蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第三十六話 聖者
アスロックを撃破した2人は力が多少戻るまで休憩を取ると、要塞の中を突き進む。
「………何だ…?この違和感は…?」
「G7…欠片を持っている能力者はテンジアンを除いて全て倒した…ということは、この奥に…」
『うん、きっといるよ。あのパンテーラが…!』
僅かに感じる違和感に表情を歪めるソウ。
この違和感はGVも同様に感じており、恐らくこの奥にパンテーラがいる可能性が高いと判断し、シャオも同意した。
更に奥に進むと雰囲気が徐々に変わっていくことに2人は気付いた。
「徐々に雰囲気が変わっていく…まるで別の世界にいるかのようだな」
「恐らくテーラの第七波動の影響かもしれない。」
「その可能性は高いだろう。あいつと戦うことはなかったが別の場所に飛ばされたり、天地を逆転されたりと…味方として一緒に戦う分には心強いが、敵対するとこの上なく厄介な相手だ…」
パンテーラの能力は協力していた時は頼りになったが、今回はそれが敵として自分達に放たれることになる。
『駄目…G……ソ………も通……が……いるみた……』
通信にノイズが混じり、シャオの言葉が聞こえなくなってきた。
パンテーラの第七波動の影響なのだろうか?
「以前よりテーラの能力が強化されているのかもしれないな」
以前、皇神の七宝剣の1人として邂逅した際は例え第七波動の影響を受けていた場所でも通信が使えていたのでパンテーラの能力が以前より強化されている可能性が高いと判断した。
「………兄さん…兄さんは…」
「ん?何だ?」
テーラを倒すのかと尋ねようとしたが、GVは無意識に口を閉ざす。
「………何でもないよ。それよりも兄さん…目の前に鏡がある」
「あいつの第七波動の…夢幻鏡の鏡…」
ソウとGVは先に進むにはこの鏡を進むしかないと判断し、鏡の中に入る。
するとそこには既に変身現象を終えて待ち構えていたテンジアンの姿があった。
「久しぶりだな、ソウ。そして飛天の時以来だなガンヴォルト」
「テンジアン…」
「お前の持っているミラーピース…返してもらう」
「断る…これはパンテーラと僕達の理想のために必要な物だ。君達の執念…ここで断ち切らせてもらう!!妹の…パンテーラのためにも!!」
GVの言葉を却下し、即座に剣を抜いて2人に襲い掛かる。
「霆龍玉!!」
テンジアンの斬撃をかわしながらノーマルスキルの霆龍玉で反撃するが、一撃の威力が低い霆龍玉の雷撃はテンジアンに大したダメージを与えない。
その証拠に雷撃を受けたアーマーには僅かな焦げ目が付いただけだ。
「やはり兄弟か。宝剣で強化された僕の一撃をかわすとはね…それだけに残念だよ。それだけの力があれば今の愚かな無能力者の排除も容易く、君の理想も早期に実現すると言うのに君はそれを理解しないどころか能力者に牙を剥き、力の使い方を誤っている」
「力の使い方を誤っているのはお前達だ!そんなことをしても本当の理想郷なんて創れない!」
「力ずくでなければ僕達能力者はしっかりとした居場所を持つことなど出来ない。君が幸運だっただけだ…僕の故郷では、能力者は迫害の対象…無告之民だった。親には捨てられ、住む場所もなく、道を歩けば石を投げられた。やがて僕は空腹のあまり倒れた…その時はお優しい無能力者が食べ物を分けてくれた…尤も、その食べ物には毒が仕込んであったんだ。正に九死に一生、流石に悟ったよ。能力者と無能力者は手を取り合えないとね…」
「そんな…そんなことはない!第七波動を持たない人全てがそんな心無い人じゃない。僕は知っている。オウカを…偏見を持たず接してくれる人を!」
「それこそ一部の人間じゃないか? 僕は君ほど無能力者を信じることは出来ない…人は、自分と違う者を受け入れることは出来ない…それは人類(戦争)の歴史が証明している。弱肉強食。これは、僕ら能力者(新人類)による愚かな旧人類の淘汰なんだ。僕からも聞こう…君の兄は今でも無能力者が憎いのだろう?身近な存在の憎しみを取り払うことさえ出来ない君の言葉に価値はない」
「それは…!」
「言葉ではどうとでも言える。最早僕達は対話と言う段階は過ぎ去った!妹の…パンテーラの望みのために僕は君達を倒す!!」
最初から謡精の力を解放し、最大出力でGV達に斬りかかるテンジアン。
あまりの速度にGVは床が凍りついているのもあり、回避が間に合わずにカゲロウを使わされる。
「GV、この氷の足場では思うように動けないだろう。空中ダッシュとジャンプを使って動け…そうすれば少しはマシに動ける」
テンジアンとの戦いを経験したソウは移動に関してのアドバイスを送る。
「了解」
今回の相手はテンジアン1人のみ、よって前回のアスロックとテセオのコンビよりは対応しやすい。
「ハッ!!」
円月輪を発射してくるテンジアンにソウはマッハダッシュを、GVは空中ダッシュで回避する。
回避が間に合わない場合はガードヴォルトの盾で円月輪を防いだ。
GVがテンジアンに避雷針を撃ち込んで雷撃を流し込み、ソウが雷撃刃の斬撃を浴びせてダメージを与えていく。
「テンジアン!いくらお前でも俺達を同時に相手にすることは出来ない!そこを退け!!」
「それは出来ない相談だ!パンテーラは僕が守り通す!」
ソウの言葉に耳を貸さずに雷撃刃に対して絶対零度の剣をぶつける。
GVは再び霆龍玉を叩き込んでテンジアンにダメージを与え、怯んだ隙に避雷針を撃ち込んで雷撃を流し込む。
「ぐうう…!!」
「サンダーバースト!!」
その隙にソウもマッハダッシュでの高速移動をしながら雷撃でテンジアンにダメージを与えていく。
しかしテンジアンも簡単にはやられず、多種多様な剣を巧みに使ってソウとGVにも浅くないダメージを与えていく。
「はあっ!!」
「くっ!吼雷降!!」
テンジアンが凄まじい速度で突進して斬りかかってくるが、GVは空中ジャンプも駆使してテンジアンを真上を取り、ノーマルスキルの吼雷降を叩き込む。
「ぐはっ!?」
一撃の威力が高い吼雷降は流石のテンジアンも動きを止め、ソウを許してしまう。
「喰らえっ!!」
マッハダッシュで距離を詰めるとチャージセイバーでの斬擊がテンジアンに直撃する。
「ぐっ…まだだ!白闇に舞う冷氷花弁!地に堕つる間もなく斬り捌く!絶対零度、一刀両断!氷華雪断!!」
冷気の吸収に入るテンジアン。
最初の戦いでは初見故にソウは発動を許してしまったが、今回はそれを許すはずがない。
「行くぞ…!GV!!」
「了解!!」
2人は紅き雷霆と蒼き雷霆の身体強化を最大まで引き出し、高速で縦横無尽に動き回ってテンジアンの狙いを妨げ、すれ違い様にスキルと技を同時に叩き込む。
「霆龍玉!!」
「ライトニングレーザー!!」
「ぐああああっ!!」
互いに一撃の威力が低いノーマルスキルと技とは言え、同じ雷撃能力が共鳴したのか、ソウとGVがすれ違い様に繰り出した攻撃はテンジアンを撃墜する程の威力があった。
床に叩き付けられたテンジアン。
このまま攻撃を受ければもう自分は消滅することを確信する。
「ぐっ…負ける…わけには…いか…ない…!この命を賭して…!!パンテーラは…守り切る…!!極寒の空に瞬くアルコル…!七刃が描く斬撃の軌跡…!雪溶けの後に残る者は無し…!!羅刹七星!!」
ふらつきながらも先程のSPスキルと同じように冷気を吸収する。
それを止めようとGVは避雷針を撃ち込むものの、冷気によって防がれてしまう。
「死なば諸とも…!!はああああっ!!」
一気に飛翔し、テンジアンが極限まで威力を高めた冷気を降り注がせる。
「…GV!散れ!!」
「っ!」
ここでソウが取った行動は分散することでテンジアンの狙いを先程の氷華雪断のように狙いを定めなくすること。
降り注いだ冷気はそのまま巨大な氷柱となる。
羅刹七星
それはテンジアンの決死の覚悟により極限まで高められた第七波動は能力の対象範囲を拡大させ、“空間、魂、時間”といった概念すらも氷の内に閉じ込め、その存在ごと凍てつかせた相手を7本の氷剣による連撃で砕き割る。
しかしあまりに強力な第七波動は使用者自身も凍てつかせるため、自身も命を捨てる覚悟がなければ繰り出すことが出来ないという、これぞ諸刃の剣と呼ぶに相応しい大技だ。
GVとソウはそれは知らないが、テンジアンの執念の技がそんな生半可な物ではないと判断し、必死に冷気をかわしていくが…。
「ぐっ!?」
最後に放たれた大規模の冷気の回避が間に合わずにソウの右足が凍結し、動きを止める。
「ソウ…せめてお前だけでも…砕け散れぇ!!」
決死の第七波動の冷気を纏わせた剣で斬りかかるテンジアンだが、その刃が振り下ろされる前にGVが間に入った。
「兄さんはやらせない!霆龍玉!!」
刃に霆龍玉を叩き込み、雷撃を盾代わりにする。
「ガンヴォルト…!」
「お前がテーラを…彼女を守るために戦っているように…僕にも守りたい人がいる…!だから僕はお前がどれだけの力を振るおうと決して退かない!!」
テンジアンの体が限界を迎えたのか、冷気はみるみるうちに弱くなっていく。
ソウの体を拘束する氷も脆くなり、紅き雷霆の力で氷を砕いた。
「テンジアン!!」
「ソウ!!」
ダッシュで急接近するソウはチャージセイバーで斬りかかり、テンジアンもまた剣を振り下ろすが、剣はチャージによって強化された雷撃の刃によって粉砕され、そのままテンジアンを両断した。
「がは…っ…!パン…テーラ…!!」
テンジアンは妹を守れなかったことを無念に思いながらソウを見つめる。
「…お前に…詫びはしない。これが俺の選んだ道だ…その代わり背負っていく。お前の魂を…そして…出来ることなら…守りたい……お前の…大切な物を…」
「………君は…本…当に…不器用な…男…だ…」
悲痛そうな表情を浮かべるソウに…そして彼の言葉に安堵したテンジアンは最期に苦笑を浮かべて体が膨張、爆発してしまう。
宝剣も粉々になり、そこからミラーピースが発見された。
「………」
「兄さん…」
「…行くぞ…そして終わらせて帰るぞ…あいつを含めたみんなでな」
「っ…!うん…!!」
兄の言葉にGVは笑みを浮かべて共に奥へと進んでいった。
この先にあるかつての強敵を乗り越えて…。
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