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異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》

作者:獣の爪牙
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第一部
第四章 異能バトル
  4-6 決着



防ぎきれず豪腕をモロに受け、山崎は吹っ飛ぶ。

「誰がもやしだっ!」
「すげー」
千冬ちゃんが目を見開いて言う。

「木村」
砂川の指示で木村の茎があたし達に向かう。

しかしそれは壁が現れ防がれた。

壁は黒い炎で出来ていて見慣れた安藤の異能と同じだった。
なによりこの湯たんぽのような温かさ。

「この生ぬるさ、本当に安藤くんの異能のようです」
「いやそこで分かるの⁉︎」
「これがじゅーくんのあの役立たずの異能……?」
「そこまで言う⁉︎」

これが安藤の新しい異能の力なら。

「これは……勝てるかもしれません」

希望の光が見えてきた。

「なんか分かんないけどやっちゃえ! 安藤〜!」
「いけー、アンドー」

安藤はふっと笑ってみせた。
「後は任せて」

おかしい。

こんな頼もしい安藤は見たことがない。

「うちの部に手を出した罪を思い知れっ!」


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「ガハッ! ハァ、ハァ」
山崎は地に手をついて呻いていた。

咄嗟に腕で防いだものの、まるでないかのように吹き飛ばされた。特に肺が軋んで呼吸が痛い。

(さっきの黒い腕。ハンパな威力じゃない)

四肢強化の異能でなければ腕が折れていてもおかしくない。

「もやしがあ……!」

なんで今まで使わなかったのかわからねーが問題はそこじゃねえ。
あの腕をどうするかだ。
後ろの女は今考えなくていい。

(あいつさえ殺せばおれらの勝ちだ…!)

無理矢理立ち上がる。
「木村あ! 二人掛かりでやるぞ!」
「は、はい」
「わたくしも援助します!」

おれと木村の体が妖しく光った。
フォクシーの基礎能力の増強魔法。
身体能力を少し上げることが出来るそうだ。
痛みは変わらないが苦しさが少し和らいだ。

先に木村がもやしに茎を伸ばし、遅れて山崎が接近する。
もやしは後ろを庇う為に茎に異能を使う。
そこでおれがやつを崩し、一発叩き込む。

案の定、もやしは茎を黒い掌で防いだ。
もやしは右手で異能を使っていた。

警戒しながら間合いに入る。

そこでやつの左手が黒い炎で包まれた。

「なっ⁉︎」

両腕だと⁉︎

仮に両腕とも使えるとすれば接近戦では勝ち目がなくなる。

「くそがあっ!」

山崎は全速力で距離を詰める。

撃たれる前にやるしか勝機はない。

反射的に出た行動は長年続けていたボクシングの動きだった。

左のジャブからの右ストレート。

自分の中で決まったという感覚がした。

しかしジャブは当たらず、ストレートは顔の前で左手で掴まれた。

「……」
あまりのことに信じられず声も出なかった。

「アンタはここぞって言う時はボクシングの癖が出るからな。KO狙うなら顔だろうと思った」

「……」

左腕の溜めが終わると同時に山崎は押し返された。
態勢が崩れた所で黒い拳が視界いっぱいに広がった。

「ちくしょう……」

視界が急激に変化し、黒い拳が遠ざかっていった。

********************

山崎は尋常じゃないスピードで転がっていった。
倒れ伏している。さすがにもう立ち上がれないだろう。

あたし達はその間彩弓さんの治療を受けていた。

安藤はすかさず木村を攻める。
安藤は茎を異能の両腕で掴んだ。
すると茎を半ばでちぎり、木村へ投げ飛ばした。
丸太ぐらいはありそうな重さの茎をだ。

「すごいパワー……!」

「ひいぃ!」
木村は叫びつつもなんとか避けた。

安藤は止まらない。

茎が通用しないと判断したのか、木村は蔓を伸ばした。

「けど、それじゃあ……」

ふつーにちぎられていた。

もはや歩いて近づく安藤に木村は腰を抜かし、巨大な手のチョップで気絶させられた。

「ふー。こんなもんか」

「どうやら終わったようですね」

四人の元に安藤が戻ってきた。

「鳩子の怪我はどうです?」
「問題ないでしょう。強めの打撲ですが跡は残らないはずです」

「じゃあ、これで……」

鳩子が言いかけた時、安藤以外が驚きの表情を浮かべる。

遅れて安藤も後ろを見ると、なんと山崎が立ち上がろうとしていた。

「ハア、……ハア、……」

でも、山崎は疲労とダメージで立ち上がるのがやっとなのが見て分かった。

「木村っ……!」

どうやら今気付いたらしい。

「くそ……! 砂川さんっ」

山崎は後ろを振り返った。
しかしそこには誰もいなかった。

「……すながわ……さん……?」

状況を理解出来ずに呆然とした山崎。

「後ろのやつと精霊ならお前が倒れたのと同時に逃げたぜ」

「……」
山崎と木村は見捨てられていた。

そこで諦めるかと思いきや、山崎は構えた。

その目はまだ敗北を認めていなかった。


「……もう負けは決まりだろ? まだやるか?」
「……ああ」

とは言ったものの、山崎はふらついている。
安藤は黒い焰を腕に小さく纏い、何発か入れた。

腹を抱え膝を屈する山崎。

さすがにもう立てないだろうと引き返す安藤。
しかし山崎は再び立ち上がった。

「……もやしって言ったが、取り消すぜ。……お前はつえー。けど、負ける訳にはいかねー」
「……」

負けと言っても必ず死ぬわけじゃない。
気絶やもうどうしようもないと委員会に判断されれば負けになり、命は助かるはずだ。

なのになんで……?

山崎は頑として負けを認めなかった。
山崎を倒さなければこの戦いは終われない。

安藤は異能で腕を覆い腕を振り上げた。
山崎は全く動かなかった。
いや、動けなかったのだろう。

その時だった。

「そこまでにしてもらえないっすかね?」

山下が山崎を守るように立っていた。

「お前は……」
「透明化の異能よっ! ナイフに注意して!」

鳩子が気絶させ土に埋めたはずなのにどうやって脱出したのか。
けど今の安藤なら。

すると山下は予想外の行動に出た。

山下は安藤に向かって土下座した。

「これで許して下さい」
「山下……?」
「……」

呆気に取られた。

「図々しいお願いなのは分かってるっす。けど、そこをなんとか……」
「やめろ山下ぁ!……なにやってんだ!」

「今アンタが死んだら! アンタの妹はどうなるっすか⁉︎」
「‼︎」
妹……?

「山崎さんの家には借金があるっす。それを返すためこの戦いに参加したっす。けどここで死んだら家に入る金が無くなっちまうっす。だからどうか……」

「……お前……どこでそれを?」

「砂川さんとの会話を盗み聞きして、妹さんに会ったっす。山崎さんのバイトで食い繋いでるんだって」
「……」

「だから、お願いします」
山下はもう一度頭を下げた。
山崎は少しためらったが頭を下げた。
「今まですまなかった。許してくれ」

安藤は無言で最後まで聞いていた。

「人を殺そうとしといて自分は助けて下さい。虫のいい話だ。でも」

そこで安藤は異能を解いた。

「この前おれがやられた分はもうやり返したしなあ。あとはみんな次第だけど……どうする?」
振り向き問いかける安藤。

そこで鳩子が口を開いた。

「うーん、じゃあ許しちゃう」
「鳩子⁉︎」
彩弓さんがため息を吐いた。

「千冬も、いいと思う」
今度はあたしがため息を吐いた。

「あー、顔あげてくれ」
二人は顔をあげた。
「さすがに懲りたと思うけど二度目は無いからな」
「ありがとうございます」
山下は驚いた後表情が綻び、命を救われたかのように感謝の言葉を連呼した。


********************


「よし! 帰ろうか! ってか千冬ちゃんその格好はどうしたの?」
「似合う?」
「え? う、うん、意外と」
「……(赤面する千冬)」
「……安藤くん、ロリコンはほどほどにしてください」
「今のアウトですか⁉︎」

安藤寿来はあっさり許してくれたっす。
まさか本当に許してもらえるとは思ってなかったっすけど。

「器のでけー人っすね」
「……ふん」

結果を見れば北高は負け。
おれっち達と砂川さん達は生き残ったとはいえチームは崩壊。

でもこれでよかったような気がするっす。
砂川さんは催眠で無関係の人達をこき使い汚い金を生んでいたっす。
それは山崎さんの家計を救っていたとはいえ、汚い金は汚い。

他人を不幸にして幸せになろうとするのは間違いだって気付けたっす。

「立てるっすか? ってか帰れるっすか?」
「……あいつのがそこそこ効いててよ、いけっかな」
さっき見てたっすけど絶対そこそこじゃないっすよね?

「しょーがないっすね〜」
山下は手を差し伸べた。
それを取る山崎。

立ち上がり肩を組む二人。

ふと見ると安藤達は治療も終わったのか、ワープゲートを作っていた。

「帰りましょうか」
「ああ」
ゆっくりと歩き出す。

「これからどうするか」
「……一からやり直しましょ。また二人で」
「……そうだな」
校門へ向かう。

すると安藤寿来がこっちに近付いてきたっす。

「なあ、山崎」
立ち止まる二人。

「……なんだ? やっぱり許せねーから殺すか?」

山崎さんは振り向かず問いかける。

「ちげーよ、そうじゃねー」
安藤寿来は否定したっす。

「借金があるんだってな、その為に参加してるって」

「……それがどうかしたか?」

確認の意味が分からずにいる二人に安藤寿来は驚くべき言葉を口にした。


「おれの知り合いに異能バトルに詳しい人がいてな。今度会ったらその辺り聞いといてやるよ。そこが分かれば返済に近づくかもしれないと思ってよ」


顔を指で掻きながら言う安藤。

山崎さんは目を見開いた。
目を手で覆う。

「おれは……こんなやつを……」

足下に雫が落ちていた。

「ありがとう……!」











********************











夜が深まり、月明かりだけが頼りになる暗闇のなか、空に二人の影が浮かんでいた。
ひとりは精霊、ひとりは人間だった。

「そこまでしてやる義理なくね?」
「まあ、おれ寿来のこと気に入ってるし。尻拭いくらいしてやろうってな」

砂川とやらを乗せたバイクはなぜかスリップし続け曲がり角で大破していた。

「まあ、死にやしねーだろ」
「ふーん、じゃ、あいつらは?」

ひとりがもうひとりの肩を組んで支えて高校から去っていく二人組が見えた。

「……まあ、あっちはいいだろ。寿来が逃がしたみてーだしな。それで? あれが不正した精霊か?」
「ふ、不正? なんのことやら」
目の前ではオレンジのスーツに眼鏡の精霊が狼狽えていた。

「とぼけんなよ。許可されていない情報を収集して担当プレイヤーに流す。おまけに戦闘中に支援魔法まで。ルールブックは読まなかったのか?」
「おいおい、精霊はあくまで円滑な戦いの為のサポートで介入なんて以ての外のはずだろ?」

「違う! そんなことはしていません!」
「欲に目が眩んだか。当然委員会には通達済みだ。すぐに判決が言い渡されるだろう」

「ま、待ってくださいリーティアさん! 取引しましょう!」
直後、フォクシーの周りに黒い靄が発生した。
「あたしに言っても意味ねーだろ。ほら、お達しだ」
「嫌だ! わたくしはまだ……」
続きを言う暇を与えられず、フォクシーは闇に飲まれるように消えていった。
 
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