ユキアンのネタ倉庫
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ありふれた職業で世界堪能 4
前書き
いつもより大分短いです。
大迷宮から抜け出し、久しぶりの太陽の光を浴びてテンションが上った3人を温かい目で見守りながら茶を啜る。魔物が寄ってきているが、それらは全て植物の養分になってもらった。魔力の拡散が早いとはいえ、生体に蓄えられている分には問題がない。豆の方に最初から全ての養分となる魔力を込めておけば何の問題もない。
一頻りはしゃぎ終わった3人をハジメ謹製のキャンピングカーに載せて移動を開始する。運転手は儂が務めることになった。
「全然乗ってないけど体は覚えてるもんなんだな」
「何処で何のために乗ったのかは聞かないほうが良いよな?」
「偉い人はいいました、車は凶器。自由の国アメリカと言われるが、それより自由な国はイタリアだ。例を出すとハイスクール生がノーヘルで片手に酒瓶を持ってバイクに乗って登校しても何の問題もない」
「法治国家としてどうなんだよそれ」
「自由とは自己責任と同在するものなんだよ。ところでモンスタートレインって過失率は何対何になるんだろうな」
「普通に考えて10:0だろう。というか、そんなことを聞くってことは」
「正面から、結構大型に追われているみたいだな。接敵まで2分、30秒ほどで対物ライフルなら狙えるはずだ。躱せはするだろうが、大分運転が荒くなるな」
悩みながらもハジメは対物ライフルを取り出して窓から屋根に上り、しばらくした後に二発の銃声が聞こえる。
「お見事。進路はずらせないから顔だけ覚えてブラックリスト行きだな」
「ちょっとだけ仕留めた獲物が気になるんだよな。ティラノみたいな恐竜なんだよ」
「ああ、そういえば好きだったな」
「ああ、好きだな。双頭だったけど」
双頭って、生物にとってデメリットのほうが多いのにな。一番エネルギーを消費する脳を2つも使い、肉体の優先権の有無で混乱したりするからな。それよりは虫の複眼や大量の目を持つ方が絶対に良い。
そんな事を考えながら香織達に一応警戒を促す。質の悪いトレイン主なら此処から引っ張ってきた本人が襲いかかってくるからな。
ハジメにカバーを任せてトレイン主の側にキャンピングカーを停める。窓を開けて猟銃で双頭のティラノっぽい魔物の死体に銃弾を叩き込む。それからトレイン主に銃口を向ける。
「動くな!!そのまま両手を上げて膝を付け!!」
「うえええええっ!?一体何が」
続けて足元に銃弾を放つ。
「警告は一度だ。両手を上げて膝を付け」
「はいいいい!!」
両手を上げて膝をつく兎人族(とでも呼べば良いのか?)の少女に猟銃を突きつけたままキャンピングカーから降りる。ハジメにティラノらしき魔物を見聞させながら油断はしない。
「ハジメ、どんな感じだ」
「駄目だ、思っていたよりも質が良くない。奈落の上層部の方がマシなぐらいだ。尻尾の方だけカットしておく」
うぅむ、やはりそんなものか。となると、クラスメイト達が攻略しているのは練習用のダンジョンになるのだろうな。駆け抜けたから印象は薄いが、どことなく雰囲気が似ていた。これは早めに心を折りに行ってやらないと死ぬな。天乃川がくたばってくれると一番手っ取り早いんだけどな。
「あ、あの〜ですね」
「つまらない話だと頭がああなるぞ」
吹き飛んでいるティラノの頭を見せつけて脅す。
「つまらないかどうかはわかりませんが、条件付きで限定的に未来予知が出来ます。こっちの方に行けば皆が助かる未来が見えて、だから家族の皆を助けてください!!」
「言いたいことがそれだけならアレと一緒になるんだが」
「ええええええええええ!?どどどどうしてですか!?」
「本気で言っているのか?普通は謝礼も一緒に話すものだ。タダ働きなんかするはずがないだろうが」
「えっと、それなら私を好きにしてくれても」
「いらんな」
「そ、即答ってひどくないですか!?」
「素性の分からない奴を傍に置くなんて危ないことが出来るわけがない。何より、他力本願なのはまだしも図々しいのは大幅な減点だな」
「こ、こんなにも美少女なのに」
「涙鼻水埃に泥まみれな状態で何を言っているのやら。あと、儂産まれたときから不能だから性欲がない。ハジメは二人で一杯一杯だな」
この少女の失敗したという顔を見て確信した。条件付きで限定的に未来が見えると言っているが、おそらくは確率としては低いがありえないこともない未来線を願望でソートした物が見えているだけだ。戦闘で使えば強力だ。だが、方針にすることは出来ない。彼女が見たという未来線との差異が激しいからだ。正直に言えばいらない。
積極的に排除するつもりはないが、擁護するつもりもない。全員に聞こえるように念話は繋いでいた。送信オンリーで棄権を伝えた上でだ。結論が出たのかハジメがこちらに向かってきた。
「徹、樹海の奥の案内が出来るなら連れて行こう」
「案内人ねぇ、まあ、手間が省けるか。儂らは樹海の奥に行きたいのだが、案内が出来る者が居るか?居ないのならここでお別れだ。せめてもの情けで数日分の飯と水ぐらいはくれてやる」
「で、出来ます出来ます!!ですから助けてください!!」
ちぇっ、出来るのかよ。とりあえずハジメたちに任せて運転を再開する。道はハジメが聞き出した道のりを念話で送ってもらう。
『機嫌が悪いみたいだけどどうかしたのか』
『図々しいのは嫌いだ』
世間知らずならまだ許せる。だが計算で近づいてくる輩は嫌いだ。それでも仕事ならまだ許せる。大人だからな。だからこのウサミミは嫌いだ。未だに助けた礼も自己紹介も受けていないのだから。
徹の機嫌がちょっと悪い。大丈夫だとは思うが、シアに釘を差しておいた方が良いな。
「シア、改めて言うがオレたちの中で一番怒らせたら不味いのが徹だ」
「あの冷たい目で睨んできてた人ですか」
ああ、完全に戦闘モードと言うか暗殺者モードと言うか、そっちになってたのか。損得勘定じゃなく計算で邪魔だと判断されてもおかしくなかった。
「運が良かったな。機嫌が良かったのか分からないが、一歩間違えたら頭がパーンっと弾け飛んでたな」
シアが固まっているが事実だ。
「オレたちの中で一番殺しに慣れてる。邪魔だとか害になると判断したら速攻で排除する。あいつの好きな言葉は『大概の問題はコーヒーを一杯飲む間に心の中で解決する』だ。緑茶党だけどな。少し悩んでも、すぐに答えを出して結果に悩まない化物だぞ。あまり図々しい態度をとると排除一択になる。不能の上に征服欲とかそういう欲も一切ないからな。殺して晒すのを躊躇わないぞ。ああ、肥料にはされるかもしれん」
その言葉に香織とユエが顔を反らす。そしてぶつぶつと何かを唱えている。徹の肥料作りはSAN値を削られるからなぁ。目立たないようにと夜中に作ってるんだが、それを偶然でも目にするとなぁ。
「嫌だぞ、明日の飯の原料になるとか」
「肥料にされるのが確定!?」
「面倒だからと腕の一本や二本位ならもがれるな。足は、担ぐのが面倒だから許されるだろうけど、その次は耳、いや先に耳からかな?」
「ハジメ、肥料には栄養がある方が良いから胸からかも」
「血止めが面倒だとか言って、焼いて止める可能性があるんだぞ。肉が食えなくなる」
「今も大して食べれない。もう大豆ハンバーグでいい」
それには賛成だ。魔獣の肉のまずさはどうにもならなかった。徹だけはなんとかしようと研究してたが、激辛チャレンジに放り込んだら爆発してた。あたり一面にカプサイシンが振りまかれ、催涙弾をくらったみたいになった。直撃をくらった徹も流石に咳き込んでいた。鼻に直撃をくらったらしい。
あとはユエの言う通り大豆ハンバーグというか大豆(他にも色々な豆。正体はきっと聞かないほうが良い。どうせ遺伝子改造を施した何かだから。足なんて見なかった)を使った成型肉もどき。魚にも飽きてきた頃に開発された成型肉もどきは食卓を豊かにした。久しぶりのまともな分厚いステーキに涙した。その後に出てきた肉じゃがの方が美味かったけどな。
ユエはハンバーグが好みだった。中からチーズが出てきたんだが、そのチーズはどうやって調達したのか聞けなかった。豆乳からゴニョゴニョしたんだろうけどな。ちなみに香織はロールキャベツを気に入っていた。どうやってスープの出汁をとったのかは聞かない。原材料に目を向けなければ地球と同じ、しかもそこそこ良い店の味から家庭の味まで再現してくれるのだから文句をいうべきではない。この件に関しては心に棚を作って誤魔化そう。
「とにかく、徹を怒らせるな。純粋に戦闘技術はこの中じゃあトップだし、暗殺者みたいな技術も経験もあるし、食事に毒をもられてもしらないぞ。いや、そもそも食事を作ってくれるかどうか」
「ん、仲間判定じゃないから対価を払わないと絶対に作らない。作っても嫌がらせのような味でプレッシャーを掛けてくるはず」
「否定出来ないよね。ユエもちょっと危なかったよね」
「運が良かった。禁断症状で土いじりしか頭になくて助かった」
そこだけは運が良かった。自己紹介も挨拶もせずに放置したことの罪悪感からって、ああ、なるほど、シアはお礼を言うことも自己紹介も挨拶もしていないから対応がかなりおざなりなのか。黙っておくか、いや、ユエ達には念話で伝えておこう。
『シアには内緒?』
『内緒のほうが良いな。徹なら気付くだろうから止めておいたほうがシアのためにもなるだろう』
たぶん、他人に言われないと当たり前のことが出来ない奴だって見られるからな。そんなことを考えていると徹から声がかかる。
「空性魔獣に襲われてる奴らが居る!!話の通りなら兎人族のはずだ!!」
急いで窓から飛び出して屋根に乗る。ルーフを付けたかったんだが、寝室として使っているので作れなかった。宝物庫からシュラーゲンを取り出す。威力過多だが仕方ない。今度はもう少し威力を弱めた物も用意しておくことにする。バイポッドを取り付けスコープを覗きながら
「……OK、見えた。プテラっぽいのだな。そのまま速度を維持して直進してくれ」
整地の魔法が効かないような大型の障害物は徹が窓から猟銃を外に出して打ち砕く。なんで元折二連散弾銃で運転しながらそこまで連射できるのか理解できない。そんな徹の援護を受けてプテラっぽい魔獣を狙撃する。基本に忠実に呼吸を止めてスコープを覗いていない左目も開けた状態で搾るようにトリガーを引く。頭は外れるかもしれない。だが、体の一部にでも掠ればそれだけで終わる。大迷宮産の魔物に比べれば外の魔獣は大したことがない。翼と胴体に大穴を開けて落ちるプテラっぽい魔獣を頭の隅に追いやり、そのまま続けて3射する。同じように翼か胴体に大穴を開けて落ちるプテラっぽい魔獣。やはり脆い。
全部仕留めたことをシュラーゲンでフロントガラスを2回叩いて合図を送る。窓から出している散弾銃で上に円を描くように振ってから車内に戻る。念話は便利だが、男としてはこういうハンドサインに憧れるものだ。世界各国の特殊部隊のハンドサインを全部知ってる徹はもうちょっと世間に溶け込む努力をしたほうが良いと思うけどな。
シアの一族と合流して詳しい事情を話してもらった。それを聞いて徹が少し考え事をしてから念話を繋げてきた。
『童貞処女を捨てるのにお誂え向きな奴らが居るようだが、どうする?儂が全て処理してもいいぞ』
香織は分かっていなさそうだが、意味を理解したオレは息を呑む。
『処理するなら銃がおすすめだ。魔法は詠唱なんかで時間を食うからな。意思が途中でしぼむ』
そこまで聞いて香織も息を呑んでこちらを見てくる。
『はっきり言っておく。殺す覚悟がないとこの先キツイぞ。忘れがちだが、魔人族との戦争中だ。意思の疎通の出来る相手を害せるか?』
態々魔人族と言い換えてくれたが、場合によっては王国兵ともやり合うことになるのを示唆している。解放者の記録が正しいのなら集団洗脳をやってくる可能性がある。集団を洗脳できるなら精鋭を洗脳して送り込んでくる可能性だってある。あるいはあの天使のような奴らが送り込まれることだって。それを無力化する?そんな余裕はおそらくない。つまり殺す必要がある。
『安心しろ。外道に落ちないように見守ってやる。別に罪もない民間人をぶっ殺せというわけじゃない。害意を持って近づく言葉の通じる魔獣を狩る。その程度で考えればいい』
気安く言うが、急にドンナーが重く感じる。
『あまり深く考えるな。撃てる時に撃てばいい。間違っているなら止めてやる。一つだけ言えるのはやらなかった後悔は結構長引くぞ』
やらなかった後悔か。徹が言うと実感が湧きすぎて気持ち悪い。詳細を聞くと絶対後悔するから聞かないけどな。あと、躊躇いもなくドンナーの引き金を引けた。帝国兵が下衆にも程があると思う。結構デフォルトの思考だと聞いてますますこの世界が嫌いになった。とっとと元の世界に戻れる神代魔法を探そう。香織も結構普通に殺せていた。まあ、後から結構来て二人してユエに慰められたけどな。
ちなみに大半は徹が剣鉈と鍬で処理していた。最後は地面と一緒に耕して均して痕跡がなくなった。処理が手慣れすぎていて引いた。絶対に地球でも似たようなことをやったことがある手付きだった。それと死体を漁って財布やら手紙やら馬車から報告書などを回収していた。似たような筆跡で何かを書き記していたのをスルーする。絶対碌でもないことだ。もしかしたらオレは解き放ってはいけない人間を解き放ってしまったのかもしれない。奈落の100層で静かに暮す方が良かったのではないのかと思い始める。もしくは、出来る限り早めに日本に戻るかだ。こっそり裏で動いてるかもしれないが、見ることはなくなるはずだからな。
後書き
次回、みんな大好きブートキャンプの裏側で行われる改造手術。怪人兎男現る。
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