戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第1楽章~覚醒の伴装者~
第3節「記憶のあの娘はガングニール」
前書き
一日何話くらいが丁度いいんだろうか……?
その辺考えるの、中々大変ですよね。
しっかしこの頃の翔くん、何がとはあえて言いませんが中々に重いような……。
「立花がガングニールの適合者……だと……!?」
その事実に、俺は瞠目した。
二年前に亡くなった奏さんと、失われた筈のガングニール。
それがあの日、ライブ会場にいた立花に受け継がれていた……。縁とはなんと奇っ怪なものだろうか。
「翔くん、響さんを知っているんですか?」
「はい……。中学の頃のクラスメイトですよ」
「なるほど……同じクラスでしたか」
納得したような顔だけど、驚きはしていない。多分緒川さんは、立花が俺と同じ中学だって所までは調べていたんだろう。
もっとも、俺と立花の間に何があったかまでは、緒川さんとはいえ知る由もないだろうけど……。
あれ以来、どうしているのか気になっていた立花が二課にいる。それを知った俺の中に、ある思いが芽生え始めた。
「緒川さん。俺、明日本部に顔出してもいいですか?」
「どうしたんです?そんなに改まって」
「一目でいいので、立花に会わせて下さい」
「別に構いませんけど……」
あれから二年。立花はどんな生活を送っているのか。心が擦れてやさぐれてしまったのか、それとも新しい環境で平穏な日々を送っているのか。
写真の顔を見るからに、少なくともやさぐれてはいないと思うが……。俺はどうしても、今の立花に会わなくちゃいけない。たとえ彼女が俺を恨んでいたとしても。もしくは、俺の事なんかとっくに忘れていたとしても。
「それからもう一つ」
「なんです?」
「叔父さんにアポ取ってもらえます?」
「風鳴司令に、ですか」
「今回は大事な用事なんです……。アポくらい取っとかないと、仕事の邪魔になったら大変ですから」
そう言われると、緒川さんは小さく笑った。
「分かりました。翔くんが来る事を伝えておきます」
「何故笑うんです?」
「いえ、翔くんも大人になったなと思いまして」
「お、俺だっていつまでも子供じゃないんです!」
そう言うと、緒川さんはまた笑った。確かに、一時期遊びに来る感覚で二課へと通っていた時期はあるけど、今になっても子供扱いとは……解せぬ……。
不服そうな顔の翔に別れを告げると、緒川は車を走らせ去って行く。寮の門限が来る前に、翼を送り届けるために。
∮
アイオニアンの学生寮から帰る途中の車の中。
リディアン音楽院にある翼の寮へと向けて走る緒川は、助手席の翼へと話しかける。
「翔くんも変わりましたね」
「そうですね。昔に比べれば、少しだけ大きくなったかもしれません。しかし、まだまだ未熟です」
翔との話を終え、緒川が車に戻ると翼は既に起きていた。翔との話も途中から聞いていたらしい。
「まあ、確かに未熟ではあるのでしょう。ですが、その未熟さは時に武器です」
「未熟さが、武器?」
「経験が浅く、考え方もまだまだ若い。だからこそ、純粋で真っ直ぐな思考で行動できる。現場慣れしてしまった身には一見、短所として映るかもしれませんが、だからこそ僕達が見落としていた物を拾って来てくれる。私はそう考えています」
「緒川さんは翔に甘いから、そういう事を言うんですよ」
これは手厳しい、と笑う緒川。もっとも、その緒川に甘やかされてるのは翼も同じなのだが。
「それで、翔はまた二課に入りたい、などと言い出すつもりでしょうか?」
「おそらくは。でも、多分今回は何がなんでも折れないと思いますよ」
交差点の赤信号で停車する。車が止まると同時に、翼は緒川の方を向いた。
「何故そう思うんです?」
「翔くんの目が本気だったんですよ。響さんの話をしたら、いつになく真剣な顔になりましたよ」
「立花の?」
「なんでも、中学の頃のクラスメイトだそうです」
「立花が翔の級友だと!?」
案の定、弟と同じように驚く翼。本当にそっくりだ、と思いながら緒川は微笑む。
「しかし、元クラスメイトとはいえ、あそこまで興奮するものだろうか?」
「鈍いですね、翼さん」
「なっ!?何がです?」
「私は調査部ですが、他人の心の中までは調べられません。ですが、推察する事くらいならできます。翔くんの反応から察するに、おそらく彼は──」
信号が青に変わり、車は走り出す。
遠ざかっていく車体は、夜風を斬って走り去って行った。
∮
「翔~、この後の予定は?」
午後の授業が終わった頃、親友が鞄片手にやって来る。
俺は教科書とペンケースを鞄に仕舞い、席を立った。
「悪いな、今日は用事が入ってるんだ」
「用事?お姉さんのCDは受け取ったんだろう?」
「実は……中学の頃のクラスメイトに会えるかもしれないんだ」
「会える……かもしれない?」
そこで何故疑問形?と首を傾げる親友。
その反応は当然だ。
実際、立花に会いたいという気持ちは本当だ。リディアンが二課の真上である以上、エンカウント率は高い方なのだろうが……俺としてはまだ心の準備が出来ていないというか……正直、気まずい。
目の前にあったのに、俺はその手を取らなかった。恨まれていても仕方がない。
逆に、覚えられていない可能性だって高い。恨まれていない分気まずさは減るが、それは俺がその程度の男だったのだと自覚することになる。
どちらにせよ、会うには心の準備が足りない。だから気になりこそすれ、まだ会いたくないと願ってしまうのは俺の弱さが故だ。
会いたい、といっても遠巻きに顔が見れればそれで充分。それ以上を望む必要は無いし、その資格も俺にはない。
クソッ、自分が思っていた以上に面倒臭い男だった事に腹が立つ。こんな時、姉さんならもっとスッパリと決断しちまうだろうに……。
どうしてうだうだしてやがるんだ、しっかりしろよ俺!
「おっと、時間が迫ってる。純、何か予定でもあったのか?」
「あ、ごめん。また今度でも大丈夫だから、行っていいよ」
「ありがとう。じゃあ、俺行くから!」
「会えるといいね、その人に!」
「……そう、だな」
親友からの言葉が、少しだけ心に刺さった。
彼女から遠ざかろうとしている自分に嫌気がさした。
手を伸ばしたいと言っておきながら、彼女から逃げようとしているなんて……。とんだ偽善者だ。これじゃあ俺、あの教室の腐れ外道共と変わらないじゃないか!!
……でも、俺がやるべき事だけは見えている。本来なら関わるべきでない彼女が、戦場に立ち、人々を守る為に戦っている。
ならば、俺は今度こそ……彼女を守らなければならない。
たとえ自己満足だとしても、これは俺に与えられた懺悔の機会。あの日からずっと待ち望んでいた贖罪のチャンスだ。
戦場に立つ彼女に降りかかる火の粉を、この手で払う事は出来なくても、せめてその足場を支える事くらいはできるはず。
歩みが自然と早まる。この決意、必ず伝えてみせる!
∮
秘密のエレベーターで、地下何千mという距離を降りていく。
ここは特異災害対策機動部二課の本部。姉妹校、私立リディアン音楽院の地下に存在する秘密基地。ノイズに対抗する力を備えた人類最後の砦だ。
エレベーターを降り、無機質な廊下をまっすぐ進んで、壁際の大きな鉄扉の前に立つ。
この奥がコンソールルーム。特異災害対策機動部二課の中枢であり、オペレーターが現場をモニタリングし、司令である叔父さんが指示を下している場所だ。
深く息を吸い込み、深呼吸。緊張で不安定になる呼吸を整え、一歩踏み出す。自動ドアになっている扉はすぐに開いた。
その奥に広がるモニターだらけの広い部屋には、キーボードに指を滑らせるオペレーターさん達の席が並ぶ。
そして、その中心に立っている厳つい体格の男性が、こちらを振り向いた。
「来たか。それで、わざわざ俺にアポ取って来たってことは、余程大事な話なんだな?」
「当たり前です。今日は俺の覚悟を、叔父さんに伝えに来たんですから」
俺や姉さんと真逆だが、父さんに少し似てツンツンしている真っ赤な髪と髭。
髪と同じく真っ赤なワイシャツに、胸ポケットに先端を入れたピンクのネクタイ。
広い肩幅から、シャツの下には鍛え上げられた肉体を誇る男なのだと察するのは容易い。
しかし、金色の瞳は力強さと同時に優しさが宿っており、大人の風格を放っている。
この人が特異災害対策機動部二課司令、風鳴弦十郎。俺達姉弟の叔父であり、俺の師匠。俺が知る中で一番頼りがいのある大人だ。
「ほう?なら聞かせてもらおうか。その覚悟とやらを」
叔父さんの目を真っ直ぐに見据える。
前に同じ事を言った時は断られてしまったが……今回は折れない。折れる訳にはいかないんだ!
俺は為すんだ。やるべき事を!あの日の後悔に決着を付ける、罪滅ぼしを!
あの時には無かったこの胸の決意で必ず、この機会を掴んでみせる!
「俺をここに……特異災害対策機動部二課に配属してください!!」
後書き
純「翔、浮かない顔してたけど大丈夫かな?昨日帰ってきた時も何処か暗かったし、昔の知り合いと何かあるっぽいけど……。よし、今日の夕飯は奮発して高い牛肉にしてみようかな?我が家特性ビーフステーキ、きっと喜んでくれるよね。早速買い出しに行かないと!」
翔くんと純くんの夕飯はきっと当番制。
翔くんが和食メイン、純くんがオールマイティとかで分かれてるとよき。
次回は翔くんとビッキーの昔話になります。
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