃって、気が気じゃありません。でも、もし響が危ない人に関わっているのなら、私は何が何でも響を連れ戻します!そういや、最近特売でよく会う知り合いも似たような悩みをボヤいてたっけ?今度相談してみようかな……」
一話で書ききれると思ったけど、そうは行かなかったんだよねぇ。懐かしい。
次回、過去回想と響の答え!お楽しみに!
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