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アーチャー”が”憑依

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十八話

 
前書き
年末が近いということでリアルが少々忙しくなっています。移転作業が滞ることをお許し下さい。 

 
「来たみたいだよ」

このかを手に入れた千草一行は森の中のひらけた場所で立ち止まっていた。それも新人であるフェイトが追跡の気配を感じ取ったからだ。最初は千草も疑っていたものの、既に大分近くまで迫っているらしいその気配を感じては、黙るしかなかった。

「天ヶ崎千草! お嬢様を返してもらおう!」

最初に刹那が。次いで真名、明日菜、のどかが姿を現す。そして、その中にネギが居ない事に真っ先に気付いたのはフェイトだった。そして、不意に感じる上空での強い魔力の発現。フェイトは千草達にそれを告げる間もなく上空へと飛びあがる。そして……

――雷の暴風!

風と雷による一撃を、完璧に防ぎきって見せた。

「ちッ!」

それを放ったのは一人別行動をとっていたネギだ。しかし、全力に近い力で撃ったにも関わらず何の成果も得られなかったことに思わず舌打ちを零した。

「奇襲とは、やってくれるやないかぁ!」

千草はネギの放った魔法に明らかな恐怖を抱いていた。フェイトが防がねば、やられていた、と。このかが手の内にあるため派手な攻撃はしてこないと油断していたこともあったが、万全の状態でも防げたか分からない。それほどの一撃だった。

「もう、容赦してやらんでぇ!」

そう吐き捨てると、千草は呪を唱え始めた。しかし、その力の発露は千草では無い。千草の背後、大型の猿式神に抱かれたこのかだ。意識はないらしく、力を強引に使われることで僅かに声を漏らしている。

「お嬢様の力の一角、見るとええわ!」

そして、ネギ達の目の前に百を超える化生が姿を現した。



「神楽坂! 宮崎! 無事だろうな!」

「だ、大丈夫!」

「わ、わたしもですぅ!」

百を超える化生との混戦。戦闘などしたことのない一般人二名を要するネギ達は圧倒的に不利だった。だが、それでも持ちこたえているのは嬉しい誤算があったからだろう。

「み、右からきます!」

「わ、分かった!」

明日菜とのどかのアーティファクトが非常に強力なものだったのだ。詠春の言っていた懸念事項、明日菜のことだがネギは大体察していた。本人から聞くに明日菜は石化の魔法を受けたにも関わらず無力化したというのだ。マジック・キャンセル。その本来の意味こそ知らないが、裏のものにとって天敵足り得るこの能力は、狙われるだけの価値があるのだとネギは判断した。
今こそ相手の最優先事項はこのかだが、リョウメンスクナノカミの復活に成功し、余裕が出来た後はどうなるか分からない。それ故に、ネギは明日菜を連れていくことにした。そうなれば最後の一人ののどかを置いていくわけにはいかなかった。眠らせておこうとも思ったのだが、何故かこののどか、魔力抵抗が一般人とは思えないほど高く、時間の浪費を惜しんで連れていくことにしたのだ。
そして、そうするための最低条件としてネギは二人と仮契約を行った。そうすればネギからの魔力供給が可能となり、それだけで安全性が一気に高まるからだ。そして、出てきたアーティファクトがハマノツルギといどのえにっき。召喚された化生を一撃で還す破魔のハリセンと読心能力を持つ絵日記だった。
それらのおかげで二人はここまで特に怪我を負うことなく、明日菜に至ってはその運動神経を生かしてたまに撃退するほどの活躍をみせている。

「真名!」

「分かっているよ!」

その様子を見て手ごわいものを回さなければ一応は安心だと判断したネギは真名にフォローを頼み、自身は敵の撃破に専念したのだ。そのかいもあり、既に化生の数は半分近くまで減少している。だが、やっかいなのが一人。

「楽しいどすなぁ! センパーイ!」

瞳を反転させて刹那へと襲いかかる月詠。彼女だけが厄介だった。今でこそ刹那と互角の戦いを繰り広げているがネギは彼女に今見せているもの以上の何かを感じていた。戦闘者としての特有の勘だ。ネギが刹那に代わり相手に出来れば良いのだが、あいにくと刹那ではこの数の敵をさばききれない。刹那にもそれが分かっているからこそ、月詠の相手に専念しているのだ。

「不味い、な」

時間かかり過ぎている。化生達はネギを倒せと命じられてはいるものの、本来の目的は時間稼ぎだ。直接そう命じられたわけではないが、何となくそれを悟っている兵達は後ろに引いてネギの動きを観察している。何とかして場を動かさねば、とネギが思考をそちらに割き始めたとほぼ同時に、戦場へと新たな影が舞いおりた。

「助っ人するでござるよ!」

「アイヤ~、一杯いるアル!」

3-Aの忍者娘こと長瀬楓と、カンフー娘こと古菲の参入であった。






楓と古菲、二人の新たな戦力が加わったことで戦況は一気に変化した。まず、明日菜が殆ど闘わなくてよくなったのだ。いかにアーティファクトが強力と言えど素人を戦わせているのは不安だっただけにこれは非常にありがたいことだった。そして、もう一つは……

「では、ここは任せたぞ」

「あいあい」

ネギがフリーになれたことだ。それも楓の予想外の戦闘力のおかげだろう。まさか、これほどのレベルの分身を出せるとは思っていなかっただけに、嬉しい誤算であった。
そして、ネギは杖に跨り空へと登る。化生も最早十数匹しかおらず倒してから皆で行けば、と思うかもしれないが、この状況ではそれは余りよろしくない。敵は今この時も着々とスクナ復活の儀式を進めているのだから。勿論、先行する者にはそれ相応の危険が降りかかるがその辺りは皆、ネギの事を信用していた。短い時間の共闘は、ネギの実力を知らしめるには充分な時間だったのだ。



「さて、どうするかな」

ネギは刹那に聞いた祭壇へと向かいながら作戦を練っていた。最大の関門はフェイトと名乗る少年だ。あれは、まだ今のネギでは荷が重い相手だ。倒せる確率は限りなく0に近く、殺す気でかかっても3割がいいところだろう。

「やはり、相手にしないのが一番か」

確かに、まともにやり合えば勝てないかもしれないが出し抜くことは可能だ。ネギはフェイトを無視する方向で再び作戦を練り始めたが、不意に下方から何かが接近しているのに気付く。意識を集中して探って見ると、それが何者かが放った気であることをすぐさま悟った。
黒き狗を象った気は杖に跨るネギに牙を剥く。しかし、ネギにこんな単純な攻撃が通用するわけもなく。

――風楯!

風属性の物理障壁の前に虚しく散った。だが、その狗の影に隠れる様にして接近していた者がいた。犬上小太郎。狗族の少年だ。

「待ってたでぇ!!」

虚空瞬動。空中で瞬動を行う高等技法を用いて勢いよく接近してくる小太郎を、ネギは無言のまま置き去りにした。

「な!? てめぇ!」

しかし、高速移動法である瞬動はネギの杖の飛行速度より早く、すぐに追いつかれてしまった。ネギは心底面倒そうにため息をつくと、小太郎へと視線をやった。

「それで、君は一体何の用だ?」

「この間のリベンジマッチや!」

その発言に、思わずネギは怒りを抱いた。時たまいるのだ。こういう奴が。そして、この手の人間はネギが酷く嫌っているタイプだ。

「一応聞いておくが、天ヶ崎を止めなければ被害は無視できない規模のものとなる。それでも、私の邪魔をするのか?」

「そんなこと言うても、逃がさへんで!」

此方の言葉を碌に聞かずに小太郎は襲いかかってくる。それを見て、ネギは小太郎に対する配慮の一切を止めた。ただ気絶させるだけでは済まさない。一瞬で戦いの歌を発動したネギは杖を蹴って小太郎と同じ宙へと躍り出る。顔に抑えきれないほどの闘争の笑みを浮かべた小太郎を冷たく睨みつける。
勝負は一瞬だった。繰り出される小太郎の渾身の右ストレート。だが、鷹の眼を持つネギの前では、それはテレフォンパンチになり下がる。攻撃の軌道を完全に見切り、それに合わせてカウンターを叩きこむ。水月にカウンターを喰らった小太郎は顔を苦痛に染め、そのダメージの大きさから狗族化を行おうとする。
だが、それは大きな隙となる。小太郎が狗族化を行おうとしている事を察するやいなや、ネギは防御を捨てて一気に攻勢に出る。まずは顎先に鞭のように鋭く拳を放つ。これにより小太郎は脳をゆすられ始まっていた狗族化か停止する。加えて碌に動けない小太郎の四肢を、ネギはへし折った。そして最後に小太郎の首を鷲掴み、地面へ向けて虚空瞬動。小太郎の顔面を勢いのままに叩きつけた。

「………………」

小太郎は身じろぎ一つしない。最低限、死なない様にはしたがそれでも重症は免れないだろう。襤褸雑巾のようになった小太郎に眼もくれず、ネギは杖を呼び戻し再び空を駆けて行った。 
 

 
後書き
のどかの魔法抵抗云々はこの先活かされることのないオリ設定。 
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