蒼と紅の雷霆
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蒼紅:第三十話 桜花
地下水道から戻ってきたソウさんとGVはどこか変でした。
ソウさんはどこか参っているような感じで、GVはソウさんにどこか遠慮しているような…。
「何かあったんでしょうか…?」
「敵に色々言われて少し参ってる…としか言えないね…」
「お兄さんとGV…大丈夫かな?」
『大丈夫よ…きっと』
私は皆さんから事情を聞きました。
ソウさんがテーラさんへの迷いが強くなっていること、GVはソウさんの足枷になっているのではないかということに。
皆さんはどうすればいいのか途方に暮れている様子なので私が思いきって話してみようと思います。
「私が何とかしてみます」
「「『え!?』」」
「私がソウさんと話してきます。今ならソウさんも私と話をしてくれるはずです」
「いや、でも…」
シャオさんが迷っています。
GVとソウさんはエデンに対抗出来る数少ない人です。
だから今はゆっくり休ませた方が良いのではと考えているのかもしれませんが…。
「問題を先送りにして、後で取り返しがつかなくなるのなら、今のうちに何とかするべきだと思います…こう見えても私は最年長なんですよ?任せて下さい」
『最年長って、この中で一番大人なのはアタシ…』
「モルフォはシアンの理想の姿で、言ってみればシアンが無理して背伸びしてるような物だからね…分かった。オウカ…頼むよ」
「『………』」
シアンさんとモルフォさんが複雑そうな顔をしています…多分、私に任せるのが不安なのかもしれませんが、精一杯やるつもりです。
「ねえ、シャオ…どうしてオウカさんに任せるの?」
「この中ではオウカが一番適任だと思う。ソウもある程度信用しているし。やっぱりシアン達はソウからすれば妹みたいな存在なんだよ…シアン達には多分話せないと思うんだ…弟や特に妹には弱いところを見せられない…お兄さんとしてのプライドなんだろうね」
そして私はソウさんの部屋に失礼して、お茶をお渡ししました。
「ソウさん、紅茶を用意しました。召し上がって下さい」
「あ、ああ…」
ソウさんは戸惑いながらも私が淹れた紅茶を飲んでくれました。
「…美味い」
「お口に合って良かったです。」
甘い物がお好きなソウさんのために少し砂糖を多めに入れたのが良かったのかもしれません。
「…それで俺に何の用だ?」
「シャオさん達に聞きました。敵の方から色々と言われたって」
「あいつら…余計なことを…安心しろ、少し休めば…」
「ソウさん…あなたは向き合うべきです。テーラさんと」
「…何?」
私の言葉に目を見開くソウさん。
「私はGVやシアンさんやモルフォさん程、ソウさんのことは知りません。ですが、この家に来てからのあなた方のことを良く見てきたつもりです。ソウさんは気付いていなかったかもしれませんが、テーラさんと話す時のソウはとても優しいお顔をしていたんですよ…ソウさん、あなたはテーラさんをどう思っているんですか?」
「それは…家族…のような物だろう…それに俺個人のことであいつらを…」
「ソウさん、厳しい言い方かもしれませんが、GV達を理由にしてテーラさんから逃げないで下さい」
「逃げているだと…?」
表情が険しくなるソウさんですが、私も退けません。
何故かは分かりませんが、今のうち何とかしないと手遅れになりそうだと思ったからです。
「ソウさん、あなたは1人の男性としてテーラさんをどう思っているのですか?テーラさんはあなたをエデンに誘おうとしたのでしょう?あなたに自分の傍にいて欲しいって…テーラさんはあなたのことを良く知っていたのに…GV達を置いていけないことを…そんなテーラさんが勇気を出したのに肝心のあなたが逃げるなんて不誠実だと思います」
これだけはテーラさんと同じ女の子としてソウさんに伝えなければならないと思ったんです。
「テーラさんがこの家にいたのは短かったですが、私は見たんです。あなたと一緒にいる時のテーラさんの穏やかで幸せそうな表情を。あなたが大好きと言う気持ちが駄々漏れで愛らしかったです。」
日常生活が難なく送れるくらいに回復するまでソウさんを付きっきりで看病したり、最初は警戒していた私に頼んでまで台所を使って好物の甘いお菓子を作ったりと、ソウさんへの好意を隠そうともしない姿に私は微笑ましく、愛らしく感じていました。
「ソウさん…テーラさんから逃げないで下さい…」
「……………分からないんだ」
「………」
少しの沈黙の後にソウさんは話してくれました。
「俺は皇神の施設で生を受けた。だから物心つく前から扱いはまともではなかったし、紅き雷霆の能力を得てからの毎日は地獄だった。それでも生きてきたのは奴らへの復讐のためだった。フェザーに拾われてからも無能力者への憎悪と皇神への復讐だけで生きてきた。後はGVのことだけを考えていれば周りなど基本的にどうでも良かったんだ…だが、シアンとテーラと出会って、一緒に暮らして…段々と…不思議な気持ちを抱くようになった」
「楽しかったんですね…幸せを感じられるくらいに」
「恐らく…な…特にテーラとは、あの件以来気になるようになり…妙な…嫌ではない気分になることが多くなった。この気持ちが何なのか…分からない…」
昔、辛い経験をしたソウさんは他人との繋がりに無関心になり、基本的に友好的な間柄の人はいなかったようなので、こういう人と接することで芽生える感情が理解出来ないのかもしれません。
「大丈夫です。それは人として当然の感情なのです…ソウさんだって人間です。人を愛することは不自然ではありません」
「愛…テーラが、何時も言っていたな……これがそうなのか…?分からん…」
「ふふ、これも勉強です。頑張って下さいねソウさん」
「…………あ、ああ…」
「ただ、お節介かもしれませんが、アドバイスを1つだけ…テーラさんへの気持ちに素直になって下さい」
「……分かった」
空になったカップを片付けて部屋を後にしたら、近くにGVがいました。
「あ、オウカ…その、兄さんは…」
「大丈夫ですよ。ソウさんなら、だってGVのお兄さんなんですから」
私が安心させるように言うとGVの表情は安堵の色を浮かべましたが、再び曇ります。
「僕は…兄さんの足枷になっているんだろうか…」
「GV、そんなことはありませんよ。ソウさんにとってあなたは大切な家族なんです。家族が家族を想うことは決していけないことではありません。ただ、今回が複雑なだけですから。普通はこうなりたくありませんものね。家族のように親しかった人が敵になるなんて」
「…うん」
「ですが、GV達ならきっと大丈夫です。きっと乗り越えられます。今までどんな辛い困難も乗り越えてきたGV達なら」
「オウカ…ありがとう」
私の言葉でGVの暗かった表情が和らぎました。
GVには笑顔を浮かべていて欲しいです…これからもずっと。
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