戦国異伝供書
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第六十二話 赤と黒から黄へその八
「しかしだからこそ」
「人の命は大事に思い」
「人はな」
どうしてもというのだ。
「大事にせねばならんとな」
「和上はお考えですか」
「戦国の世であるが」
雪斎は朝比奈にこのことも話した。
「拙僧はそうせねばと思っておる」
「それを殿にもですな」
「殿が幼い頃からお話してきてな」
「今もですか」
「この様にして言っておる」
朝比奈に対しても穏やかな口調で話すのだった。
「常にな」
「確かに常に言われていますな」
「うむ、そしてやがてはな」
「戦国の世自体をですな」
「終わらせ」
そうしてというのだ。
「再び泰平の世となって欲しい」
「そう思われていますか」
「この様なものは終わらせて」
そうしてというのだ。
「泰平が長く続き民達もな」
「泰平を楽しみ」
「幸せな世になって欲しい」
「そしてその泰平は」
「当家が、殿がもたらすことが出来れば」
それならともだ、雪斎は話した。
「これ以上はないまでによきことと思っておる」
「ううむ、では」
「やがては」
雪斎は朝比奈にさらに話した。
「拙僧は天下人になられたお館様を見たい」
「そこまで思われていますか」
「そして我儘を言えば」
雪斎はこのことは少し苦笑いになって話した。
「隠居した時は都に戻り」
「そうしてですな」
「そこで余生を過ごしたい」
こうも言うのだった。
「出来れば」
「和上は都におられたので」
「戦乱で荒れていても」
今の都はそうであってもというのだ。
「それでも」
「殿が天下人になられ」
「そうして天下を治める政が落ち着いたなら」
その時はというのだ。
「拙僧は隠居し」
「都で、ですか」
「余生を送りたいと思っておる」
「そうなのですか」
「そして」
雪斎は今度は笑った、そうして言うことはというと。
「般若湯を飲みながら」
「またそれですか」
般若湯つまり酒と聞いてだった、朝比奈は呆れた顔になって述べた。
「和上はお好きですな」
「どうもこれだけは」
般若湯つまり酒だけはというのだ。
「止められぬので」
「他のことはともかくですな」
「修行を重ね」
結構な歳であるがこれまで修行を怠ったことはない、その為禅宗の高僧として学識も仏門での徳も知られている。
「他のことは抑えられても」
「般若湯だけはですか」
「どうにも好きで」
それでというのだ。
「止められぬ」
「それで、ですか」
「隠居しても」
それでもというのだ。
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