網切り
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第一章
網切り
蚊帳、それについてだ。
遠山雄太郎は職場の先輩の六条美琴に言った。
「僕蚊帳生まれてはじめて見ました」
「私もよ」
美琴もこう返した。
明るい顔立ちで優し気な目つきをしている、眉は細く整った形だ。顔は顎は短く先が尖っている。口は大きめだが唇は薄い。鼻はあまり高くないが形はいい。茶色の髪の毛は癖があり多く鬣の様に首の後ろと横全体を覆っている。背は一五八程度で胸は八八はある。スタイルは全体的によく膝までのタイトスカートと黒ストッキングも似合っている。百貨店の従業員の制服からもスタイルのよさがわかる。
「何を隠そう」
「そうですよね」
「というかね」
美琴は自分より十八センチは高く丸顔に丸眼鏡、丸い鼻で癖のある天然パーマの黒髪でやや肉付きのいい後輩にこうも言った。
「蚊帳ってまだあったのね」
「もうそう言えますよね」
「しかもよ」
美琴はさらに言った。
「職人さんがこの大阪にいるなんてね」
「これもまだですね」
「余計に驚きよ」
「ええと、福島の方にいるんですよね」
「そうよ」
店に入ってきたその蚊帳、百貨店の中に見本として吊るされているそれを見つつ二人で話す。二人が吊るしたものだ。
「凄いわよね」
「それで売れるんですか?」
雄太郎は美琴にかなり不安そうに尋ねた。
「それで」
「レトロ趣味の人とか。最近こっちにもよく来てくれるね」
「大阪にもですね」
二人は今八条百貨店にいる、梅田にある八条百貨店大阪店にいるのだ。二人共八条大学出身で美琴の方が二つ上だ。ただし学部は違っていて二人は雄太郎が就職して大阪店に来た時に知り合って一緒に仕事をしている。仲も相性も悪くはなくてそこそこ息の合った仕事をしていて今もそうしているのだ。
だがそれでもその蚊帳を見て言うのだった。
「観光客が」
「日本のものって宣伝してね」
「売るんですか」
「蚊は何処でもいるし」
「かなり寒い場所でもないと」
「ローマにも多いし」
「ああ、イタリアの」
ローマと聞いてだ、雄太郎もすぐにわかった。
「あそこの首都ですね」
「あそこ元々湿地帯でね」
「蚊が多いんですか」
「夏は特にね」
「それは意外ですね」
「だから古代ローマみたいな服だと」
生地が薄く露出が多いものならというのだ。
「もう手も足もね」
「刺され放題ですね」
「そうなるわよ、カエサルなんて」
この英雄はというと。
「頭もね」
「髪の毛薄いからですか」
「刺されるかもね」
「本人に言ったら怒りそうですね」
「天国でそうなってるかしら」
「多分。とにかく蚊は何処でもいて」
それでとだ、雄太郎はさらに話した。
「それで、ですね」
「日本のものってことで」
「売れるだろうって部長が言ってよ」
「本当に売れますかね」
「売れないかもね」
美琴の今度の返事は素っ気ないものだった。
「蚊取り線香とかペープマットとかあるのに」
「そっちの方が便利ですしね」
「だからね、もうね」
蚊はと言ってだ、そしてだった。
二人は蚊帳を見つつ商品のチェックをした、すると。
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